2-16
「ふふん、やっと私の本領を見せる時がやって来たわね」
「あんまり気負い過ぎないでくださいね」
「もう、アルベルト様ったらもっと気軽に話してくださいな。 私達お友達でしょう?」
「は、はぁ・・・」
いよいよ城壁の改修に取り掛かる事になり張り切るエリザベス王女ではあったが、ここ数日の付き合いでこうなった彼女は碌な事をしないと学んだアルベルトはやんわりと嗜める
しかし、エリザベス王女はアルベルトとの仲を深める事にしか関心が無い様で彼の思惑にはまるで気が付かない様子でお友達作戦を発動させる
『ほっほっほ。まぁ王女のお手並み拝見と行こうかの』
「ん・・・結果待ち」
「ふん、魔法で城壁造りなんて簡単じゃない」
アルベルトに対する時とは言葉使いは違うがエリザベス王女が言う通り、城壁を魔法で創り上げるのは戦時の拠点防衛等で魔法使いに求められる役割だった。
その為の手順や方法も一般化しており後は魔法使いの力量次第で城壁の出来が変わると言っても過言では無いくらいには一般化しているもので彼女の自信あり気な表情からもこれが初めてという訳では無いのだろう
「今回の改修で城壁前の坂を何とかして頂けるとありがたいです」
「あら、守備隊長にしたら護りにくくならないのかしら?」
「まぁカイヤさんの言う通りなんですけど、此処を通る商人達に不評なんですよ。文句を言われるのはいつも私でして・・・」
帝国側からの侵攻を防ぐ為に小高い丘の上に建てられたセイレケ砦は態と城門前に急な坂を造る事でその攻略を難しくしていた。 しかし国境を越えて商売を営む商人達の荷馬車にとっても非常に通りにくい場所になっていたのだ
基本的に彼等は一度の行商でより利益を出す為に荷馬車は常に満載状態だ。 坂を上り切った馬達は体力を使い果たすし、逆に降りる時は事故に注意しなければならない。 その為商人達からは常に改善の願いが出されていたのだった
砦の主将であるカルルク将軍がそんな事に気を廻す筈も無く、結局は守備隊長のサームが苦情を一手に引き受ける事になっており、彼にしてみると砦の防御も大事だったが同時にどうにかしたい問題でもあった
「今回は城壁の改修を行うという事ですから坂に頼らない方法をついでに考えて貰えると・・・」
「だってよ、姫さん責任重大だぜ?」
「貴方はもう少し話し方を考えた方が良くないかしら?」
何故この男はこうも気安く話してくるのかと憤慨ぎみのエリザベス王女。 抑々冒険者であるバイマトにそんな事を求める方が無理ではあったが肝心のアルベルトとの距離が縮まらない為ついイライラしてしまう
「まぁ良いわ、まずは城壁を取り除く事からね。」
「帝国の動きは問題ねぇのか?」
「ん・・・私が見張ってる」
「お、嬢ちゃんはそんな事まで出来る様になったのか」
「ん・・・お任せ♪」
アルベルトの修行の一環として彼の魔力を吸い上げる役割を担っていたヴィクトリア。 結果として豊富な魔力の提供を受けた彼女は眷属や配下のヴァンパイア達を使役する力を増していた。 今回は国境沿いでの偵察活動にそれらを使う事で完璧な警戒態勢を築いたのだった
「どうせ一瞬で終わるのに御大層な事ね。解体」
『ほっ、言うだけの事はあるの。どうもこの姫様は細かい事は苦手でも大規模に運用する分には問題ないようじゃな』
エリザベス王女が唱えた魔法で長年アデル王国を護って来たセイレケ砦の城壁が一瞬で分解される。 マーリンが感心したように広範囲に亘る魔法にも関わらず魔力も澱みなく動き、城壁の基礎に至るまで綺麗サッパリと消し去る
「大地よ!全ての根源たる魔力に従い其の形を形成せよ!!アースウォール」
「お?おおおおッ!?」
揺れる大地にバイマトが思わず声を上げる。 地面に手を突きながら何とか揺れに耐えた彼が見たのは今迄は眼下に在った筈の木々の幹だった
「凄いわ!此処までの速度で大地を操るなんて」
「うん、流石だね」
「へへ~ん、どうよ。これなら帝国軍が来たって問題ないわ」
エリザベス王女の放った魔法自体は土系魔法の基本でもあるアースウォールだ。 本来ならば大地を隆起させて防壁を造り出すだけの魔法だが、彼女は小高い丘を構成していた大地を使ってより高く立派な城壁を生み出していた
「只の土壁じゃないわよ。ちゃんと硬化もしてるから投石器の衝撃にだって耐えれるはずよ」
「ん・・・真っ白」
「そうだね。凄く綺麗な色をしてるね」
いくら立派な城壁だと言っても丘を構成していた土の体積と比べれば少ない。 減った分は硬化処理に費やしたという事だろうが、それだけでは無く見た目の美しさまで気を使ったようだった
『美しくないの・・・』
「え?真っ白で綺麗だよ!?」
『そうでは無い。見た目の美しさでは無くこの城壁には機能美といった物が存在せんのだ』
「またブツブツ言ってる」
「う~ん、なんか駄目みたいだよ?」
「なんで疑問形なのよ!大体、この城壁のどこが駄目なのよ!!」
