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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
結婚編
171/179

蜂蜜酒~②

「以上で報告は終りです」


「うん、ありがとう。問題はテンゲン達か~」


「ええ、ですがセバス様の方で何とか出来ると仰られてました」


『ま、まさか!儂のとっておきを出すつもりか!?』


「そっか、なら大丈夫かな」


「ええ、問題は数量ですが・・・」


「まぁ問題ないんじゃない?なにせとっておきなんだし」


「?? では失礼します」



 執務室で報告を受けるアルベルト。 アリーとウマルのお蔭でセイレケの街の運営に問題は無いが、だからと言って報告を受けなくても良い訳では無い。 


 神国との戦いの準備も順調に行われており、そちら方面でも問題は無さそうであった。 唯一の懸念はテンゲン達ドワーフが求める報酬の蒸溜酒の優先権であったが、マーリン秘蔵のお酒の供出でなんとかなりそうであった


 頭の上で絶句しているマーリンの様子に、少しは仕返しが出来そうだとニヤリと笑うアルベルトに少し疑問顔のアリーは、しかし報告書を机に置くと静々と部屋を出て行った



『むぅ、しかしあの酒の価値を考えると・・・』


「飲まないお酒に価値なんかないよ。 寧ろ美味しく飲んでくれる人に渡した方が良いんじゃない?」


『いや、そこは判っておる。 じゃが出すトコに出せば正に天井知らずの値を付ける貴重品じゃぞ?』


「そこまでなの?」


『うむ、儂以外に製法を知る者もおらんじゃろうし、何より通常の手段では材料が揃わんだろうな』



 古代王国時代の、しかも特殊な製法で作る酒となれば再現は不可能に近い。 マーリンの話では当時でも材料を揃えるのに苦労したとの話なので現在ではほぼ再現は無理だろうとの事だった


 過去には遺跡から発掘された物が出回った事もあり、その価値が知られているだけにオークションなどに出せば好事家たちは金を惜しむ事は無いだろう



『どの道、儂はもう味わうことは出来んが何かの時に備えて多少は残すべきじゃろうな』


「う~ん・・・でも今更テンゲン達が納得するかな~」


『なに、研究室にある量までは知らんだろうから何とかなるじゃろ』



 マーリンの言う通り彼のコレクションの数量までドワーフ達に教えた訳では無い。 少しばかり渡す量を減らしてもバレる事は無いだろう。 


 だが、素直な性格のアルベルトにはどうにもドワーフ達を騙している様で若干の罪悪感が残るようだった



「ねぇマーリン。 この蜂蜜酒をどうにか出来ないかな?」


『それは難しいのう。いや、蜂蜜酒を蒸溜する事は可能じゃが・・・』



 発展著しいセイレケの街の領主であり国王の娘と結婚したアルベルトの元には、それこそ各地から飲み切れない量の蜂蜜酒が集まって来ていた


 勿論、それ以外にもお祝いの品は届いているのだが、貴族から見ればそう高価でも無い蜂蜜酒は添え物の様に必ず付属してくるので結構な量になってしまっているのだ


 だが蜂蜜酒は、その原料になる蜂蜜さえ確保できれば醸造するのが難しい酒では無い。 しかもアルコール分が少ないのでドワーフ達に送っても喜ばないだろう



『蒸溜と言うのは酒精を高める為に、それ以外の成分と分ける事じゃからの』


「そっか、そうすると蜂蜜酒の味わいが無くなっちゃうんだね」


『うむ、風味が飛んでしまっては熟成させる意味も無いからの』



 一部果物の香りを残しながら蒸溜する酒もあるが、蜂蜜酒の場合はその風味が殆ど飛んでしまう。 熟成によって香り付けする物も有るが元々の風味にひと手間かける事でより美味しくなるからであって蜂蜜酒の場合はあまり適していない



『ふむ、じゃが元々の蜂蜜酒の楽しみ方の一つにブレンドという物が有る』


「ブレンド?混ぜるって事?」


『うむ、各家庭毎に違う味付けを楽しむと言うのが蜂蜜酒の醍醐味でもあるからの』



 蜂蜜酒の作り方と言うのは実に簡単である。 糖分の高い蜂蜜を発酵に適した濃度まで薄めて放置すれば二週間ほどで出来あがる。 材料の選別や濾過をしたりと多少は手間も掛かるが、大規模な醸造設備が無くても簡単に作れる物だ


