第103話 森の囚人
前回のポイント・ループに陥った!
森に囚われる――
「囚人かよ……」
その立場に、俺は動揺する。
「人ごみ?」
「チリ取り?」
「衆人でもないし、集塵でもねえよ!」
スラゾウとゴレタのボケに、俺は冷静さを取り戻す。
「何はともあれ、状況を確認しよう」
「ループしているでしょう?」
「ループは、実際のことなのか、表面上のことなのか、確認する必要がある」
「前者と後者の違いは?」
クーデリアは興味を示す。
「前者は、物理的な問題。後者は、心理的な問題」
「どちらにしても、ループに陥っているでしょう?」
「理由はあるだろうし、対策もあるだろう」
「そのために、正しい認識を必要としているのね」
クーデリアは納得する。
「手分けして、確かめよう」
最初は、コンビを組む。
俺とスラゾウ、クーデリアとゴレタ。
慎重に移動したものの、ループに陥る。
そのため、今度はコンビを組まない。
分散して移動したものの、やはりループに陥る。
「妙に疲れるな?」
俺の言葉に、全員頷く。
確認は十分程度だから、肉体的には疲れていない。
そのくせ、すごく疲れたように感じる。
精神的に、圧迫されているためかもしれない。
「どう思う?」
「ループしてますね」
「物理的なのか心理的なのかは、わからないっすね」
「ただ、全員ループしているみたいだから、前者かしら?」
検討するため、石に腰掛ける。
「ループする際、何か感じたか?」
「ブレたように感じましたね」
「ズレたように感じたっすね」
スラゾウとゴレタは指摘する。
「ブレる? ズレる?」
「思考が、ブレるんですよ」
「感覚が、ズレるんすよ」
「ループは、物理的と心理的と両方なのか?」
俺はその可能性に思い当たる。
「その可能性が高そうね」
「根拠は?」
「あなたには、〈汚染耐性〉のスキルがあるでしょう?」
「言われてみると、俺には〈汚染耐性〉のスキルがあったな」
「だから、敵は両方利用しているはずよ」
クーデリアは主張する。
「ただ、この状況をもたらしたトレントは、いないよな?」
「いたら、倒せばいいんですよね」
「いないから、能力を消せないな」
スラゾウは頷く。
「目的は、時間稼ぎか?」
「嫌がらせっすか?」
「本体がいない以上、しばらくしたら、能力は消える」
ゴレタは頷く。
「本当にトレントの仕業なのか?」
「もし違うとしたら?」
「敵は、森そのものなのかもしれない。まさに、迷いの森だ」
クーデリアは頷く。
「もう一度、確かめてみる。みんなは、休憩しててくれ」
そう言い残して、俺は探索を再開する。
東西南北、方向を変えても、駄目。
歩く走る、速度を変えても、駄目。
「くそっ!」
苛立ちを覚えた俺は、落ちていた小石を拾うと、投げる。
それは――
ズレることもブレることもなく、百メートルほど先の地面に落ちる。
「通り抜けたぞ……」
本来なら、一回りして、俺の背中にぶつかる。
でも、実際は、前方の地面に落ちている。
それから、数度繰り返しても、やはり同じ。
「ループは、完全じゃないぞ!」
俺は吉報を得ると、仲間のところに戻る。
その際、慎重に周囲を確認する。
果たして――
あった!
前後でも左右でもなく、上下。
それも、木の上に変化があった。
「ご主人、ヒントを得ましたね?」
「兄貴、手がかりを掴んだっすね?」
「お前ら、読心術の使い手かよ!」
スラゾウとゴレタの反応に、俺はびっくりする。
「タロウ、突破口を見つけたの!」
「だから、木を登ろう」
「もしかして、地面に仕掛けが施されているの?」
「トレントが亡くなっただろう? それは、このためさ」
俺の説明に、クーデリアは納得する。
まずは、手ごろな木を登る。
それから、木から木へと移っていく。
数度繰り返すと、ループに陥ることなく、先に進める。
「タロウ、やったわ!」
クーデリアは興奮している。
一方――
「ご主人?」
「兄貴?」
スラゾウとゴレタは困惑している。
「お前ら、このまま先に進むぞ?」
俺は、先に進む。
合わせて、スラゾウとゴレタは続く。
慌てたように、クーデリアも追ってくる。
そのまま順調に進んでいると――
「途切れたな?」
木の上の道は、途切れている。
仕方なく、俺たちは地面に降りる。
それから、再度歩き始める。
しばらく歩くと――
「ループですよ!」
「ループっすよ!」
「ループよ!」
仲間は異変を訴える。
「また、木の上に登ろう」
「周囲に木は一本しかないから、登っても先に進めないでしょう?」
「切り倒せばいい、先に進める」
「大木よ、切り倒せるの?」
クーデリアは疑問視する。
「スラゾウ、〈変化〉してくれ」
「斧ですね?」
「ハンマーになってくれ」
「ハンマーですね……了解」
スラゾウは戸惑ったものの、指示に従う。
俺は、スラゾウハンマーを振り抜く。
ズシン!
音を立てて、大木は歪む。
直後――
「ウキィ!」
鳴き声が響く。
「鳴き声?」
仲間はびっくりする。
「ゴレタ、土を〈形成〉して、周囲に壁を作ってくれ!」
「壁っすね、了解!」
マッドゴレタの誕生に伴い、大木を取り囲むように、土の壁が出来上がる。
「追い詰めたぞ!」
俺は、スラゾウハンマーを振るう。
ズシン、ウキィ、ズシン――
大木に衝撃が走り、猿に似た鳴き声が響く。
それがしばらく続いた後――
「ウキィ!」
声は、落ちてくる。
俺に向かって!
「ゴレタ!」
「了解!」
俺の指示を受けたゴレタは、落ちてくる声に向かって、腕を振り抜く。
ズドン!
ゴレタの一撃を受けた、猿に似た魔物は吹っ飛ぶ。
勢いそのまま、土の壁にめり込む。
そこに、俺は留めの一撃を放つ。
ズシン!
「ウキィ――」
鳴き声が途絶えると、猿に似た魔物は地面に倒れる。
「どういうこと?」
「こいつこそ、ループの原因だよ」
「原因は、トレントでしょう?」
「トレントは、本来の原因のこいつを、文字通り覆い隠しただけさ」
「覆い隠す?」
クーデリアは反応する。
「自身のエクストラスキルによって、こいつを周囲の景色に埋没させたんだ」
「あの時、二つの異なるエクストラスキルが、使われたのね!」
「一つは、トレント。目的は、仲間の隠蔽」
「もう一つは?」
「こいつ。目的は、敵の足止め」
猿に似た魔物は死んでいるらしく、ピクリとも動かない。
「いつ、真実を見抜いたの?」
「木に登る直前さ」
「木に登ったのは、なぜ?」
クーデリアは引っ掛かる。
「こいつを追い詰めるため」
「こちらの道を失ったように思わせて、あちらの道を失わせたのね!」
「確実に仕留めるために、みんなには黙ってたんだよ。負担を強いて、悪かった」
俺は一応謝る。
仲間は「気にすることはない」と、首を横に振る。
「完全にループは脱したから、今度こそ本当に先に進もう!」
俺たちは頷き合った。
読んでくださって、ありがとうございます。
ブックマーク等の応援、ありがとうございます。
案外、簡単に抜けられました。
それは、「ループもの」ではないからです。
猿に似た魔物の正体と能力は、次回に明かされます。
今回明かそうとしたら、文字数が増え過ぎたために断念しました。