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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第四章 動乱編
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マーリンの遺産~②

「へ~結構良い趣味じゃない」


「うん、マーリンの研究室って聞いてたからもっとこう・・・」


「ん・・・上品」


『ほっほっほ。此処はチャンの趣味で揃えてあるからな』



 ホムンクルスのセバスチャンに案内された部屋は質素ではあるが上品な感じのする落ち着いた部屋であった。 家具や装飾品に派手さは無く始めて来た人を安心させる様なその装いは派手好きなマーリンの趣味では無く、管理を任されていたセバスチャンの趣味だと聞いて納得の三人



「応接室でこの広さって全体でどれ位あるのかしら?」


「そうだね、マーリンどれ位あるの?」


『ふむ、まず肝心の研究室、それから倉庫に実験室じゃな。後は寝室と食堂くらいじゃ』


「いえ、マーリン様。お忘れかも知れませんがその他にも・・・」


『そうじゃったかのう?色々造り過ぎて忘れてしまったわい』



 話しながらテキパキとお茶を入れるセバスチャンのツッコミにとぼけた様に笑うマーリン。 しかし彼が造った研究室がその辺にある物である訳も無く、内部は相当の広さを持っているのは間違いなかった



「あの頃はマーリン様の御友人も訪ねて来られてましたから」


『おう、そうじゃった。あ奴に頼まれて修練場も造ったのじゃった』


「はい、客間もありますしお風呂もございますから・・・そうですねちょっとしたお城くらいの部屋数にはなってると思いますね」


「ん・・・やり過ぎ」


「まぁマーリンだから・・・」



 どうせマーリンの事だから造り始めてから色々思い付きで拡張していったのだろう、その姿が目に浮かぶアルベルトは呆れながらも別段驚いた様子も無く納得する。 



『まぁ後でゆっくり案内するとしてじゃ、チャンよ』


「はい、判っております。アルベルト様に遺産の全てをお渡しするのですね」


『うむ、まぁ儂がいるのだから再現も出来るのじゃが、今の世で素材が手に入るかは疑問じゃからな』


「ちょっと!伝説の賢者の遺産って言ったら・・・」


『まぁそう大した物は無いから心配するでない』


「ん・・・怪しい」



 魔法の知識一つとってもマーリンの知っている物は今の時代には無いものも多く、彼が造りだした遺産となればこの世に混乱を齎す物が有っても不思議では無い。 エリザベスの危惧はそれが世に出る事によって混乱を引き起こす事になりかねないと心配しての物であった



『まぁ受け継ぐのがアルじゃからの。悪事に使う心配も無いじゃろ』


「それはそうなんだけど・・・アルも結構やらかすわよ?」


「べスが言うの!?」


「ん・・・どっちもどっち?」


「アンタもよ!」



 何だかんだでこの三人は結構やらかすのだが、三人共自分自身の事にはあまり自覚が無い様だ。 アルベルト自身はやり過ぎるのはマーリンのせいだと思っているし、エリザベスの場合は本人の意識的には軽い魔法を使っている程度の認識だ。


 しかし賢者式幼児教育で育ったアルベルトとマーリンに対抗する様に愛情?たっぷりの加護を魔法神から受けているエリザベスはかなりの規格外なのだから、本人の意図とは別に非常に大きな影響を及ぼす


 三人の中ではヴィクトリアが比較的大人しいと言えるが、彼女の場合はアルベルト以外の事を些事と捉えている関係上、一度箍が外れるとそれこそ見境がなくなるタイプであった



「取敢えず見て頂いて判断為さればよろしいかと思います」


「そうだね、マーリンが造ったものだし折角だからね」


『ほっほっほ、そう言ってくれるとありがたいのう』


「ではこちらへどうぞ」



 セバスチャンの案内で応接室から倉庫へと移動するアルベルト達。 予想通りその内部は慣れていなければ案内なしでは直ぐに迷ってしまう程に広かった



「どうぞ、こちらです」


「よいっしょ、と」


「ん・・・凄い」


「なによコレ・・・」


『若干失敗作も混じっておるからの』



 案内された倉庫の扉はアルベルトが声を出す程度には大きく立派な物であった。 当然内部もかなり広くそこにはズラリと並んだマーリンの創作物が並んでいた


 そこにはゴーレムの様に判り易い物からその用途がサッパリ判らない巨大な構造物が安置されており、壁際に造られた棚には比較的小さな魔道具と思われる物が所狭しと並べられていた