『永遠に朽ちぬ城壁には程遠い仕上がりじゃ。硬化したと言ってもこれでは駄目駄目じゃな』
「どこが駄目って言うか・・・全体的に駄目駄目みたい?」
「駄目が増えた!?」
エリザベス王女は自信作を貶されたと思ったのか愛しのアルベルトであってもムキになって詰め寄る。 マーリンの呟きはアルベルトにしか聞こえていない上にマーリンが言う事も具体性が無い為、どこが駄目とも指摘し辛い
『ふむ、ただ硬化した一枚の城壁では強度が足りないのだ。強力な魔法で単純に作った城壁ではより強力な魔法には耐え切れない物なのじゃよ』
「えっと・・・なんかコレだと強い魔法に耐えられないみたいだよ」
「魔法対策なら後で障壁を施せば良いじゃない」
城壁だけでは無く物理的な障害物を造る時には魔法対策は別に行うのが一般的な方法であった。 城壁などの場合は後で結界を張る魔道具を設置したり、魔法兵達の集団で魔法障壁を張る等の方法が取られる事が多い
『そう言う事では無いんじゃが・・・まぁ見せた方が早いか。アルちょっと右手を挙げてくれんかの』
「右手?こうでいいのかな?」
『うむ、そのまま・・・メテオ!』
「うわ!マーリンいきなり何するの!!!」
アルベルトの右手から迸ったマーリンの魔力が天空に真っ赤に焼けた隕石を生み出す。 空気が焼ける匂いと共に天空からの自由落下の速度を加えたソレが城壁に突き刺さる
『ほれ!真っ二つに割れてしまっただろう?』
「真っ二つって言うか粉砕されてるよ!」
『まぁこういう物理的な力を生み出す魔法もあるのじゃよ』
マーリンが召喚した隕石が当たった処を中心に完全に崩壊した白亜の城壁。 幸いアルベルトが咄嗟に張った物理障壁のお蔭で周りに被害は無かったが、それが無ければアルベルト達も無事では済まなかったと思える程の威力であった
「な、なな、なんなのよ!今のは何なのよ!?」
「まさか隕石?そんな・・・文献にしか載ってない想像上の魔法じゃなかったの?」
自慢の城壁が壊された事よりも規格外の魔法に狼狽えるエリザベス王女。 冒険者として場数を踏んでいるだけ落ち着いているカイヤは冷静に事態を推測するが、だからと言って伝説級の魔法に驚いていない訳では無い。 寧ろソレを知っているからこその驚きが彼女を襲っていた
「マーリン・・・」
「ほっほっほ?ちと張り切り過ぎたか?』
「隕石なんて僕も初めて見たけど・・・やっぱりマーリンて伝説級の人なんだね」
『いやいや、こんな魔法は初歩の初歩じゃよ。何の捻りも無い召喚魔法じゃからの』
魔導を極めた伝説の賢者マーリンだからこそ言えるセリフではあったが、確かに彼が言う通り隕石を召喚して指定した場所に落とすだけの単純な攻撃魔法ではある
しかし、マーリン以外にそんな事が出来た人物がいないからこそ文献上にしか存在しない魔法である訳で、腰を抜かして座り込んでいるエリザベス王女の反応が一般的であった
『まぁ隕石どうこうはともかくとしてじゃ。硬化だけではこうなるのじゃよ』
「どういう事?」
『硬いだけでは脆くなるのじゃ。内部は柔らかく、そして硬い部分は複数で構成せねばならんのじゃ』
「ああ、剣と同じって事?」
『ほっほっほ、アルは賢いの。ちょっと規模は違うが似たような物じゃな』
エリザベス王女の創り出した城壁は確かに硬度も高く投石機で飛ばされる程度の岩ならば耐え切れただろう。 しかしそれ以上の負荷が掛かった場合は見ての通りの結果になる
優れた剣は粘り強さも必要でただ硬いだけでは容易く折れてしまう。 アルベルトの指摘はその意味では正しかったが、マーリンの言うちょっとでは収まら無いくらい規模が違う話だった
「でもそれって具体的にはどうすれば良いの?」
『いきなりじゃな?少しは自分で考える事も必要じゃぞ?』
「教えてくれないの?・・・う~んヒントだけでも頂戴!」
『ほっほっほ。そうじゃの、魔法というのは万能ではないのじゃよ。古来より伝わるやり方にも理由がある、という事かの』
「昔ながらの方法?」
今回はアルベルトに考えるという事を学ばせるつもりなのか明確な答えを示さないマーリン。 その意図を汲み取ったという訳では無いのだろうが言われた通り素直に考えるアルベルト
「さっきの魔法は何なのよ!!っていうか、ソレ絶対独り言じゃないわね!マーリンって誰なのよ!!」
「あっ!やばっ!!」
「いい加減詳しく教えなさいよ!!」
「ん・・・流石に無理」
正直、エリザベス王女の創り出した城壁でも十分にその役目を果たせるだけの強度は持っていた訳で、流石に伝説級の魔法まで使ってソレを破壊したのはマーリンにしては大人気なかった
エリザベス王女にその存在を隠し通す気があるのならば、もう少しやり方が在ったはずだ。 その上、二人とも腰を抜かした彼女の事をスッカリ忘れて城壁の創り方を相談などしていればバレるのも当然だろう
流石に今迄はなんとか誤魔化し続けていたヴィクトリアも匙を投げるのだった・・・




