絶対王制 アウァーリペリティア 鴉色の暗殺者(メイド)
とある御国が、静かな湖畔を中心に設立されて、早何万年。
退治した筈の吸血鬼達が再び戻ってきて、地下に住処を置き始めて早何千年。
地上にも吸血鬼が蔓延って、人間と対立を始めて早何百年。
吸血鬼から民を守るためと、銀色の十字架を掲げる騎士団と言う組合が出来、平和が戻りつつあるその御国、名を――アウァーリペリティア――と言う。
そんな御国の長である国王が住む王宮に、メイドとして仕える一人の少女。
これは、そんな彼女のメイドになるまでのお噺。
一人の人間の少女は、アウァーリペリティアと言う王国のシアビラン街で産まれた。育ったのは、王宮下街。産まれて歓迎なんてしてくれるモノは居なかった。
少女は、常に何かに欠けていた。大事な何かを欠いていた。
親は既に他界していた。原因は、地下の街に住む吸血鬼達。少女の両親は正義感が強かった。騎士団に属し、戦場で散っていった。
そうして、独り身となった少女は幼少時より得意とした銃の道に歩み始めた。
地下のアッシュムーア街やムアーズライト街には、沢山の吸血鬼が居るのだと教わった。
両親と同じ騎士団に入ろうかとも考えたが少女はそれを辞めた。
「無駄な争いをして、表面上の平和ばかり」
当時の少女はそう思った。少女は、自らの銃の腕を認めてもらいたくて、暗殺にも手を染めた。
少女に足りないのは、一体何だったのか。それは最早少女にすら解らないものとなっていた。
少女は、親を幼くして無くした。そう、吸血鬼によって。然し、少女はその記憶を忘れ去ろうとした。
そして、もう一人の自分を作り上げた。欠けた何かを持てる、完璧な少女を。
名前を変えて、表情を作り、声も一度潰し、あたかも別人として。
常々に高飛車で高慢に振る舞い、幼く弱い心を隠すべく人々に憑け入るように、生きてきた。
少女は、やがて指折りの暗殺者と成った。
少女が殺めた数は、星の数ほどとも言われた。
そして、もう一人の少女を作り上げた。欠けた何かを求める、成長しない少女を。
常々に高飛車で高慢に振る舞い、幼く弱い心を隠すべく人々に憑け入るように、生きてきた。
次第に少女は手に持つモノを、銃や暗器から、ポットやカップ、箒などに変えた。
それでも、非叫と絶叫と銃声と嗤い声の四重奏が、狂詩曲が、頭から離れない。
絶叫と非叫と銃声が、聴きたい。想うが侭に奏でたい。
少女の狂った考えは既に常軌を逸していた。その時の少女の年齢は僅か九つ。
然し、彼女らが棲むのは私達からしたら異世界に違いはない。
少女は幼いながらに、なかなかに鋭い考えと、とち狂った性癖とも言うべきもの持ち備えていたのだ。
やがて、手にしたポットやカップ箒などは、自然と体が行動してくれて楽だった。
"少女"が創りあげた少女が、好きな仕事だったから。
少女は、王宮でメイドを募集していたため雇われの身になったのは、十七の春だった。少女は目を輝かせて、王宮の業務をこなした。
『今日も、掃除日和かしら』
パニエをたっぷりと使用した黒いスカートを揺らしながら外を見上げる。自分が王宮に雇われ早二年。王宮内の人々とは大分打ち解けていた。
身に纏う物はメイド服ではなく、一般的にゴシックロリータと呼ばれる服装だった。紺色の髪の娘は、ふりふりの白いエプロンを付けて、はたきや箒を手に王宮内を回っていた。
王宮に雇われる身であり、住み込ませて貰っているが、其の王宮の主である王に忠誠心など無い。両親を殺した真犯人は、こんな歪な国を造り上げた王家であると思っているから。
そして、自分が好き好んで遣っていることの場を貸して貰っているに過ぎないからだ。
然し、そんな王を心配はしている。最近よく寝てないことや、仕事に追われていることも知っている。
だから、何が出来ると言う訳ではないがメイドとして遣れる限りは遣らないと、存在意義が無くなってしまう。
主が働いているにも拘わらず休暇を貰うなど以ての外だと思うから。
紅茶を淹れて運んだり寝ないと駄目だとダメ出ししたり、一介のメイドにしては些か過ぎる行動だが、それでも王宮で働き続けれるのは……。
なんて考えているが、はっきり言って仕事さえあれば何でもやるのが自分と言う人間なのだと自負している。
正しく言えば、だからこそ自分という人間は暗殺などに手を染めていたのだと……。
そして、それはこの仕事場で何れ役立つから……。密かに芽生えた復讐心の向かう先を知る者は彼女以外に居ない。