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とある御国でのあれやこれ。  作者: やおよろ
4/5

同盟国 インウィーケーディア アリオン卒業生とマリノス卒業生は今


 恨みなんて無いよ。愚民(人間)らに以外。


 恨んでも佳いですよ。貴女が言うなら。



 ボクが字を読み書きできないのが悪いの?


 読めなくとも、舞台演劇は出来るのヨ。



 でも、楽譜は読めるもん。


 認めています。貴女のその歌声。



 ボクね、先生みたいになりたい。


 (ワタシ)は、読み書きは教えれないノ。



 どうして。


 貴女が幸せ者に成れるように。



 ボクには、難しい。


 アナタが、大切だと思う人に教えてもらいなさイ。




 どうして、先生じゃ駄目なの?




 それは、貴女の未来の為ですよ。


 それは、アナタの未来の為ヨ。



 じゃあ、きっとそれは――。






 今日は、テストの返却日。また、何かを言われるのだろうと若干気分は落ち込み気味で、ボクはいつもの蒼色の着物に長く緩い三つ編みを引きずって学校への通学路を辿る。


『字が書けなくても……いいじゃん。ボクには、絵があるんだし』


 然し、絵だけで遣っていけないのくらいボクでも解る。

 絵で遣っていくにしても、パトロンも要るのだから。

 小さく独りごちたのは、ただの気晴らしに過ぎないって事も解っている。


『はぁ……』


 相変わらず憂鬱な儘、とぼとぼ歩いていくと数十分と経たぬうちに奇抜な門が見えてくる。

 マリノス芸術学園は、様々な芸術の専門校。通う生徒は個性的な子ばかり。故に、個々の才能を充分に活かした作品を校舎全体から著す……それが、その結果が奇抜な門と半ばカオスな校舎並びに成ってしまうのだと思う。

 まぁ、ボクは個性豊かで素晴らしい作品だと思うんだけどね。


 さて置き、舞台芸術棟にでも向かおうかな。今日は、午前中舞台芸術で午後から音楽棟と体を遣った作品作りの日なんだ。


 けれど、午後からの音楽芸術科では、こないだのテストの返却及び補講もあるらしい。


『こんなコトなら教えてもらっとくべきだった……』


 ショーウィンドウに映る蒼髪のボクの顔はじとりと半眼でムスッと拗ねているように見える。

 今日は1日憂鬱になれる。


 涼やかな風が優しく吹いて、前髪で遊んでは凪がれていく雲と風に少しだけ癒されたところで、ふと流れいく川が目に入りとある噂を思い出したのだ。


―― 曰く、このカリア街地区は、かつてミシェル・アリアと呼ばれる知賢の神々が作ったという伝説が残っており、この街に流れる川の水を飲むと頭が良くなると ――


『飲んだら、字読み書き出来るようになるかな』


 そっと川岸に近寄っていけば、川を覗き込んでみる。ボクの顔が映るその川の水を手に掬ってみる。


『案外、澄んでるんだな』


 口に含んで、飲み下す。……味は普通? 強いて言うならば鳥だった頃に父母とよく飲んで居た懐かしい味と言うか……。

 頭が良くなった感じはしないし、よく解らないけれど、再び学校への道に戻るとしよう。





 

『トワイライト? アナタまだ悩んでるノネ』


 薄紫の腰まであろうツインテールに着いている濃紺の和風な飾り紐。紫紺と濃紫を使った胸ぐりの開いたフリル付きのカスタムチャイナ服。まだまだ片言が抜けない彼女は、このマリノス芸術学校の舞台演劇の教師である。

 その彼女の口許から覗く異様に発達した犬歯。所謂"牙"で在ろう。彼女はそう、同盟国インウィーケーディアに棲む吸血鬼だった。


『おや、李先生。いえ、判っていますよ? “あの娘だけ”が、字の読み書きが出来ない訳ではないと。私も重々理解しています』


 憂い気な雰囲気を纏った気怠げな深く濃い隈のある見るからに苦労性な女。耳はやや円型気味にそして常人よりやや小さく。それはまるで鼠のようだった。ボサボサの黒髪は編み上げ団子にして唇はカサカサ。真白いホールネックドレスに灰色のコルセットをしたその女性は先程のカスタムチャイナ服の彼女へと返答しながら重たそうに頭に手をやり首を振った。


『馬鹿ネ。誰も彼もが、アリオンみたいに学問に長けてないのヨ。アナタがアリオン学生じャ無かったら、少しは字が読み書き出来ない子も見れたンでしョうけド』


『貴女は、アリオン学術学園に対する当たりが強いですよ。斯く言う私は、マリノス芸術学園の生徒先生に柔軟に対応出来ていませんが……』


 揶揄う様に李は笑った。話からして、トワイライトと呼ばれている白い鼠の獣人はアリオン学術学園の卒業生らしい。

 自覚が在る故に更に沈んだ白い鼠の獣人。彼女は、マリノス芸術学園の音楽教師を勤める。絶対音感の持ち主であり、尚且つ反面教師である。

 トワイライトの授業について、幾度とマリノス芸術学園の校長とも議論しているが、真面目なアリオン学術学園卒業生であるトワイライトは四角四面な答えしか返せはしなかった。


『マァマァ。誰だって出来ないコトの一つや二つ在るわヨ』


 からからと笑い李は席を立った。


『李先生は本当に短絡的ですね。長年生きると感覚や考え方がガバガバになるんですかね?』


 溜息を吐き羨ましげに李を見上げるトワイライト。席を立った様子を見て時間を確認する。



『トワイライト。アナタ失礼ヨ』


 じとりとその特徴的なアーモンド型の目を半眼にさせると、その場で手をあげ伸びをする。



『……私は思ったことを口にしたまでですよ』


 時間は10時20分。午前の授業が開始される時間の様だ。半眼で見られては肩を竦め、自身の仕事に向き直る。


『ワタシ、アナタのそう言うトコ苦手ネ』


 李はデスク上の台本やカセットテープ、デッキ等をかごに入れて持つと、空いている片手を軽くひらりと揺らして隣の席のトワイライトに『行ってくるワ』と告げた。トワイライトは『はいはい』と軽くあしらうだけだった。


 そうして、片言吸血鬼の舞台演劇教師――(リー) 雪花(シュエファ)は、にこにこしながら編み上げブーツを鳴らし、職員室を後にしていった。



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