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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第四章 動乱編
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逢魔が時

『ふむ、ちと拙いかも知れんの』


「うん、ちょっと予想外だったね」


「そう?ゆっくり出来るんだから良い事じゃない」



 ルプスの街を解放したアレクサンドル王子とアルベルト達は、予想外の住民からの支援と義勇兵の応募、それから遠くに左遷させられていた第二騎士団の若手騎士達の参集に遅れにルプスの街に拘束されていた


 当初の予定ではルプスの街を解放した後は速やかに宮殿を目指して出発する予定であったのだが、予想以上の支持と戦力の増加に予定を変更する事になったのである


 王子にしてみれば宮殿に乗り込むに当たって民衆や部下達の支持というのは大公や議会に対するアピールになるし、戦闘になる可能性を考慮すれば戦力の増加は望ましい物だったのだろう


 しかし、マーリンとアルベルトには別の懸念の方が大きかった



『ミンツァーの徒は拠点攻略に使いやすいのじゃよ』


「自分の国の街を滅ぼすって言うの?この前の村とは規模が違うじゃない」


『ゲンカという男は目的の為なら手段は選ばんじゃろう。奴にしてみれば犠牲になるのが百も千、いや万であっても変わらんじゃろうな』


「ん・・・撃退する」


「いや、そう簡単にはいかないと思うよ」


『そう言う事じゃ。 この前の様に限定された空間でこちらが自由に動ける状態ならば問題無かろうがの』



 アルベルト達がミンツァーの徒達と戦った村は死方結界に覆われており容易に脱出できない空間になっていた。 しかしそのおかげでミンツァーの徒達の行動も阻害されており正面からの戦いにだけ限定できた事はアルベルト達にとって有利に働いた


 村の中という比較的広い空間の中で、ただ自分達だけに真っ直ぐ向かって来るという条件で有ったが為にアルベルト達は時にその勢いをいなしたり、大規模な攻撃を繰り出したりと自由に戦う事が出来た


 しかし、仮にルプスの街に彼等が攻めてきた場合はそうもいかなくなる。 防衛線という引いてはいけないラインを死守しつつ、動く者全てに襲い掛かるミンツァーの徒を撃退するのは非常に難しい。 ましてや護るべき民たちは王子に期待して共に立ち上がった者達なのだから逃げ出す訳にもいかないのだ



『いっその事、野戦で戦った方が敵もミンツァーの徒を使い難くなるからの』


「まぁ、動く者全てに襲い掛かる奴等をコントロールなんて出来ねぇわな」


「野戦の方が大魔法も使える分、私達も楽ね」



 バイマトやカイヤも街に籠るのは反対らしくマーリンの主張に同意する。 彼等にしてみれば一般の兵士や騎士達など足手まといにしかならないのだから、いっその事自分達だけで戦いたいという主張がそこには見える



「二人の気持ちも判りますが、これ以上目立つのは避けたい処です」


「そうなんだよね、ちょっとやり過ぎたみたいだし・・・」


「ん・・・派手」


「そうか?魔法も使って無いし問題無かったろ?普通に門から入ったんだから上出来じゃねぇか?」


「いや、普通の人は三人で城門突破しないと思うよ?」


「そんな事言ってたら時間かかっちまうだろ?」


「なんで他の騎士達を待たなかったのかって事よ!」



 自覚が無いバイマトにエリザベスの指摘が入る。 ルプスの街の攻略の切っ掛けは用意すると言う話で有ったのでアレクサンドロ王子も文句は言わないが城門を三人で突破してしまった事には言いたい事もあるだろう


 その後もバイマトの姿に恐れる騎士達を制圧しただけ、と言われかねない状態であったので少々目立ち過ぎでは有ったのだ


 尤も、ルプスの街の住民達はその事は特に気にした様子も無く、単純にゲンカの排除に動いているアレクサンドル王子を指示している様なので問題は無さそうであった


 しかし、もしゲンカの手がルプスに伸びた時に再びバイマトが活躍すればその評価がどうなるかは判らない以上は大人しくしておいた方が良いだろう



「まぁその辺の事情は判るけどよ、実際ゲンカの奴が手を打ってるんなら王子様だけで防げんのか?」


「それは・・・」


「難しいでしょうね。 正直、寄せ集め達でこの街を護るつもりが有ったのかどうかさえ疑問ですね」


「最初から無理だと判ってたって事?」


『ほっほっほ、王子の戦力ではルプスの街を護るには数が足りな過ぎるわい』


「成程、王子が街に籠って戦うって事はある意味一網打尽のチャンスって事でもある訳ね」



 ルプスの街を本気で護るのならば千や二千の兵士は必要になってくる。 周囲の城壁の大きさを考えればそれ以下の戦力では穴が大きすぎる。 だが、住民を見捨てて逃げる事が可能な第一騎士団と違って王子は民を見捨てて逃げ出すことは出来ないのだ


