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第105話 真夜中の訪問者

 前回のポイント・酸の雨から逃れるために、避難小屋を作った!

 俺たちは、食事を取っている。

 火を起こしているため、食べ物を温められる。

 雨により冷え固まった体は、徐々にだけれどもほぐれつつある。


「焼いた肉は、おいしいですねぇ!」


「揚げた魚は、うまいっすぅ!」


「煮た卵は、美味ね!」


 仲間は食事を楽しんでいる。


 一方――


 俺は考え事に没頭している。


「ご主人、腹を壊したんですか? それなら、ご主人の分も食べますよぉ!」


「兄貴、腹を下したんすか? それなら、兄貴の分も食べるっすぅ!」


「貴殿、お腹いっぱいなのか? それなら、貴殿の分も食べるぞぉ!」


「お前ら、食い意地張り過ぎだろ!」


 俺は言い返すと、食事を始める。


 むろん、仲間は食い意地が張っているわけじゃない。

 考え事に没頭している、俺のことを心配したんだろう。

 その配慮に感謝しながら、引っ掛かっている点を伝える。


「森の番人であるトレントの出現に伴い、森が変化しただろう?」


「森が変化した?」


「森は、俺たちを『侵入者』として排除するつもりなんだ」


「敵は、森そのもの!」


 仲間は驚く。


「俺の懸念が正しいとしたら、森はからめ手を含めて攻めてくるだろう」


「からめ手?」


「酸の雨も、その一つ。一見すると、攻撃っぽくないだろう?」


 仲間は頷く。


「避難小屋をきちんと作ったのは、そのためなんだ」


「そのため?」


「森を探索するためには、拠点は必要不可欠だと、判断したんだ」


「拠点、か」


 仲間は考え込む。


 危機感を共有したこともあり、俺は食事に没頭する。


 しばらく――


 無言に伴い、雨の音のみ聞こえる。

 きちんと作っても、避難小屋に過ぎない。

 雨漏りはないものの、雨脚は伝わってくるんだ。


 コン、コン、コン――


 ノックの音が響く。


 俺たちは顔を見合わせると、扉に視線を向ける。


「誰だ? それに、何の用だ?」


 俺は他の面々を手で制すると、扉に近づく。


「旅人です」


「旅人?」


「森に迷い込んでしまい、困っています。どうか、助けてください」


 外から伝わってくる声は、本当に困っているように聞こえる。


 遭難者を見捨てるのは気が引けるから、俺は扉を開ける。


 徐々に開かれた扉の前には――


 特徴らしい特徴のない、のっぺりとした印象の男。


「助かりました」


 男は頭を下げると、屋内に入ってくる。


「一人か?」


「もちろん、一人です」


「もちろん?」


「複数なら、森に迷い込みませんよ」


 男の言葉は、自嘲に聞こえる。


「外は、雨か?」


「大雨ですね」


「その割に、あまり濡れていないな?」


「ずぶ濡れでしょう?」


 ずぶ濡れの男は言い返す。


「名前は?」


「ニック」


「ニック、ね。旅の目的は?」


「強いて言うと、自分探しですね」


 ニックの返答は、他人事のように聞こえる。


「ニック、食事は?」


「食事よりも、睡眠ですね。疲れていますから、横になりたいです」


「角でも構わないか?」


「構いません」


 ニックは小屋の角に行くと、横になる。

 

 ほどなく、寝息が聞こえ始める。


「クーデリア、ニックはテイマーなのか?」


「テイマーじゃないわ」


「ライトとは異なる?」


「明確に違うと、判断できるわ」


 クーデリアは請合う。


「俺たちも疲れたから、そろそろ寝るか?」


 俺の言葉に、全員頷く。


 ニックの寝ている南東の角を除いて、俺たちは散らばる。


 内訳は――


 念のために、クーデリアは北東の角。

 俺は、もしものために南西の角。

 スラゾウとゴレタは、北西の角。


 囲炉裏の火を消すと、床に寝転ぶ。

 その際、密かに〈異世界王〉を使う。

 もちろん、対象はニック。


 スキルの項目は――


 なし、じゃなく、不明。


 俺は、寝たふりをする。

 俺とは違い、仲間は寝入る。


 しばらくの間、四つの寝息が聞こえる。

 それが、いつの間にか一つ減っている。


 それに伴い、むくりと一人起き上がる。

 起き上がった一人は、俺に近づいてくる。


「侵略者よ、死ね」


 言葉とともに、刃が下ろされる。


「残念だったな!」


 俺は跳ね起きると、殴りつける。


 ボコッ!


