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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
結婚編
166/179

セイレケの街と私兵隊

「なんか最近若様の姿が見えねぇんだよな」


「そういえばそうかもな。結婚したばっかりだから街に出てくる暇もねぇってか?」


「ははは、それは確かにあるかもな」



 セイレケの街の城壁の反対側、つまり王国側に面した工事現場で働く作業員たちが休憩がてら交わす会話は最近姿の見せないアルベルト達の事であった


 結婚する前はちょくちょく三人で出歩いている処を見かける事が出来た彼等の敬愛する領主の姿、しかし結婚式以降その姿を見る機会はかなり少なくなっていた。 


 新婚という事もあり屋敷でイチャイチャしてるんだろうと語る男の言葉に、自身の経験も踏まえて男は心配はしていない様子だったが、まさかマーリンが行う特訓が忙しくて街に出る時間が無いとは思ってもみないだろう


 実際、以前とは違い優秀な文官達も揃っておりアルベルトが決済しなければならない書類も少なく街の運営に支障は無いので言い出した男も気のせいかと笑いながら膝を叩く



「でもよう、サームさんとか私兵隊の皆さんの様子を見てると噂も本当の様な気がしねぇか?」


「噂って例の神国が攻めてくるって奴だろ?ないない、神国って坊さん達が治めてるんだろ?帝国が落とせなかったってのに坊さんがセイレケの街を落とせる訳ねぇだろ」


「聞いた話だと私兵隊の皆さんも増員を募集してるって話だからサームさん達もそれで忙しいんだろ」


「そっか、奥様達も護衛しなきゃいけねもんな」


「おらぁ!いつまで休んでやがる!!給金減らすぞ!!!」


「やべぇ!親方に見つかった!!」



 強面の男が大声でドヤし付けると休んでいた男達は手に道具を持ってそそくさと作業に戻っていく。 その中で一部の男達は親方にスッと目配せを送ると現場では無く作業小屋の方へと姿を消してしまうのであった



 ☆△☆△



「街の様子は落ち着いています。報告書はセバス様の方へお渡ししておきます」


「はい、ありがとうございました」



 先程までは如何にも現場で働く作業員の恰好であった男が領主館で恭しく報告をしている相手は今やセイレケの街に欠かす事の出来なくなった女性、高級奴隷のアリーであった。


 身分こそ奴隷のままであったが、実際はウマルと並んでセイレケの街を回す優秀な文官であり、その美貌と相まって元家庭教師の三人と並ぶセイレケの街の重要人物であった



「どうやら上手く行っている様でございますね」


「!?・・・セバスさん吃驚させないで下さい」


「これはこれは、つい癖で・・・」



 そして最近になってそのサポート役に現れたのがアルベルトの執事を自任するセバスチャンであった。 彼がどんな人物か詳しい話は聞かされていないもののアルベルト自身が側に置いている事だし信用の置ける人物なのは間違いないだろうとアリーも受け入れている


 それにウマルやアリーでは知らない裏の仕事を彼が提案してくれる事で色々助かっているのは事実であった。 少々人を驚かせる事を楽しんでいる節があるのが難点ではあったが・・・



「セバスさんの紹介して下さった者達のお蔭で助かってますけど・・・」


「詮索はなさらない方が宜しいかと。表を歩まれるウマル様やアリー様には係るべき筋合いの男達ではありませんので」



 ハッキリ言って今回の事は民衆を騙しその事実を隠す為の裏工作だ。 セイレケの街は神国との戦争の準備に入っている。 国王やメネドールもその事は知っているし当然アルベルトも了承済みの事だ


 だが公国での事やアルベルトの受けた神託は極秘事項であり、表立って戦争の準備を行う訳にはいかなかった


 しかも、今回はアポフィス打倒の為にいずれ来る神国の侵略を受け止めるつもりなのだ。 いつそれが来るとは判っていないがさりとて準備を疎かにも出来ず、だがそれを大っぴらにする訳にもいかない


 セバスチャンが連れてきた男達はその為に各所に潜り込み住民達の不安を取り除くと共に、戦争準備という大規模な行動を少しでも隠蔽する為に雇われた者達であった



「アリー殿、此処なんだが・・・おお、丁度良いセバスさんもいらっしゃいましたか」


「はい、冒険者たちの予算と配置でございますね」


「ええ、そうです、って良く判りましたね」


「執事の嗜みです」



 書類の数字を見ながらノックもせずに部屋に入ってくるウマル。 発展著しいセイレケの街の黎明期を支えてきた二人だ。 今でこそ部下も増えてゆっくりした時間を過ごせるようになったものの、かつてはそれこそノックの時間すらも惜しんで働いていたのだ。 その時の名残からお互いの執務室は勝手に入る事が当たり前になっていた



