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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第一章 幼年編
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第十二話 アルベルトの初陣

 辺境伯メネドール・サウスバーグが治める辺境の地サウスバーグ領。アルベルトの5歳を祝う生誕祭を明後日に控えたカモーラの街は近隣からも続々と人々が集まって来ていた


 それはかつて無いほどの活気を街に(もたら)しており、毎年の周年イベントにして欲しいと街の有力者から陳情が上がるほどだった



「ふぉふぉふぉ。アルベルトはみんなに好かれるいい子じゃからの」


「ええ。本当に。しかも賢いし強いしと言う事なしですわ」



 屋敷のバルコニーから街の様子を窺いながら、メネドールとソフィアは満足そうに笑う。


 この一週間、徐々に盛り上がっていく街を見ながらアルベルトを褒め称えるのが日課となってしまった親バカ夫婦。



「閣下!大変でございます!!」



 しかしそんな幸せな時間を台無しにする凶報が齎される。家令のアゼルが珍しく血相を変えて部屋に飛び込んで来たのだ



「アゼル殿落ち着いてください。ノックも無しでなど無礼にも程が有りますよ」



 ノックもせずに部屋に飛び込んできたアゼルにソフィア付きの侍女のロッテが顔を(しか)めながら(たしな)めるが、当のアゼルはそんな事お構いなしに言葉を続ける



「隣国のアラクラが国境線を破り峠の砦目指して進軍中との報です!」


「何!して、数は?」


「ハッ!おそらく八千を超えるかと!」



 (かね)てより険悪な関係だった聖光アラクラ帝国。小競り合い程度なら数知れず、小規模な衝突ですら何度も繰り返していた隣国が遂に本格的にその牙を剥いたという知らせだった



「フム。急ぎ準備を進めろ。砦の様子は?」


「変わりありません。物資も十分で士気も高く問題ありませぬ」



 しかし、この国の防衛を一手に引き受けるメネドールはいつ険悪な隣国が本格的な侵攻を掛けてきても良い様に備えており、その言葉に動揺の響きは無い。


 最前線の砦には優秀な指揮官と精兵、それを十全に働かせる物資を補充してあり侵攻を食い止めるのに不安は無い


 後は砦にて時間を稼いでいる間にカモーラに駐在する領軍本隊を向わせれば充分撃退可能であった。


 しかし、メネドールが辺境伯の顔に戻ってテキパキと指示を出していく最中に新たな報告が齎されるとその顔は一変する



「お館様!大変でございます。チュバル公国が宣戦を布告、総勢三千の軍を率いて南下中との知らせです!!」


「何!奴等、示し合せて我が領地に攻め入るつもりか!」



 すっかり侍従としての役目も板に付いたロステムが此方も血相を変えて部屋に飛び込んでくる。


 続いて齎された凶報に流石のロッテも驚愕の表情でロステムの非礼を嗜める様子は無かった



 大陸の東端に位置する神聖アデル王国は温暖な気候と肥沃な大地のお蔭でその大きさの割に非常に豊かな国だ。


 また国内に迷宮や魔境も存在しており国策として優秀な冒険者たちを優遇する事で、そこから齎される素材等を輸出しており金銭的な豊かさも有る。


 そういった背景で代々の国王は領土的な野心を持たず平和な統治が続いていた。しかしこちらにその意思が無くとも他国がそうであるとは限らない訳で・・・


 特に王国の西に在る聖光アラクラ帝国などはその最たる国だろう。領土的な野心を隠そうともせず周りの小国を併合して大きくなった国であった


 近年は王国の北西に位置する小国群が連合を組んでからは大規模な軍事的行動を控える様になっていたのだが、小国群のうちの一つチュバル公国を抱き込み本格的にアデル王国に進行するつもりなのだろう


 素早く周辺の地図と勢力図を頭の中で整理していくメネドールは暫く考えた後に指示を出す



「将軍を。カルルク将軍を呼べ!」



☆△☆△



 程無くして呼び出された将軍と軍の主だった隊長達が会議室に勢ぞろいする。通常は辺境伯とはいえ将軍という役職を置く事は無い。


 しかしこの国の場合は国防軍とは即ちサウスバーグ領軍となるのでその規模は非常に大きい。その為カルルクに与えられている権限も首都に駐留する国軍の将軍と変わらないものを国王に認められている


