第100話 謎の少年ライト
前回のポイント・本当の暗殺者は、ヨハンだった!
海を渡り切った俺たちは、旅を再開している。
ただ、表立っては行動できないから、こそこそしている。
外出時は――
俺とクーデリアは、フードを目深にかぶっている。
スラゾウとゴレタは、皮袋の中に隠れている。
仕方ないとはいえ、犯罪者の気分。
「オイラ、勇者ですよね?」
「オレも、勇者っすよね?」
「私は、宗主の孫娘よね?」
「俺は、リーダーだよな?」
俺たちは愚痴る。
こそこそしていることを除くと、そこそこ快適。
野宿を避けているし、日中も出歩いている。
それどころか、情報収集を目的とした観光もしている。
問題は――
「聖都への道だな」
今、俺たちは、酒場と宿屋を兼ねた店にいる。
人目を引きたくないため、薄暗い角のテーブルにいる。
テイマーギルド所属の指輪を示したため、主人も客も寄ってこない。
「臨時の検問が設けられてるから、道は街道以外だ」
「獣道でしょう?」
「獣道とまではいかなくても、裏道だね。大変だよ?」
「覚悟している。あなたたちも、覚悟しているでしょう?」
クーデリアはもちろん、俺たちも頷く。
旅を続けないなら、辺境に隠れ潜めばいい。
命は、保障される。
でも、全員そのつもりはない。
そうしないと、破滅を招くと気づいているから。
「谷か、山か、二択だね」
「谷ですね」
「山っすね」
「それぞれの根拠は?」
「スライムと言えば、谷!」
「ゴーレムと言えば、山!」
「単なる印象?」
俺は首をひねる。
「オイラは、谷の生まれですよぉ!」
「オレは、山の生まれっすぅ!」
「そんなに、谷と山が好きなのか?」
「そこそこ?」
「まあまあ?」
「そのくせ、主張するのかよ!」
俺は突っ込む。
「谷と山、それ以外の道はないのか?」
「君たち、谷とか山とか言っているけど、観光でもするのかい?」
声は、テーブルの外から聞こえた。
要するに――
部外者。
俺は警戒しながら、声のしたほうを向く。
そこにいたのは――
「やぁ」
男とも女とも言えそうな、中性的な顔立ちの人物。
年齢は、俺と同じぐらい。
要するに、十代半ば。
特徴は、存在感の希薄さ。
立ち去ったら、すぐに忘れてしまいそう。
それどころか、視線を外しても忘れてしまいそう。
そのくせ、容姿は人形のように整っている。
「僕は、ライト。よろしく!」
ライトは微笑む。
「俺たちは――」
「裏ありなんでしょう?」
「……どうして、そう思った?」
俺のみならず、全員警戒する。
「人目を気にしているよね?」
「そうだとしたら?」
「君たちが名乗る必要はないよ、僕が名乗りたかっただけだから」
ライトは気を利かせる。
「それよりも、どうして僕の顔を見つめているの?」
「性別が、わからないからだよ。僕だから、男?」
「一応、男だね」
「一応?」
俺は首をひねる。
「君が望むなら、女でも構わないよ?」
「適当だな」
「恋愛するわけでも、結婚するわけでもないでしょう?」
ライトは嘯く。
「それよりも、道を探しているんでしょう?」
「探しているね」
「新婚旅行?」
「婚前旅行」
俺の答えに、クーデリアは睨み、スラゾウとゴレタは笑う。
「検問を素通りしたいなら、森があるよ」
「森? 調べても、聞いても、出てこなかったぜ」
「そりゃ、そうさ。何しろ、立ち入るべきじゃないところだから」
「立ち入るべきじゃないところ……」
俺たちは顔を見合わせる。
「迷いの森」
ライトの言葉は、さほど大きくなかったし、重くもなかった。
そのくせ――
ざわっ、と店の主人も、客も色めき立つ。
「正気か?」
「無謀だろ?」
「魔物の住処だぞ?」
俺は、ライトに視線を戻す。
「そこは、魔物の住処なのか?」
「もちろん、魔物の住処だよ」
「もちろん?」
俺は引っ掛かる。
「だから、人には邪魔されずに通り抜けられるんだ」
「言い換えると、人以外には邪魔される?」
「君は、聡いね」
ライトは褒める。
「それよりも、迷いの森の意味は?」
「いろいろある。代表的なところだと、魔物に襲われて、出られないだね」
「絶対に出られないのか?」
「普通に通り抜けられるよ? 現に通り抜けた人は、複数確認されているし」
ライトは請合う。
「たとえば?」
「光の御子」
「光の御子!」
俺たちは驚く。
「かって敵に襲われて、迷いの森に逃げ込み、仲間とともに通り抜けたそうだよ」
「なるほど?」
「一説には、迷いの森の中には、光の御子の残したお宝があるそうだよ」
「お宝――」
俺の言葉は、途切れる。
「ご主人!」
「兄貴!」
「貴殿!」
仲間に、服の裾を引っ張られて。
「どうした?」
「宝探し!」
「埋蔵金発掘!」
「遺跡探検!」
俺以外の三名は、やる気になる。
「もし向かうつもりなら、きちんと準備を整えるべきだろうね」
「どうして?」
「そうしないと――」
「そうしないと?」
「死ぬよ?」
俺たちは息を呑む。
「ライト、いろいろありがとう」
「気にする必要はないよ、この出会いは運命だろうし」
「運命?」
「出会うべくして出会ったんだよ、僕と君は」
ライトの言葉は、意味深に響く。
「僕にできることは、これぐらい。後は、君たち次第。――それじゃあ、また!」
そう言い残して、ライトはテーブルを離れる。
遠ざかる背中に向かって、俺は能力を使う。
「〈異世界王〉の効果により、対象の情報を把握する」
俺は宣言する。
『〈異世界王〉の指定効果、発動』
【ステータス】
ネーム・ライト
クラス・不明
ランク・不明
スキル・不明
【パラメーター】
攻撃力・不明
防御力・不明
敏捷性・不明
一度目に調べた際の、ガルコと同じく「不明」の文字が並ぶ。
その共通点に、俺は警戒心を抱く。
「クーデリア、ライトはテイマーか?」
「……わからない」
「わからない? テイマーは、テイマーを判別できるはずだろ」
「もしかしたら、能力を偽っているのかもしれない」
クーデリアは指摘する。
「能力は偽れるのか?」
「それ専用のスキルがあるの。ただ――」
「ただ?」
「テイマーか否かは偽れない」
「ライト、君はテイマーなのか……いないぞ!」
当のライトは、いなくなっていた。
それこそ、最初からいなかったみたいに。
読んでくださって、ありがとうございます。
ブックマーク等の応援、ありがとうございます。
第三章の始まりになります。
思ったより早く始まったため、進みはゆっくりだと思います。
また、更新も途切れ途切れになるかもしれません。
それでも、引き続きお読みいただけたら、嬉しいです。