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第109話 温泉

 前回のポイント・魔物は、果物にも化けられる!

 急激に、暗くなっている。

 日は暮れつつあるものの、それほどでもない。

 侵入者に対する、森の防衛機能の一種だろう。


 その証拠に――


「暗いわ」


「寒いな」


 クーデリアとシモンは愚痴る。


 そう、暗いだけじゃなく、寒い。

 ただ、真冬のように、ぶるぶる震える寒さじゃない。

 寒の戻りのように、ぷるぷる震える寒さ。


 一方――


「果物は、おいしいですねぇ!」


「湧き水は、うまいっすぅ!」


「がるるるぅ!」


 スラゾウ、ゴレタ、ガルコの三名は、遠足みたいに楽しんでいる。


「俺は、引率の先生かよ?」


「生徒に手を出して、問題になるロリコン教師ですね?」


「そのくせ、その生徒と結婚して、美談にするんすね?」


「お前ら、ぶん殴るぞ?」


「暴力教師排除!」


「エロ担任追放!」


 スラゾウとゴレタは、プラカードを掲げる。


 すでに十を超える、チェックポイントを通過している。

 その間、敵を撃退しつつ、果物を回収している。

 ただ、徐々にどちらも難しくなっている。


 敵に関しては――


 数は増えているし、強さも増している。


 果物に関しては――


 数は減っているし、食べにくくなっている。


「環境の変化は、偶然か?」


「必然ですよぉ」


「その根拠は?」


「森は、変わりつつあるんです。オイラたちに合わせて」


 スラゾウは指摘する。


「何のために?」


「もちろん、オレたちを排除するために」


「侵入者を排除するために、森は臨戦態勢に入った?」


「そう考えると、環境の変化は説明できるんすよ」


 ゴレタは主張する。


「これから、どうなる?」


「もちろん、厳しくなる」


「厳しくなる?」


「果物を入手するのも、敵を排除するのも、何より森の奥に進むのも」


 シモンの言葉は、警告のように聞こえる。


「その場合、どうすればいい?」


「迅速に、それでいて慎重に行動する」


「矛盾してるぞ?」


「矛盾を矛盾にしないぐらいの、対応力を求められているのよ?」


 クーデリアの言葉は、叱咤のように聞こえる。


 会話の間も、森の奥に向かっている。

 そろそろ、次の目印が見えてくるはずなのに、一向に見えてこない。


「目印を見逃した?」


 俺たちは、一度立ち止まる。


 手分けして、目印を探す。

 視界は暗いものの、閉ざされていない。

 見逃すなんてあるのか?


「見当たらない」


 集まった全員が、首を横に振る。


「考えられる可能性は――」


 大きく分けて、二つ。


 一、地図が間違っている。

 二、景色が間違っている。


「前者はわかりますけど、後者は?」


「森は、俺たちに合わせてるんだろ? それなら、景色も変わるはずだ」


「あっ……!」


 俺以外の唖然とした声が重なる。


「簡単なところだと、目印になる果物の木を覆い隠したんだろう」


「それなら、入念に探せば見つかりますね!」


「面倒なところだと、目印になる果物の木を切り倒したんだろう」


「それなら、入念に探しても見つかりませんね……」


「どうなってる? それに、どうする?」


 俺は全員に問いかける。


 みんな、考えているものの、答えは出ない。

 森に先んじるとしても、目印の先は目印。

 要するに、果物の木の先は、果物の木。


 これじゃあ、目印にならないし、下手すると迷ってしまう!


「妙案が浮かばないなら、拠点に戻ろう」


「出直すの?」


「わからない。そのまま、今日の探索は終了かもしれない」


 クーデリアは不満そう。


 いや、不満なのは、クーデリアに限らない。

 スラゾウも、ゴレタも、ガルコも、シモンも不満を隠さない。

 お宝のあるゴールに迫ったのに、振り出しに戻った気分なんだろう。


 鬱々とした気分のまま、帰り道を進む。

 当たり前のように、全員、無言の上に無表情。

 リーダーの俺だけは、きりきりと痛む胃のために、表情は歪んでいる。


「本当に、森に先んじる方法はないのか――」


 いつの間にか、拠点に戻っていた俺は、言葉を呑む。


 家捜しされたみたいに、荒らされた室内を見て!