 老将とも言える年齢に達しているにも関わらず、その指揮の優秀さは若い頃と変わっておらず、数々の武勲、特に野戦での伝説ともいえる実績で辺境伯軍に席を置きつつも国を代表する名将として名高い


 そんな彼を筆頭に軍議に参加する隊長たちが部屋に入ってきたメネドールに一斉に立ち上がると敬礼を送る



「良い、皆力を抜いてくれ。」



 軽く手を挙げ皆の敬礼に応えたメネドールが席に付くと同じように全員が席に着く


 控えていた文官が状況を説明していく。当然此処に集まった全員が知っている事ばかりではあったが、確認の意味を含めて全員が黙ってそれを聞いていた



「さて、皆の意見が聞きたい。遠慮しないで述べてくれ」



 文官の説明が終わりメネドールの言葉に隊長たちが意見を述べていく・・・が、いずれも実戦経験豊富な優秀な隊長たちだ。自然とその意見は同じような物になる


 こういう場合、戦いのセオリーや今迄の経験を総合していけば(おの)ずと正攻法に落ち付いて行くものだ。ましてや防衛戦である、兵数も練度も足りている状況ならば奇策を行わずとも実績のある方法を取りたくなるのが心情だろう


 カモーラの街に駐留する領軍の本体は約一万。その他に冒険者や傭兵などが約五百、徴収可能な民兵が約三千というのがサウスバーグ領の兵力であった


 砦に駐留する三千の兵に援軍としてメネドールが指揮する五千を回し、民兵との混成の六千をカルルク将軍が指揮してチュバル公国軍と対峙するべし、と言うのが会議の流れになっている


 普通ならば対抗するに十分な兵力であり特に問題は無い筈だ。しかし、今回は同時に二国が示し合せて攻めて来ており、いつも通りという訳にはいかない可能性もある。それを不安視するからこそ態々(わざわざ)軍議を開いたのだから、各隊長達の発言にメネドールは不満を露わにしていた



「よろしいか?」



 これまで腕を組んだまま沈黙を守っていたカルルク将軍が重い口を開き、メネドールが頷くのを見てそのまま言葉を続ける



「チュバル公国の迎撃に閣下が指揮する一万。砦には冒険者と傭兵を中心にした五百で結構。民兵は臨機応変に対応できるようカモーラの街で待機としたい」



 その発言に会議室がざわざわと騒然とする。それを気にもしないで言葉を続けるカルルク将軍と黙って聞き入るメネドール



「勿論、砦へは儂が行きまする。しかし一つだけ・・・」


「言ってみろ」


「殿下のお力をお借りしたい。」



 ピクッと反応するメネドールの片眉。そして隊長たちは信じられない様子で否定の言葉を述べる


 此処にいる隊長たちはアルベルトが盗賊や魔物の討伐を行っているのを知っている。しかしそれは優秀な家庭教師、バイマトとカイヤの二人がいるからこそであり砦での防衛戦に役に立つとは思えない


