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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
結婚編
176/179

閑話 不器用な男

「や、やっちまった!どうすれば良いウマル?」


「どうすれば良いもなにも先ずは何をやっちまったのか教えて貰えないと・・・」


「バイマトさん、今度は何をやらかしたんです?」


「今度は、ってそれじゃあ俺が毎回やらかしてるみたいじゃねぇか!!サーム、明日の合同訓練で苛めるぞ!?」



 セイレケの街の奥まった路地にヒッソリと開かれる酒場。 知る人ぞ知る隠れ家的な店のカウンターに並ぶ三人の男達。


 セイレケの街を治めるのに必要不可欠な重臣達だが、滅多に客の入る事の無い店内では雇われのマスターがグラスを磨いているだけであり彼等の口調に遠慮は無かった


「え!?ひょっとして重臣なの?いつの間に??」と常々思っているバイマトとサームではあったが、その地位を自覚すれば気軽に酒場で愚痴を漏らすとはいかずバイマトお気に入り、と言うか彼が出資した店に三人で飲む機会が多い


 男にとって酒場でプライベートを話す事はお互いの距離を縮めるのに重要な事だ。 その事が余計に三人の口調を気軽な物にしていた




「い、いや実はカイヤの奴に・・・」


「おお、遂に言ったんですか!!如何でした?」


「そ、それがテンパっちまって・・・」


「はぁ!?いきなり子供を産んでくれ?バイマトさん、いくらなんでも・・・」


「んな事言ったってウマルが「普通のプロポーズじゃ後でチクチク言われますよ」って言うから・・・」


「いや、言葉は普通で良いんですよ?。雰囲気作りとちょっとしたサプライズって言う意味で本当にビックリさせろとは言ってないですよ!?」



 意外と武闘派であったという事が最近発覚したが、それでも元々文官で思慮深いウマルは頼れる存在であり、更に重臣の中で唯一の既婚者となれば二人が相談を持ちかけるの当然であった


 だが、どんなに優れたアドバイスであってもそれを実行する者がヘタレてしまえばどうにもならない訳で・・・



「だってよう、こっちが遠まわしに言っても気が付かねぇしよぅ・・・」


「ああ、カイヤさんってそういう処あるかも知れませんね」



 冷血の二つ名を持つカイヤはA級の冒険者であり魔法使いとしても名を馳せている。 優れた魔法使いと言うのは思慮深く冷静な考え方をする物でカイヤも基本的にはその例に漏れないタイプだ


 その上、自身の出自の事も有るのだろうが警戒心が強く言葉の裏を読む癖が付いているので中々他人を信用する事が無い


 だが、エルフでありながら退屈を嫌い外の世界に憧れ森を飛び出した変わり種の彼女の本質は好奇心旺盛で案外素直な人懐っこい性格をしている。 その為、一度信頼を置いた人間には無警戒でその素直さを存分に発揮してしまう


「まぁ、エルフという事で結婚自体が頭に無いのかも知れませんね」


「だからってよう、「俺の朝飯を作ってくれ」って言ったら「あ、私って朝は食べない主義なの」ってよ。普通気が付くだろ!?」


「まぁ定番のセリフですけど・・・因みにバイマトさんどんな状態で聞いたんですか?」


「んなもん、二人っきりの時に決まってんだろ」


「いや、それ位は判ってますけど・・・」



 サームの聞きたいのはそのセリフをどんなシュチュエーションで言ったのかだ。 只でさえいきなり「俺の子供を産んでくれ!」なんて言葉を吐くバイマトなのだから彼自身に原因がある可能性があるのだ



「うっ、そ、その、部屋に入って・・・」


「部屋に入って?」


「部屋に入って・・・」


「部屋に入って??」


「だから部屋に入ってだよ!!」


「まさか、部屋に入って直ぐじゃないですよね!?前振りも無くいきなり??」


「そ、そうだよ!悪いかよ!!」


「悪いですよ!!それ絶対カイヤさん次の日の朝食だと思ってますよ!!」



 種族の違い、特に長命なエルフである彼女は異種族間の結婚が齎す悲劇を充分に理解している。 バイマトに対する想いは本物であろうが、残される事を思えば一生を添い遂げると言う考えからは遠くなるのは仕方が無いだろう


 ましてや、長い付き合いで、恋人同士にまでになったバイマトの言葉であれば素直に言葉そのままに受け取った可能背が高い


 おそらく、今日こそは!!とテンパったバイマトが雰囲気作りも無く扉を閉める間も惜しむ様に叫ぶ姿がアリアリと浮かぶサームは頭を抱えて呆れるしかなかった



「まぁバイマトですからね。この男案外純情なんですよ?」


「う、うるせぇな!!」


「前の彼女の時だって・・・」


「ば、馬鹿!!それは言わない約束だろ!!」


「良いじゃないですか。ここでは隠し事なしだって言ったのバイマトさんですよ?」


「クククッ・・・自業自得ですね」



 もう何度もここで飲んでいる三人だ。 かつて過去の話を言い澱むサームに言い放った言葉がブーメランとなってバイマトに突き刺さる



「故郷に帰るっていうその子にね、一念発起して言ったセリフが・・・プッ!クスクス」


「思い出してまで笑うんじゃねぇ!!」


「故郷に帰るってトコまで言えなかったヘタレのバイマトさんは黙っててください」


「クッ!この野郎。覚えておけよ!?」



 想いを寄せていたその子が故郷に帰ると言いだし慌てて告白したのだからヘタレと言われても仕方が無いだろう。 だが、王国独自の婚約の習慣を恐れて中々婚約者が出来なかったサームが言うのもどうか?と言う話だ