 小気味のいい音を立てて、影は吹っ飛び、床に転がる。


「――――?」


「どうして、気づいた?」


「――――!」


「スキルの項目が不明……しゃべれることを除いたら、ラミアと同じなんだよ!」


 目的の達成は不可能だと悟ったらしく、ニックと名乗った魔物は逃げ出す。


 扉を蹴破り、外に出た魔物は――


 ザシュ!


 想定外の一撃を受けて、地面に倒れる。


「やられた……?」


 俺は外に飛び出す。


 そこには――


 本来の姿を明かした、猿にそっくりな魔物。


 その魔物を見下ろす、見覚えのある二名。


「シモン……それにガルコ!」


 そう、猿にそっくりな魔物を仕留めたのは――


 暗殺者とその仲間!


「お前ら、どういうつもりだ?」


「見てわからないのか?」


「わかるわけないだろ!」


「厄介な敵を始末しただけだ」


 シモンの言葉は、自然に聞こえる。


「敵? 味方じゃないのか!」


「味方なら、始末する必要はないだろう。それよりも、話がある」


「話?」


「森は、完全に閉ざされている。脱出するために、協力しろ」


「冗談だろ……?」


 俺は呆然とする。


「冗談ではないから、協力を求めている」


「どうして、敵に協力を求める?」


「敵の敵は、味方だからだ」


「共通の敵?」


「敵は、森そのものだ。協力し合わないと、共倒れになるぞ?」


 シモンは警告する。


「協力するかどうかは、話を聞いてからだ」


「構わない。正直、我々も途方に暮れている」


 シモンの声からは、濃い疲労が感じられた。


 小屋に入る前に、俺は猿にそっくりな魔物の情報を集める。


「〈異世界王〉の効果により、対象の情報を把握する」


 俺は宣言する。


『〈異世界王〉の指定効果、発動』


 【ステータス】


 クラス・サトリ

 ランク・C

 スキル・読唇術E 適応E

 エクストラスキル・人化の舞(メタモルフォーゼ)


 【ステータス】


 攻撃力・E-

 防御力・E-

 敏捷性・C+


「Cランクのサトリ……もちろん、野良の魔物だ」


「サトリ?」


「人の心を読めるという、昔話に登場する魔物だね」


「異国の昔話に登場する魔物、か」


 シモンは納得したように頷く。


 サトリの死体を見下ろしていると、見慣れた文字が浮かぶ。


 『データベース・エクストラスキル〈人化の舞(メタモルフォーゼ)〉』


 魔物が人に化けるスキルの一つ。

 

 〈擬態〉などとは異なり、一時的に言語能力も得ることができる。


 そのため、非常に役に立つスキルだ。


 ただ、暗殺などには向いているものの、戦闘などには向いていない。


 なぜなら、人を信じない者には、無意味だからだ。


「それが、噂の情報収集スキルか?」


「暗殺者に噂にされても嬉しくないね」


「それは、お互い様だ。それよりも、小屋に入ろう。寒くて、かなわん」


 シモンの言葉に同意するように――


「がるるるぅ!」


 ガルコは鳴いた。

 読んでくださって、ありがとうございます。

 ブックマーク等の応援、ありがとうございます。


 タイトルの訪問者は、実はシモンとガルコのことです。

 ただ、本当の問題は、協力の提案ですね。

 本当のことなのか、了承されるのか、どちらもタロウ次第ですね。 

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覚醒テイマーの成り上がり
設定を変えた別バージョンは、全部書き直してます。
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