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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第四章 動乱編
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戦い終わったその陰で・・・

『ふ~む、興味深いの』


「何か判ったのマーリン」


『うむ、随分と綺麗な身体じゃと思わんか?』


「・・・マーリンさん、そっちの趣味があるの?」


『何を訳の判らん事を言っておる。上位種の割に傷一つない身体じゃと言っておるのだ』



 お説教タイムの終わったアルベルトを引き連れて魔物達の死体を見聞していたマーリンのセリフにカイヤが若干引きながら答える。 勿論、マーリンにそんな特殊な性癖がある訳も無くやや憤慨しつつマーリンはバイマトが倒したアークオーガの身体を指さして答える



「上位種だと傷が無いとおかしいの?」


『特殊な変異種ではない限り上位種というのは進化した個体じゃ』


「そう言われてますね。通常の魔物が争いの中で力を付けると進化する場合があると言うのが定説の筈です」


「そうなんだ。あれ?でも進化しないでLVだけ高い魔物もいるよね」


「そこら辺は良く判っていないのよ。魔力や魔素が影響してるんじゃないかって言われてるけどね」


「ふ~ん。そうなんだ」



 詳しい事は判っていないが、人間にLVが有る様に魔物達にも個体差としてLVが存在すると言われている。 歳経た魔物の中には通常種では考えられない程の強靭さと高い知能を持つ者がいるのは確かで有ったが上位種とはまた違った進化の形態なのか、それとも単に経験を積んだだけなのかは良く判っていなかった


 だが、少なくとも人間がハイヒューマンなどに進化したと言う記録は残っておらず、人も魔物も同じ生物と考えた時にLVが上がっただけの個体がいて当然と考えられていた


 ただ、上位種が現れるのは迷宮や魔境などが多く、魔物が群れを成すほど潤沢な魔力や魔素が存在する場所が多い。 人間がそう言った環境に長時間いる事が少ない事からも進化には魔力や魔素が関係していると考えられていた



『まぁどちらにせよ進化するにはそれなりの経験が必要なのは間違いない』


「マーリンさんが言いてぇのは、そう言った奴等が戦いで傷を負ってないのはおかしいって事かい?」


『そう言う事じゃ。オーガやゴブリン、それにオーク程度の魔物が回復魔法やポーションを潤沢に持ってるとは思えんからの』


「ん・・・納得」



 魔物達が経験を積むといえば真っ先に考えるのは戦いだろう。 人の場合は通常の生活の中でも経験を積みスキルを発生させる者もいるが、オークやゴブリン程度の社会性では普通の生活でそこまでの経験を積んだ個体がいる筈も無く、当然回復魔法や高度な治療技術が発達する訳も無い


 つまり、進化の過程で古傷の一つや二つ負っているのが当たり前であるのだが今倒したばかりの上位種たちにはそう言った古傷は見当たらなかった



「自然発生の可能性は低い、という事ですか?」


『そこまで断定は出来んがの。じゃが洗脳されていた事を考えると有り得る話じゃ』


「つまりザービス教にはその技術が有るって事?」


『詳しく調べてみんと何とも言えんがの』



 マーリンの持つ終末教の知識には洗脳魔法を使っていたという事実はある。 しかしそれはミンツァーの徒を造りだす時に使われていただけで魔物に同じ事が出来ていた訳では無い


 仮に終末教がその技術を持っていれば確実に使っていただろうが、最後の戦いでも魔物が介入したという情報は無かった


 基本的にはカルト教団であった終末教を駆逐できたのは信者の数が少なかった事にある。 村や町を襲って民衆をミンツァーの徒に仕立て上げるにしても時間が必要であり、各国の連合軍に負けたのはマーリンや勇者の力も大きかったが数の違いが一番の理由だろう


 だが、魔物を洗脳する事でその数の不利を覆せるとなれば例えゴブリンの様な雑魚であっても脅威になる。 しかも少ない数であっても上位種まで造りだせるとなれば・・・



『ふむ、研究室に持って帰って詳しく調べる必要があるのう』


「でもそんな時間ないよ?」


「私目にお任せください」


「わぁ!吃驚した!!セバスチャンさん、レベッカ王女たちと居たんじゃないの!?」


「執事の嗜みです」


「嗜みって・・・」


「主人が必要とする時に現れるのが優れた執事という物です」


「いや、だからって・・・」


「マーリンさんが創ったホムンクルスなんだからしょうがないでしょ」


「いやべス、そう言う問題いじゃないと思うんだけど・・・」



 突然背後に現れたセバスチャンに驚くアルベルト。 確かに優れた執事という物は主人に声を掛けられる前に動くのが理想とされている。 だからと言って街から離れた場所に突然現れるのも当たり前と言われたらこの世の執事たちは軒並み失業してしまうだろう


