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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
結婚編
169/179

私兵隊とアルベルト~②

『揃った様じゃな。 それでは模擬戦を始めるぞ?』


「うん、サームお手柔らかにね」


「ハッ!胸をお借りします」



 武器を装備した私兵隊の前に並ぶのはアルベルトとヴィクトリア、それに三人のマッディ君達だ。 青マッディ君と桃マッディちゃんは魔法使いと回復術士という事で今回の訓練では役に立ちそうも無いので見学だ


 同様にエリザベスも見学組に入っているが彼女の場合は少し理由が違う。 抑々エリザベスの戦い方は魔法の盾と剣に防御を任せてぶっ叩く移動要塞、又は遠距離から大魔法を連発する固定砲台の様な物で対ミンツァーの徒の模擬戦には相応しくないという理由からだ



「でも、マーリン。 模擬戦は良いけど流石に数が少な過ぎて練習にならないんじゃないの?」


『ほっほっほ、心配はいらん。この魔道具を使えば問題は解決じゃ』


「何この魔道具?」


『うむ、【影法師君三号】じゃ』


「影法師君?聞いた事ないんだけど・・・」


『まぁ儂の完全オリジナルじゃからの。世に出得る事は無かったが自信作なのは間違いないぞ?』


「ん・・・怪しい」



 錬金術を極めた賢者でもあるマーリンが創ったと言う魔道具であれば国宝級の価値が在るお宝というのが世間一般の評価だ。 だが、マーリンの素の顔を知れば知るほど疑って掛かるようになってしまうのは致し方ない事であろう



『怪しいとは失礼じゃな。抑々この魔道具は影法師、つまり本人の影を実体化させる目的で開発したのじゃ』


「影を実体化?それって意味あるの?」


『うむ、儂の知り合いがなちょっとステータスが高いからと言って分身とかこれ見よがしに戦闘中に使って自慢しよるのじゃ、それが悔しくてのう』


「別に自慢目的じゃなかったと思うよ、それ・・・」



 マーリンの知り合いと言えばマッディ君達に入れられている様な英雄たちであろう。 そんな彼等の戦闘中であれば分身くらいは普通に使っていたのだろう。 だが、それは戦闘に必要だからであってマーリンに見せ付ける目的では無かっただろうとアルベルトは思う


 大体、それが悔しかったからと言って魔道具で自身の影を操って分身擬きを行おうとするマーリンの考え方の方がおかしいのだ



『まぁ開発秘話は置いておいてじゃ。 これを使えばアル達の魔力なら20や30の影を生み出せるじゃろうて』


「まぁ、それだけいれば訓練にはなりそうだけど・・・」


『なに、心配いらん。使用者の影を具現化するだけの魔道具じゃからな。 ちょっと魔力は使うが影自体には何の力も無いからの』 



 アルベルト達が行っている特訓は強力な個体に対する戦い方だ。 しかしサーム達が相手にするのは集団であり、彼等の真価は集団戦でこそ問われる


 対ミンツァーの徒も同じ事でアルベルト達五人だけを相手取って実力を発揮すると言うのは難しいだろう。それを解消するのが【影法師君三号】なのである


【影法師君三号】で生み出される影達には思考能力は無い。 単純にその装着者の動きをトレースするだけなのだが、同様に思考能力の無いミンツァーの徒を想定した訓練なのだから問題は無い


 そして生み出される数も総数で100~150という事であれば十分と言える。 本番ではもっと多い数が予想されてはいるものの、今回の模擬戦はサームが抱える不安の払拭が目的なのだから然程気にする必要も無いだろう



『それでは、双方準備は良いな・・・では、始め!』


「ん・・・」



 マーリンの合図で最初に飛び出したのはヴィクトリア。 五人の中でも素早さには自信もあるだろうし闇魔法を得意とする彼女にとっては魔道具とはいえ影を使う事にも抵抗は無かった


