第98話 薔薇騎士スカーレット
前回のポイント・タロウは、船から脱出するための作戦を思いついた!
「よし、作戦を実行するぞ!」
俺の言葉に、スラゾウ、ゴレタ、クーデリアは頷く。
一人、ヨハンはうつむいている。
「ヨハン、俺たちは行くぞ?」
「がんばってください」
「いろいろありがとう! そして、いろいろすまない!」
俺はペコリと頭を下げる。
「気にしないでください、人生はよいことと悪いことの繰り返しです」
「よいことを期待してるの?」
「期待しています。何しろ、あなた方との縁は、切れそうにありませんから」
ヨハンは微笑む。
「ああ、また会おう、ヨハン!」
「ええ、また会いましょう、キラタロウ!」
俺とヨハンは、別々の方向に歩き出す。
まず、作戦の要である、大型の空箱を手に入れる。
それから、その箱の中に、皮袋を始めとした荷物を詰め込む。
そして、港のある方向に向かって、甲板から箱を押し出す。
準備の間に――
「異人の少年、勇者スラゾウ、勇者ゴレタ……それにクーデリアコローナ騎士!」
スカーレットを始めとした、聖堂騎士団の面々が駆けつける。
その中には、ヨハンは含まれていない。
今頃、世を儚んでいるに違いない。
「どうして、全員、監視もなく外に出ている!」
「暗殺者に、襲われたんだよ」
「暗殺者に襲われた……? その暗殺者は、どこにいる!」
「空にいる。グリフォンに、暗殺者シモンが乗ってるだろう?」
「法師シモンが、暗殺者!」
スカーレットは驚愕する。
「信じられないな」
「信じても信じなくても、構わない」
「なぜ?」
「これから、俺たちは船を脱出するからだ」
俺は言い切る。
「薔薇騎士スカーレットを前にして、脱走できると思っているのか?」
「本気の俺を前にして、脱走を阻止できると思ってるの?」
「思い上がるな、キラタロウ!」
「そっちこそ思い上がるな、スカーレット!」
俺とスカーレットは、睨み合う。
「クーデリアコローナ騎士、あなたも逃走に加わるのか?」
「もちろん、加わります」
「罪が重くなるだけだぞ?」
「構いません。私は、この方々と一緒に、真実を突き止めると誓いました」
遠回しの脅迫に、しかしクーデリアは屈しない。
「真実?」
「今、この国を揺るがしている、宗主暗殺未遂事件の真相を突き止めるのです」
「そんなことが可能だと、本当に思っているのか?」
スカーレットは試すように問いかける。
「問題の元凶を突き止め、罰を受けさせます。そのための、心強い仲間はいます」
「心強い仲間?」
「あなたたちは、私の仲間でしょう? ――タロウ、スラゾウ、ゴレタ?」
クーデリアは、俺たちに話を振る。
「「「仲間だ!」」」
俺たちは声を合わせる。
「そこまでの覚悟があるのなら、仕方ない。私も、覚悟を決めよう」
スカーレットは頷く。
「これより、反逆者を処刑する。騎士、並びに法師、四名を討つぞ!」
スカーレットの宣告に――
「おぅ!」
一斉に声が上がる。
俺たちと同じく、あちらも覚悟を決めたらしい。
「この際だ、暗殺者に限らず、聖堂騎士団も叩きのめすぞ!」
俺たちは頷き合う。
会話は、終了した。
後は、行動のみ。
双方の距離は、じりじりと詰まる。
「スラゾウ、剣に変化してくれ!」
「剣ですね、了解!」
「ゴレタ、巨大化してくれ!」
「巨大化っすね、了解!」
俺はスラゾウソードを構えると、スカーレットに向かう。
ジャイアントゴレタは、騎士と法師の集団に向かう。
「クーデリアは、暗殺者に警戒しながら、クラーケンを牽制してくれ!」
「警戒と牽制ね、了解!」
クーデリアは、船の防衛に向かう。
エクストラスキルに頼らないのは、時間の問題――
作戦達成までの時間を稼ぐ必要があるんだ!
「足止めか? 私を足止めするのは困難だぞ!」
「困難? 不可能じゃないんだから、問題ない!」
スカーレットの挑発を受けて、俺は攻撃を仕掛ける。
スカーレットも、グレゴールと同じく全身甲冑。
ただし、後者よりも前者のほうが、身動きは取れそう。
その分、防御力などは、下がっていそう。
ブン!
俺の大振りの攻撃に対して――
ヒュ!
スカーレットは小振りの攻撃を繰り出す。
さらに、武器の種類は、バスターソードとレイピア。
俺の有利は、揺るがない。
「弾き返してやる……弾き返された!」
俺は驚愕する。
俺の大振りの一撃は、スカーレットの小振りの一撃に弾き返されたんだ!
「どうして……?」
「ご主人、相手は基点を狙ってます!」
「基点?」
「テコの原理です。攻撃を、ひいては力を受け流されてるんですよ!」
スラゾウは指摘する。
「私の戦法を一瞬にして見抜くなんて、優秀な仲間ね!」
スカーレットは突きを繰り出してくる。
ヒュ!
「その程度の一撃、食らうかよ!」
スラゾウソードの平の部分を用いて、その突きを受け止める。
しかし――
「食らった!」
踏み込みを乗せた一撃に、俺は後方に吹っ飛ばされる!
「オーガかよ!」
「可愛いオーガよ!」
声は、上から聞こえる。
一瞬にして距離を詰めていたスカーレットは、レイピアを突き刺してくる。
「ご主人、左!」
スラゾウの言葉に従い、俺はスラゾウソードを左に振り上げる。
ガツン!
武器と武器が、ぶつかり合う。
今度は、弾き飛ばされなかったし、吹き飛ばされなかった。
ただ、威力を相殺できなかった。
そのため、一時的にスラゾウの変化が解ける。
「ご主人、変化が解けました!」
「スラゾウ、後ろに隠れろ!」
俺はスラゾウを守るように、素手のまま戦う。
ブン、ヒュ、ブン――
俺の攻撃は空振りして、スカーレットの攻撃は俺の体に傷を刻む。
それでも、俺は手と足を使い、戦い続ける。
それにはスカーレットも耐えかねたらしく、距離を取る。
それに合わせて、俺の体はよろめく。
どうやら、切り刻まれたため、全身から出血しているらしい。
「不死身? よく動けるし、よく死なないわね!」
「……体は、頑丈なんだよ?」
「さすがに、苦しそうね。次は、ないわよ?」
スカーレットの言葉は、不吉に響く。
警戒しながら、状況を確認する。
ゴレタは、削れている。
スラゾウは、疲れている。
クーデリアは、退いている。
このままだと――
全滅。
「だが、十分稼いだ」
「時間を?」
「時間と距離を!」
「時間はともかく、距離?」
スカーレットは首をひねる。
「みんな、作戦の最終段階だ!」
俺は、仲間に合図を送った。
読んでくださって、ありがとうございます。
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作戦中ですが、邪魔が入りました。
もちろん、スカーレットです。
本来、もっと活躍するはずでした。
ただ、第二章以降も、引き続き活躍するはずです。