「冒険者の方の予算は十分に用意してありますが・・・」


「いや、そうなんですが予想よりも危険らしいと増員を頼まれまして」


「ふふふ、奥様にですか?」


「い、いや、私情は挟んでいませんので。ただ・・・」


「アルベルト様のお話を聞く限りはべレス山脈側の危険は排除するべきで御座いますな」


「そうですね。予算はどうにかしますので配置の方はお任せします」



 公国で出会った洗脳された魔物達。 それなりに準備も必要だろうから流石にべレス山脈にいる魔物達を操れるほど簡単な話では無いだろうが、洗脳された魔物達を嗾けてべレス山脈の魔物達をセイレケの街へ向かわせる事は可能かもしれない


 その事に思い立ったマーリンの指示で防壁の準備と共に冒険者達を雇ってその数を減らそうとしていた。 幸いセイレケの街には迷宮目当てで腕自慢の冒険者たちの数も多い。 更にバイマトやカイヤと言った有名どころもいる事で冒険者達は好意的に依頼を受けてくれている


 まぁ、その窓口にウマルが立候補したのは中々家に居付かない第一夫人を街に呼び寄せるという私情を挟んだのは事実であったが、彼女自身も高位の冒険者でありカイヤの弟子でもある。 


 そのため彼女はパーティ内でも参謀役を務めており、数字が苦手な冒険者たちにとっても有り難い存在で取りまとめ役として活躍してくれておりウマルの小さな私情など殆ど無視しても良い範囲であった。


 だが、交渉時に家庭内の序列がやや色濃く出る事でセイレケの街側の出費がやや多くなりがちで、予算を預かるアリーにとっては不満であったが今回は致し方ないだろう



「すまない。守備隊の増員も有るだろうに苦労を掛ける」


「いえ、そちらはサームさん達が上手くやってくれてるので格安でして。問題はテンゲンさん達の造る武器の方で・・・」


「ああ、高名な彼等が作る武器ならば値も張るか」


「それが・・・お金で払えるのでしたら楽なのですが」


「推察するに酒で払えと言われましたか」


「ええ、この先十年の蒸留酒の優先購入権と引き換えと言われまして」


「・・・彼等らしい。だが却って厄介ですね」



 街の防壁の予算、冒険者の手配の他にも予算はドンドン飛んでいく。 守備隊の増員や損耗するであろう武器装備や食料の備蓄などお金はいくらあっても足りない状態であった。 しかしセイレケの街には特産品も多く非常に潤っている為やりくりは何とか出来る


 しかし今回テンゲン達が求めている蒸留酒はセイレケの街でも売れ筋商品でもありその販売は莫大な利益を生む商品だ。 おそらくドワーフ達に優先購入権を与えてしまえば全ての蒸留酒を買い込む事は間違いないだろう


 十年分の顧客の確保と考えるのも手ではあるが、貴族達へのぼったくり販売計画しているアリーにとっては嬉しくない話しで、せめて新規顧客の開拓に使う分とその販売分は確保したいのが本音だ



「よろしければ私が何とか交渉して見ましょうか?」


「しかし・・・」


「いえ、マーリン様の研究室に丁度良い熟成具合の物が有りましてね」



 ニヤリ・・・では無くもっといやらしくニタリといった感じの笑顔で微笑むセバスチャン。 確かにマーリンの研究室に保管されていた酒ならば熟成期間千年を超える古代王国時代の正しく幻の酒だ


 これにドワーフ達が飛び付かない訳も無く、しかもマーリンは霊体で既に酒を飲む事は無くアルベルトも飲酒の習慣が無いので元手いらずの物だった


 ウマルもアリーも優秀な執事の言葉に胸を撫で下ろすが継いで出てきた言葉はやや不安を感じさせるものだった



「まぁ薬効が少々聞き過ぎて睡眠が要らなくなるのが欠点ですが、まぁ増産には適してると思われますので問題は無いでしょう」



 死んだような目で機械の様に槌を振るい続けるドワーフの姿を想像したウマルとアリーはお互いの顔を見合わせ、しかし優秀な文官としてその損益を素早く計算する


 そして二人の出した結論は・・・

 

 恭しく頭を下げてから部屋を出て行く執事の後姿を見送りながら、「聞かなかった事にする」であった・・・


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