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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第一章 幼年編
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第十七話 アルベルトの初陣~⑥

出張が長引いたためおくれてしまって申し訳ありません

 トンテンカン、トンテンカンとおおよそ似つかわしくない音が響く帝国軍の陣地で一般の兵達と一緒に作業を進めていた、隊長のサームはセイレケ砦を彼方に眺めながら額に流れる汗を拭う


 緒戦で虎の子の重装騎兵を持ち出しながらあっさりとアルベルトの魔法に打ち破られてしまい、更に本陣に奇襲を受け主だった連隊長たちを討ち取られた帝国軍であったが、迷惑な事に総指揮官のヨシュア・ダーマ侯爵はまだまだやる気に満ち溢れていた


 お蔭でたかが一部隊の隊長でしかなかったサームが全体の指揮を取らねばならない状態に追い込まれ、普段は口喧しい連隊長もいないよりはマシだったかと彼は独りごちるのであった


 しかも輜重隊まで焼き払われ、食料の心配までしなければいけないのだからその仕事量は膨大だ。幸い一般の兵の死傷者が少ないので、命令さえすればいいのだが・・・・



「サーム隊長。その、将軍がお呼びです、至急本陣まで・・・」


「ああ、判ったよ。ご苦労さん」



 本陣の護衛を務める兵が申し訳なさそうにサームに声を掛ける。毎日の恒例と成りつつある、この呼び出しにウンザリするのを押えつつ片手を挙げて兵を労わる。せめてこの呼び出しが無ければ準備ももっと進むだろうにと溜息を吐き出すと護衛の兵士も同感なのか同情を示してくれる



「遅い!呼び出したらすぐに来い!」


「ハッ!申し訳ありませんでした」



 陣幕に入るなり怒鳴るヨシュア・ダーマ侯爵に下手な口答えや言い訳は説教の時間が長くなるだけと、何度目かの呼び出しで学んだサームは素直に謝る



「何時に成ったら砦を攻めるのだ!本陣を移動してから既に三日が立っているのだぞ」


「は!鋭意準備中でございます。もう暫くお待ちください」


「昨日もそう言ったではないか!この喧しい音もいつになったら止まるのだ!」



 只でさえイライラしてる総大将()は木を削り出す音が更に(かん)に障る様で額に青筋を浮かべながら怒鳴り散らす


 怒鳴った所で作業は進まないのだがなぁ、と思いつつ表情には出さずサームは作業の進捗具合を説明する



「現在、騎馬を失った兵を中心に森の中での食料確保、並びに無事だった輜重隊の物資を確認しております」


「それは昨日も聞いた。で、この音は一体何なのだ!」


「砦を攻めるに当たって必要な準備をしている処であります。」



 輜重隊の一部に工兵が混ざっていたのは僥倖だったが、流石に響き渡る音を誤魔化せる訳も無く、一応はボカして伝えてみたものの侯爵から帰って来た答えは予想通りの物だった



「準備?いいか!誇りある帝国騎兵に小賢しい兵器など要らん!!圧倒的な物量で押し切れば寡兵の護る砦など障害にすらならんわ!!!」



 その作戦で散々に打ちのめされたのを忘れてしまったのだろうか?本陣への奇襲の折、すぐに落馬したお蔭で狙われなかっただけの総大将()は唾を飛ばしながら激高する



「勿論でございます。しかし誇りある帝国兵の戦いは馬を失っても続くのです。先の戦いと糧食の代わりに失った騎馬達。今、作成しているのは騎馬を欠いても誇りある戦いを望む兵達の為の武器でございます」