 それをしてしまえば、王子が主張する正当性を自ら放棄する事になり、仮に王子が逃げ果せたとしても既にゲンカにとっては脅威にはなり得なくなるのだ



「結構考えてあるのね。あんまり好きになれないタイプだわ」


「ん・・・考えなさ過ぎ」


「私が馬鹿だっていうの!?」


「まあまあ、ヴィクもそこまでは言ってないと思うよ?」



 裏で策謀を練るタイプのゲンカとの相性は良くないであろうエリザベス。 ヴィクトリアの言い分では彼女が考え無さ過ぎるという事なのだろうが、流石に馬鹿とまでは言っていない。 内心はともかく、少なくとも言葉にしていないのだからアルベルトも取敢えずは宥める事にしておく



「どっちにしろだ、このまんま街の中にいるのは良くねぇって事だろ?」


「そうですね、少なくとも野戦で戦えるようにしておくべきです」


『騎士を中心にして街の外に駐屯。斥候は儂等で担当するべきじゃろうな』


「ヴィク、できそう?」


「ん・・・問題ない」


「攻めてくるとしたら西側かな?」


「そうね、首都の方角も西側だし、仮に迂回したとしても闇人(シャドウ)達なら気が付くでしょう」


「じゃあ、王子達には街の外に出て貰って僕達はその外を警戒しておこうか」



 王子が街の外にいる状態でルプスに攻撃を仕掛ければ非難されるのはゲンカの方であり、王子側に過失は無い。 厳密に言えば住民を護る事を考えれば外に出ていた王子にも非難される部分はあるのだが、少なくとも死地に陥った時に逃げ出しても回復の余地はあるだろう


 ゲンカが住民の犠牲を厭わないと言っても、王子を取り逃がす可能性がある以上は己の立場を悪くする事は避ける筈だった。 だが相手は村の住民を犠牲にしたゲンカだ、それでも策を強行する可能性は残る


戦慣れしているとはいえ騎士団の面々がミンツァーの徒を打ち倒せる可能性は低いだろう。 王子達とミンツァーの徒がぶつかる前に始末する為にアルベルト達も警戒を強めるのだった  



☆△☆△



「ふむ、いかにも駐屯といった感じで中々の物だな」


「王子・・・そこは喜ぶ処ではございません」


「いや、ルプスの街の宿屋は快適過ぎて駄目だ。あれでは決意が鈍ってしまうからな」



 周囲が薄暗くなる中、組み上がった指揮官用の天幕を見つめながらアレクサンドル王子が独りごちる。 耳聡くそれを聞き込んだお付きの騎士が咎めるが、王子にも何かしらの矜持が有るのだろう。 兵を挙げて豪華な宿で寝泊まりよりも野趣あふれる雰囲気の方を好むようであった



「兵と共に焚火を囲んで野戦食を齧る。その堅さに閉口しながらそれをネタに笑い合うと言うのも大事な事ではないか」


「王子は聊か夢見がちでありますな」


「そういうな。初代様の日記を見て憧れるのは歴代の大公家の男子ならば当たり前の事だからな」



 どうやら初代さまとやらは随分と気さくな方であったらしく、下級の兵士であろうとも一緒に焚火を書こう無用な御人だったようだ。 公国という小国とはいえ独立した国家の男子ともなればそう簡単に実現出来る事では無いだろう。 


 その夢が叶ったという事を喜ぶ王子ではあったが、お付きの騎士にしてみれば街の中に居て欲しかったのが本音だろう。 しかし、アルベルト達が齎した噂話、騎士や兵士達が街の負担になり始めていると言うのを聞いた王子は即断即決で街の外への駐屯を決めた


 ゲンカが街を狙う可能性を説いても良かったのだが、そうした場合に王子が住民と共に散る覚悟を固める可能性もあり敢て本当の事を語らなかった。 この真面目で堅物の王子様は本当の意味で民の事を考えているのだ



「ん・・・アル」


「ヴィクどうしたの?」


「ん・・・魔物」


「魔物!?田舎って言っても近くに森も無いしこんな処に?」



 王子達とは少し離れた場所で警戒に当たっていたアルベルトにヴィクトリアが声を掛ける。 闇人(シャドウ)が張る広域の警戒網に魔物が引っ掛ったという事だろうが、ルプスの街の周辺には魔物が出そうな場所は殆ど無い



「!・・・群れ!?」


「群れって、まさか魔物が群れで現れたって事!?」


「ん・・・」


「マーリン!」


『いや、終末教にも魔物を操る術など無かった筈じゃ』



 空が赤から藍色へと変わる黄昏時、別名を逢魔が時と呼ぶのであった・・・


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