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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
結婚編
159/179

特訓~②

「ん・・・朧」


「いやいや、やるもんだ」


「ん・・・じい様凄い」



 黒魔法を身に纏って自らの身体を霞ませるヴィクトリア。 その状態での連撃が「ズダダダッ」とでも聞こえてきそうな勢いで打ち込まれるが、祖父であるブラドはその全てを掌で受け止め軽く流してしまう



「一人でここまで覚えたのなら大したものだよ」


「ん・・・一人じゃない」


「ま゛っ」



 基礎の部分は外にいる時に教本で覚えたと言うヴィクトリアだが、それを更に昇華させたのは黒マッディ君の指導と彼女の努力だ



「うんうん、此処まで戦えるならヴァンパイアの技術を覚えれば完璧になるね」


「ん・・・消えた?」


「はい、これで一本だね」



 感心したようなブラドの態度に一瞬の隙を見つけたヴィクトリアは容赦なくそこに打ち込む。 祖父との力量の差を実感しているからこその一撃だが、それでも真面に入れば無事では済まなかっただろう


 だが、正にその拳がブラドを捉えたと思った瞬間、その身体はすうっと消えてしまう。 そしてヴィクトリアの後方に現れたブラドはヴィクトリアの頭をポカリと叩く



「ん・・・どういう事?」


「うん、一言で言えば身体を魔素に変えて移動したって事だね。 ただ、実際は禹歩っていう独特の歩法も混ぜてるよ」


「・・・うほ?」


「禹歩ってのは、呪術的な要素を含む歩法で独特のリズムを刻む事で幻影を生み出したり、魔術的な効果を生み出す事が出来るんだよ」


「ん・・・叡智?」


「いや、これはヴァンパイアの叡智って言うよりは僕個人の技術かな?今では使う者もいないけど、昔はそこそこ有名な歩法だったんだよ?」



 一連の流れはヴァンパイアの特性とブラド自身の技術による複合技であった。 身体を魔素に変えての移動自体は里でゴドルフィンがアルベルトとの模擬戦で披露している。 彼の使った技は身体を黒い霧に変える物であったが、その技術をより洗練させた物が先程ブラドが使ったものだろう


 アルベルトは白帝に魔力を纏う事でその魔力を削り取ってその回避方法を破ったが、禹歩で幻影を混ぜられてはそれも困難になるだろう



「ヴァンパイアってのは半ば精神生命体って言ってもいい位に物質界からの解脱を可能としているんだ。 それを如何に戦闘に生かすかってのがヴィクトリアの課題って事だね」


「ん・・・難しい」



 自身が精神生命体に近いと言われても流石にピンとこないのかヴィクトリアは少し考え込む様に俯く。 実際には身体を構成する因子を自在に変えれるという事さえ理解すればいいのだが、長年自分の身体という物を認識していた以上、いきなり自在にその全てを魔素に変えられると言われても割り切って考えるのは難しいかもしれない


 ブラド自身が進化に際して願ったのは身体を構成する物質を自在に魔力で生成出来る様に様にする事だ。 始祖の一族が持つ強靭な肉体もその不老もそこに因する


 身体の全てを魔素に変える事が出来るという事は、肉体が無くともブラドという個人は失われない。 そう言った意味で彼は自分達を精神生命体と呼んだのだ


 不完全とはいえ、不死の王(ノーライフキング)と言われるリッチなどは幽星体(アストラルボディ)を別次元に持つだけの話で死なないだけでその肉体はあくまでもこの世の理に準拠する


 今のヴィクトリアに必要なのはその理を理解し、それを越えたヴァンパイアの身体を理解する事だ。始祖の一族たる彼女であれば望めばどのようにでも肉体を変える事が出来るのだ



「まぁ、習うよりも慣れろだね。 徹底的に肉体を破壊すれば自ずと理解できるよ?」


「じいさま!無茶!!」


「うん、大丈夫アルベルト君が傍に居るから魔力が切れる事は無いからね。 ああ、でも身体の中で魔力を魔素に分解できないと危ないから気を付けてね」



 ニッコリと笑みを浮かべて拳を握りしめるブラド。 流石のヴィクトリアもその笑顔に背筋が冷えるが、だからと言ってそのまま祖父の言われるままに身体を破壊されるつもりは無い