 小難しい理屈を嫌うエリザベスはそう言ったものとして受け入れた様だが、いくら人口生命体と言っても出来る事と出来ない事が有る筈だ。 だが、さも当然といった顔のセバスチャンにそれ以上の言葉が出てこなかった



「では、一先ず研究室の方に運んでおきますので」


「う、うん。お願いします」



 そのまま、ササッと魔法の鞄に上位種たちの身体を詰め込んだセバスチャンは一礼すると颯爽と走っていく



『ほっほっほ。そういう物じゃと思った方が良いぞ?』


「それをマーリンが言うの!?」


「ん・・・マーリンだから」


「はぁ、判ったよ。取敢えず王子様の処へ戻ろうか」



 魔物の群れの発生を王子達には知らせずに倒したアルベルト達ではあったが、こうなった以上は報告をしない訳にはいかないだろう。 宮殿まで進む過程で再び魔物達と遭遇する可能性がある以上は警告しておかなければならない


 マーリンの【鑑定】の事を話す訳にはいかない以上は洗脳や上位種の事は伏せて、魔物を捕獲して使って来る可能性程度にボカしておけば問題ないだろう



「ウマル、上手い説明を考えておいてね」


「はい、ですが今後は自分で考えないといけませんよ?」


「うみゅ~、出来れば遠慮したい」



 とはいえ、最後まで隠し通せる自身の無いアルベルトはウマルに任せるつもりであったが、サラッと条件を付けられてしまうのだった・・・



 ☆△☆△



「ゲンカ様、これでよろしかったのですか?」


「まぁここら辺が潮時さ。どちらにせよ王国が動いた以上はコッチの戦力じゃ太刀打ちできない」



 いつもの執務室で交わされる筈の会話は、しかし今回はお互いに騎乗のままで交わされていた。 王子が旧来の騎士団を集めて別荘を発った事を知ったゲンカは隠してあった魔物達を解き放つように命じた後、速やかに宮殿を発っていた


 ゲンカ付きの近衛騎士だったイスカリオにしてみればどういった思惑が有ったにせよ、此処まで積み上げてきた地位をアッサリ捨てた主人に疑問が出て当然であった



「仮に王子やサウスバーグの若様を撃退できたとしても得る物は少ない」


「しかし・・・」


「公国を傀儡にする事自体は目的では無いからな、時間が稼げるならそれでいい」



 既にイスカリオにもゲンカと神国の繋がりは判っていたし、正に二人の向かう先が神国なのだからそこは疑う必要は無い。 しかし、だからこそ公国を傀儡にした方が後々役に立つのではないかと彼には思える


 そこには振り回された故郷に対する思いが有ったのかも知れないが、ゲンカにとっては時間稼ぎ程度の事であったようだ



「上手く行けば数年の時間が稼げる筈だ。寧ろ俺が残った方が早く混乱が収まってしまうだろうよ」


「そこまでお考えでしたか。 ですが魔物達は見せなくても良かったのでは?」


「まぁご褒美みたいなもんかな。どの道サウスバーグの若様とはやりあう事になるんだろうからな」


「・・・御意」



 ここ数年の公国の内政はゲンカが一人で取り仕切ってきたのだ。 その彼が突然いなくなれば当然公国は混乱するだろう。 大公がゲンカに操られていたと判ったとしてもその事実は変わらない


 寧ろ、その事で大公は退位しアレクサンドロ王子の治政へと向う筈だ。 只でさえ為政者の交代は混乱を産み易い。 本来であれば公国の優秀な統治システムはそれを起こさせない為の物であるのだがゲンカに頼り切っていた統治システムは、用をたさないだろう


 その上、意図的にべレス山脈側の守旧派と小国群側の革新勢力が対立する様に制度改革を進めていたのだ。 一度利益を知った革新勢力を元の鞘に納めるのは若いアレクサンドロ王子には困難を極めるだろう


 行き場を失った寄せ集めの騎士達も元の山賊や盗賊に戻って治安を乱す筈だろうし、これも混乱に拍車を掛けるだろう


 もしゲンカが公国に残れば彼を裁く為に王子の元で纏まりを見せる可能性が高い。 小国群や王国の介入の可能性を考えれば混乱も早く収まるだろう。 だが、正当な権力の移譲を果たした王子が統治するとなれば各国は介入の理由を失う。


 逆に小国群の雄である公国の混乱は他国にも影響を与えて建国間もない神国にとって貴重な時間を提供してくれるだろう。


 唯一秘匿しておくべき魔物達を操る術を暴露する行為を行った主人に疑問を持つが、これも何か考えが有るのだろうとイスカリオは自身を納得させる    


 どの道、彼に忠誠を捧げた以上は一蓮托生なのだ。 自身に出来る事は彼に捨てられない様にする事だと弁えている



「まぁ追々判る」



 そんな心中を見抜いたのかゲンカは前を向いたままそれだけを告げるのであった・・・


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