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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第一章 幼年編
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第三話 偏屈な辺境伯

本日三話目の投稿です。前の話からお楽しみください

 深い森の中をともかく歩く。こんな姿に、守護霊として霊体になっているのに歩くというのも不思議なのだが、早く森を抜けてしまわねばアルベルトの生死に係る。


 賢者として子育ての知識すらある儂じゃが当然母乳が出る訳も無く、抑々(そもそも)肉体が有る訳では無いので温めてやる事すらできないのがもどかしい


 いきなり転生させられたのだから地理にも疎い、早く人里を見つけて・・・って、見つけてどうすれば良いのじゃ?まさか玄関脇に置いておく訳にもいかんぞ。う~む孤児院でもあればいいのじゃが・・・


 魔力を通した腕に抱くアルベルトは儂の気も知らずにご機嫌なようで、きゃっきゃと笑っている。状況を理解していないのだからだろうが、この子はきっと大物になるじゃろう・・・と、早くも親バカが顔を覗かせているな


 だが、儂の顔を見て笑う赤子がこんなにも可愛い物だとは研究一筋だった前世では気付けなかった知識じゃ。 ぺチぺチと儂の顔を叩く姿も出会って一週間しか経っていないのに愛おしくてしょうがない



『うん?この子儂が見えているのか?しかも叩くという事は触れる事が出来ている??』



 試しにアルベルトの視線から顔を隠してみる。すると不安そうに泣き出す手前の声を上げるので、再び顔を元に戻すと、きゃっきゃっと笑うのだ



『ふ~む儂の事が見えてるのは間違いないの~。守護霊の姿が見えるなぞ聞いた事が無い』



 アルベルトが儂に触れる事が出来るのならば・・・試しにアルベルトを一度木の根もとに置いた後、腕の魔力を解いた状態で抱き上げてみる・・・って、抱けるではないか!今まで魔力を通していたのが無駄だった訳か・・・



『賢者とはいえ守護霊の知識までは持ち合わせておらんからのう』



 生前の癖で独り言を(こぼ)しながら再び抱き上げたアルベルトと共に森の中を歩む。のんびりしている時間は無いのだ。しかし興味が湧くとどうしても癖で解明しようとしてしまう・・・早く人里を目指さなければ



「ほぎゃーほぎゃー」



『おお、如何したというのじゃ。ベロベロバー。駄目か?いないいないバー。これでも駄目か」



 突然泣き出すアルベルトに思い付く限りの対応を取ってみるが一向に泣き止まないアルベルトに軽くパニックになってしまう。くっそ!やはり知識だけで実践が無いと上手くはいかないのか・・・かつて、国王の要請すら一蹴した賢者の威厳も役には立たない。泣く子には適わないとはまさにこの状態だ



「グルルルゥ」



 更に赤子特有の甘い匂いと泣き声を聞きつけた狼が唸り声を上げながら現れる。まさに泣きっ面に蜂、いや狼か・・・



『ええい!あっちに行け!!ファイヤーボール・・・って駄目か』



 守護霊は守護する対象にしか力を使う事が出来ない。つまり狼などの外敵ですら直接攻撃する事が出来ないのだ



『くっそ女神め!守護しろと言うならもう少し力を・・・ウインドカッター』



 駄目だと判っていても魔法を唱えてしまう。賢者と言ってもこの状態では出来る事はアルベルトを抱いて逃げるしか出来ないのだ



『囲まれたか・・・』



 しかし狼が単独で現れる訳が無い。基本奴らは群れで狩りをするのだ、逃げたつもりでまんまと追い込まれてしまった様だ



『クソ!あの駄女神め!!ファイアーボール!サンダーボルト!!』



 無駄だと判っているのだが、囲まれた状態ではどうしようもない。せめての足掻きで魔法を唱える


 警戒しつつもジリジリと近寄ってくる狼たち。儂の姿が見えてるのか不明だ、見えていれば儂に、見えて無ければ空中に浮かぶ不思議な赤ん坊に警戒しているのだろう


 いよいよ間合いが近くなって、遂に飛び掛かってくる。



『クッ!物理障壁(シールド)!!』



 咄嗟にアルベルトを抱く腕に魔力を込めながら無駄だと判っていながらも魔法を唱え、アルベルトを庇う様に狼に背を向ける



「キャイン!」



 狼の鳴き声に後ろを振り返ると狼が不可視の壁にぶつかって痛そうに鼻を前足で押えていた



『ひょっとして・・・サンダーボルト!』



 まさかと思いつつ腕に魔力を込めアルベルトを通して魔法を発動させると(ほとばし)る稲妻が狼たちの身体に直撃する。


 鳴き声すら上げずに倒れる狼たち、一方再び笑顔に戻ったアルベルトはきゃっきゃと笑っている



『ふむ、原理は良く判らんがアルベルトを通せば魔法が発動するようじゃな。そしてアルベルトは儂の魔力が好きという訳か・・・』



 偶然の産物ではあったが、二つの危機を解決できて少し気が抜ける。思わず腰かけたくなるがそんな事をしている時間は無い。早く森を抜けなければならない、急ぎ歩を進めなければ



『ほう。なかなか立派な道が見えてきたぞ』



 狼たちに追われて方向すら見失ったいたのだが偶然にも街道の様な整備された道に出る事が出来た。霊体の身体は疲れるという事が無いので歩き通しできたが、取敢えずは光明が見えてきたぞ



