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第95話 法師ヨハン

 前回のポイント・クーデリアは、聖堂騎士団に投降した!

 聖堂騎士団の接収した船の一室に、俺たちはいる。

 俺たち――

 俺、スラゾウ、ゴレタの三名。


 クーデリアだけは、別の部屋に閉じ込められている。


「ご主人、弱腰ですよね?」


「兄貴、チキンっすよね?」


「スカーレットに対するものか?」


「クーへの対応です」


「クーへの態度っす」


「具体的には?」


 暇を持て余した俺たちは、ベッドの上に寝そべっている。


「後ろから、引き止めればよかったんすよ」


「そうしたら?」


「友好度が低いから、振り払われてたっすね」


「駄目じゃん」


 ゴレタは笑う。


「後ろから、抱きしめればよかったんですよ」


「そうしたら?」


「好感度が低いから、張り倒されてましたね」


「駄目駄目じゃん」


 スラゾウは笑う。


「結局のところ、俺はどうすればよかったんだ?」


「ご主人じゃ、無理ですね」


「兄貴じゃ、無駄っすね」


「それなら、どうして俺は、責められてるんだ?」


 俺は反発する。


「何もできなかったからです!」


「何もしなかったからっす!」


「無理なんだろう? 無駄なんだろう?」


「無理でも、しましょ?」


「無駄でも、しましょ?」


「それは……」


 俺は言葉に詰まる。


「ご主人、クーの立場になって、考えてくださいよ」


「クーデリアの立場?」


「勇者を迎えに行く旅が、勇者を導く旅に変わったんですよ」


 スラゾウは指摘する。


「旅の趣旨が、変わってるな」


「その上、立場的に守られてるだけですよね」


「普通、負い目を感じるな」


 スラゾウは頷く。


「兄貴、クーが敵の群れに突っ込んだのは、そのためっすよ」


「負い目のため?」


「少しでもいいから、オレたちの負担を減らそうと考えたんすよ」


 ゴレタは指摘する。


「でも、それはうまくいかなかった?」


「それどころか、迷惑をかけたんすよ。クーでなくとも、自暴自棄になるっす」


「普通、ふてくされるな」


 ゴレタは頷く。


「実は、俺にも見送るしかなかった理由はあるんだぞ」


「それは?」


「この船の中に、暗殺者がいる」


「暗殺者!」


 スラゾウとゴレタは驚く。


「あの時、交戦してたら、事故に見せかけて殺されてたかもしれないんだ」


「警戒してるのに?」


「戦力が不足してるから、暗殺者までは手が回らないんだ」


 俺は、消極的だった理由を明かす。


「ご主人、後付ですね?」


「兄貴、言い訳っすね?」


「後付でもないし、言い訳でもない」


「根拠はあるんですか?」


「証拠はあるんすか?」


「もちろん、ある」


 俺は言い切る。


「それは、スカーレットへの助言だ」


「助言?」


「俺に対する、取引と言う名の脅迫だ」


「その助言者が、怪しい?」


 俺は頷く。


「パーティの中心である、リーダーへの脅迫だ」


「煽ってますね」


「狙ってるすね」


 誘いに乗ったら、戦闘中に事故に見せかけて殺す。

 誘いに乗らなかったら、拘束中に自殺に見せかけて殺す。

 どっちにしても、確実に殺すための仕掛け。


「情報を集める必要がある」


「助言者を特定して、暗殺者を排除するんですね!」


「それと同時に、クーデリアの救出と全員の脱走を計画する」


「スカーレットを出し抜いて、大聖堂に向かうんすね!」


 スラゾウとゴレタは、やる気を取り戻す。


 いずれにしても――


 突破口は、エクストラスキル。


 幾多の問題を解決するためには、最強無敵の力は必須。

 そのために、時間を稼ぐ必要があった。


 これが、今回捕まった、一番の理由。


「とりあえず、食事をしながら考えよう。そろそろ、食事の時間だぞ」


 俺の言葉に前後して、部屋の扉が開かれる。


 中に入ってきたのは、見覚えのない人物。

 それどころか、見覚えのない格好をしている。

 聖堂騎士には見えないから、部外者?


「ヨハンと言います。スカーレット団長から、あなた方の世話役を任されました」


 そう名乗ったのは、二十歳前後の若者。


「聖堂騎士?」


法師(ほうし)です」


「法師?」


「事務方ですね。正式名称は、聖堂法師となります」


 ヨハンは礼儀正しく頭を下げる。


「お食事をどうぞ」


 ヨハンは、テーブルに料理を並べていく。


 それは、ちゃんと三人分ある。

 ただ、勇者に比べると、随伴の食事は粗末。


「ご飯だけ?」


「異人の食事がわからないため、噂を参考にしました。白米、お好きでしょう?」


「おかずは!」


「お仲間から、おかずを分けてもらってください」


 ヨハンは、すまなそうに応じる。


「スラゾウ、ゴレタ、おかずをくれ?」


「この肉は、おいしいですねぇ!」


「この魚は、うまいっすぅ!」


 俺の言葉を無視して、スラゾウとゴレタは食事を続ける。


「お前ら、俺の話を聞け!」


「はい、皮!」


「ほい、骨!」


「今度は、騙されないぞ? 食えるんだろ……引っ掛かったぞ、刺さったぞ!」


 今度は食べられないものらしく、俺は吐き出す。


「ご主人、意地汚いですよ」


「兄貴、見苦しいっすよ」


「お前ら、おかずをよこせ!」


 おかずの取り合いをしている俺たちを、ヨハンはにこにこ眺めている。


「事務方なんだろう? スカーレットに、取引を助言した相手を知ってる?」


「もちろん、知っています」


「……他ならないヨハン?」


「私は、その意見に反対しました。主張したのも賛成したのも、同僚の法師です」


 ヨハンは、心外そうに首を横に振る。


「その取引を主張した、同僚の法師は誰?」


「なぜ、知りたがるのです? まさか、報復――」


「クーデリアの身を心配してるんだ。そいつは、ろくなやつじゃない」


 俺は、相手の懸念を打ち消す。


「シモンは、そんな人物ではありません」


「シモン?」


「……失言しました、忘れてください」


 ヨハンは、気まずそうに顔を伏せる。


「スラゾウ、ゴレタ、確かめるぞ?」


 俺たちは頷き合った。

 読んでくださって、ありがとうございます。

 ブックマーク等の応援、ありがとうございます。


 前回のラストに対する、三名の考え方を示しました。

 全員、立場により考えは異なるものの、思いは一緒です。

 もちろん、クーデリアを助けて、大聖堂に向かうことです。

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設定を変えた別バージョンは、全部書き直してます。
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