 ヴィクトリアの跡を追い掛ける様に小柄な影達がその動きをトレースして付いて行く。 勿論ただトレースするだけでは無い、多少のアレンジが加えられる仕様なのか同一の動きでは無く、しかし全体としては波の様にサーム達私兵達へと向かって行く



「僕達も負けてられないよ。行こうマッディ君!」


「「「ま゛!!」」」



 颯爽と突っ込むヴィクトリアに刺激を受けたのかアルベルトも魔道具を発動させると私兵隊に向かって走り出す。 最初に長弓の攻撃が来る事を知っている彼はジグザグに走る事で狙いを逸らそうとする。 本番でミンツァーの徒が同じ動きをするかは疑問であるが、そこは敢て目を瞑る。 ミンツァーの徒を想定しているとはいえ判っているのに引っ掛るつもりは無いのだろう


 マッディ君達もそれぞれが自分に合ったやり方で私兵隊に向かって駆けていく。 素早さに自身がある黒マッディ君はヴィクトリア同様素早さを活かして。 赤マッディ君は王道を好む英雄らしく真正面から突進し、重量級の黄マッディ君は迂回する様に廻りこむ様で全体としては狙いを絞らせない



 魔道具の持ち主であるアルベルト達はともかく、影達には質量は存在しない。 その為走り寄せる彼等からは疾走する音は聞こえない。 だが、その分持ち主たちの素早さを再現した動きは静かなだけに不気味に感じられる



「やる事は一緒だ!弓隊放て!!」



 ヴィクトリアを先頭に音も無く迫る影の軍団に恐れる事も無く指示を飛ばすサーム。 私兵隊の面々も戸惑う事なくその指示に従えるのだから練度は高い。 アルベルトに恩義を感じる元帝国兵達を中心とした普段の訓練の賜物だろう



 だが、ヴィクトリアはその素早さで矢が届く前に危険地帯を走り抜けてしまう。 続くアルベルトは優れた動体視力を発揮してヒラリヒラリと矢を躱すようにして弓隊の攻撃を無かった事にしてしまう



「もう一度だ。 重装歩兵の突撃に合わせて後続を攻撃すれば躱せ無い筈だ」


「サーム!先に突っ込むぞ」


「頼む!敵を混乱させれば十分だ」



 ゴーレム相手の時は有効だった長弓の攻撃を躱された事で敵は勢いそのままに突っ込んでくる。 質量は無いので重装歩兵で受け止める事も可能だろうが、それでは本番で役に立たない。 


 長弓で止められなかった勢いを削ぐために騎兵隊を率いるハサンが横から廻りこむ様にして部隊を引き裂くつもりで突撃していく。 彼も危険を犯すつもりは無いのだろう、スキルを使った突撃(チャージ)では無く、走り抜けるだけに留めるようだった


 尤も、巨大な体躯のデストリア種の軍馬はそれだけで人を吹き飛ばす勢いは十分だった。 ヴィクトリア&黒マッディ君の素早い部隊と赤マッディ君&黄マッディ君の重厚だがやや早さの違う部隊の間を駆け抜ける事で影達の幾つかを消滅させる



「よし、盾突撃(シールドチャージ)!!」


「おお!!」



 ハサンが勢いを分断した、いやその動きが終わる前に号令を掛けたサーム。 重装歩兵たちが雄叫びを上げて気勢を上げきった処で丁度駆け抜ける絶妙なタイミングだ


 そして迸る闘気(オーラ)を推進力に変えた重装歩兵の突撃は先頭を走っていたヴィクトリアの部隊を弾き飛ばす。 



「まっ!!」


「クッ!丁度勢いの弱った処を・・・」



 だが、それを見越していたのか突撃の勢いが弱くなった瞬間に襲い掛かる黒マッディ君の影達に飲み込まれた重装歩兵たち。 勢いよく前に出過ぎた事で後続との距離が開いた処を狙われた格好だ



