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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第二章 幼年編~②
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2-24

「任せて!アクアパレット!!」


「うわ!危ない!!」



 木々の間から二人に襲い掛かって来た魔物化した狼であるフォレストウルフへ向かって放たれたエリザベス王女の水の弾丸。 しかし、それはフォレストウルフを迎撃しようと駆けだしたアルベルトを巻き込み、更には狼達にはアッサリと躱されると言うお粗末な結果にしかならなかった



「むぅ、思ったようにいかないわね」


「魔法を放つ前に声を掛けるとか、僕の動きを見るとか考えて!」



 エリザベス王女の考えでは自身の魔法で華麗に狼達を斃す事を考えていたようだが、実際には魔法を放つのが早すぎたので素早い動きが売りの狼達に対応する時間を与えてしまっていた


 更に魔法使いである彼女を護る為に前衛で敵を引き付けようとしていたアルベルトの動きもまるで考えておらず非常に危なっかしい物だった



「だって魔法使いってダメージディーラーだって習ったわよ?」


「それは盾役(タンク)がシッカリしてる時の話だよ!」



 エリザベス王女の言う様にパーティ単位での戦闘で魔法使いがダメージディーラーとして敵の体力を削る役目を負う事は良くある話だ。 特に複数の相手と対峙する事が間々ある冒険者たちにとって魔法使いは非常に頼りになる存在であった


 しかし、それはパーティでの役割であって二人しかいない今の現状では必ずしも当て嵌まる物では無い。 アルベルト自身の戦い方が盾役(タンク)の様に相手を受け止めるタイプでは無く、動きで翻弄するタイプという事もあって机の上で学んだ魔法使いの役割では却って彼の動きを邪魔するだけであった



「そんな事言ったって魔法使いなんだから魔法を使うしかないじゃない!」


「魔法を使うなって言ってるんじゃないよ。もう少し連携を考えてって言ってるの!」



 どうにもエリザベス王女は戦いで自分が活躍しなければ気が済まないらしく、自身が放つ魔法で敵を殲滅したがる傾向が強かった。 逆にアルベルトは王女の身を護る為に率先して敵中に飛び込んでいくので先程の様な事がどうしても起こってしまう


 何度も繰り返されたやり取りに普段は温厚なアルベルトも流石に語気が強くなってしまい、これまた何度も繰り返されている言い争いになってしまうのだった



「守られてるだけの魔法使いなんてのは嫌だわ!」


「黙って護られてろ、なんて言ってないでしょ!?。ただ、僕が敵を引き付けてからにしてって言ってるの!」


『ほっほっほ、青春じゃのう』



 青春というには少し早い、只の子供の我儘にしか聞こえないエリザベス王女の主張であったがマーリンにしてみると微笑ましい物を見る感覚なのか一人気楽に笑っていた。


マーリンが余裕を持って笑っているのもフォレストウルフ程度では二人の安全は脅かされないからだ。 数が多いとはいえ、言い合いを続けながらもまた一体アルベルトの剣で斬り伏せられエリザベス王女の魔法が狼達を氷像へと変えてしまう


 実際の処、二人で協力して戦おうとするから危ない目に合っているのだが、アルベルトにしてもエリザベス王女にしてもフォレストウルフの群れくらいならば単独で撃破するだけの実力は持っている



「此処できちんと練習しておかないと、中心に強い奴が居たら危ないでしょ!」


「その時はもっと強力な魔法で倒すわよ!」


「この分からず屋!」


「なによ、頑固者!!」



 口論の末に遠慮の無くなった二人はフンっ!という鼻息も荒くお互いにそっぽを向いて顔を逸らす。

その周りには動かなくなった狼達が意思の消え去った瞳でその姿を見つめており既に動く者はいなかった



『そうじゃの、無理に連携しようとするのでは無くお互いの邪魔にならん様に戦うのが最善かの』


「邪魔にならない様にってどういう事?」


『どういう事も何もそのままの意味じゃよ。 お互いに分担して・・・そうじゃな向かって右の敵はアルが、左の敵は王女が倒せば良いじゃろ』


「でもそれじゃあ・・・」


『アルの言う事は尤もじゃが、(つたな)い連携は却って危ないからの』


「いいわ。どっちが多く敵を倒すか競争よ」


「競争って・・・」


「それで勝った方がボス戦での主導権を握れば良いのよ!」


『ほっほっほ。どうにも王族らしい考えじゃが、まぁこのままよりはマシかもしれんの』



 愛しのアルベルト様♡、とか言っていたのも何処へやら、すっかり勝気な性格と王族としての考え方なのか自然と人の上に立とうとするエリザベス王女の提案で魔力の淀みの中心までお互いに競い合う事になってしまう



「でも・・・」


『アルの優しさは美徳じゃが、それが却って王女を苛立たせておるのじゃよ』


「そうなのかな?女の子の事は良く判らないや」



 連携の強化云々と言いつつもアルベルトの根底には他者を護ろうとする思考が強い。 それがプライドの高い王女を苛立たせている事に気が付いていない事をマーリンに指摘され困惑するアルベルト


