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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第一章 幼年編
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第十四話 アルベルトの初陣~③

 幻想的な雰囲気の中、弱っている女の子を介抱するアルベルトと何故か彼の腕に噛み付いている女の子。


 始めは呆然としていた三人は目の前で起きている事を理解すると慌てて駆け寄る



「まずいわ、ヴァンパイア(吸血鬼)!」


「チッ!マーリン殿何をやっている!」



 家庭教師兼護衛の二人は自らの失態を後悔しつつ走り寄る



「さてさて困った事になったな」



 余り慌ててる様子の無いカルルクだが、腰の剣を抜いた状態でヴァンパイアの少女に油断なく視線を向けている。


 対処としてはカルルクが正解だろう。ヴァンパイアは高い身体能力を持つ強力な種族だが、今、一番の問題はアルベルトがその眷属化されてしまう事だ


 この場合は血を吸ったヴァンパイアを斃す事で眷属から解放できる。アルベルトが心配なのは判るが焦って近づくよりも少女の動きに注意を払うべきなのだ



「アルから離れやがれ!」


「待って!大丈夫だから。僕は何とも無いからちょっと待って!」



 驚いた事に窮地を救おうと近づくバイマトを止めたのはアルベルトであった。ヴァンパイアの眷属化は血を吸われた時点から始まるのだが、アルベルトは正気を保ったまま応えている



『ほう。このヴァンパイア、なかなか面白い事をしておる。アルも心配せんでいいぞ、害を為すつもりは無さそうだ』



【鑑定】でステータスを覗いているマーリンが興味深そうに話してくれる



「ん。・・・満足♪」



 ちゅっぽんって感じで吸い付いていたアルベルトの腕を解放した少女は赤みの差した顔で満足そうに微笑む。



「えっと・・・君の名前は?」



「ん。・・・ヴィクトリア。よろしく主様」



 そう言って挨拶するヴィクトリアと名のるヴァンパイアの少女。アルベルト本人は警戒する様子を見せていないのだが、駆けつけた三人は臨戦態勢を崩していない



「アル!その子から離れなさい」


「大丈夫だよカイヤ。お腹が空いていただけみたいだよ?」


「ん。・・・違う。契約の儀式」



 アルベルトの胸に頬擦りするように身体を預ける少女。見た目は幼い少女なのだ、確かにその筈なのにそこには何故か女としての至福の表情に満ちている



『ほっほっほ、アル。その子が言う様に儀式は終わった様じゃぞ』


「儀式?儀式って何?。それにこの子何者なの?」



 何が起こっているのかさっぱり判らないアルベルトと三人。満足そうな少女と【鑑定】で事態を把握しているマーリンだけが笑っている



「おい、アル。何とも無いのか?」


「うん。僕は何とも無いけど何かの儀式が終わっちゃったみたい」


「マーリン殿。アルに危険は無いのね」


『大丈夫じゃよ。というよりもアルベルトの利にもなっておるわい』


「なんか大丈夫だって。それに僕にとっても良い事だったみたいだよ?」


「お主らさっきから誰と話している。マーリンとは誰じゃ?」


「「「あっ!」」」


「いや、ほら。そのなんだ・・・」


「ほら小さい子に偶にあるじゃない。妄想よ、アルベルトの妄想の人なにょ」


「カイヤ・・・噛んでおるぞ。どうやら殿下にはまだ秘密があるようですな・・・」



 慌て過ぎてカルルクの事を忘れていた三人。これだけしっかり名前が出ているのに今更取り繕っても遅いというものだ


 話してもらうぞ?という無言の圧力を掛けてくるカルルク将軍。


 ウマルがいれば誤魔化せたかも知れないが、残念ながら二人には彼ほどの話術や腹芸が出来る訳が無い。結局、砦に戻る頃にはアルベルトの秘密を知る人物が増える事になった。




 ☆△☆△




 砦に戻ってきたアルベルトたち。戻って来た彼等を迎えた駐留部隊の隊長は顔色を変えると即、引っ張るようにして会議室に連れ込んでしまった



「ご説明してもらえるのでしょうな?」



 一応は疑問形だがそこには有無を言わせぬ迫力が込められていた。まぁアルベルトの右腕にぶら下がる様にくっ付いているヴィクトリアを見れば誰だってそうなるかも知れない



「いや、偵察してたら倒れてたから保護しただけだよ?」


「そ、そうそう。戦場になるかも知れないのに危ないじゃない」


「で、懐かれてイチャイチャしていると?」


「ん・・・私のご主人様。」


「ちょ!す、少し黙っててくれるかなヴィクトリア」



 コクンと頷くビクトリア。しかし潤んだ瞳はそのままで、くっ付いている右手も離す様子は無い


 それを見た隊長さんは諦める様に溜息をつくと、「部下に話してきます」といって部屋を出て行った


 戦場で指揮官が女連れでイチャイチャするなどもっての外だが、あくまでも子供が懐いてるだけと言えない事も無い。苦労人の隊長さんが上手い事説明してくれる事に期待するアルベルトだった・・・



