第110話 混浴
前回のポイント・温泉を掘り当てた!
ゆったりとした時間が流れている。
こんなに心が休まるのは、久しぶり。
聖都に向かう旅に出て以来かもしれない。
「極楽ですねぇ」
「気持ちいいっすぅ」
「がるるるぅ」
近くから、仲間の声が聞こえる。
「シモン、さすがに体は引き締まっているわね?」
「クーデリアは、女性らしい柔らかい体をしているな?」
遠くから、女性の声が聞こえる。
「納得いかん!」
急造にしては、露天風呂はよくできている。
全員、協力して作っただけある。
問題は――
露天風呂は、二分されていること。
それも、硬く高い石造りの壁によって。
「混浴ですよね?」
「裸の付き合いっすよね?」
「混浴も裸の付き合いもわかるけど、組み合わせがおかしいだろ?」
「ご主人、仲間外れですか?」
「兄貴、魔物差別っすか?」
「どうして、ガルコなんだよ!」
俺の否定に、ガルコは顔を伏せる。
「がるるるぅ……」
「ガルコ、お前は悪くない。悪いのは、組み合わせだ」
「がるるるぅ!」
俺の釈明に、ガルコは顔を上げる。
「どう考えても、この組み合わせはおかしいだろ!」
本来――
一方は、勇者パーティ。
もう一方は、暗殺者パーティ。
あるいは――
一方は、人間チーム。
もう一方は、魔物チーム。
そのくせ、現状はまったく違うんだ!
「ご主人、スケベですねぇ!」
「兄貴、エロっすぅ!」
「クーデリアの身が心配だろ? 一緒にいるのは、暗殺者なんだぞ!」
「ご主人と二人きりのほうが、心配ですよ?」
「兄貴と一緒のほうが、貞操の危機っすよ?」
「俺の意見は間違ってないよな! ――そう思うだろ、ガルコ?」
俺は、ガルコに話を振る。
「がるるるぅ」
「透視のスキルを覚えろ? そうすれば女湯を覗ける? 今更過ぎる……」
「がるるるぅ」
「こういう時こそ、最強無敵チートを使え? さすがに使えないだろ……」
今回ばかりは、ガルコの意見も役に立たない。
「しょうがない、最後の手段だ。――女湯を覗くぞ!」
俺は一世一代の覚悟を決める。
「最後の手段? 軽いですね!」
「一世一代の覚悟? 安いっすね!」
「女湯を覗ける。それは、主人公の特権だ!」
「ニセコイ?」
「ボクベン?」
「トラブルだ!」
俺は深呼吸する。
「〈異世界王〉の効果発動! 俺は、女湯を覗く!」
「馬鹿だ!」
「阿呆だ!」
「馬鹿でも阿呆でもいいから、女湯を覗きたいんだよぉ!」
役に立たない意見を無視して、俺は女湯を覗くことに集中する。
正直に、明かそう。
俺の集中力は、神の領域に達している。
分厚い壁越しに、女体の存在を感じ取る。
一人は、アスリート体型。
シモンだろう。
もう一人は、モデル体型。
クーデリアだろう。
俺は、女体の神秘を探るべく、石の隙間を探す。
神の領域に達した俺でも、困難な作業。
その末に、一点の隙間を見つける。
俺は、その穴から目を凝らす。
「うおおぉぉ!」
歓喜の声を抑えられない。
穴から見える先には――
プリンのような、丸っこい膨らみ。
形といい、色といい、文句をつけられないぐらいに、すばらしい。
俺は、湧き上がる情熱を必死に抑える。
食い入るように見ていると――
対象の向きが変わる。
「おっ!」
俺は、ドキリとする。
覗きがバレたから?
もっと覗けるから!
「うおおぉぉ……うん?」
我に返った俺は、違和感に気づく。
それは――
「オッパイじゃない……?」
それは、独立した生き物のように動いている。
「まさか――」
俺は言葉を呑む。
「んほぉ〜このスライムたまんねぇ〜」
「…………」
「んほぉ〜このゴーレムたまんねぇ〜」
「…………」
バストに見えたのは、スラゾウ。
ヒップに見えたのは、ゴレタ。
「お前ら、どうして女湯にいる?」
「ご主人のためですよぉ」
「兄貴のためっすぅ」
「俺のため……? クーデリアとシモンは!」
俺は、穴越しにスラゾウとゴレタを睨む。
こいつら、クーデリアとシモンに、覗きをバラしたのか?
「二人とも、とっくの昔に上がってますよ?」
「一時間以上、壁と睨めっこしてたんすよ?」
「マジ……?」
「面白そうだから、ゴレタと協力して、ドッキリを仕掛けたんですよぉ!」
「残念でした! 兄貴、騙されちゃったんすぅ!」
「嘘だと言ってくれ!」
スラゾウとゴレタは、無慈悲に首を横に振る。
「テッテレー!」
「ドッキリ大成功!」
スラゾウとゴレタは、効果音を流しながらプラカードを掲げる。
「ご主人、オイラも上がりますよ!」
「兄貴、オレも上がるっすよ!」
「がるるるぅ!」
スラゾウ、ゴレタ、ガルコの三名は、女湯から消える。
「…………」
ショックを受けた俺は、その場にしゃがみ込む。
どれだけの時間、そうしていただろう?
さすがに湯冷めするため、風呂から上がろうとした時――
「タロウ、まだお風呂に入っているの?」
女湯から、クーデリアの声が聞こえてくる。
「おぉ、クーデリア――」
穴から女湯を覗こうとしたら、目潰しされる。
「――――!」
俺は悶絶しながら、男湯に飛び込む。
「今度、覗いたら、本当に目潰しするわよ?」
クーデリアの言葉は、脅しに聞こえる。
「それより、どうして?」
「あなたに、言っておきたいことがあったの」
「俺に、言っておきたいこと?」
俺は首をひねる。
「いろいろありがとう。あなたがいなければ、ここまで来れなかったわ」
「感謝を述べるのは、まだ早いんじゃないか?」
「今を逃したら、感謝を述べる機会は、訪れないと思ったの」
クーデリアの言葉は、意味深に響く。
「フラグ? 伏線? どっちにしても、弱気になるなよ!」
「弱気になっていないわ、感傷的になっているだけ」
「感傷的、ね」
シモンと二人きりになった時に、いろいろ話したんだろう。
「この旅の結末が、どうなるのかはわからないけど、あなたに会えてよかったわ」
「俺も、君に会えてよかったよ」
「ふふっ、また明日。――お休みなさい、私の勇者様」
その言葉を最後に、クーデリアの気配は消える。
「私の勇者様、か」
その言葉を耳にした俺は――
恥ずかしくも、嬉しい気持ちでいっぱいだった!
読んでくださって、ありがとうございます。
ブックマーク等の応援、ありがとうございます。
この結末は、当初から想定していました。
ただ、ギャグの後に来るとは思いませんでした。
ポロリに関しては、タロウの涙と解釈してください。