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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第一章 幼年編
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第十五話 アルベルトの初陣~④

 辺境伯メネドール・サウスバーグが治める辺境の地サウスバーグ領の要衝セイレケ砦。眼下に見える帝国の大軍から進撃のラッパの音が風に乗って高らかに響く



「ホント見栄ばっかり大事にするのね」


「まぁこっちとしても有り難いから良いんじゃない?」



 呆れた様子でカイヤが帝国軍を評価するが、アルベルトの言う通り侵攻のタイミングを教えてくれるのだから策を巡らせて待ち構えている側としては有り難い事だ


 ラッパが鳴り終わると土煙を上げながら二列に並んだ騎兵の中央に破城槌を曳いた部隊が進んでくる。


 片側三頭ずつ、計六名の重装騎兵が頭を低くしてこちらに突撃してくる。


 地響きを上げながら後方からも同じような部隊が少し間隔を開けて進んでくる様子はかなり迫力がある



『ほっほっほ。これは弓矢程度では止まらんわな~』



 額に手でひさしを作りながら楽しそうに(はしゃ)ぐマーリンの声がアルベルトにのみ響く



「それじゃあ始めよっか。カイヤもフォローお願いね」



 それを聞きながら城壁の上で総大将たるアルベルトが明るく・・・というか軽~く告げる。


 作戦の内容を聞いてはいるがイマイチ信用しきれていない隊長のサニラさんと守備隊の兵士は若干及び腰になりつつも指定された配置につく


 作戦の開始を宣言したアルベルトは城壁の端まで進むと片手を前に出して魔力を練り上げる。徐々に形に成っていく、それを信じられないような目で見つめている兵達。


 とりわけ魔法を使える者達にしてみると消費されている魔力量に目を見開いて驚いている



「行っけぇ~!」



 掛け声と共に生み出されたそれが城門前の坂道を下って行く。初めはゆっくりと、徐々に坂で勢いをつけながら速度を増した状態で重装騎兵に向かっていく



 予想される弓矢での迎撃から身を守るために姿勢を低くしている騎兵。特に先頭の騎兵は前など見ていない、目標までの距離を測るのは最後尾の騎兵の役目だ。


 その彼が悲鳴にも似た叫び声を上げている。



「ま、前を!いやともかく避けろー!!」



 帝国軍の中でも精鋭中の精鋭である重装騎兵。しかも名誉ある一番隊を任された彼等、その最後尾から聞こえる狼狽した指示に先頭を走る騎兵が顔を上げてみた物・・・



「なっ!どこから・・グギャッ」



 黒々とした鉄球。いや、彼に鉄球という事が判っただろうか。ただ目の前に迫るそれにを認識した時には避けれる距離には無かった


 呆気なく先頭の六名を潰してなお勢いの衰えない鉄球は後続の騎兵隊を巻き込みながら帝国兵達を蹂躙する


 アルベルトが生み出したのは直径3mは有るだろう鉄の玉。それを門前の坂道を利用して重装騎兵に向けて転がしたのだ


 言葉にすると簡単だが、それ程の大きさの鉄球を生み出し、さらに真っ直ぐ転がるように真球に近い形に整える。


 それには鉄球を生み出す為のMAG(魔力)とそれを制御するだけのINT(知能)が相当高くなければ実現できない



「上手くいったね」


『ほっほっほ。上出来じゃな』


「まったく殿下の破天荒さには驚かされますな」



 弓矢すら通さない重装と魔道具での魔法障壁で守りを固めた重装騎兵に対する攻撃手段の確保。今回の防衛戦で最も難しい課題をあっさりと確保してしまったアルベルト


 事前に知らされていたカルルクでさえ信じられない光景に壁の上の兵達も驚きで固まっている



「私のフォローなんて要らないじゃない。よくこんな事思い付くわよね」


「え~『レベルを上げて物理で殴れっ!』てギルドの壁に貼ってあるじゃない」



 確かに、とあるダンジョンを攻略した冒険者の言葉としてギルドの壁に張られてはいる。しかし実際にそれを、しかも戦争の最中に実行しようとする者はいない。



『おや?まだまだ諦めてはおらん様だぞ』



 マーリンの言う通り帝国軍は懲りもせず同じ様に破城槌を構えた重装騎兵での突進を再び開始した。


 坂の下で待機していた騎兵にも被害が出ているというのに同じ戦法での攻撃を繰り返すつもりの様だ。よほど帝国貴族の誇りとやらが大事らしい


 しかし先程の様に姿勢を低くして全速での突撃では無く、前方に注意を払いながらの突撃に変えてきているので多少は頭が回るのも確かなようだ


 実際、街道の幅は10メートル弱あるので良く見て進めば躱すのは容易だ。城門に対する攻撃力は落ちるがそれでも騎馬のスピードならば充分ダメージを与える事が出来る



「まあ、そう考えるよね。それじゃあ兵隊さん隊も準備しておいてね」


「「「了解しました」」」



 伝令兵がアルベルトの指示を伝える為に城壁の上を走り出す。それを確認するとアルベルトは再び城壁の端で片手を突き出す


 同じように生み出される黒々とした球体。先程よりも若干大きいだろうか・・・



「それじゃあ第二弾!泥団子作戦開始だよ!」



 先程と同じようにゆっくりと転がり始める球体。しかし今回は鉄球では無くアルベルトの言う様に泥で出来た球だ。


