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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第一章 幼年編
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第十八話 アルベルトの初陣~⑦

「敵将は目の前だ!全軍突撃!!」



 声を張り上げたサームの声に呼応するようにグッと進軍の速度を上げた帝国兵達が怒涛の進撃を見せる。両脇から迫る騎兵の後ろに乗った兵がアルベルトに向かって弓を引き絞る


 本来は歩兵が城門に到着するまでの間に牽制する為の弓兵を運ぶのが役目であったろう。しかし敵将が前線に出てくると言う予想外の出来事に目標を変えてアルベルトに向かって矢を放つ


 両側から襲来する矢。騎乗した状態だと言うのに正確な軌道を描いて飛んでくる矢はアルベルトに当たる寸前で急に軌道を変えて明後日の方角へと飛んで行ってしまう



『ほっほっほ。気持ちは判るが目の前にも注意するべきじゃな』



 アルベルトを通して魔法を放てるマーリンが風の魔法で矢を逸らしながら帝国兵に忠告する


 (もっと)もマーリンの声が聞こえるのはこの場ではアルベルトだけなのでその忠告はまるで意味を為さない。そのせいで続いてマーリンが生み出した土の壁に足を取られた騎馬は主人を放り投げる格好で転倒してしまう


 後続の騎兵達はその様子に慌てて飛び越えようとするが、息の合った人馬とて咄嗟に障害物を飛び越えるのは難しく、敢え無く落馬してしまう


 壁の向こう側に仲間がいる為、次の騎兵達は壁を飛び越える訳にもいかず騎馬の足を止めるしかなく、馬を下りて歩兵に合流して城門へと向かう列に加わっていく


 しかし一方では騎兵が止められても勢いを緩めない歩兵たちは真っ直ぐにアルベルト達に向かって迫っており、その勢いは少数の兵で止める事など出来ない程になっている


 サームから目を離さないまま、アルベルトが剣を持っていない左手を天へと掲げる



「ん・・・闇よ。かの者達を覆い尽くせ」



 後ろに控えたヴィクトリアがそれに応えるように命じると帝国兵達の中程に生まれた暗黒が彼等の視界を奪い去る。兵達に直接作用させるのでは無く空間を闇に包んだだけでは、魔法を防ぐ魔道具の効果も薄い


 その為、一直線に城門を目指していた帝国兵達の真ん中から後ろの兵達は目の前に生まれた予想外の出来事に足を止めてしまう


 だが先頭を走っていた兵達はそれに気づかず前へ前へと足を進めてしまい、怒涛の勢いだった帝国兵達の進撃は少数の部隊での特攻に成り下がる


 そして坂を上り切った彼等を待ち受けるのは、人外の力を持ったアルベルトと人類の頂点に立っている戦士バイマトと老練の戦士カルルクだ。



「敵将とお見受けします。どうかお覚悟を!」


「そうはいかないよ」



 サームの突進を直接剣を交えて止めたアルベルトは、アッサリとかち上げるようにサームの剣を弾き返してしまう。


 サームとて帝国兵の部隊長である。指揮官先頭を旨とする帝国軍に於いて、その地位まで上がるには幾多の戦いも経てきており実力とて並みの冒険者では歯が立たない程の実力があると自負していた


 しかし目の前の子供は此方の勢いを受け止めただけでなく力を込めて押し込もうとした剣をあっさりと弾いてきた。


 確かにやりにくい部分はあるが戦場で子供だからと手を抜いてやれるような余裕がある筈無い事は十分に理解している。しかし五歳児が総大将と聞いてはいたが無意識に侮っていたかと剣を握り直すサーム


 自らに言い聞かせる様な思考を読まれたのか、目の前の子供の唇がニヤッと弧を描く。


 と思った時にはアルベルトが動いていた。


 一瞬で間合いを詰めたアルベルトが身体をぶつけるように低い姿勢で突っ込み、そのまま本当にぶつけてくると衝撃でサームが後ろに下がらせられる


 この見た目で何処にこんな力が・・・と思うサーム。まさか鎧が重りになっているとは考えもしないし、アルベルトの動きは(おもり)を身に着けている様な動きではない


 一方のアルベルトは正にしてやったりという顔だ。普段からバイマトという実力者と訓練しているので、動きを見ただけで目の前のサームという部隊長の実力を把握出来ていた


 自分が負ける様な相手では無いという自信はあるので緊張はしていない。と、いうよりもサームが自分の力に驚いている様子が楽しくて仕方が無い位だった



『ほっほっほ。アルや、あまり時間を掛けてると後ろが詰まるぞ』


「そうだね。この人はぜひ捕まえたいね」



 戦闘中に浮かべ続けている笑みを更に深くしたアルベルトはサームに向かって語り掛ける



「ねぇねぇ、サームさん。降参しませんか?」


「魅力的なお誘いだが、これでも指揮官なんでね。真っ先に降参する訳にはいかないな。って、なんで俺の名前を・・・」


「そっか~。それじゃあちょっと我慢してくださいね」



 本来m敵将への敬意を忘れないサームだがどうしても見た目に引っ張られて子供に対するような返事をしてしまう。それに対してのアルベルトの言葉の意味を理解する前に、サームの目の前にはアルベルトの姿が飛び込んできた


