第99話 箱舟
前回のポイント・作戦は、最終段階に突入した!
「お前ら、準備は完了したか!」
「貴殿、大丈夫だ!」
「兄貴、大丈夫っす!」
「ご主人、大丈夫です!」
全員、準備完了だと示す。
「この状況から、どう巻き返す?」
「巻き返す必要はない、終わらせる必要があるだけだ!」
作戦の完了に必要なのは――
距離と時間。
今、そのどちらも揃っている。
「エクストラスキル発動!」
次の瞬間――
世界は、文字通り一変する。
『〈異世界王〉の効果、発動』
脳裏に言葉が響き、虚空に文字が浮かぶ。
【ステータス】
ネーム・タロウ
クラス・キングテイマー
ランク・NF
スキル・異世界王∞
エクストラスキル・ 神曲
【パラメーター】
攻撃力・∞(限界突破)
防御力・∞(限界突破)
敏捷性・∞(限界突破)
【ステータス】
ネーム・スラゾウ
クラス・スライムオリジン
ランク・NF
スキル・神化∞
エクストラスキル・ 戦女神の加護 神々の伝令
【パラメーター】
攻撃力・∞(限界突破)
防御力・∞(限界突破)
敏捷性・∞(限界突破)
【ステータス】
ネーム・ゴレタ
クラス・ゴーレムオリジン
ランク・NF
スキル・神成∞
エクストラスキル・ 必滅の神槍 雷神の鉄槌
【パラメーター】
攻撃力・∞(限界突破)
防御力・∞(限界突破)
敏捷性・∞(限界突破)
最強無敵状態に突入する。
それに伴い、怪我は治り、痛みはなくなる。
それこそ、失った血液も補充されている。
「光り輝いている……? 臆すんじゃない、目くらましに過ぎないぞ!」
スカーレットは己を鼓舞するように叫ぶと、レイピアを突き出してくる。
その一撃は――
あまりにも遅く、あまりにも弱い。
「君との勝負は決したよ、薔薇騎士スカーレット」
俺は、無造作に手の平を突き出す。
俺の何気ない一撃は、レイピアをへし折り、全身甲冑を押し潰す!
それでも、相殺できない威力に――
「この力は――」
スカーレットは吹っ飛び、船の柱に激突し、柱は真っ二つに折れる。
「スカーレット様……!」
騎士と法師の間から、恐怖に満ちた声が上がる。
「スカーレットを一撃……!」
グリフォンの上から、シモンの驚嘆した声が漏れる。
「それほどまでの力があるのに、どうして――」
「どうして、今まで使わなかった?」
「私を甘く見ていたのか!」
「むしろ、厳しく見てるよ」
俺は否定する。
「それなら、どうして?」
「言っただろう、時間と距離を稼ぐ必要があった、と」
「準備が整ったのか?」
「準備は整った。後は、目的を達成するだけ」
俺は頷く。
「魔物を倒す必要があるし、船を守る必要もある」
「前者はともかく、後者は?」
「あなたたちは、本当の敵じゃない」
「私たちは、本当の敵じゃない?」
「君たちの後ろに潜むものこそ、俺たちの本当の敵だ」
「本当の敵……か」
スカーレットは考え深げに呟く。
その感傷を打ち消すように――
『エクストラスキルの兆候を確認しました』
不穏な言葉が、浮かぶ。
おそらく、俺の絶対的な力を目にしたシモンは――
俺じゃなく、船に狙いを定めたんだろう!
「スラゾウ、ゴレタ、クーデリア、エクストラスキルが来るぞ!」
直後――
船の周囲に、無数の渦が発生する!
