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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
結婚編
172/179

蜂蜜酒~③

『儂の秘蔵の酒、アレと同じ工程を試してみようかと思う』


「例の古代王国時代の奴?」


『うむ、あの酒の原料は芋や麦、トウモロコシとか大麦の場合もあったかのう?』


「そうなの?それじゃあまるっきり味が変わりそうなんだけど・・・」



 アルコール自体は原材料にある程度の糖度があれば醸造は可能である。 ただ原料の違いで味わいが変わるので別の酒と考えるのが普通であった



『うむ、若干の味わいは変わるが連続蒸溜で酒精を高めるからの、味わいは殆ど変らん』


「連続蒸溜?何回も蒸溜するって事?」


『そうじゃのあの頃は専用の機械もあっての。各醸造所で違う味わいを楽しめたのじゃ』



 セイレケの街で作られている蒸溜酒は単式蒸溜()を使ってジックリ時間を掛けている。 それに対して古代王国時代には連続蒸溜()で効率重視の蒸溜を行う事が主流だったと言う


 それで作った95度以上のグレーンスピリッツに多様なボタニカル(草根木皮)を混ぜて作る事で様々な味わいを付けて単式蒸溜器で再蒸溜する。 醸造所によって秘蔵のレシピや製法が有り豊かな味わいを楽しめたと懐かしそうにマーリンは目を細める



「じゃあ今回は機械から作るの?」


『いや、流石にそれは手間じゃからな。なに単式蒸溜器でも何回か行えば同じ事じゃよ』


「じゃあ、早速やってみようか」


『うむ、魔法も使えば手間は掛からんじゃろ』



 手間は掛かるが複数回、蒸溜を行えば理論的にはグレーンスピリッツを造る事は可能だ。 多少度数が足りないかもしれないが、どの道最終的にはある程度の度数にまで落とさなければならないのだから同じ事だ


 薪を使って加熱するには温度調整に手間も掛かるという事で魔法を使って省きながら、蜂蜜酒を蒸留していく。 蒸溜を重ねる事で濁りが取れ澄み切った、しかしツンと来るような臭いがドンドン強くなってくる。 



『フム、頃合いかの』


「あれだけあったのにこんなに少なくなっちゃうんだね」


『まぁそこは仕方あるまい。それにどうせ余っておるのじゃから問題あるまいて』



 蜂蜜酒に含まれるアルコールは15度程度だ。 それを95%程度まで回数も60回程度は蒸溜しただろうから量が少なくなって当然だ。


 おそらくもう蜂蜜の風味などはスッカリ飛んでいるであろう、それを光に透かしながら何やら思案気なマーリン。 ここからどうやって味付けをしていくのか考えているのだろう



『そうじゃの・・・リンデン、ジュニパーベリー、ホップ、タイム、クローヴ、ポプラ、カモミール、オーク、黒コショウ、オールスパイス、月桂樹の葉、シナモン、ディル、ミント、ブルーベリー、カシス、赤スグリといった処かの?』


「そんなに入れるの?っていうかマーリン、頭の中だけで良く味が想像つくね」


『これでも賢者じゃからな』



 酒は百薬の長と言われる位で適量であればどんな薬よりも効果があると言われるほどだ。 そう言った意味では賢者が酒の知識に詳しくても不思議では無い。 ましてやスラスラと薬草や香草の名前が出てくるのだから確かに賢者らしい


 だが、マーリンの場合その知識は主に自身の欲求の結果だ。 確かに彼の書いた書物で世の中が変わったとまで言われている分野もある。 だがそれも結果として、と言うだけであり彼にその意図があったかどうかは別の話だ


 それが判っているからこそアルベルトも曖昧な笑みを浮かべるだけで答えを発しなかったのだろう



『後はそれに蜂蜜を加えてユックリ蒸溜すれば面白い味になるかも知れんな』


「蜂蜜を足すの?蜂蜜酒から作ってるのに変だね」


『まぁ仕方あるまい。 折角蜂蜜酒から造ったのに蜂蜜の味がせんのではつまらんからの』



 蜂蜜酒に限らず、連続した蒸溜ではアルコール分は高くなる半面、元々の風味はほとんど残らない。 その為、蜂蜜酒の風味を出したいのであれば改めてそれを加えなければならないだろう