 帝国の重装騎兵達にはその違いが判らなかっただろう。同じように黒々とした球体が坂道を転がって来るのを慎重に避ける様に進路を変更する


 しかし、それは重装騎兵の目の前で形を崩すと坂道全体に泥をまき散らす。更に後ろから来た複数の泥団子が形を崩して街道に泥をまき散らす


 既に城門の前から坂道の中程までがぬかるんだ泥に覆われてしまっている


 踏み締められた街道を走ってきた重装騎兵は突然悪路に変わった坂道に足を取られて進軍速度が急に落ちる。


 後続の騎兵達も前を走る部隊の速度が落ちた為に渋滞し、更に後続の部隊に押されるように一塊となって泥に嵌ってしまう



「今だ、放て!」



 号令と共に城壁上から拳大の石が投げ込まれる。簡易的な投石機まで使った石は重装騎兵に物理的な衝撃として降り注ぐ。


 騎手と馬が装備している重装の鎧は弓矢などは通さない。しかし兜を付けていようとも空から降り注ぐ物理的な衝撃は、騎手達の意識を刈り取るには十分な威力だった


 しかも外れた石は泥に埋まり、それを踏み込んだ馬達は足を取られて転倒してしまう。一度落馬してしまえば重装が仇となって動けない騎手達に容赦ない攻撃が降り注ぐ



 予想もしていなかった攻撃に後方で展開している帝国軍の本陣は呆気に取られた様に動く気配を見せない



「おっしゃあ!行くぞ、テメエら。貴族たちの首は目の前だあ!」



 バイマトが指揮する冒険者と傭兵五百の兵が森の中から本陣目掛けて飛び出す。ほぼ全員が騎兵とはいえ本陣で固まった状態の動いていない騎兵など恐れるに足りない


 しかも、混戦に強い歴戦の傭兵達と臨機応変な対応の得意な冒険者達で構成された部隊は少数とはいえ混乱を煽る様にして敵兵に対応させない


「バーン!」「ドゴーン!」


 殊更大きな音を立てる魔法を使うのは馬を驚かせる為だ。前線に出る様な軍馬ならともかく、後方で指揮をするだけの貴族が乗る馬は大した訓練もされていない


 怯えるように前足を上げて(いなな)く騎馬から貴族達が振り落される



「指揮官だ!指揮官を狙え!」



 更に弓兵や魔術士が遠距離から確実に指揮官を倒していく。なにせ見栄と外聞が命の帝国貴族だ、指揮を執る人間は殊更に豪華な鎧を纏い目立つのだから狙う方としてみれば楽な仕事だ



 落馬した貴族を救おうと従者たちが駆け寄り、現場を指揮する隊長たちが斃される事で帝国の本陣は未曽有の混乱に飲み込まれる


 そして止めとばかりに後方に位置する輜重隊の馬車から火の手が上がる。


 流石に輜重隊とそれを守る部隊は歩兵が中心となって良く周りを警戒していたが、やはり歩兵部隊は待遇が悪いのか劣勢になった途端に蜘蛛の子を散らすように逃げて行ってしまった



「野郎共!撤退だ~!」



 まるで山賊の親分にでもなったのかの様な物言いのバイマトが目的は達したと撤退の号令を上げる。


 因みに冒険者や傭兵には軍隊と比べて女性が多い。多くは後衛に控える職業が多いが前線に立つ戦士にも女性は居る。砦に戻ったバイマトは野郎(・・)共!と言った事に対して強く抗議されていた



「なんだよあの迫力・・・男より怖えじゃねぇか」



 見た目は厳つくても心は乙女なのである。言葉使いには注意しようと、それを見ていたアルベルトはまた一つ賢くなった。


 バイマトが女性戦士に責められるという被害?を除いて守備側の損害は極めて軽微。伏兵の冒険者達に怪我人が出た程度で死者はゼロ。


 対して帝国側は重装騎兵の被害と共に指揮系統、並びに食料などの物資に大打撃を受けた。死者こそ500に満たない数ではあったが緒戦で既に継戦能力は著しく落ちる結果となった



「勝ったな」


「ああ」



 バイマトとカルルク将軍が撤退していく帝国軍を見つめながら呟いている・・・



「なに格好つけてるのよ。これで終わりな訳ないでしょ!!」



 が、すかさずカイヤに突っ込まれてしまう。どこぞの指令と副指令のようにはいかないらしい・・・



「みんなのお蔭でまずは一勝だね。怪我した人は治療班に見て貰ってね」



 アルベルトは兵達を見回りながら声を掛け、傍らに張り付いているヴィクトリアと共に三人の元へと歩いてくる。


 その傍らの少女こそが今回の影の功労者だという事を三人は知っている。彼女が戦いの為に意図して行った訳では無いが、それのお蔭でアルベルトは作戦を思い付き、かつ実行できたのも確かな事だ


 ヴィクトリアの行った儀式。それは賢者マーリンですら知識として知ってはいたが実際に見た事が無いという稀有な儀式だった。


 ヴァンパイアの儀式。それは通常、忠誠を誓った真祖に対して行う物であり初対面の異種族の少年に行う物では無かった・・・


 だが、彼女は言う。運命、定められていたものだからと・・・


 待ち望んだ、やっと出会えた運命の相手。


 その瞳を潤ませながら語るのだった


ちょいちょい小ネタを挟んだせいかヴィクトリアの儀式まで行けませんでした


次回のお楽しみという事で・・・



こっちの後書きに書く事では無いかも知れませんが『スキルの取り方間違った』のPVが凄い事に・・・


完結済みにするとこんなにPVとブクマが上がるとは思っていませんでした。\(◎o◎)/!


前作同様に今作も宜しくお願いします(笑)


読んで頂いて有難うございます



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