第104話 酸の雨
前回のポイント・ループの原因である、猿に似た魔物を倒した!
人を道に迷わせる、猿に似た魔物。
仕留めたものの、一体とは限らない。
むしろ、複数いると警戒すべき。
立ち去る前に、調べておく。
「〈異世界王〉の効果により、対象の情報を把握する」
俺は宣言する。
『〈異世界王〉の指定効果、発動』
【ステータス】
クラス・ショウジョウ
ランク・C
スキル・木登りC 酒好きE 酔拳E
エクストラスキル・さまよい歩く
【ステータス】
攻撃力・G-
防御力・G-
敏捷性・C+
「Cランクのショウジョウ。もちろん、野良だ」
「ショウジョウ?」
「いわゆる、オランウータン。ただ、本来は架空の魔物だな」
「物語に登場する魔物?」
「その認識は、間違ってない。能力的には、幻惑に特化した魔物だな」
ショウジョウの死体を観察していると、見慣れた文字が浮かぶ。
『データベース・エクストラスキル〈さまよい歩く〉』
足止めする際に、用いるスキルの一つ。
これを受けると、肉体と精神に変調をきたす。
具体的には、同じ場所をぐるぐる回る。
ただ、効果を受けている対象に、その認識はない。
対策は、使用者を発見して、排除すること。
「エクストラスキルの内容からして、ループの原因はこいつに間違いない」
「問題は、同じ魔物がいる場合でしょう?」
「それに、同じような魔物がいる場合だ」
「同じこと、それに似たようなことが、続くかもしれない?」
「だからこそ、迷いの森なのかもしれない」
気を引き締めた俺たちは、歩き出す。
古地図を頼りに、森の外に向かって。
それから――
しばらく、何事もなく進む。
もちろん、その間、魔物は見かけている。
ただ、様子見しているらしく、襲ってこない。
変化は――
「雨、か」
そう、雨が降り出したんだ。
ぽつぽつとした雨。
たいしたことはないから、気にせず先に進む。
そのつもりだったけれど、木陰に隠れる。
「ご主人、痛いですよぉ!」
「兄貴、痛いっすぅ!」
「貴殿、痛いぞぉ!」
雨粒に触れるたび、かすかな痛みを覚えて!
「酸の雨か!」
この世界の雨に、攻撃的要素はない。
もしあったら、この世界の住民は暮らせない。
もちろん、迷いの森特有の現象。
その意味は――
むろん、侵入者の排除。
森というフィルターを通して、酸の雨に変化させているんだろう。
その証拠に、酸の雨に当たっているのに、木も花も溶けていない。
「フードをかぶって、酸の雨をやり過ごすぞ?」
「脳筋?」
「ごり押し?」
「力業だ!」
スラゾウとゴレタの抗議を押し切って、移動を再開する。
ただ、フードをかぶっても、酸の雨は完全には防げない。
そのため、木陰を利用して、先に進んでいく。
「暗いですよぉ!」
「臭いっすぅ!」
「お前ら、文句多過ぎ!」
「ブーブー!」
「プープー!」
「ブーイングしても、事態は好転しないぞ?」
少しずつ、刻むように距離を稼ぐ。
その間に、日は傾く。
気づいた時には、夕方になっている。
そのころには、雨はぽつぽつから、ざぁざぁへと変わっている。
これじゃあさすがに、先に進めない。
下手に進むと、酸の海に飛び込むようなものだ。
「ご主人、どうしますか!」
「兄貴、どうするんすか!」
「貴殿、どうするのだ!」
仲間は不満を隠さない。
「十分距離を稼いだから、今日はここまでにしよう」
周囲を一望した俺は、判断を下す。
「そうだとしても、野宿できるの?」
「最初からするつもりはないさ」
「野宿はしない?」
クーデリアは首を傾げる。
「ゴレタ、周囲の土を〈形成〉して、台と壁を作ってくれ」
「台と壁っすね、了解」
マッドゴレタの誕生に伴う変化により、指示した場所に台と壁が出来上がる。
「スラゾウ、ローラーに〈変化〉してくれ」
「ローラーですね、了解」
俺はスラゾウローラーを使い、台と壁を固める。
「ゴレタ、周囲の木を〈形成〉して、大型の箱を作ってくれ」
「大型の箱っすね、了解」
ウッドゴレタの誕生に伴う変化により、台と壁の間に大型の箱が出来上がる。
「スラゾウ、ハンマーに〈変化〉してくれ」
「ハンマーですね、了解」
俺はスラゾウハンマーを使い、大型の箱に荷物から取り出した釘を刺していく。
「みんな、仕上げを手伝ってくれ」
「仕上げ?」
「避難小屋を完成させるんだ。そのために、ナイフとロープを使おう」
「避難小屋!」
俺の言葉に、俺以外の三名は驚愕する。
「スラゾウは天井を、ゴレタは壁を、クーデリアは台をそれぞれ担当してくれ」
俺の指示に、仲間はそれぞれの場所に散らばる。
その間に、俺は拾い集めたツタを使い、残った部分を補強していく。
全員協力したため、一時間とかからずに、避難小屋らしきものが完成する。
「よし、中に入ろう」
滝と化した雨から逃れるように、俺たちは小屋の中に入る。
窓はないため、小屋の中は薄暗い。
扉を閉め切る前に、小屋の中心に作った囲炉裏に火をともす。
明るさと暖かさを同時に確保すると、扉を閉め切る。
「タロウ、いつから避難小屋の設置を考えていたの?」
「迷いの森を抜けることを決めた時からだね」
「そんな前から!」
「全員、野宿に慣れてないだろ? 野宿だと、心身ともに疲弊すると思ったんだ」
「土砂降りの中、外で一夜を過ごすなんて、考えただけでゾッとするわ」
クーデリアは、濡れた外套を脱ぐと身軽になる。
「ご主人、この小屋は大丈夫なんですか?」
「頑丈だぞ?」
「酸の雨への備えです」
「そのために、迷いの森の資源を使ったんだ」
「迷いの森の資源なら、酸の雨に耐えられるからですね!」
床に下りたスラゾウは、背伸びする。
「兄貴、敵の侵入は大丈夫なんすか?」
「備えは十分だぞ?」
「地面を狙われたら、危ないっすよ」
「そのために、土台には石を入れて固めたんだ」
「土台に石を混ぜれば、地面からの攻撃に耐えられるからっすね!」
床に下りたゴレタは、大の字になる。
「一休みしたら、食事にしよう。それから、明日以降の予定を立てよう」
俺の言葉に、全員頷いた。
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拠点作りです。
ゴレタの〈形成〉は、こういう時に便利ですね。
この後は、本格的に迷いの森の探索が始まります。