「これは・・・馬車なの?」


『ふむ、それは走行時の振動を無くす仕掛けをしたのじゃ』


「それホント?」


『うむ、研究の結果、振動を一切発生させない事に成功した画期的な物じゃ』



 貴族と言っても辺境で育ったアルベルトは騎乗での移動が多いが、王族として中央で育ったエリザベスは馬車での移動は寧ろ義務みたいのものだ。 当然馬車での移動による振動に悩まされた事は何度もありそれが軽減された馬車ならば喉から手が出るほどに欲しい物であった



「・・・確かに走行時の振動は出ませんが、重大な欠点がありまして」


「欠点?」


「はい、この馬車には浮遊石が組み込まれていますので移動時には車体を浮かせる事で振動を発生させないのです」


「確かに車体が浮けば振動は出ないよね」


「って、浮遊石はスルーなの!?」


「しかし、浮遊石には物を浮かせる効果しかないので・・・」


「ん・・・揺れる?」


「ええ、それはもう。かの勇者様でも五分と乗っていられない程に・・・」


『あ奴が極端に乗り物に弱いだけじゃろ』



 マーリンが創ったこの馬車はあくまでも浮遊石の効果で地面から浮き上がるだけの物のようで、姿勢制御などは一切行わなかった様であった。 その為宙に浮いた状態で馬に牽かれるため地面からの細かい振動は発生しないが、上下左右に大きく揺れると言う欠点を抱えていた


 地面からの振動であれば上下に揺れるだけで済むものが、支えの無いなのだからその揺れはとてつもなく更に浮いた車体の重さが無い分、馬達の負担が少なく速度も大幅に上がる


 結果、マーリンと同じく伝説とされる勇者ですら酷い乗り物酔いに掛かってしまうと言う欠陥品であった



『乗り込んだ物が風の魔法を使って制御すれば済む話じゃよ』


「それって、かなり魔力を使うんじゃないの?」


『まぁ、そこは目を瞑ってじゃな』


「うん、使えないわね」


「ん・・・無駄」



 浮いた車体を魔法で支える事は出来るだろうが、移動時間中ずっとそれを行う事は流石に難しいだろう。 抑々それが出来るのであれば馬車では無く自身が浮遊石を持って浮かんで移動した方が楽な筈だ



「抑々浮遊石ってなんなの?」


『ふむ、遺跡で偶に取れる魔石の一種じゃな。それをチョコチョコっと改造した物じゃ』


「もしかして・・・?」


「はい、ご主人様の想像通り制御出来ておりませんからドンドン上昇してしまいます」


『どうにか車体の重さとバランスを取ったのじゃがこれ以上軽くすると上昇が止まらんのじゃよ』


「じゃあ何かの事故で車体が壊れたら?」


『そのまま浮かんで行ってしまうじゃろうな』


「危な!それって人が乗ったままって事でしょ!?」



 マーリンの改良によって浮遊石の消費魔力は非常に少なくて済む様になっている。 しかしそのせいで却って危険な状態になってしまうという致命的な欠陥を抱える事になってしまったのだった



「ひょっとしてこのゴーレム達も?」


「はい、マーリン様の改造でそれぞれが特徴を持っておりますが・・・」


「ふ~ん要は失敗作って事ね」


『失礼な事を言うでない!研究の過程で生まれただけじゃ、この先に進めば究極のゴーレムが出来あがる・・・筈じゃ』


「それって凄く大変な気がするけど・・・」


「まぁマーリンさんが生涯を掛けても完成し無かったんだものね」


「ん・・・・普通に無理」



 マーリンの遺産を受け継ぐという事は当然これらの研究を引き継ぐという事でもある。 しかしその為の素材や資金は何処から調達してくるのかという問題もあるし、抑々アルベルトはセイレケの街の領主でもあるのだから研究にどれだけ時間を割けるのかという問題も有った