 仮に初陣の功績を与える為ならばもっと簡単な戦で良いだろうし兵も豊富に揃えるべきだ


 アルベルトはまだ五歳。焦って危うい戦いに身を晒すことは無いのだ


 隊長たちが騒然とする中、メネドールは黙ったまま思案している。奇を狙ったとしか思えない発言をしたカルルク将軍も黙ったままだ


 騒然としていた隊長たちがメネドールの言葉を待つかのように少しずつ静寂が会議室を包む、まるでそれを待っていたかのタイミングでメネドールが発言する



「今日の軍議は此処までだ、各自準備を進めろ。明朝もう一度軍議を開く」


「「「「はっ!」」」」



 隊長たちが出ていった後もそのまま部屋に残ったカルルクとメネドール。



「それで?どういうつもりか聞かせて貰おうか?」


「なに、儂も混ぜてほしくなっただけじゃよ」



 先程までと違い砕けた口調で話し出す二人。お互い長い付き合いだ、既に気心の知れた仲になっている



「儂も二人からの話を聞いている。単純な強さだけではなく、他の面でもその才能を伸ばしてやりたいではないか」


「簡単に言ってくれるな。ソフィアにどう説明すれば良いと思ってるんだ?」



 カルルクもアルベルトが成し遂げた討伐の話は当然聞いている。しかし彼はその内容を詳しく調査した上で隊長たちとは違う結論を出していた



「あの二人がどんなに優秀でも、それだけでオークの集落を潰したり、街道に巣くっていた三十名の盗賊を倒す事は出来んよ。ウマルも優秀じゃが奴は内政タイプだしな」


「気付いておったか・・・」


「当たり前だ。誰か優秀な頭がおらんかったら無理な事ばかりだぞ」


「しかも本人の実力もかなり高い、と報告を受けておる・・・」



 誰も気づいてはいなかったが、メネドールが密かに付けた調査部の護衛が全てを報告をしており、アルベルトの実力や作戦立案能力までキッチリ把握しているメネドール。


 勿論マーリンは知っていたが態々アルベルトに話す必要は無いと考えていた。誰の指示か判っていたので特に告げる必要を感じなかったし、普段の親バカの姿からは想像できないがこれでも優秀な統治者なのだ。それくらいの事は当たり前に行っていると思っていたからだ


 但し、メネドール達は実際に作戦を立てた上、サポートまでしているマーリン(やり過ぎ賢者)の存在までは気付いてはいない。


幾ら優秀な五歳児とは言えその辺りはマーリンのサポートあってこその結果であったのだが、メネドール達には守護霊の存在までは考えもつかなかった



「あの帝国が何も作戦無しで挑んでくるとは思えん。しかも八千からの兵などと大規模に軍を動かしたからには何かある筈だ」


「だからこそか・・・」


「最悪でも殿下の命は儂が守る。公国の方もお主が指揮する上に三倍の兵力ならば問題はあるまい」



 カルルクは自身が戦場で散る事を(いと)うタイプではない。しかしメネドールが戦場で傷ついた場合はサウスバーグ領全体の問題となる


 敵に策が有るのが予想できる以上は此方も何かしらの用意が必要になる。三倍の兵力に守られたメネドールならば何かあっても逃げることが可能だろう。そして自身が捨て身で守れば敵に比べて寡兵とは言えアルベルトを逃がす位は出来る


 ならば、再起は可能だと考えた末の策だ。それにカルルクにも勝算が無い訳ではない。砦を使った防衛線であれば大量の兵士は必要無いし、寧ろ優秀な魔法使いが揃った方がやり易い。しかもアルベルトの実力を知ることまで出来るのだ


 自身の楽しみも多分に混じっているカルルクの考えを見抜きながら、暗部からの報告も含めて考えた場合カルルクの言う作戦はそう悪いものではないと考え込むメネドール


 為政者としての判断と親としての心情の狭間で揺れるメネドール。若干ソフィアへの良い訳に悩んでいる部分もあるのだがそれは内緒だ。


 翌朝の軍議に同席させられたアルベルト。


 その場のメネドールの発言には隊長たちも驚いている。勿論何も聞いてないアルベルトも驚いている



「南下するチュバル公国軍に一万の兵を持ってこれを叩く。アラクラ帝国に対してはアルベルトを総大将にカルルク将軍を補佐に付ける。兵力五百をもって援軍に迎え!」



 有無を言わせぬメネドールの発言に隊長たちは席を立つと敬礼を持って了承を示す。


 抗議の声を上げたいアルベルトではあったが、既に会議室はそれを言い出せる雰囲気ではない


 こうして前代未聞の総大将が五歳児という作戦が決行されることになるのであった


主人公の出番なし・・・しかも無駄に長くなってしまいました


ここから話が一挙に動き出します。ヒロインも登場の予定ですので楽しみにしてもらえたら幸いです


読んでいただいて有難うございます


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