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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第五章 神国暗躍編
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マーリンの悪戯

『ふぅ、久しぶりに働くと心地良いの』


「マーリン!戻ったんだね!!」


「うむ、夜は戻って来ていたのじゃが、こうして顔を合わせるのは久しぶりじゃな」



 凡そ守護霊らしくないセリフではあったがマーリンがアルベルトとこうして話をするのも久しぶり・・・と言っても二日程の事ではあったが、生まれてからずっと一緒だったのだからそう感じるのも無理はない


 今迄は精々が隣の部屋程度しか離れられなかった二人だが修行の成果なのかそれとも年齢的な事なのか、セイレケの街周辺くらいの距離ならば離れる事が出来るようになっていた



「城壁の向こうにいるのは知ってたけど・・・」


「どうせ良からぬ事をしてたんでしょ?」


『ほっほっほ、酷い言われ様じゃの』


「ん・・・ミンツァーの徒対策?」



 良からぬ事とは確かに酷い言い草では有ったが、実際神国が攻め込んで来れば彼等にとってはそうなるのは間違いないだろう。 


 伝説の賢者(やり過ぎ賢者)がセイレケの街の台所を支える農業用ゴーレムを持ち出してまで大規模な工事を行っていたのだ。 彼がこの時期にそこまでするからには通常の兵士への対策では無く神国の切り札であろうミンツァーの徒への対策に違いない



「でもべスの言う通りであれだけのゴーレムを使役するなんて大変だったんじゃないの?」


『そうでも無いぞ?まぁチョイチョイと改造はしたがの』


「どんな改造か知らないけど、ゴーレムが麦わら帽子を被って作業するなんて聞いたことないわよ!」


「そうだね、ストーンゴーレムがフゥ、って感じで汗を拭ってたもんね」


「ん・・・腰トントンしてた」


『まぁ、どこで見られておるか判らんからの』



 街道を挟んで左右で作業するゴーレム達は腰を伸ばしながらトントン叩いたり、帽子を脱いで汗を拭ったりと、その様子はまるで実際の人がするような仕草をしており遠目にはストーンゴーレムには見えなかった


 実際の国境からセイレケの街までは街道で繋がっている。 以前は国境の砦で入出国の審査を行っていたが、セイレケの街の発展と共に審査は街で行われる事になった


 国内に不審人物が入れないと言う意味では同じだが、マーリンが城壁の外で行った工事は通行している商人達や旅人でも目にする事が出来るので、神国側がそれを知ろうとすれば出来ない事も無い


 実際には国境を超える前からヴァンパイアや影人(シャドウ)達が眼を光らせており諜報員が紛れ込む隙間は無いのだが、マーリンなりに気を回したと言う事だろう



「でも、あんな大っきい人いないからバレバレだったと思うけど・・・」


「ん・・・大丈夫」


「まぁね、どうせアルがやった事になるんでしょ」


「また僕のせいになるの!?」



 セイレケの住人が必ず口にする言葉である「流石は領主様!」。 この街を初めて訪れた者達が一度は聞かされるこの言葉は、住人たちの自慢気な表情と共にそれがセイレケの普通であると驚きと共に受け入れられる


 結果、この街を何度も訪れた事のある者達にはアルベルトの非常識さとして認識されており、且つそれがこの街の日常だと思われていたのだ



「神国もそれくらいは知ってるだろうし今更でしょ?」


「ん・・・問題ない」


「うう・・・風評被害だ」


『ほっほっほ、じゃからこそ儂の工作が露見しないのじゃ。まさに賢者である儂の先見の明じゃな』



 こじつけも甚だしいが、実際アルベルトの常識外れの行動は程度は別として神国だけでは無く各国に知れ渡っている事だ。


 抑々砦でしかなかったセイレケがこれほどの街まで発展している時点で異常なのだから、領主であるアルベルトの名前が知れ渡っていて当然であった


 その為、マーリンが神国対策の工事を大規模に行おうとも、それはセイレケ領主であるアルベルトのいつもの行動であり、抑々彼の事を警戒している神国が改めて工事の内容まで調べようとはしないだろう



