2-14
マーリンの言う修行は魔力を使い切ってからの体力造りとバイマトとの実戦形式の模擬戦を繰り返す事でアルベルトの基本的な部分を鍛える事をメインに考えてあった
今日は畑の開墾でゴーレムを操る事で魔力を消費させて再び山登りでもしようかと考えていたのだが、思わぬ来客でそうもいかなくなってしまったのである
「速く詳しい話を聞かせてよ」
「いや、それは僕の方が言いたいですよ。なんでお姫様がこんな田舎に来たんです?」
場所をセイレケ砦に移して詳しい話を聞く事になったものの、エリザベス王女の関心はアルベルトが操っていたゴーレムの事に終始していた。 しかしアルベルトの側も王女の来訪の理由いかんによっては対応が変わる為そんな話は後でも良かったので両者の言い分は交わる事なく平行線のままであった
抑々、国境の最前線であるセイレケ砦には王族を招くに相応しい対応が取れる場所では無い。 食事もマーリンが考案した物のお蔭で劇的に良くなったとはいえ、所詮は兵士達にとっての話で王女様が満足するかは別の話だ。
寝所なども質素な物で士官用の部屋はあるものの、お姫様が寝る様な天蓋付きのベットなど有ろう筈がない。
その為アルベルトにしてみれば、せめて砦の改修が一段落するまではカモーラの街に居て欲しいのが本音であった
「まぁ我々の側にも色々あったんですよ」
「色々?」
「ええ、予想外の事が起きまして・・・」
如何にも話し辛そうに頬を掻きながら宰相のアクセルが事情を話す。 国王と幼馴染とは言っても王族では無い彼だが、この場では王家側として恥部を晒す覚悟で事の興りを説明する
「メネドール様もそうだけど、この国って案外国王様の扱い悪くない?」
「俺もそう思う。これが帝国辺りだったらアルなんて速攻首を刎ねられてるぞ」
「いや、まぁ此方にも色々ありまして・・・」
詳しい事情を聴いたカイヤとバイマトは揃って呆れた顔だ。 国王の娘可愛さの行動もどうかと思うが、それに対する臣下側の行動もあまり褒められたものではない。 バイマトの言う様に皇帝の権力が強い帝国ならば考えられない事だろう
「まぁ、細かい処はともかく陛下の説得はサウスバーグ卿に任せてきましたので、そう簡単に変える訳にもいかないのですよ」
「任せた・・・って、押し付けたの間違いじゃないの?」
「そうとも言いますね」
『ほっほっほ。なかなか言いおるの、コヤツ』
シレッと答えるアクセルの表情に呆れる一同だったが何故かマーリンだけが感心していた
「という訳でほとぼりが冷めるまでで構わないのでここに置いて貰うしかないのですよ」
「私はこのままアルベルト様と居るわ!」
開き直ったアクセルは流石は宰相と言っても良い貫録を滲ませていい笑顔のまま押し切る構えだ。 その勢いにのったエリザベス王女も宣言する様にハッキリと意思を示す
「はぁ~後で文句を言わないで下さいよ」
「カルルクのおっさんに任せとけばイインジャネ?」
渋々了承したアルベルト。 好きな事を言うバイマトに本音ではそれが出来たらどんなに楽だろうと思うアルベルトであった・・・
☆△☆△
「私も負けないんだから・・・えい!」
「わあ!? そんなことしたら駄目ですって!!」
『ふむ、これは予想外じゃったの。宮廷魔術師に認められてこの程度ではお話にならんの』
次の日からアルベルトの修行はマーリンにとっても、そしてアルベルトにとっても予想外の物になってしまう。 魔法神の加護を受け宮廷魔術師長にも認められたというエリザベス王女であったが、兎にも角にも力技で解決しようとするのが常で細かい操作を目指すマーリンの方針とはまるで合わない
今もアルベルトがゴーレム擬きを使って細かい作業を行っている処に割り込んできて大規模な魔法で台無しにした処だった
「ああ・・・畝がグチャグチャになっちゃった」
「だって、この方が早いじゃない」
「初めが肝心なんですよ もうちょっと丁寧にお願い・・・いや出来れば大人しくしてて下さい」
アルベルトが行っていたのは耕した畑に畝を造る作業だった。 態々巨体のゴーレム擬きを操って細かい作業をしていたのは魔力操作を鍛える為だ。 ところがエリザベス王女はそれを土魔法のアップライズドで大雑把に隆起させてしまう
しかも制御が甘かったのかアルベルトが耕した畑は見るも無残に凸凹になっており、これでは種を蒔いても上手く育たない。 ましてやマーリンがやる事だ、当然綿密で計画的な生産を目論んでいたのにこれでは畑毎の収穫量に差が出てしまう
『ふむ、これなら手直しの方が修行に成りそうじゃの』
「うわ!ちょっとそれは勘弁して欲しい」
何も無い処の土をコツコツと盛り上げて畝を造るのよりもグチャグチャに造られた畝を一つ一つ手直ししていく方が骨が折れる上に面倒な作業になるのは当たり前だ
しかし、だからこそ修行に持って来いな訳でマーリンとしては正に危機をチャンスに変える名案だとドヤ顔だが、やらされるアルベルトにしてみればたまったものではない
「ねぇ魔術師長に認められたって言ってたけど、ひょっとして陛下と同じパターンじゃないの?」
『押し付けられたか?だが魔法の才が有るのは間違いないのだがのう』
「でもこれじゃあ周りの被害が大きくなっちゃうよ?」
『ふむ、有り余る魔力で好き勝手に大規模魔法を使う迷惑な者は結構おるからの~』
魔法は効果範囲内であれば敵味方関係なくその効果を受ける事になる。 前方に敵しかいない状態で固定砲台としての役割を担う分には問題ないが、使い方を限定される魔法使いはあまり歓迎されない
ましてや支援攻撃を行う度に味方を巻き込むような魔法使いでは他の兵士達にとっては仲間として認める事すら難しいだろう
しかし、このまま放っておけばエリザベス王女は正しくその典型に成りそうであった。 しかも王族という事もあって誰にも文句が言えない厄介極まりない存在に成る可能性が高いのだ
『ふむ、ここは一つアルに教師役を担ってもらうかの』
「教師?無理だよ。カイヤに任せた方が良くない?」
『素直にいう事を聞けばよいがの』
「マーリンじゃ駄目なの?」
『ほっほっほ。流石に儂の存在を知らせるにはまだ早かろうて』
「う~ん・・・」
『人に教えるのもまた良い修行じゃよ。ものは試しじゃやってみるが良かろうて』
自分以外に任せた方が良いと言うアルベルトに、良い修行だからと捻じ込むマーリン。 国王やエリザベス王女を押し付けた者達と変わらない事をしている自覚が有るのか無いのか・・・
「何ブツブツ言ってるの?」
「ん・・・内緒」
マーリンの存在を知らなければアルベルトがブツブツ独り言を言っている様にしか見えない。 訝しげに問い質すエリザベス王女をヴィクトリアが身体を張って隠そうとする
「出たわね!」
「ん・・・さっきから居た」
「良いから早くどきなさいよ」
「ん・・・考え中、邪魔しちゃ駄目!」
マーリンとアルベルトが押し付け合いの相談をしている傍らで女同士の争いが勃発する
『ほれ、アルよ。早く決めねば被害が大きくなるぞ?』
「うわ!勘弁してよ・・・判ったよ、もう!」
取っ組み合いにまで発展した女同士の争いに渋々教師役を了承するアルベルトであった・・・