「さて真面目に働かんと隊長に怒られそうだな」


「将軍。今迄の帝国の戦い方を教えてくれますか?」


「基本的には騎馬による突撃一辺倒じゃ。野戦でも攻城戦でもそれは変わらん」


「馬鹿?」


「まぁ貴族のプライドじゃろうな」



 帝国の軍隊、その精強さの理由は大規模な騎兵隊にある。通常の騎兵隊に加えて重装、軽弓、魔法からなる特殊兵装の騎兵隊を揃えており、野戦においては圧倒的な強さを誇る


 しかし野戦はともかく攻城戦すら歩兵を使わず騎兵隊で行うのだから馬鹿と言われてもしょうがないのだが彼等には譲れない物がある様なのだ


 騎兵隊による破城槌を用いた城門への一点突破。どうもこれが帝国貴族の琴線に触れるらしく攻城戦でも騎兵隊以外の戦い方を認めていない


 騎馬に非ずは兵に非ず。これが帝国貴族の矜持らしい、まぁ他国から見れば馬鹿なプライドだ



「とはいえ、実績が有るのも確かでな。これまで数々の小国を併呑してきたのも事実だ」


「しかも今回の八千人。虎の子の重装騎兵まで出てきてるんでしょ?」


「奴等は弓矢程度は気にしないって話だな」



 帝国ご自慢の重装騎兵。数々の戦場で実績を上げてきた精鋭部隊が今回の派兵の中核をなしているのは調査済みだった


 弓矢などは意にも解さないその重装。加えて惜しげも無く使った魔道具で魔法障壁を張り巡らせ魔法による攻撃すら無効化する。その怒涛の突撃は騎馬の濁流となって敵陣を蹂躙する事で有名だ



『ほっほっほ。さてアルベルトや。如何するのが正解か判るかの?』


「う~ん。そうだな・・・こんなのはどう?」


「ハハハ、アル!そいつは傑作だ。奴らもそんな事されるとは思ってないと思うぞ」



 愉快そうに笑うバイマトと、感心したように頷くカルルク。一方でカイヤの顔はちょっと優れない・・・



「でも、それってマーリンさん頼みの作戦じゃないの?」


『大丈夫じゃ。ヴィクトリアのお蔭でアルだけでも出来るじゃろう』


「なんか大丈夫みたいだよ?」



 マーリンのお墨付きだという事を説明するアルベルト。若干説明が簡単すぎるのは五歳という事で我慢せざるを得ない。


 結局、アルベルトの根拠を示していない説明にイマイチ納得していないカイヤも渋々頷くしかなく、そこから詳細を詰めて隊長さんが部屋に戻るまでには作戦として立案されたのであった




 ☆△☆△




 セイレケ砦・・・今回アルベルトたちが戦う拠点であり、過去何度も帝国の侵攻を阻んできた要衝だ。


 街道の小高い丘の上に建てられた砦は平時には街道の治安を守る監視所としての役目を果たしている。


 しかし一度(ひとたび)敵国の侵攻を受ければ街道を塞ぐ鉄壁の護りとしてサウスバーグ領、ひいては神聖アデル王国を守ってきた


 左右を崖と深い森に囲まれており、侵攻ルートは正面の街道に限定される。街道という事で大軍を展開し易い地形という欠点もあるが、二重になった門扉とそびえ立つ壁が敵国の侵攻を阻んできた


 門に向かう坂道は(わざ)と急に作られており攻城兵器等を寄せ付けず、騎馬での突進もその速度を減じさせる効果を持つ


 湾曲するように緩やかに反った半円の形状は弓矢での集中攻撃を可能とし厚い壁は壁上により多くの防衛部隊の配置出来る様に考えられている


 今、アルベルト達やカルルク将軍がその門扉の上から帝国軍を眺めている


 坂の向こう、魔法の届かない距離に布陣した帝国軍は開戦の時を静かに待っている。そこから飛び出してくる一騎の騎兵。一応白旗を上げている処を見ると使者の様だ



「帝国の奴等は先ず口上を述べるのがしきたりなんですよ」



 長くこの砦に駐留し何度も帝国と戦った隊長さんが教えてくれる。因みに、この隊長さん名前をサニラと言うみたいだ。


 相変わらずアルベルトに否定的だが、アルベルトの考えた作戦には興味がある様で準備には積極的に協力してくれた



「それにしてもこの口上とか部隊が騎兵ばかりとか・・・やっぱり帝国ってお馬鹿さん?」



 やあやあ我こそは・・・とか言って帝国騎兵が大声で叫んでいる。


 たぶんどっかの貴族の家臣がどうでもいい建前、「今回こんな理由で攻めてきました、よろしくね♪正々堂々と戦いましょう。それじゃあアデュー」って感じの内容を喋るだけ喋ると満足そうに帰って行った


 帝国貴族にしてみると、理由を教えてやった俺達紳士!って事みたいだが攻められる方にしてみると難癖以外の何物でもない


 だいたい他の国々は宣戦を布告した上で攻め入るのが最低限の礼儀と考えており、他国の領土に攻め入った後に口上を述べるやり方自体を認めていない


 なのでカイヤのいうお馬鹿さん発言も極々真っ当な意見なのだ



「ふ~ん。色んな文化の違いが在るんだね」


『そうじゃの、色んな事を学ぶのは良い事じゃ。しっかりと勉強するのじゃぞ』


「ん・・・大丈夫。主様は無敵!」



 まぁ、こっちの総大将も右腕に美少女が抱きついてる状態だし、守護霊様はいい勉強になる程度にしか考えて無い時点で充分常識外れだ。


 しかもおそらく史上誰も行った事の無いであろう作戦を立案している五歳児の総大将なのだ



「負けた後に総大将が五歳児って知ったらどんな顔するのかしらね?」


「なるべく敵将は生け捕りにせねばな」


「そうだな。腕が鳴るぜぇ!」



 負ける気など微塵も無い三人に少し帝国兵が可哀想になってくるサニラ・・・


 開戦の時は刻々と近付いているのであった


なかなか話が進まずじれったいかも知れませんが色々詰め込みたい事が多くて・・・


次回、いよいよ開戦です。アルベルトとヴィクトリアの儀式とか色々秘密がされていきます


お楽しみに♪


読んで頂いてありがとうございます

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