幕間6 暗殺実行
前回のポイント・タロウは、二択を迫られた!
船の中心部にある、スカーレットの執務室。
そこに、スカーレットと暗殺者はいた。
「捕虜に、食事を届けてきてね?」
「わかりました、今すぐ向かいます」
「その際、ちゃんと食べたか、見届けてね?」
「餓死されても、困るからでしょう?」
暗殺者は確認する。
「それもあるけど、体調を確認する必要があるわ」
「その理由は?」
「捕虜とはいえ、宗主様の孫娘よ?」
「無事に、それに元気に、大聖堂まで送り届ける必要があるのですね」
暗殺者は納得する。
「それでは、失礼します」
そう言い残して、暗殺者は執務室を後にする。
それから、配膳室に立ち寄る。
食事を受け取り、目的地に向かう。
「問題はありませんから、通ってください」
「お勤め、ご苦労様」
途中、騎士の検問を抜けて、地下に降りる。
検問の後、受け取った食事の中に、毒を仕込む。
後は、クーデリアの死を見届けるだけ。
問題は――
勇者たちの行動を把握できないこと。
ヨハンに監視されながら、船を散策していたことまではわかっている。
それ以降は、一切不明。
「もっとも――」
クーデリアさえ殺せれば、問題ない。
後は、騎士団を離れるだけ。
「あの人のためにも、仕損じるわけにはいかない!」
暗殺者は、目的地にたどり着く。
「食事の時間です」
ノックの後、渡された鍵を使い、扉を開ける。
事実上の軟禁――
そのため、標的を暗殺するのは、案外難しい。
毒殺は、基本中の基本。
手段としては確実だし、自殺を装える。
用意しておいた毒による、服毒自殺などはよくある話。
「クーデリアコローナ騎士、食事ですよ?」
室内は、薄暗い。
窓はないし、明かりも乏しいから。
「食事? わかった、起きる」
寝ていたらしく、ベッドの上のシーツは膨らんでいる。
直すのも面倒くさいらしく、そのままにして歩み寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
「自殺を警戒しているの?」
「肉体的にも精神的にも、参っているでしょう?」
「大丈夫」
クーデリアの言葉は、力に欠けている。
「それなら、食事を開始してください」
「食事を見届けるの?」
「それが、スカーレット団長からの指示です」
「見くびられたものね、これでも大食いのクーデリアよ?」
クーデリアはおどける。
それから――
食事は、開始される。
言葉とは裏腹に、クーデリアは一口ずつ、ゆっくり食べている。
後始末を考えて、すべての料理に毒を入れていない。
特定の料理にのみ、毒を入れている。
そうして――
毒の入った料理に、差し掛かる。
クーデリアは、一口、二口、口をつけると――
「うっ――」
うめき声を上げながら、床に倒れる。
「クーデリアコローナ騎士?」
「く、苦しい……た、助けて!」
「すみません、助けられません」
「ど、どうして――」
クーデリアの言葉は途切れる。
床に倒れたクーデリアに、暗殺者は近づく。
「本当にすみません。でも、これが私の役目なのです」
暗殺者は目的の達成を確認するため、手を伸ばす。
同時――
「あなたが、暗殺者ね!」
起き上がったクーデリアは、暗殺者を突き飛ばす。
「何、だと!」
予想外の事態に、突き飛ばされた暗殺者は、床に転がる。
「どうして、死んでいない?」
「私は、料理を食べなかったから」
「料理を食べなかった……?」
「食べたのは、私ではなく――」
クーデリアは、自分の胸元を示す。
そこには――
「残念でしたねぇ!」
見覚えのあるスライム。
「勇者スラゾウ……!」
暗殺者は呆然とする。
「毒殺するとわかってましたから、対応したんですよ」
「どう対応した!」
「オイラはネックレスに〈変化〉して、隠れてたんですよ」
「クーデリアの代わりに、料理を食べるためか!」
暗殺者は驚愕する。
「毒が入ってたのは、鶏肉のステーキですね?」
「どうして、わかる?」
「オイラには〈毒耐性〉のスキルがありますから、食べられるんですよ!」
「私と同じスキルを持っているのか!」
暗殺者は納得する。
「毒殺は失敗、か。それなら、手を汚すまで!」
失敗を悟った暗殺者は、クーデリアに襲い掛かる。
「スラゾウ様、私の後ろに!」
その言葉に従い、スラゾウはクーデリアの後ろに回る。
「勇者を守ったのか? その場合、お前を守れないぞ!」
「守れるっすよ!」
言葉とともに、衝撃が走る。
ゴン!
頭突きを食らった暗殺者は、吹っ飛ぶ。
「何、だと!」
暗殺者は、跳んできた影を睨む。
それは――
「残念っすね!」
見覚えのあるゴーレム。
「勇者ゴレタ……!」
暗殺者は愕然とする。
「どこにいた!」
「シーツの中に、潜んでたんすよ!」
「異人の少年は二重の暗殺を警戒して、二体の勇者を忍ばせたのか!」
暗殺者の顔は、悔しそうに歪む。
「その通りよ!」
クーデリアは胸を張る。
その左右には、スラゾウとゴレタが並んでいる。
「前に一度、私を狙った暗殺者は、あなたね?」
「……そうだ」
「今度は、うまくいかなったわね!」
「今度も、うまくいかなかった、だ!」
暗殺者は訂正する。
「おとなしく拘束されなさい。――法師シモン!」
「次は、仕留める。――覚悟しておけ、クーデリアコローナ騎士!」
捨て台詞を残して、暗殺者シモンは部屋を立ち去る。
地下を抜ける前に、道は二手に分かれる。
左には、同僚の法師。
右には、異人の少年。
「ヨハン!」
「シモン!」
「あなた、どうして――」
「……残念です」
シモンとヨハンは見詰め合う。
「感傷に浸ってるところ悪いんだけど、暗殺者を捕まえさせてもらうよ!」
タロウの言葉に、シモンの覚悟は決まる。
「貴様程度では、私を捕まえられるとは思うなよ!」
シモンは体当たりにより、窓を突き破ると、海に跳び出す。
海に落ちる寸前――
「来い、グリフォン!」
飛来したグリフォンの上に、シモンは乗る。
「逃げるつもりか!」
「逃げる? 殺すつもりだ!」
「誰を?」
「標的を含めた全員を!」
シモンは叫ぶ。
「海の魔物よ、船ごと標的を沈めなさい!」
その指示に従い――
海の魔物は、その姿を現した!
読んでくださって、ありがとうございます。
ブックマーク等の応援、ありがとうございます。
今回は、最初から最後まで暗殺者の視点です。
暗殺者を視点の主にしたのは、雰囲気を盛り上げるためです。
ちなみに、スラゾウとゴレタは、荷物にまぎれて忍び込みました。
部屋が薄暗いのは、両者の存在を暗殺者から隠すためです。