「大きい物はちょっと無理そうだね」


「ん・・・こっち」


「そうね、魔道具なら何か良いものが有るかも知れないわね」


『クゥ、男の浪漫を判らん奴等じゃ』



 悲嘆にくれるマーリンを他所に壁際の棚へと近づくアルベルト達。 そこには様々な形の魔道具が並べられているが残念ながら彼等の知識ではそれらがどんな効果を発揮するのかまでは判らない



「こちらはアクセサリーですね。装備をすれば各種ステータスが上昇します」


「こういうのよ!こういうのを待ってたのよ!」


「ですが残念ながら上昇した分、他のステータスが下がると言う欠点もありまして・・・」


「ん・・・呪いの装備?」


『失礼な!魔法使いにSTRなぞ必要ないじゃろうが』


「ああ~、そう言う事ね」


「ですが流石に歩く事も出来なくと色々支障が出ますので・・・」


『それは鍛え方が足りんからじゃ!下がる数値以上のSTRを持っておれば問題ないわい!!』



 呪われている訳では無く、意図して他のステータスを犠牲にして望むステータスを上げる事を目指したのだろう。 ある意味真っ当な魔道具ではあるのだがその極端ぶりがマーリンらしかった


 しかし、魔法使いに必要なステータスを上げる為に不必要なSTRを犠牲にするのに、そのSTRを鍛えなければ使えないアクセサリーに意味が有るのだろうか・・・



「こっちの鞄は?」


『ふむ、それは自信作じゃぞ!』


「そちらは魔法の鞄ですね。マーリン様の言う通り中々役に立つ品物です」


「魔法の鞄って聞いた事ないけど?」


「手で持てる品物ならば幾らでも入る鞄です。 しかも重さも感じなくなりますから長旅や迷宮の探索には非常に重宝します」


「そう言うのを待ってた!!」


「でも・・・お高いんでしょう?」


「いえ、今ならサービスでこちらの小袋もお付けします。更に!!」


「更に?」


「今なら金利手数料は「はい、そこまで!!」が負担します!」



 エリザベスとセバスチャンがノリノリで違う方向に行こうとするのをアルベルトの叫びが止める。 会ったばかりだと言うのに何故か妙に気が合うようで揃って舌を出してテヘ?って感じであった



「ねぇ~それよりアレは無いの~」


『おお、そうじゃったわい。チャンよ【特殊天然植物活力液】は何処じゃったかの?』


「【特殊天然植物活力液】ですか?あるにはありますが・・・」


「早くするの~」



 中々お目当ての品物に辿り着こうとしない事に焦れたのか樹妖精(ドライアド)が催促をし始める。 彼女にしてみれば待ちに待ったご褒美なのだしマーリンも約束した以上は渡す事にやぶさかでは無かった


 しかしセバスチャンは若干不安そうな表情をしながら彼女のお目当ての物を棚から取り出すも中々渡そうとはしない


 だが、我慢できない樹妖精(ドライアド)はそれを引っ手繰る様にして一気に飲み干す



「やったの~これよコレ~」


「ああ・・・そんなに一気に飲んでは」


「ウィ~ヒック!んぁに見てんのよ~!」


「酔っ払い!?」


「ヒャハハ~なんかたっのしいぃ~!」


「きゃあ!ち、ちょっと!!」



 顔を真っ赤にした樹妖精(ドライアド)が宙を舞う様にしながら手を伸ばすと彼方此方から木の芽が吹き出し成長していく。 それは木で出来ている物ならば何でも良い様で先程の馬車の車体や壁際の棚からもニョキニョキと生えてくるのだった



「ああ・・・やっぱり」


「やっぱりってこれ飲むと酔っぱらうの?」


「いえ、千年分の熟成で成分が凝縮されてますから・・・」


『ふむ、どうやらお宝はまたの機会になりそうじゃな』


「キャハハハハたっのしぃい~」



 舞い踊る樹妖精(ドライアド)とニョキニョキ生えてくる木の枝の競演を見つめるしかないアルベルト達であった・・・



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