「それでですね、いよいよ明日出発と言う段になって行ったセリフが「お、俺が護ってやる」だったんですよ」


「ま、まさか?」


「そう、しかも完全武装で言ったもんですから・・・」


「ああ、そうだよ!無事に故郷まで送って行ったよ!!しかもギルドを通さない護衛依頼って事で格安でな!!!」


「あちゃぁ~」



 やけくそで叫ぶバイマトにサームが眼を覆って天を仰ぐ。 哀れ恋に破れた悲哀を隠してA級冒険者が故郷へと帰る想い人を万全の態勢で送り届ける。


 其処だけを聞けば純愛物語にも思えるがバイマト自身は想いを隠したかったわけでも無いし、故郷に帰る彼女にもバイマトの想いを断るほどの理由は無かった。 寧ろウマルはバイマトがきちんと告白していれば彼女も故郷へ帰らなかったと思っている


 ただ単にバイマトのヘタレが原因で想いが伝わらなかっただけの話で有り、有名な冒険者が格安で故郷まで送ってくれると思った彼女に本当の事を言えなかったバイマトが悪いだけだ


 純愛の様な話が只のヘタレ男が主人公では喜劇でしかない。 長年この仕事を続けて慣れているマスターでさえ顔を背けてそそくさと裏へ隠れてしまうのだから余程滑稽だったのだろう



「そ、そんな事よりカイヤの事だよ!!あれ以来マトモに顔を見れねぇんだよ!!」


「いや、そんなお子ちゃまみたいな事言われてましても・・・」


「お子ちゃま言うな!!」



 酔いも手伝ってか口調こそ丁寧なままだがサームの言葉はより辛辣になっていく。 だが、冒険者の引退を考えるほどの年齢の男が真っ赤な顔で好きな相手の顔が見れないと叫ばれても、それこそ顔をマトモに見たくは無いという物だ



「ウマル~どうすれば良いんだよ・・・」


「まぁ、心配はいらないと思いますよ?自分がするかは別ですがバイマトの想いはストレートに伝わったでしょうから」


「そ、そうか!?大丈夫だと思うか?」


「ええ、他の人と違うプロポーズと言う意味では完璧でしょうし、カイヤも他人には話さないと思いますよ」


「いや、それって・・・」



 既に酔いが回り始めているバイマトはウマルの表情の変化に気が付いいてはいない。 確かに他の人とは違うプロポーズではある。 そう言った意味ではあそこの旦那さんは・・・と言った感じで比較される事は無いだろうし、カイヤも「俺の子供を産んでくれ!」がプロポーズの言葉では恥ずかしくて周りの奥様方に話すと言う将来も来ないだろう


 その真意に気が付いたサームであったが、嬉しそうなバイマトの表情に口を噤む。 婚約者がいるとは言え彼だってプロポーズの言葉を贈らなくていい訳では無いのだ。 必死になって考えた言葉に駄目出しされては目も当てられない



「でも、カイヤさん受けてくれますかね?」


「ああ、その点は大丈夫ですよ。 情報は入って来てますから」



 急に酔いが回り始めた様子のバイマトに聞こえない小声でサームが問いかける。 恋人として過ごすのと結婚ではその意味が違う。 ましてや異種族である二人なのだからカイヤが身を引く可能性だって有るのだ


 だが、満面の笑みで大丈夫だと答えるウマルには確信が有った。 情報源は愛する二人の妻なのだからそれも当然だろう 


 ウマルの二人の嫁はカイヤの弟子でもあり、その馴れ初めや結婚生活をを周囲にバラされ憤慨した経緯がある。


 だが、ウマルの嫁がカイヤの弟子で有るという事はカイヤの弟子がウマルの嫁という事でもあるのだ。 情報の流れが逆になっても不思議では無い


 勿論、師匠の秘密ならば弟子として口を噤むだろうが、なにせその師匠自身が嬉々としてバイマトの事を話すしているのだから弟子の口も軽くなるし、増してや慶事ともならば余計に情報を得る事が可能だろう。 