 ただ、やはり家庭で作る蜂蜜酒は雑味なども多く出来の悪いエールの様な味わいになる事も多い。 言い方は悪いがそれを誤魔化すのに檸檬等の柑橘系の果物を足したり、敢て原料の蜂蜜を足して甘みを出したりと各家庭ごとに違う味わいを楽しめるお酒だ



「じゃあ、強いお酒を混ぜたら・・・」


『うむ、蒸溜の過程は複雑になるかも知れんが面白いかも知れんの』


「うん、早く試してみようよ」


『ほっほっほ、これは面白くなってきたの』



 単純に出来あがった蜂蜜酒に酒精の高い酒を足しても結局は風味が薄まってしまうだけだ。 そうなると蒸溜の過程で如何に風味を失わない様に混ぜ合わせれば良いのかを考えなければならない


 その事がアルベルトの知的好奇心を擽ったのかキラキラした目で急かす愛弟子を見つめる賢者の瞳もまたキラキラしていたのだった




 ☆△☆△



「マーリン、これじゃあちょっと・・・」


『ふむ、蒸溜のスピードが速すぎたか?』



 蒸溜とは醸造で出来た酒を成分の沸点の違いを利用して酒精を高める方法だ。 アルコール分が蒸発するギリギリの温度で加熱すれば酒精だけを取り出せるが、その分風味は飛んでしまう


 逆にアルコール分だけでは無く水分の沸点近くで加熱すれば風味は増すが度数は中々上がらなくなる訳だ


 この見極めが蒸留酒の味わいを決める一つの要素となる。 しかしそれを見つける為には根気強く何度も試すしかないのだ



「でもマーリン、やっぱり風味を残そうとしたら酒精は高くならないよ?」


『うむ、しかしそれは判ってやっておるのじゃから気にする事は無いぞ』



 二人の目の前には所狭しと並べられたビーカーが並ぶ。 そこに入っているのは試行錯誤の結果で生み出された蜂蜜酒を蒸留したものだった



「こっちは度数は高いけど味はしないね」


『こっちは殆ど只の蜂蜜酒じゃな』


「やっぱり、普通に蒸溜するだけじゃ無理みたいだね」


『うむ、此処からが研究の醍醐味じゃよ』



 数ある試作品は失敗と言って良い。 その出来は二人が求める新しい蜂蜜酒とはとても言えない物であったが、それでも二人の瞳に宿る情熱は欠片も失われていなかった


 寧ろ失敗する事を確認し終っただけ、此処からが本番とでも言うかの如く更にその情熱は高まっていくのであった・・・


蜂蜜酒は本当にお手軽に作る事が可能です


市販の蜂蜜の場合加熱殺菌してあるのでイースト菌などの酵母を足す必要はありますが、高価ですが天然ものであれば水で薄めるだけでアルコール発酵します


自分も造った事がありますが、味はともかく造る事自体は難しいお酒ではありません


そのままだと糖度が高過ぎて酵母が繁殖できない→薄めれば勝手に繁殖(発酵)してくれる。と言う世界で最も古いお酒の一つと言うのも納得でした


但し、日本の場合アルコール分が1%超えるお酒を勝手に作る(厳密に言うと発酵させる)と罰せられますのでご注意を!

自分で楽しむだけでもOUTです。


梅酒など20%以上の度数のお酒に漬け込む場合は特例として認められていますが、原材料を発酵させて新たにアルコール(お酒)を作るなら税金を払え、払わないなら酒税法違反だぞ!って事です


マメ知識ですが、作業工程が危ないからとか食中毒などの衛生面の問題じゃない処が面白いと思うのは自分だけでしょうか?


まぁ、ご家庭でコッソリ飲む分にはバレるかどうかは別の話ですが・・・


え!?自分が作った時? うん、アルコール分1%未満になってましたよ・・・たぶん(^_^;)

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