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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
結婚編
150/179

ヴィクトリアの嫁入り

 

「もう!またそれ!?」


「ふっふっふ。婿殿相手の嫌がる事をするのは定石ですぞ?」



 アルベルトの振るった黒帝を身体を霧にして躱したゴドルフィンは嫌らしく笑うと、そのまま再び人型を取る



「段々判って来てるのに!」


『ほっほっほ、もう少し魔力の流れを感じる事じゃな』



 目の前に居るのにそうと感じさせない程に気配を消したり、実体が無いのに気配だけを感じさせたりする彼の技能に関しては殆ど対応してみせたアルベルトだが、攻撃が入ったと感じた瞬間にその身体を霧にして逃げ出してしまうのだけは何度やっても引っ掛ってしまう


 もっとも、この姿で回避したゴドルフィンもそこから攻撃を繰り出せる訳では無い様なので、本人が言う通り嫌がらせの域を出ない。 だからこそアルベルトもイライラするのだが、だからと言って攻撃や防御が疎かにならない辺りは戦士として一流に育ったのだろう



「魔力、って事はアレってやっぱり魔法なのかな?ていっ!」


「おっとっと、不意打ちとは小癪な」



 考え込むふりからの抜き打ちの剣は、しかし余裕の表情のままスッテプバックで躱される。 しかしそんな事は織り込み済みでそのままもう一歩踏み込んだアルベルトは斜め上に振り切った剣をそのまま袈裟懸けに振り下ろすと、真っ直ぐに跳ね上げ、そこから突き込んで逃げるゴドルフィンを追い掛ける


 袈裟懸けをスェーで躱したゴドルフィンは、伸びきった身体に更に間合いを詰められてからの突き込みを、ふわりと浮きあがる事でアッサリといなす。 みれば身体を霧に変えるのではなくその背には真っ黒な蝙蝠の羽が生えておりそれを使って飛んでみせた



「そんな事も出来るの?」


「はい、寧ろこちらの方がヴァンパイアらしいかと」


「むぅ・・・それもやっぱり魔力が関係してるんだね」


『ほっほっほ、そればかりではないがの。 要は相手の動きをよく観察する事じゃよ』



 ヴァンパイアらしさ、とゴドルフィンは言うがこの結界の中から彼等が出る事は殆ど無い。 その為、世に一般的に言われるのは始祖が編み出した理を越える方法を真似た邪法を以って生み出された吸血鬼達であって、ヴァンパイア達とは違う種族だ。 だが、その違いを理解している物は少なく吸血鬼とヴァンパイアを混同している者は多かった。 


 ゴドルフィンは敢てその吸血鬼達の姿を真似てみたという事だろうが、態々自分達を貶める様な行為をする彼は中々に皮肉屋なのかも知れない



「アルベルト様、精が出ますの」


「あっヴラド様。 すいませんこんな格好で」


「いやいや、お気に為さらず。引き止めてるのは此方ですからな」



 アルベルトとゴドルフィンの模擬戦を目を細めて眺めながら入ってきたブラド。 その口調は長い年月を生きているだけあって年寄り臭いが、その姿は始祖となった時から変わっておらず非常にアンバランスであった


 だが、そのにこやかな表情は孫娘の結婚相手として、そして自ら率いる種族の導き手としてアルベルトを認めている事を示している。 だが、何処か申し訳なさそうな表情も混じっているのは、この里にアルベルトを引き留めている負い目からであった



「ヴィクの準備は進んでいますか?」


「うむ、そこは問題ないのですがな、何分久しぶりの帰郷で、更に結婚式という言葉に侍女達が盛り上がってましてな」


「あははは、そうですね。ナルさんとか気合十分って感じでしたよね」



 そう、結婚の挨拶がすんでもアルベルトがヴァンパイアの里に未だ留まっているのはヴィクトリアの準備が整うのを待っていたのだった


 彼女が伝説に従ってこの里を出たのが何時なのかをアルベルトは聞いていない。 彼女の年齢が自分よりも遥かに上なのもアルベルトは判っているが、それを聞くとヴィクトリアが悲しそうな顔をするのでアルベルトはそこに触れない様にしている


 だが、長命種であろうことは間違いの無い彼女がアルベルトの成長に合わせて自身の姿を変えてくれているのは彼も把握している。 


 その為、彼女が里を出た時よりも大人びた姿になっているのだ。 里の侍女たちはその成長に合わせた服を仕立て上げるのに夢中になっているのだ。 


 そこには、伝説に従って単身、人身御供の様に押し出してしまった罪悪感と成長した姿をみた喜びが混ざった複雑な感情があった。 



「我らには持参金として出せる物も少ないからの」


「いえいえ、そこはお気に為さらず。こちらも結納金という訳にはいかないのですから」


「まぁ、里の者達のせめてもの気持ちじゃ。 受け取ってくれると有り難い」


「はい、急ぐ訳では無いですから安心してください」



 サウスバーグ家と王家の様に家格がハッキリとしていれば持参金と結納金の問題も割合簡単に落ち着くのだが、ヴィクトリアの場合は始祖の一族という、異種族に当たる為、どちらの方が格上というのを決めにくい