「フフフ、あの時の借りは返さなければいけないですしね・・・」


「ウ、ウマルさん!?」


「ああ、そうそうバイマトに伝言が有ったのを忘れてました」


「んぁ!?」


「まったく、飲み過ぎですよ。大事な話ですから良く聞いてくださいね」


「お、おう。マスター水くりぇ!」



 ウマルに太鼓判?を貰った事で殆ど酔いつぶれていたバイマトだが、真剣なウマルの表情に襲い来る睡魔を退ける様に受け取った水を流し込む



「伝説の勇者とその恋姫の話は知ってますか?」


「んなもん、お伽話で良いなら知らねぇ奴の方が少ねぇだろ?」


「あれですよね、魔王を倒した勇者様がエルフの姫様と結婚する話」


「ええ、実際には魔王じゃなかったみたいですし、ちょっと調べるとそこまで楽しいお話では無いんですけどね」



 伝説として伝わっている話よりもお伽話として有名になってしまった話。 世界の危機に立ち上がった勇者とその一行が艱難辛苦の果てにその脅威を取り除いたお話だ


 伝説では脚色も少なく淡々とその事実のみが記されているのに対し、お伽話は子供が喜ぶような勧善懲悪で最後は恋人であったエルフと結婚してハッピーエンドで終わっている


 子供の頃に一度は聞いた事のある話であると共に、演劇で繰り返し上演される人気のお話だ。 だが、実際には国同士の対立や人間の利己的な行動などに苦しみ、利害の対立から迫害された勇者たちは協力者も無いままにヒッソリとその使命を果たし、またその後の行方も記されてはいない



「セバスさんの話だと伝説の方も若干怪しいみたいですが、アレにマーリンさんも参加してたらしいですよ」


「はぁ!? いや、まぁマーリンさんも伝説の賢者ですけど・・・」


「おい、茶化すつもりなら幾らウマルだって容赦はしねぇぞ?」



 人族の勇者とエルフの姫君の結婚する、お伽話ではそう締めくくれれているが、伝説の方にはその記述は無い。 セバスチャンの話では姫と言うには少々・・・そのお転婆だったらしいのでカイヤに似ていると言っても良いかもしれない


 そこまで聞き取ったバイマトはウマルがそんな話を持ち出して自分達の事を励ますとでも思ったのか、先程まで酔いのまわっていた瞳は怒りで爛々と輝いていた


 そんなバイマトの想いを好ましいと思うウマル。 そこにあるカイヤへの真剣な想いを見出したからだ



「生きてるらしいですよ。二人とも(・・・・)


「は?生きてる?勇者様って人族でしたよね??」


「おいっ!!なんかの秘薬とか魔道具ってオチはねぇんだろうな!?」


「LV100。これが目安だそうですよ」



 例えばメネドール。年齢だけで言えばアルベルトとは祖父と孫と言っても良いだろう。 だが、見た目的には十分に親子に見える。 バイマトもその年齢よりはずっと若く見える


 冒険者の間では有名な話で有るが、LVが上がると身体が頑強になるだけでは無く回復もし易くなるし見た目も若々しくなる



「LV100って・・・」


「でも勇者はその域に達したって事だな?」


「ええ、王立の図書館には勇者の冒険者証が残ってますから間違いないですね」


「でもバイマトさん・・・LVなんて何年も上がってないって言ってたじゃないですか?」


「んなこたぁ関係ねぇ。上げた奴がいる以上は上げる事が出来るんだよ」



 最難関ランクの迷宮を踏破しても微々たる経験値しか得る事が出来ない、バイマトのLVはそう言った域にまで上がっている。 A級冒険者として最高ランクにいるのだから、ほぼ人族の限界と思われていたLVにまだ先が有ると言うのだ



「LV78。きり良く80になんねぇかなって思ってた処だ。いっその事100の方がきりが良いって話しだな」


「いや、そんな簡単に・・・」


「セバスさんも色々聞いてくれるそうですから。きっと何か方法が有る筈ですよ」


「あああ、そうと聞いたら身体を動かしたくなってきた!!アルの奴は帰って来てたよな?」


「いや、バイマトさん。時間!!時間を考えて下さいよ」


「馬鹿!俺と戦える相手ったらアイツくらいしかいねぇだろ?少しでも早く訓練しねぇと駄目なんだよ!!」


「そ、そうじゃなくて・・・」



 とっくに宵の口も過ぎて深夜の入口に差し掛かっている時間だ。 幾らアルベルトが勤勉と言ってもこの時間ならば間違いなく眠りに入っているだろう。 いや、眠りに入っているならまだいいが彼等はまだ新婚なのだ。 ラブラブな3人の邪魔をすると言うのは余りにも無粋だろう


 必死に止めるサームを振り切って酒場を飛び出して行きそうなバイマトをニッコリとした表情で眺めるウマルだった・・・



一応マーリンの仲間たちは様々な形でこの世界に影響を与えたという設定です


本編に登場する事はありませんが、勇者とエルフ姫は深い森の奥でヒッソリと生きていると・・・


マーリンの後継を探していたセバスチャンは次に目覚めるのはその後継が見つかった時と伝えて眠りに入ったので、彼の眼ざめを感知した勇者様から手紙が来たと言う事で理解してください


まぁ、閑話ですからご都合主義と言う事で・・・


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