 咄嗟に距離を取る様に後方へと飛び退部るが、見慣れた祖父の顔は離れる事無く目の前に存在した



「ん・・・暗黒拳流麗乱舞!!」


「はっはっは、そんなんじゃ打ち落とせないよ?」



 再び「ズダダダッ」とでも聞こえそうな打ち合いが繰り広げられるが、今度はヴィクトリアの方が受けに回っており必死になって祖父と距離を取ろうとしていた


その表情も先程とは違って鬼気迫る物があり、更にその余波で土煙までもが朦々と立ち上っていた



「ふふ~ん。あっちは苦労してるみたいね」


「ぅま゛!!」


『ほっほっほ。油断しておると痛い目を見るぞ?』



 一方のエリザベスは青マッディ君とマーリンからの魔法の連打を自身の魔法の盾で撃ち落としていく。 威力を落とす代わりの連射性を重視した二人の魔法は彼女の盾を砕く事では無く封じる事が目的だ



『赤マッディ君!出番じゃ』


「ま゛っ!」


「ちょ、ちょっと!ず、狡いわよ!!」



 そこに赤マッディ君が大盾を捨てて大剣を振りかぶって斬り込む。 いつもは魔法の盾に任せている防御を自身で行わなければならない状況に追い込まれたエリザベスは必死に愛用のメイスを振り上げ赤マッディ君の攻撃を打ち返す


 だが、赤マッディ君にはマーリンの友である英雄の戦闘データーが入力されているのだ。 咄嗟に出たエリザベスの攻撃など苦にもしない。 寧ろ打ち返された勢いを利用して身体を回すと、そのまま遠心力を付けて先程よりも威力の増した攻撃を繰り出す



「舐めんじゃないわよ!!」


「まあ゛ッ!?」



 だが、エリザベスも同様にメイスを振り上げ、それを更に打ち返すように自身に強化魔法を掛けて対抗する


「ガキンッ!!」という甲高さと衝撃を混ぜ込んだような金属音が響き、更に青マッディ君とマーリンの放つ魔法がそれを彩る様に爆発音を奏でる



「なんか二人とも派手だよね。それに引き替え・・・」


「まっ!!まぁまま、ま゛っ!!!」


「う、い、いや判ってるって。足捌き完全に狂ってたんだね」



 新妻達が派手に衝撃波と戦闘音を奏でるのを他所にアルベルトは訓練場の片隅で足捌きの確認と黄マッディ君の添削を受けていた


 バイマトに追い付こうとした結果だったのか、アルベルトはステータスだけでその速さを補おうとしていたのだろう。 以前に教わった足捌きの基本がまるで崩れていた


 その為、ゆっくりとした動作で一つ一つ足捌きを確認しており、その作業は二人に比べて非常に地味だった



「ま゛ぁ!!」


「うわ、ごめん。また踵から地面に着いちゃった?」



 黄マッデイ君の教えは踵で踏切り、指先、特に親指の付け根で地面に着く事を主眼としていた。 そうする事で踏み込んだ勢いを殺す事無く次の動きへと繋げる事が出来るのだ



「う~ん、こうやってユックリ動くと筋肉の動きが良く判るね」


「ま!!」


 踵から接地して指先で大地を蹴ると言うのは一見すると踏み出しが強くなったように感じて、強く剣を振るおうとすれば無意識にその動きを取ってしまう


 だが、連続した動きの中では踵で接地すると言う事は、大地からの反発で前に進む動きを阻んでしまう。 親指の付け根で接地するのは不安定に感じる上に踏み込みを弱くすると思われがちだが、実際にはその不安定さが良いのだ。 


 支える強さが無いからこそ勢いを殺す事無く重心が前へと進む、そしてその力に親指での踏込を乗せれば一歩毎に進む力は増す。それが黄マッディ君が教える足捌きの基本であった


 それを確認しながらアルベルトは自身の身体の動きを一つ一つ確認していく。 これを素早く且つ正確に行う事が出来れば、元々アルベルトのAGIはバイマトよりも高いのだから追い付かない筈が無い


 今は崩れた基礎を固める時と判ってはいるが、どうにもその動きはやはり地味だった



「ねぇ、黄マッディ君。戦いながらでもさ確認できると思うんだけど?」


「ま゛!」



 教官役の黄マッディ君はしかしフルフルと首を振るとアルベルトの意見を却下する。 そしてそのままジャンプするとアルベルトの肩の上に降り立つと器用にバランスを取って腕を組む



「ちょ!お、重いよ。黄マッディ君、ごめんって。文句言わないから降りてよ」


「ま!まっまままぁ!!」


「はぁ、状態がブレてるって言うんでしょ。判ったよ、頑張るよ」



 すっかりマッディ語を理解しているアルベルトはその言い付けのままにユックリとした動作で足捌きを一つ一つ確認していく


 その姿は如何にも地味で、差し入れという名目でカルルクの授業を抜け出してきたに来たバイマトに一頻り笑われるのであった・・・

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