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とある御国でのあれやこれ。  作者: やおよろ
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同盟国 インウィーケーディア 蒼色の絵描き

 ボク、学校に行きたい。

 絵を描く学校に行きたい。


 碧色の鳥がさえずる。


――なるほど。君は、蒼い色を使った絵が得意なのだね。私は君の絵が好きだ。


長身で髪の長く耳が尖った男が答える。


――歌も上手……。吾は、良いと思うぞ。


気怠げな青髪の犬耳の女が答える。


――ならば、行かせてやろうか。


男は言う。


――保護者が必要なら、吾が赴こう……。


犬耳の女は言う。



 ほんと! ありがとう――。


鳥は喜び、人になる。






 ボクと沢山の愚民達が数奇に廻り遭うコトとなる……幼き日の追憶。


『できた』


 我ながら完璧である。この濃淡のある蒼い色を美しく使いこなせるのは、このボクが通うマリノス芸術学園では、恐らくボク一人だけだろうと自負している。

 だから、キャンバスを前ににんまり笑ってしまう。


 ボクは、絵を描くのが好きだ。特に好きな色は蒼い色だ。ボクのイメージカラーでもあるから。

 ボクの絵を誉めてくれる人が居る。ボクの絵を認めてくれる人が居る。其れだけで、ボクは嬉しくなる。



 ボクの通う、マリノス芸術学園とは、絵画、音楽、彫刻、舞台演劇などの様々な、芸術部門を扱う或る意味で、専門学校だ。


 学術に劣るも、個性的な芸術に特筆したものが入る学園……ボクの中の認識ではそんな処。

 このマリノス芸術学園が建つインウィーケーディアと言う国のカリア街には、もう一つ学園がある。その学校は、マリノス芸術学園の特化する芸術に反して、学術の学校だと聞いた。

 ボクには関係がないのだけれど。

 まぁ、インウィーケーディアのカリア街はそういった学問の街として栄えている。


 様々な人種が暮らし、共に学び屋にて学びを請う。

 そんな街に越してきたばかりのボクは、碌に家なんて持っていない、マリノス芸術学生。とある人の伝手で……アトリエは在るんだけど。


 家なんて、寝る場所さえあればいいと言う考えなんだよね。


 因みに、ボクの自宅はアトリエ工房ではなく、街路樹の巣。


 アトリエで暮らせばいい……何て言う人も居るけれど、作品は作品でボクたちが汚して善いようなモノじゃないと思うんだ。だから、一緒には暮らせない。人間たちの穢れが着いてしまうかもしれないから。


 それ程に作品は表しようがないくらい、ボクにとっては大切なものなんだ。




 毎日毎日、絵を描き続けると絵の具は減っていくし。創る為の材料も減っていく。

 そうすると、どうしても買いに行かざるを得ない状況になるものだ。愚民から、何かを買うなんて、ボクは未だに慣れない。

 ボクは誇り高き、獣人なのだから。


 仕方無いから次の作品を作成する前に、筆を置いて出掛けるとしよう。あの通りにはボクの好物の葡萄も、絵の具の材料も何でもあるから。ボクはこのあたりじゃ珍しい着物の袖を纏めていた襷を外して、裾を整えた。



 買い物に出るべくボクは、リュックを背負った。

 帯に引っ掛かってリュックが背負え無いと思っている愚民にわかりやすく言うと、ボクの帯は背中に結び目が小さいのだ。

 正しく言うと、小箱結びと言う結び方。


 カリア街南部のブリュワーズ地区25番地4丁目にボクのアトリエはある。


 ボクが向かう商店街が在るのは三つ先の22番地1丁目。長く緩い三つ編みをいつも通り引きずって歩いていく。

 蒼い髪の頭には淡い碧のコマドリの羽根が付いていて、着物とアンマッチだど言われるけれど、ボクの羽根だし気に入っている。



 歩くこと数十分、マリノス芸術学園の予鈴が鳴る。



 待て、ボクは何か忘れている気がする……。大事なことなんだろうけど何だっけ……。

 考えながら歩くこと更に30分。


『あ。……思い出した、今日、学校の日だ』


 思い出せたは良いが、乗り気ではない。ボクは、自らの芸術作品を完成させたいのに……。

 時計を見れば、9時50分。学校が始まるのは10時から、まだ間に合う。


 因みに、今日の学校は自由参加なので出席しなくても何も言われない……と言うか、少々遅れても、居なくても気付かれない。だけど、やっぱりボク的にはなんや言うけど行きたいのが、本音だった。


 結局目的地を学校にした。なので通る道を商店街22番地1丁目から、24番地2丁目に変える。

 22番地1丁目から、マリノス芸術学園まで約40分。対して、24番地2丁目から、マリノス芸術学園までは、約20分で着く。



『はぁあぁ。今から愚民共と肩ならべて、授業とかほんと怠い』


 蒼い髪の三つ編みを引きずりながら、ボクは歩く。

 幸いにもリュックには、キャンパスと筆箱が入っている。

 このまま、学校には行ける。


 深く溜息を吐き、俯き独白のように語りながら歩いていた為、前を見ていなかった……。


 その所為で、誰かとぶつかってしまった。




 ボクは急いでいるのに。


 だからつい、いつもの癖で暴言を吐いてしまった。前を見ていなかったボクも、悪いのだけど。


『ちゃんと前を見ろ愚民っ』


 顔を上げてみれば其処には――。



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