 そのまま先程と同じ体当たりかと思ったサームは姿勢を低くして耐えようと身構えるが、如何せんアルベルトの身体は小さすぎた


 鳩尾に突き刺さるアルベルトの肘。嗚咽が漏れだすサームの耳に届いたのはアルベルトの無邪気な声・・・



「サニラ!行っくよ~」



 そのままサームを抱えるとヒョイっと門の方へと大の大人を放り投げる。綺麗な放物線を描きながらサームは思うのだった・・・



(世の中戦っちゃいけない相手ってもんがいるんだなぁ~)



 すっかり諦めの境地で飛ばされたサーム。地に投げ出される衝撃を覚悟していたが予想に反して感じたのはボフッとした感触。広げた布で受け止められたのだと気付くのに暫く掛かった


 そのまま布で拘束され頭だけ解放されたサームが見た光景・・・


 手にした剣を振るう事無く縦横無尽に走り回るアルベルトと、こちらに向かって飛んでくる同じ隊長達の姿だった



「なぁ、おたくの総大将。剣を持つ必要あるのか?」


「俺に言われても知らん!こっちが諌めても聞きやしねぇ!!」



 余りにも異様な光景に思わず近くにいた状況も忘れて男に訪ねたサームだったが思ったよりも強い返事に面を喰らってしまう


 応えた男、守備隊長のサニラにしてみると散々注意した上で何とか同行出来たと思っていたら命じられたのは帝国兵の拘束役。


 しかも予想外の方法・・・まさか投げつけて来るとは思っていなかった。何故部下たちが兵舎からシーツを持ち出しているのか判らなかったが、初めに飛んできた男の姿を見た時に理解した


 ついでに自分に内緒で兵達に指示を出していた事にも気付く。折角人が心配してあれやこれや言っていたのにまるで効果が無いばかりか周りの兵達も一緒になって楽しんでいる始末だ


 人がイライラしている処へこの男ときたら下らん事を聞いてきやがって・・・


 ブツブツと何か自分の世界に入ったサニラを見て何処の国にも苦労人はいるものだと昨日までの自分を棚に上げて独りごちるサームは、あまりにも予想外過ぎて正常な思考が働かないのだとスッカリ諦めてしまっていた



 バイマトとカルルクが冒険者達と協力して兵達を受け止める。その間を小柄なアルベルトが移動する度に主だった兵がサニラ達の方へと飛んでいく



『ほれ次はあの男じゃ!』


「判ったよ、マーリン」


【鑑定】を使って実力のある者達や有用なスキルを保持している者達を指示していくマーリンと楽しそうに走り回るアルベルトの姿に帝国兵達の動揺は広がっていく


 マーリンの姿を確認できない彼等からすればアルベルトが的確に自分達の隊長や仲間内でも実力の高い物だけを狙っている様に見えるのだ。頼りにしていた者達から離脱していく現実に何とも言えない感情が渦巻いて行く



「放て!」



 無情にも壁の上から聞こえてくる声。色とりどりの魔法と矢が土で出来た壁の前に並んでいる帝国兵達に降り注ぐ。じっと我慢していたカイヤの声は壁の上だけでは無く帝国兵達の耳にも届く


 やっと暗闇が晴れて追いついた歩兵達は盾を頭上に構えてそれを防ぐ。しかしいつまでも保つ物では無い、サッサと城門まで辿り着かねばならないのに肝心の先頭が進んでくれないのだ


 やがてポツリポツリと後ろから逃げ出していく兵達・・・一人が逃げ出せば周りにいた二人が逃げ出す。やがてそれは大きな波となって全体が後退し始める


 指揮官先頭が伝統の帝国兵達。こういう時に的確な指揮を出すべき人材は後方にはいない



『頃合いじゃな』


「マーリン。悪い顔してるよ?」


『なに、こうも予想通り踊ってくれるとな』


 そう言いながら魔法を放つマーリン。それは一際大きな音と光を出すだけの無害な魔法・・・


 しかしそれを聞いた帝国兵達は追撃を恐れて撤退の勢いを増す。だがマーリンが放った魔法は帝国兵を驚かす為の物では無い


 マーリンの魔法を合図に森から飛び出してきたのは本来砦を守っている筈の王国兵達。一部の弓兵と城門前の100名を除く全兵を使った伏兵がマーリンの合図で帝国兵達に襲い掛かる


 弓が射掛けられ槍が側面から伸びてくる。完全に虚を突かれた兵達に迎撃をしようなどとの考えは浮かばない


 我先に逃げ出す帝国兵達は大した抵抗も出来ずに地に臥していく


 それを乗り越え逃げ出す者達の末路もそう変わらない・・・坂の中腹で倒れるか麓で斃れるかの違いだけだ


 最終的に帝国軍は攻撃に参加した半数を失う・・・


 残りの兵達も傷を負いまともに戦える状態には無かった


 指揮官も失い、糧食や物資も残り少ない・・・兵達の士気も低いこの状態でセイレケ砦を落とす事が出来ない事は誰の目にも明らかだった


 此処に至って帝国軍総指揮官のヨシュア・ダーム侯爵は撤退を選択するしかなかった



「部隊長サームの独断によるこれ以上の被害を防ぐ為に転進を命じる」



 苦し紛れの命令であった。転進といった処で180度進路を変えれば普通は撤退と言うのだ


 しかし彼のプライドはそれを許さない。あくまでも責任はサームに押し付けつつ名目上の進路変更を命じたヨシュア・ダーム侯爵は辛うじて保った誇りを胸に帝都へと凱旋(撤退)していった


 こうしてアルベルトの初陣は多数の捕虜を得て無事に終了するのであった


読んで頂いて有難うございます

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