「ムゥ・・・」


「帝国兵は騎馬を失った程度で戦えなくなるなどと言われるのは本意ではありませぬ。例え、困難に遭遇しようともそれを打ち破る事こそ帝国兵の誇りでございます」


「う、うむ・・・」


「是非とも兵達が目指す帝国兵としての誇りある戦いを認めては貰えませんでしょうか?」



 激高している侯爵に落ち着いた声色で諭すように語り掛けるサーム。何よりも誇りを重んじる総大将()に聞こえの良い言葉を並べて押し切ろうとしている


 実際、重装騎兵の半数は戦う事が出来ない。普通の騎兵では弓矢や魔法の餌食になるだろう。さりとて梯子すらない状態で砦を攻めるなど無謀も良い所だ


 しかもこの間の様な魔法を使われては単純な騎兵での正面からの突撃は不可能だ。


 数で優位な兵力を活かした戦いに持ち込む。その為には歩兵での攻城戦が絶対に必要になるとサームは考えていたのだ



「その方の言い分は判った。兵達の帝国兵としての誇りを守りたいと言う思い存分に叶えるが良い」


「ハッ!有り難きお言葉。兵達も喜ぶと思います」



 頭を下げつつなんとか説得できた事を喜ぶサーム。



「しかし、万が一の場合は判っておるな?」



 だが抜け目のない帝国貴族でもある総大将()は自分の責任回避も忘れない。戦いに敗れた時の責任は全てお前が負えと暗に伝えてくる



「・・・勿論でございます。」



 先陣を切るつもりのサームは敗れた時の心配などしていない。その時には自分の命など既に失われているだろうと下げた頭で表情を隠しながら答えるサームだった





 ☆△☆△




 それから更に三日。坂の下に現れた帝国兵の様子に壁の上から眺めるカイヤは斥候からの報告通りの陣形にほくそ笑む



「みんな!作戦通りに配置に付きなさい」



 脳筋のカルルク将軍と巻き込まれた守備隊の隊長サニラがいない為、壁の上の兵達の指揮権はカイヤに任されていた


 門の前方、丁度登り坂の終わる地点にはアルベルトを中心に左右にカルルクとバイマトが陣取る。更に選りすぐりの冒険者や傭兵たちが並び、門前にはサニラ率いる守備隊100名が控える


 当然、この配置にサニラは不満を爆発させたのだがアルベルトの説明に渋々頷いたのであった。・・・が、納得していないのは今も憮然とした表情をしている事からも判るだろう



「情報通りですな殿下」


「斥候役が頑張ってくれたお蔭だね」



 帝国軍の動きは冒険者達から選抜した斥候達が全て報告しており、帝国軍が取るであろう作戦は既に筒抜け状態だ


 帝国軍に紛れ込んで情報を集めた者までいた様で、連隊長(仮)のサームという男の人柄や考え方等様々な情報がアルベルトの元に届けられていた



「サームって奴も帝国兵にしちゃ上出来だがまだまだ考えが甘いみたいだな」



 バイマトの言葉の通り、現場上がりのサームは帝国貴族の様な通り一辺倒な指揮官では無く、現実を見据え柔軟な作戦を取れる優秀な部類と言えるだろう


 しかし、常に大兵力で戦ってきたからか情報の大事さという事にまでは目が行っておらず此方の斥候部隊にはまるで気付いている様子は無かった。




 そんな会話を交わしていると進撃のラッパが高らかに鳴らされる。相変わらずの帝国軍に現場指揮官のサームの顔が歪んでいるのが想像できてしまい、バイマトとアルベルトは思わず苦笑する


 苦労人と聞いている指揮官の顔を想像しつつ、アルベルトは腰の剣を抜く。身に着けた特製の鎧と共に一歩前に進むその足元は重みで沈み込み足跡をしっかりと残す


 常識外れのステータスを持つアルベルトの弱点。それはステータスに身体の成長が付いて行っていない事だ。


 どんなにSTR(筋力)の値が高かろうとも抑々(そもそも)の体重が軽すぎる為その力を充分に発揮できないのだ


 例え100㎏の剣を振り回す力が有ろうとも25㎏程度の体重では剣でなくアルベルトが振り回されてしまう。その為アルベルトの剣は極力軽く、丈夫さよりも切れ味を重視した造りになっている


 しかし相手の攻撃を受け止める為にもある程度の重さは必要になるので、苦肉の策として用意したのがこの(おもり)


 ヴィクトリアのお蔭で跳ね上がったステータスから考えればもはや羽の様な重さとなったそれを身につけたアルベルトは悠然と先頭に立つと、帝国兵達を向えるように両手を開く


 因みにいつもくっ付いているヴィクトリアは、アルベルトの後ろに控えながら怪しく光る瞳で同じく帝国兵達を待ち構えている


 坂の両端を駆け上がってくる騎兵、重装では無く通常の騎馬に二人づつ乗り込み弓矢を構えている。真ん中を通らないのは鉄球対策だろう


 更に坂の真ん中を歩兵たちが武器を手に駆け上がってくる。騎兵よりも若干遅れながら大盾を構えて弓矢や魔法に備えている


 おそらく重装騎兵の鎧から取り外した装甲を使っているのだろう。魔道具も仕込まれている為、壁上からの攻撃には十分に備えていると見せかけ・・・


 後ろに続く梯子や簡易的な投石器を持った歩兵たちを隠すのが狙いだろう。実際、歩兵たちが構える盾で上手く隠しているが、事前の情報収集でバレてしまっていては意味が無い


 しかもアルベルトたちが坂の上で待ち構えているなどとは思いもしなかっただろう。


 両手を広げたアルベルトと、先頭を走るサームの眼が合う


 ニヤリとしたアルベルトと苦虫を噛み潰したようなサーム。しかしサームにとって千載一遇の好機でもある



「チッ嘗めやがって!敵将は目の前だ全軍突撃!!」



 声を張り上げたサームの声に呼応するように進軍の速度を上げ坂を駆け上がる帝国兵


 今、戦いの第二幕が開幕したのであった



読んで頂いて有難うございます

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