 ましてやヴァンパイア達は隠れ里の中で生活が完結している為、王国の金貨等を持ち合わせている訳では無い。 一応は見せて貰った手持ちの貨幣も古代王国時代の物であり、それはそれで歴史的には価値のある物ではあったが持参金として受け取るには不都合であった


 それに、おそらくヴィクトリアとの結婚を機にヴァンパイア達は里を出てアルベルトの元へと集うだろう。 そう考えれば結納金を払うのはアルベルトの側になるのだが里を出るヴァンパイア達に何かを渡すのは不適合だろう



「相手が王家じゃからのう、せめて恥ずかしくない花嫁道具を持たせてやらんとな」


「・・・すいません」


「まぁ、そこは気にする事は無かろうて。強い男が複数の妻を持つのは珍しくは無いからの」



 元々、ブラドは千年続いたとされる古代王国時代の黎明期に始祖となりこの里を造りだした人物であり、彼の中の常識はその時代に沿った物が多い。 彼にしてみれば権力者の妻が複数いる事は珍しくない為エリザベスの存在自体は気にならない


 ましてや、アルベルトはヴァンパイアに伝わる救世主だ。 その彼が孫娘を妃としてくれるならば不満など有る訳が無いし、それは里に住む全てのヴァンパイアの想いだった



「ん・・・疲れた」


「ヴィク、終わったの?」


「ん・・・まだ」


『ほっほっほ、久しぶりのお姫様じゃからの。まぁ、周りが満足するまで頑張るしかないの』



 おそらく、着せ替え人形役を抜け出してきたのだろうヴィクトリアの顔には普段とは違う疲労の色が見えた。 ジョゼルの迷宮で難敵に挑んだ後でも見せ無いその表情にアルベルトも苦笑するしかなかったが、里の者達の想いを考えれば此処は我慢の一手しかない



「後は普段着と化粧道具、それから・・・何があったかのう?」


「ん・・・そんなにいらない」


「そうは言ってものう・・・始祖の一族にとって結婚式自体が初めての事じゃから気合がの」


「ん・・・頑張る」


「無理しないでね」


「ん・・・後でいっぱい甘える」



 屋敷からヴィクトリアを呼ぶ声が聞こえ、トボトボ、若しくはドナドナといった感じで戻っていくヴィクトリア。 彼女なりに里の想いは判っているのだろうがその足取りは重かった



「えっと。始祖の一族で結婚式って挙げなかったんですか?」


「うむ、儂等を受け入れる相手がなかなかおらんかったからな」


『ふむ、理を越えると言うのも難儀な物よのう』



 レベルの上がった冒険者達も子供が出来難かったりと、個体として力を付ける事で難儀な事は多々ある。 冒険者の場合、バイマトとカイヤの様にお互いの実力が近い者と結婚すると言う手も在るが、始祖であるブラドはヴィクトリアの父を生む事の出来る女性を見つけるのは大変であっただろう


 或いは性別が違いブラドやヴィクトリアの父が女性だった場合は、結婚式という華々しい舞台を祝ったかもしれない。 両者の強さが違っても子が出来ないと言うだけの問題だからだ


 しかし、残念ながらブラドは男性であり、生まれた子供も男であった。 彼等と結婚してその子供を身に宿すという事は非常に強力な、自身よりも強い個体を身に宿すという事だ。 そう言った場合の多くは出産時に母親はその命を散らす


 つまり、彼等との結婚というのは・・・少なくとも素直に祝える物では無かったのかも知れない


 だが抑々、子供が出来る可能性の方が低いのだ。 しかも必ずしも命を散らす結果になるとは限らない。 だからこそ共に歩く事を選んだのだろうし、その身に宿った二人の愛の結晶という希望を胸に賭けに出たのだろう。 そこには余人が介入できない複雑な感情が有ったに違いない


 アルベルトがこの里に滞在して一週間、少なくともヴィクトリアの祖母や母親をアルベルトは紹介されていない。


 だが、ヴィクトリアは女の子だ。 始祖の一族の血を引く女性であるという事は彼等にとって色々な想いを抱かずに素直に結婚を祝えるのだろう



「必ず幸せにしてみせます」


「うむ、頼んだよ」


 ヴァンパイア達の想いを受け止めるようなアルベルトの誓いにブラドはその瞳を輝かせるのであった・・・


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