 問題は女の子どうこうという事では無く、エリザベス王女自身の考え方の事なので少しズレている事に気が付いていないのがアルベルトらしいと言えるだろう



『まぁプライドの問題もあるからの。他者の考えの尊重もまた大事じゃぞ』


「うん、判った」


「何コソコソやってるのよ。早く先に進むわよ」



 マーリンの声を聴けるのはアルベルトだけであり、普段は皆にも判る様に通訳しているのだが、流石に今の内容をそのまま王女に伝えたらまた怒り出すのは目に見えていた


 その為、傍目にはアルベルトが独り言を言っている様に見えるのだが、しかしそこにマーリンがいる事を知っているエリザベス王女には二人で内緒話をしているようにしか見えなかった



「それじゃあ先に進もう。王女が左側の敵を倒してね」


「判ってるわ。アルベルト様には負けないからね」



 幾分語気を和らげたアルベルトに王女も同様に柔らかくなるが負けん気の強さは変わらない。 それに苦笑いを浮かべながら魔力の淀みに向かって歩を進める二人だった



 ☆△☆△



「これは・・・カイヤちゃん少し拙い事になってるわ」


「拙い事って・・・カリュアー何があったの?」


「魔力の流れがおかしいわ。私が掛けた惑わしの効果以上に付近の魔力を集めてる」



 自らの本体とも言える大樹の元に戻って来たカリュアーはその権能をフルに発揮して森の状態を探る。 その結果自身が惑わしの効果を発揮させるために掛けた魔力を集める効果以上に森が付近の魔力を集めている事を知る



「魔境化したせいじゃねぇのか?」


「それだけじゃ説明が付かないくらい付近の魔力を集めてるわ」


「ん・・・魔物の気配」


「そうね。魔物達も魔力に惹かれて集まったにしては気配が多い・・・」



 魔力が何らかの原因で集まり澱んだそれが中心となって魔境は構成される。 今回、カリュアーの森が魔境化したのはアルベルト達が強力な魔法を連発したのと、惑わしの効果を発揮させるために彼女が魔力を集める効果を森に付与した所為であった


 バイマトが言ったのは魔境化した所為でその効果が増幅されているのではないかと疑ったからなのだが、それで説明が付く以上に魔力を集めており、別の要因が無ければここまでには成らない筈であった


 またその魔力に惹かれて集まったにしては魔物達の数は多く、それこそ中心から離れたこの場所でもその気配は多く感じられるほどだった



「中心に何か居るかも知れないって言うの?」


「それしか考えられないわ。魔物もそいつが生み出した可能性が高い」


「おいおい、魔物を生み出す存在っていったら・・・」


「アルちゃんが危ないわ。カイヤちゃん急いで!」



 魔境化したとはいえ此処はカリュアーの治める森だ。 そこが此処まで制御不能になるという事は考えにくい事である。 当初は中心の淀みさえ打ち払えば魔境化も解消できると考えていたが、余りにも濃い魔力の淀みが中心に何かを生み出した可能性に気が付くカリュアー。


 そいつが魔境と化した森を操り更なる魔力を集めているのならばこの現象の説明が付く。 しかし自身の力で魔物を生み出せる程の魔物となるとその存在は限定される。


 ただ魔力が澱んだ程度であればアルベルトとエリザベス王女ならばなんとかできるだろう。 マーリンだって居るのだから然程慌ててはいなかった彼女も流石に危機感を覚える



「判ったわ。バイマトここからは遠慮しなくていいわよ」


「それは良いが・・・森の事は保障できないぞ?」


「森の事はどうにでもするわ。でも出来れば精霊達の事は気を付けて欲しいけど・・・」



 彼女の危機感を感じ取ったカイヤがバイマトに本気を出す事を許可する。 彼の二つ名を知る彼女は本気をだした彼がどうするのか想像がつくのだろう


 寧ろその許可をカイヤが出した事に不安を覚えるバイマトであったが、カリュアーがその事に対する許可を出す。 森自体は彼女の力で再生出来るのだろうしアルベルトの救出を優先した形だ


 しかし、自身の配下である精霊達の事も気に掛けて欲しい心情もそこには混じっていた



「おし!出来れば(・・・・)で良いんだな。ヴィクトリアも着いてくんだろ?」


「ん・・・当然」


「いや、出来るだけ・・・」


「おらぁ!道を開けろー!」



 出来ればと、出来るだけでは意味がまるで違う。 アルベルトの安全を優先という意味の言葉の綾でそう言ったものの、バイマトの言い回しにはそこを斟酌してくれている様子は無かった


 言い直そうとした彼女の言葉は、しかしバイマトが振るう大剣で薙ぎ払われる木々が上げる悲鳴にかき消されるのであった・・・


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