「まだだ!まだ終わらんぞ!!」



 重装歩兵が飲み込まれたとは言え影達の勢いが弱ったのも間違いない。 そこへ先程の悔しさを晴らすかのように放たれた矢が影達を消滅させていく。 そして後詰めの兵が歩を進め失った壁を再構築していく



『ほっほっほ、中々良い訓練になっておるの』


「そうね~でも見ているだけってのも退屈だわ」


『そうか、お主ならば此処からでも魔力を送る事も出来よう。【影法師君三号】をチャージして貰うかの』


「それは構わないけど・・・アル達の魔力じゃ足りないの?」


『まぁの。三号は改良型じゃから大丈夫じゃと思うのじゃが念のためにの』



 アルベルト達と私兵隊の模擬戦に満足そうに眼を細めるマーリン。 自作の魔道具が十分に効果を発揮しているのもそれに拍車をかけているのだろう


 だが、只見学するだけのエリザベスにしてみればやや退屈する時間の様で少し不満顔であった。 そこでマーリンが彼女にも出来る役割を振ったのだが、アルベルト達も豊富な魔力量を持っているのだからそれでも足りないという事に疑問を呈する


 だが、帰って来た答えはやや不吉な物だった。 確かにマーリンのネーミングセンスはともかく、三号と名前に入っている以上はその前に試作品、若しくは失敗作が有ったという事であろう


 勿論、それを踏まえて三号は改良型とは言っているのだろうがこんな魔道具にそれ程出番が有るとは思えない



「ねぇ、一号と二号はどんな感じだったの?」


『ふむ、一号の時は影に意思を持たせようとしたのじゃが。魔力消費が多すぎてな』



 只の分身では知り合いに自慢できないと考えたマーリンは生み出される影達に自立行動させるつもりであったらしい。 だが、それでは魔法生物を生み出すのと変わらないだけの魔力を必要としてしまい際限なく吸い取られた結果、マーリンですら魔力枯渇を起こしてしまった


 しかも、伝説の賢者である彼がたったの三秒も持たなかったと言うのだからその消費魔力の大きさが判るという物だ



『そこで二号は魔力の吸収を抑える仕様にしてみたのじゃが・・・』


「今度は魔力が足りなかったの?」


『いや、それで済めば良かったのじゃが、召喚された影に乗っ取られそうになっての』


「はぁ!?乗っ取られるって・・・それに召喚って!魔道具で召喚魔法を使うつもりだったの!?」



 先程の説明では【影法師君】は使用者の影を具現化させる魔道具という話であったが、召喚魔法を利用していると言うのならば話は大分変ってくる


 しかも召喚魔法は魔方陣を用いて莫大な魔力と引き換えに異界から何者かを召喚する魔法だ。 それを魔道具程度に押し込めてしまえば暴走の可能性すらあり得る



「ちょっと!流石に危な過ぎるわよ。 大体あの影法師の正体は何なのよ!!」


『フム・・・そう言えば考えとらんかったな。丁度都合のいいのが召喚できたから深く考えなんだが、まぁ異界の何か?じゃろうな』


「何かって・・・」


『だ、大丈夫じゃ。三号では制限も大きく掛けておるし自立思考も諦めたから召還された何者かに力は無い・・・と思う』


「と思う、じゃないわよ!!」



 つまりあの生み出された影達は異界から召喚された何者かであり、魔道具に封じ込められた魔力と使用者の魔力でこの世界に呼び出された者達なのだ


 しかも与える魔力が不足すれば際限なく吸い取るか、乗っ取ってしまう可能性もある危険な者達だ



「青マッディ君!桃マッディちゃん!!」


「「ま゛ぁッ!!」」


『計算では大丈夫な筈なんじゃがのう・・・』



 慌てて魔力を送り込むエリザベスとマッディ君達。 マーリンの魔道具を信用したのが間違いであったのだが、まさかそんな危険な物を使用しているとは思っていなかったのだろう


 そんな三人を横目に見ながら頬をポリポリと掻くマーリンであった・・・


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