第102話 森の番人
前回のポイント・森の番人トレントに襲われた!
森の番人トレント。
その姿は――
「マーマンに似てるな」
魚に手と足が生えたのが、マーマン。
木に手と足が生えたのが、トレント。
ただ、魚と人の中間のマーマンとは異なり、トレントは木そのもの。
頭は葉っぱの集まり、体は太い幹、手足は細い枝みたい。
「森の番人を倒していいのか?」
「倒す以外の選択肢があるの?」
「ないけど、問題あるだろ?」
俺は引っ掛かる。
「それなら、逃げ続ける? それこそ、森を通り抜けるまで」
「それは……無理だな」
「それなら、倒しましょう。番人でも、敵は敵よ?」
俺は、クーデリアの意見に押し切られる。
「スラゾウ、斧に〈変化〉してくれ!」
「斧ですね、了解!」
「ゴレタ、土を〈形成〉してくれ!」
「土っすね、了解!」
俺は、スラゾウアクスを構える。
マッドゴレタは、ファイティングポーズを取る。
ちなみに――
斧を選んだのは、木を切り倒すイメージ。
土を選んだのは、木に相対するイメージ。
「行くぞ!」
本来――
木なのだから、火に弱いはず。
俺とスラゾウはともかく、ゴレタはファイアゴレタになればいい。
「行きますよ!」
「行くっすよ!」
ただ――
トレントに、火の弱点は見当たらなかった。
それに、下手すると、森林火災に巻き込まれる。
そのため、一体ずつ確実に対処する、今の方法を選んだんだ!
「うりゃ!」
俺の掛け声とともに、戦闘は開始される。
敵の数は、五体。
ランクはEだから、そこそこ強い。
ただ、こちらも強くなっているから、まったく問題ない。
俺は、左の敵を迎え撃つ。
ゴレタは、右の敵を迎え撃つ。
俺たちの壁をすり抜けた一体は、クーデリアに迫る。
「クーデリア、壁をすり抜けたトレントの相手を頼む!」
「了解! 迎撃を優先して、必要な排除する!」
俺の指示に、クーデリアは従う。
「一撃目!」
ザクッ!
クーデリアの攻撃は、トレントの胴体に深々と突き刺さる。
さすがに、ランクCのパラディン。
トレントを圧倒する。
それでいて、無理することなく守りを主体にしている。
「食らえ!」
俺は、スラゾウアクスを振るう。
ザシュ!
その一撃は、トレントを切り倒す。
「どいて!」
マッドゴレタは、腕を振り抜く。
ズドン!
その一撃は、トレントを突き破る。
俺たちの猛攻を受けた五体のトレントは、あっという間に戦闘不能に陥る!
「勝負あったな?」
俺の言葉に、全員頷く。
「トレント、お前たちの目的は何だ?」
そう問いかけた時――
『エクストラスキルの兆候を確認しました』
不穏な言葉が、浮かぶ。
「みんな、エクストラスキルが来るぞ、注意しろ!」
俺の言葉に、全員警戒する。
直後――
トレントの体から、葉っぱが剥がれる。
それは、瞬く間に俺たちを包み込む。
「うん? 痛くないし、苦しくないぞ!」
俺たちは顔を見合わせる。
それに前後して、無数の葉っぱは消え失せる。
「どういうことだ?」
俺は地面に視線を向ける。
そこには――
何もなかった。
「いないぞ! 消えた……?」
「森に還ったみたいですね」
「還った?」
俺は引っ掛かる。
「魔物は、亡くなると世界に還元されます。トレントは、森に還元されたんです」
「この短時間に?」
「驚くべきことですけど、それがトレントの特性なんでしょ」
スラゾウは主張する。
「そうだとしても、早過ぎだろ?」
「たぶん、ここはトレントの生まれ故郷なんすよ」
「だから、すぐに世界に還った?」
俺は聞き返す。
「スライムは谷、ゴーレムは山、トレントは森、そう考えると納得できるっすよ」
「森は森でも、生まれ故郷の迷いの森だから、一瞬にして世界に還元された?」
「問題は、最後のエクストラスキルの意味っすね」
ゴレタは指摘する。
「タロウ、エクストラスキルの意味は、わからないの?」
「普通、データベースにアクセスできるんだけど、今回はできないね」
「データベース……」
「自動的に検索してくれる、有能な司書さんみたいなものだね」
俺の説明の間も、クーデリアは考え込んでいる。
「それよりも、先に進もう」
俺は先を促す。
それに伴い、移動を再開する。
もちろん、隊列は――
前に俺、その両肩にスラゾウとゴレタ、後ろにクーデリア。
しばらく、無言のまま歩いた後、俺は立ち止まる。
「ご主人?」
「兄貴?」
「貴殿?」
仲間は、心配そうに俺を見る。
「お前ら、この景色に見覚えはないか?」
俺は辺りを示す。
「森ですよね?」
「緑っすよね?」
「木ばかりね?」
「この景色を、よく覚えておいてくれ」
それから、再び歩き出す。
また、しばらく歩くと、立ち止まる。
今度は、仲間も不審に思わない。
むしろ、その表情は驚きに満ちている。
「ご主人、同じですよ!」
「兄貴、変わってないっすよ!」
「貴殿、まったく同じ景色が続いているぞ!」
仲間は、口々に異変を訴える。
「問題は――」
俺は言葉を呑む。
景色のループは、表面上なのか?
あるいは、実際の出来事なのか?
ここは、入ったら出られない、迷いの森。
正直、どっちの可能性もありそう。
「スラゾウ、ゴレタ、クーデリアの肩に移ってくれ。俺一人、動いてみる」
スラゾウとゴレタをクーデリアの肩に移すと、俺は慎重に歩き出す。
徐々に、それでいて着実に、仲間との距離は遠ざかっていく。
そのまま、後ろを確認しながら、前に進む。
仲間の姿が見えなくなった時――
ドン!
勢いよくぶつかる。
クーデリアたちに!
「ご主人!」
「兄貴!」
「貴殿!」
仲間は驚愕する。
「どうやら、俺たちは――」
森に、囚われたらしい!
読んでくださって、ありがとうございます。
ブックマーク等の応援、ありがとうございます。
最後の状況は、迷いの森の命名理由の一つです。
当然、他にも理由はありますし、他にも困難は待ち構えます。
タロウたちは、力を合わせて、知恵を絞り、それに立ち向かっていきます。