『どちらに進もうか・・・』



 街道の様子から、人のいる場所に繋がっている事は間違いなさそうだが、どちらへ進むのが正解なのか・・・何日も歩く事になってしまってはアルベルトの腹が持たないだろう。只でさえ食事も無しで此処まで来たのだ。普通の赤ん坊なら火が付いた様に泣いている筈だ



『アルベルトや、どっちに行こうかの?』


「ダァ~」



 偶然だろうが、アルベルトの右手が街道を指さす。



『ふむ。どの道一緒か・・・』



 人里がどちらに有るか判断材料が無い以上、偶然でも良いから従ってみる。この子の運に掛けてみるのも悪くは無いだろう


 そのまま周囲を警戒しつつ歩いて行く。先程の様に狼や魔物に対してもそうだが、人に見られると宙に浮く赤ん坊という怪奇現象に成りかねないのだから警戒しつつ進まねばならないだろう。幸い生前の知識やスキルはそのまま使えるようなので探知スキルや索敵スキルを展開しておく



『おや、人の集団じゃの。上手い事潜り込めれば・・・。アルベルトや静かにしておるのじゃぞ』


「ダァ!」



 街道が少し広くなった処、馬車などを止める為のスペースに豪華な一団が止まっていた。規模や馬車の装飾からそれが貴族の物だと推測できる。馬車に描かれた紋章には見覚えが無かったがそれなりに高位の貴族と思われた



『貴族では望み薄かの?』



 孤児院とかならば玄関脇にでも置いておけば保護してくれる可能性が高い。しかし街道沿いではそのような事も出来ないだろう。後は偶然の捨て子を拾う様な慈悲深い者に期待するしかないのだが、貴族では望み薄と思われた


 生前に散々苦労させられた事で貴族には良い感情を持ってはいない。しかしアルベルトの事を考えればそんな事も言っていられない。此処は一縷の望みに掛けて・・・聞こえるかどうかの距離にアルベルトをそっと横たえる



「ほぎゃーほぎゃー」



 地面に横たえられ視界から儂が消えると、食事もとっていないというのに元気に泣き出すアルベルト。泣いている姿を放置するのは心苦しいが、あの集団に気付いて貰うにはしょうがない。心を鬼にして見守るしかないのだと、自分に言い聞かせ我慢する


 やがて、馬の世話をしていた従者が鳴き声に気付いてアルベルトに近づいてきた。一瞬吃驚した表情がその顔に浮かぶが思わずといった感じで抱き上げてあやし始める



『そうじゃろこの子の可愛さには適わんじゃろ』



 従者の表情に思わず独りごちる。もう親バカ全開である


 やがて従者は、責任者の元へとアルベルトを抱いたまま走っていくと何事かを報告している



「馬鹿者!このような時に厄介事を・・・」


「しかし、放っておく訳にも・・・」


「辺境伯に報告せねばなるまい、しかしどうやって説明した物か・・・」



 厄介事と言われた時には思わず魔法を放ってやろうかと思ったが、まだ我慢じゃ。アルベルトが保護してもらえるかどうかの瀬戸際だからな。しかし顔は覚えたぞ、この野郎!



「閣下。ご報告が」


「なんじゃ?(うるさ)い。雑事は任せると言ってあるじゃろう」



 馬車の扉を開けて顔を出したのは初老と言うにはまだ早い、しかし壮年と言うのは過ぎた顔をした偏屈そうな男だった。閣下と呼ばれるくらいだ、この男が貴族の当主なのだろう・・・



「実はこの先で従者が赤ん坊を見つけまして・・・。恐らくは捨て子だと思われます」


「こんな所で捨て子か・・・」



 どうやら従者が報告した責任者の様な男は執事の様で、当主に対しても普通に報告している



「す、すいません。私が面倒事を・・・」


「ば、馬鹿!余計な事を」


「面倒事じゃと!儂が泣いている赤子を捨て置くような男に見えるのか!!」



 額に青筋を立てながら一喝する貴族に従者と執事は平伏してしまう



「その子は儂が責任を持って保護する。いや跡継ぎにするぞ!!」


「閣下。それはあまりにも・・・」


「なんじゃ不服か?儂が決めた事じゃぞ!ソフィアも喜ぶじゃろうて」



 またかと言う表情で項垂れる執事。喜色を浮かべた従者は後ろの馬車に駆け込むと女性にアルベルトを預けると詳しい話すら聞かず、当たり前だと言わんばかりにポロンと胸をたくし上げるとそのままアルベルトに母乳をあげ始める。母乳が出る女性が同伴していた事は幸いであった。元気よく飲むアルベルトの姿に一安心する。まったくこんなに安堵したのはいつ以来の事じゃったか・・・


 後にアルベルトの義父となるこの男、辺境伯メネドール・サウスバーグ。


 辺境伯という高位にいながら未だ跡継ぎに恵まれていない。貴族の場合一夫多妻が当たり前の世界で正妻ひとりに愛を注ぎ他に妻を娶る事をしなかった。子を為せない妻の体質に家臣からは第二夫人を勧められていたが一切受け入れなかった


 その他にも進言された事は(ことごと)く却下する事で有名で着いた渾名(あだな)が辺境の偏屈伯だ


 しかし貴族としては有能でこの国唯一の隣国と接する領地を他国の侵攻から守り切っており領民からの評判も悪くない。しかし部下からの言葉には反対の事をする事で有名な彼がアルベルトを保護した。しかも跡継ぎ宣言までしたのだ



『大丈夫じゃろうか・・・』



 メネドールの事を知らない儂は思わず(つぶや)く。しかし母乳を元気に飲むアルベルトの姿に思わず顔がほころんでしまうのであった


読んで頂いて有難う御座います

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