『データベース・エクストラスキル〈大渦〉』
海の魔物、クラーケンの必殺技。
その攻撃は、船を枯葉のように呑み込む。
呑み込まれた船は、渦により押し潰される。
過去、この攻撃を受けて、助かった船は存在しない。
これを目にした時、あなたは逃げるしかないのだ。
「よし、作戦通りだ」
「作戦通り?」
「これを待ってたんだよ」
「敵のエクストラスキルを利用するつもりか!」
「ご名答!」
俺は、スカーレットに頷いてみせる。
「ゴレタ、エクストラスキルを発動してくれ!」
「了解!」
ゴレタは頷く。
「〈必滅の神槍〉!」
瞬間――
主神と化したゴレタの手から、光輝く槍が放たれる。
それは、クラーケンとの距離を、一瞬にして零にする。
「クラァァァ!」
クラーケンは、恐怖に満ちた叫び声を上げる。
そして、自らを守るように、渦の中心に隠れる。
それこそ、俺たちの狙いだと知らずに!
直後――
光輝く槍は、クラーケンを中心に、渦の群れに突き刺さる。
突き刺さると同時に、光は爆発する。
「クラァァァ――」
クラーケンと渦の群れは、塵と化す。
〈必滅の神槍〉の、威力の低下と引き換えにして!
「余波が来るぞ! 全員、退避!」
スカーレットは、退避を指示する。
一方――
「余波が来るぞ! 全員、集合!」
俺は、集合を指示する。
俺たちが集まったのは――
用意しておいた、空箱。
その中に、全員、乗り込む。
「スラゾウ、エクストラスキルを発動してくれ!」
「了解!」
スラゾウは頷く。
「 〈戦女神の加護〉!」
瞬間――
戦場に、戦女神が降臨する。
「来る!」
同時――
戦女神が、悠然と微笑む。
それに合わせて、戦女神のひらひらとした服が伸びる。
それは瞬く間に、船と箱を包み込む。
ただし、完全に包み込んだ船とは違い、箱は部分的に包み込んでいる。
その違いは――
俺たちの乗った箱に、衝撃が加わる。
それに伴い、箱は吹っ飛ぶ。
目的地である、港に向かって!
「跳んだ……!」
「飛んだ……!」
前者はスカーレットの、後者はシモンの呆然とした声。
そう、〈必滅の神槍〉の余波を利用して、箱を撃ち出したんだ!
箱は、勢いそのままグリフォンを飛び越える。
「さようなら、法師シモン……いえ、暗殺者シモン!」
「待て、クーデリア――」
クーデリアの勝ち誇る声に、シモンの負け犬の遠吠えが重なる。
その間も――
箱は、港に向かって飛び続ける。
本来なら、箱は壊れているし、俺たちは振り落とされている。
でも、実際は戦女神によって、完全に守られている。
「本当に逆、ね」
「逆?」
「本来、ゴレタにより敵を倒して、スラゾウにより敵から逃れる」
「それなのに、今回は逆転した?」
「今回、スラゾウにより敵を倒して、ゴレタにより敵から逃れた」
クーデリアは頷く。
実際のところは――
ゴレタにより敵を倒して、ゴレタにより敵から逃れた。
「兄貴、先輩の役割は?」
「癒し?」
「茶化してると、先輩に怒られるっすよ?」
「冗談だよ。スラゾウの役割は、俺たちの護衛だ」
「それなら、役割に変化はないっすね」
ゴレタは頷く。
勢いそのまま飛び続けた箱は、浜辺に墜落する。
本来、箱は粉砕され、乗員は致命傷。
でも、加護は残っているため、無事に着地する。
手分けして、荷物を運び出す。
それから、全員、浜辺に寝そべる。
「さすがに疲れたな?」
「疲れましたね」
「疲れたっすね」
「疲れたわ」
全員、見るからに疲れているものの、笑い合う。
「一休みしたら、旅を続けよう!」
俺の言葉に、全員頷いた。
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全員無事に、海を渡り切りました。
この後は、山あり谷ありでも、陸路が続きます。
海路に関しては、ゴレタの要望に沿って入れました。
ただ、変化に乏しく、苦労しました。
第三部としては、折り返し地点になります。