「そんなに上手く行くかな~?」


「今更じゃない。どうせ力押しで来るんだから深くなんて考えてないわよ」


「ん・・・おまゆう」


「どういう意味よ!!」



 普段から直感で動くエリザベスに言われるようでは身も蓋もないが、実際に予想される神国の攻めは終末教と同じ力押しだろう


 ミンツァーの徒を使った物量で圧倒し敵を疲弊させ、その後に更に信者達を攻め込ませるのだ。 そこには戦略も戦術も無い。 


 それどころか指揮をしても理解できる訳も無く、前へ進むだけの集団での圧殺しか出来ないのだ。 



「抑々、城壁を越えられると思ってるのかしら?」


『ミンツァーの徒を舐めてはいかんぞ?奴等は儂等の予想を超える動きをするからの』


「ん・・・越えさせない」


「そうだね。ミンツァーの徒さえ何とか出来れば民兵は怖くないからね」



 幾らミンツァーの徒が人の限界を超えた動きをすると言っても普通で考えれば街道を挟むべレス山脈の崖とカリュアーが護る森を抜ける事は出来ない


 だが、だからこそマーリンは念を入れて罠を仕掛けたのだ。 王国への大規模な侵攻ルートはこの街道だけだ。 ここさえ守れば戦いに負ける事は無いし、神国にしてみればここを抜かなければ話にもならない


 決戦の地になるのは間違いないのだからこそマーリンは準備を怠らないのだ。 勿論、彼の教えを受けているアルベルトの方も出来る事は既に手配していた



『まぁゲンカと言う男の事を考えれば神国にも知恵者が居てもおかしくはない。警戒はしておくべきじゃがの』


「うん、そこは父上にもお願いしてあるよ」



 公国側から抜ける山道は既に公国とも協力して兵を配し封鎖してある。 更にはアトラ爺の牧場には騎兵を配置し冒険者たちの協力も得て警戒を厳にしてある


 更にはサウスバーグ領の各地にメネドール率いる領軍三万を手配して神国側からの侵入を警戒しつつセイレケの街への後詰として待機して貰っているのだ



「で?実際の処マーリンさんの仕掛けって何をしてあるの?」


『ほっほっほ、それは内緒じゃ。 細工は流々仕上げを御覧じろって事じゃ』


「まぁ、どうせやり過ぎるんだろうけど・・・」


「ん・・・被害甚大?」


「そうね、地形が変わるのも覚悟しとかないと・・・あれ?寧ろ神国の兵士が可哀想!?」



 終末教との因縁もあってマーリンはミンツァーの徒に容赦する事は決してないだろう。 そして彼の性格を考えればチョットした仕掛けと言いながら地形が変わるほどの仕掛けであっても不思議ではない


 神国の戦いのカギを握る先兵たるミンツァーの徒を呆気なくも完膚無きまでに斃されれば、兵士達は自力でセイレケの街の城壁を破らなければならなくなるのだ


 聖戦を謳って攻め込む以上は退く事など出来ないだろうし指揮官もそれを許す筈もない。 宗教を用いた戦争と言うのは兵士達が生き残る為の努力を神の名の元に放棄するのだ



『フン、卑怯者共に御似合いの末路を用意しておくのは当たり前の事じゃ』


「ミンツァーの徒になったら戻れないんだもんね」


「そっか・・・そうね。可哀想なんて冗談でも言っちゃいけなかった」



 一度、ミンツァーの徒になってしまえば二度と元に戻す手段はない。 マーリンでさえその方法を見つけられなかったのだから不可能と言わざるを得ない


 そしてミンツァーの徒の脅威はその物量であり、その数を揃える為には志願者だけでは到底足りないだろう。 


 かつて公国での戦いにおいて神国は別荘地の村の住民全てをミンツァーの徒にして王子の救出を阻もうとした。


 つまり、強制された、若しくは知らされないままにミンツァーの徒にされた者達が大勢いる筈なのだ


 一方、ミンツァーの後に攻め込んで来る神国の兵士達はどうだろう?


 強制された者もいないとは言えないが、民兵たちの殆どが教えに殉ずるつもりの信者達であろう。 そして再編された帝国の兵士達も避けようと思えば戦いの道から足を洗う選択肢も有った筈だ


 彼等はミンツァーの徒を見てどう思うのだろう? その異常性は見ればすぐに判る、そしてかつては普通の人だった事も同じく判るのだ


 マーリンは言う、自ら進んで兵士になった癖に自分達はミンツァーの徒の犠牲を厭わず攻め込ませ、その後に攻め込み蹂躙だけをする兵士達を卑怯者と呼ぶのはおかしいだろうか?


 だからこそ、ミンツァーの徒の犠牲の後に攻め込んで来る彼等をマーリンは容赦しない


 きっと恐怖と後悔をその身に沁み込ませ、そしてその愚かさを自覚させるつもりだろう



「うん、やっぱり神国、いやザービス教も滅ぼさないとね」


「ん・・・ついで」


「そうね、邪神だか何だか知らないけど私達の新婚生活を邪魔した報いは受けさせないとね」


『ほっほっほ、その意気じゃよ。アポフィスなんぞ儂等の敵じゃない事を教えてやるのじゃ』



 マーリンの言葉の意味を理解し決意を新たにするアルベルト達であった・・・

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