『ここからは大詰めじゃから気合を入れていくぞ』


「うん、先ずは材料の用意だね」



 セイレケの街の醸造所には、酒に関してなら殆どの物は準備してある。 しかし流石に各種ハーブや蜂蜜など凡そ酒造りに係りそうもない物までは置いていない


 幸い、香り付けに使う程度であれば市場に行けば手に入る物ばかりだ。 蜂蜜などは贅沢品に入る類いの物だが、それでも今のセイレケであれば問題なく入手できる。


 方向性が決まった事で元気よく返事を返したアルベルトは早速財布を握りしめて駆け出す。 



「ふふ~ん。良い事思い付いちゃった」


『ほっほっほ、それは何よりじゃ』



 どうやら他にも何やら思い付いたのか、その顔は笑顔に包まれマーリンもそれを見て自然と笑顔が零れていたのだった



 ☆△☆△



『先ずは集めた材料をブレンドしていくかの』


「うん、言われた通り袋も買って来たよ」


『では、同じ量を入れて貰えるかの。儂の経験ではこの配合がベストの筈じゃがこればかりは試行錯誤せねばならんかもしれん』



 マーリンの研究室に有った古代王国時代の秘蔵酒も似たようなブレンドが必要らしい。 その経験からか薬草や香草の配合はある程度固まっていた。 だが、マーリン曰く実際に蒸溜してみないとハッキリとは判らないという事であった


 アルベルトは指示された量を計りで調べながら正確に袋に詰めていく。 この辺りの作業はマーリンから教えられている錬金術でなじみ深いので手際良く進めて行く事が出来ていた



『一つはコッチに漬しておいて、もう一つはこの間に入れてしまおう』


「へ~そうやって香り付けするんだね」


『これだけでもかなり味わいが変わるからのう』



 今回は香草の配合だけでは無く香り付けの過程も二通り試行する様であった。 一つは袋ごとグレーンスピリッツに漬け込み直接その香味成分を抽出する 


 もう一つは蒸溜器のパイプの間に設置して、加熱された蒸気が袋の中を通る時に香味成分を抽出するつもりらしい



『儂は蒸気を通すやり方の方が好きじゃったが、まぁ好みの問題もあるからの。 最終的には配合を変えてみるが先ずは同量の香草で試してみるとするか』


「うん、実験みたいで楽しいね」


『まぁ、そうじゃな。錬金術も酒造りも試行錯誤の連続、先達の教えを如何に応用して新しい物を造り出すかが妙であるしの』  



 無から有を作り出す事を主眼とする錬金術と原料を発酵させてアルコールを作り出す酒造りは共通する部分が有るのかも知れない


 魔法で加熱された蒸溜器から立ち上る蒸気がやがてポタポタと新しい酒を生み出す。 通常よりも時間を掛けてユックリと蒸溜されたそれは、小さなショットグラスにまるで雨上がりの滴の様に滴り落ちる


 誰も味わった事の無い新しい酒が生まれる瞬間に立ち会える。 酒を愛する者には至福の時間でもあるだろう。 もう味わう事は出来ないマーリンもその過程を見ているのは楽しいのだろう。 余り酒を好まないアルベルトも何やら出来を楽しみにしているようであった



『こっちの香草を漬け込んだ方も十分じゃろう。 こっちは蒸溜の速度は少し早めに行う方が良い筈じゃ』


「そうなの?風味が飛んじゃいそうだけど・・・」


『本来は丸一日漬け込むのじゃが今回は魔法で加速しておるからの。 その分香味成分が強く抽出されておるから蒸溜の速度は早めの方が良いのじゃよ』



 グレーンスピリッツに直接漬け込んで有る分、蒸気を通しての抽出よりもハッキリとその香りがお酒に移っているので蒸溜の速度は通常と変わらない位が丁度良いとマーリンは語る


 既に賢者と言うよりも職人と言った感じになっているのは仕方が無いだろう。 元々が凝性な上におそらく生前は自身の求める理想の味を追求していたのだろうから杜氏といっても差支えないのかも知れない



『うむ、良い出来じゃな。香りも十分じゃ』


「あんまり蜂蜜の香りはしないんだね」


『ほっほっほ、そこはほれ飲んでみないと判らん程度の方が面白いというものじゃよ』



 ショットグラスから立ち上る香りには蜂蜜酒の甘い香りはあまりしない。 だが折角蒸溜して各種香草などをブレンドしているのに蜂蜜酒と同じでは工夫が無い。


 マーリンが目指したのは後味に仄かに残る甘み。 その為には香草や薬草の香りを如何に引出しつつ、どの程度甘みを残すか・・・



『さて、いよいよ・・・実食!!』


「いや、飲むんだよね?」


『なに雰囲気じゃよ、雰囲気』



 アルベルトには判らないノリで宣言するマーリン。 しかしその勢いにグラスの中身を飲みかけたアルベルトは思わずツッ込んでしまうのであった・・・


古代王国時代のお酒のモデルは「ジン」です・・・が、作中でもありますが製法は本当に秘密にされているのであまり詳しい話は判りません


一応、一般的な話として自分が知っている事をモデルにアレンジしてゴニョゴニョした結果なので正確性は余り無いかも?


そして今回の新しいお酒にも実はモデルがあります。 モデルのお酒については次回の後書きのお楽しみに

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