「居残りがいると勘違いした……? いや、違う!」


 俺は室内に駆け込むと、床板を外し、床下を見る。


 そこには――


 何もなかった。


 本来なら、水が蓄えられているはずなのに!


「家捜しの目的は、水だ!」


「生命線の水を奪われたのか?」


「くそっ、床下に気づくのかよ!」


「森も、馬鹿ではない。床下に隠した程度では、気づくのだろう」


 シモンの言葉は、自虐的に聞こえる。


 全員、床下に水を隠せば気づかれない、と高をくくっていたから。


「タロウ、どうするの?」


「目印に関して? それとも、水に関して?」


「どっちも」


「前者に関しては、思いついたことがある」


 俺は全員を室内に入れると、扉を閉める。

 もちろん、森に情報を聞き取られる恐れをなくすため。


「目印が、果物の木なのはわかりやすいからじゃない」


「それなら、どうして?」


「お宝の力によって、周囲の木が育ちやすいんだろう」


「要するに?」


「木の生育状況を追跡すれば、最後の目印、つまりお宝にたどり着く!」


 俺は断言する。


 クーデリアは納得したものの、シモンは納得していない。


「森に対応されないか?」


「対応されない」


「なぜ?」


「なぜなら、完全に対応するためには、森を一変させる必要がある」


 俺は指摘する。


「その可能性は?」


「それなら、その時、普通に森の外に出ればいい」


「一変させると光の帯が消えるから、対応は不可能なのか!」


 シモンは納得したように頷く。


「どっちにしても、森の外に出られるチャンスが訪れる!」


 本当に対応を迫られるのは――


 俺たちじゃなく、森!


 敵への意趣返しに、俺はほくそ笑む。


「問題は――」


 脱出するまでの、飲み水の確保。


「収穫した果物じゃ、全員の水分を補えないよな?」


 俺は仲間に意見を求める。


「ご主人、雨乞いですよ?」


「兄貴、湧き水の確保っすよ?」


「タロウ、木の中に溜まった水を集める?」


「キラタロウ、さらに果物を収穫して、水の代わりにするか?」


 今のところ、役に立つ意見はない。


「がるるるぅ」


「地下水なら、大量にある?」


「がるるるぅ」


「ろ過されてるから、飲める?」


「がるるるぅ」


「ダウジングして、探せ?」


 ガルコの意見は、面白そう。


「スラゾウ、ダウジングに〈変化〉してくれ」


「ダウジングですね、了解」


 俺はスラゾウダウジングを手に取ると、小屋の外に出る。


 ガルコはもちろん、他の面々も興味があるらしい。

 役に立つわけでもないのに、ついてくる。


「ピキーン!」


「どうした、スラゾウ?」


「反応、ありました!」


 スラゾウダウジングは、ぐるぐる回っている。


「ゴレタ、この下の土を〈形成〉して、掘り出してくれ」


「真下に掘るんすね、了解」


 マッドゴレタの誕生に伴い、避難小屋の横に、大穴が空く。


 果たして――


 ドパーン!


 間欠泉みたいに、水が吹き上がる。


「温かいから、温泉よ!」


「しょっぱくも酸っぱくもないから、冷やせば飲めるぞ!」


「がるるるぅ!」


 クーデリア、シモン、ガルコの三名は喜んでいる。


「次回は――」


「温泉回――」


「混浴だから――」


「ポロリあり――」


「楽しみに!」


「待ってて!」


 スラゾウとゴレタは、好き勝手に次回予告した。

 読んでくださって、ありがとうございます。

 ブックマーク等の応援、ありがとうございます。


 今回は、文字数が多いです。

 その理由は、ダウジングによる水探しが、本来は次回だったからです。

 ただその場合、フラストレーションが溜まると思い、今回にしました。


 次回はもちろん、温泉回です。

 ただ、偽予告とは違い、ポロリは期待しないでください。

 下手すると、別のポロリになりそうですから。

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覚醒テイマーの成り上がり
設定を変えた別バージョンは、全部書き直してます。
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