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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第四章 動乱編
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救出作戦~②

「ラモーヌ、みんなの事お願いね」


「ブルルル」



 夕方まで待って行動したアルベルト達は、丁度夜中に村の裏手にある森へと到着する。 ここからは徒歩で侵入する為、ラモーヌ達はお留守番になる



「アルベルト様、どうか兄上を」


「はい、レベッカ王女」


「バイマト殿、お頼み申す」


「おう、任せときなって」



 ラーモヌたちだけでは無くレベッカ王女達も此処でお留守番という事になっていた。 センゴクやジェニーの着る全身鎧は隠密には不向きであったし、戦う術を持たない王女を連れての侵入は如何なアルベルト達であっても流石に不可能だ。 


 第一、村から目的地である軟禁場所まではソコソコ距離が有るのだ。 幾ら真夜中と言っても馬蹄や馬車の音を響かせては直ぐに気付かれるので此処から先は徒歩で向かわなくてはならないのだがレベッカ王女にはその体力すらないだろう


 幸い森の中であれば一晩くらいは隠れるのに充分であったしセンゴクやジェニーたちがいれば獣や魔獣程度であれば王女を護り切れるだろう


 ラモーヌも馬とは言え、戦闘用のデストリア種。 しかもその馬格の大きさから繰り出す四肢での攻撃は馬鹿に出来ないのだから護衛としても十分に働いてくれるだろう



「ヴィク、お願いね」


「ん・・・こっち」



 スススっと滑る様に先頭に立ったヴィクトリアが闇の中を走る。 新月とまではいかないものの細くなった月の光はその姿を隠すには打って付けであった。 小柄な彼女の姿はすぐ後ろを走るアルベルトでさえおぼろげにしか見えない


 おそらく得意の闇魔法での隠蔽も施しているのだろう。 アルベルトの後ろを走るバイマトにはその姿が見えない。 しかし夜目の利くエルフであるカイヤが並走しながら案内し、その後ろをウマルとエリザベスが付いて来ていた



「村の様子は?」


「ん・・・寝てる」


「それなら詰所までまっしぐらだな」



 先行するヴィクトリアは更にその先に眷属である闇人(シャドウ)を走らせ斥候役を任せている。 彼等達からの報告では夜中という事もあり村人は寝静まっている様で特に問題は無い様であった


 ならば最初の関門は村と別荘地との境にある詰所だ。 だがセンゴクの話では常駐の兵士が二名いるだけという話なので無力化は難しく無い。 アルベルト達が手を下すまでも無く、闇人(シャドウ)達に後ろから忍び寄りキュッ、とやってもらえば十分であった


 彼等の戦闘力はそれほど高くないがその分隠密性は非常に高い。 通常の兵士程度であれば気が付く事さえ困難だろうし騒ぎになる前に始末してくれるはずであった


 しかし、そこにアルベルト達の油断、いやもっと小さい物、そう気の緩みと呼べる程度の物があったのかも知れない。 


村の中央を走る街道を音も無く走るヴィクトリアの前にそれは突然現れた様に見えた。 しかし暗闇から現れたそれの動きは決して早くは無い、ユラユラと揺れる様にして始めからそこにいたのだ。 


 ただそれは一切気配を発していなかった。 暗い見通しのきかない街道を走るヴィクトリアや闇人(シャドウ)達は視覚情報よりも【気配察知】の方に重きを置く。 故に気が付かなかった、夜の帳に溶け込むような真っ黒な襤褸を纏ったソレは良く見れば人の形をしている、しかし虚ろな瞳は何も映しておらずただそこに在るだけだったから・・・



『いかん!ヴィクトリア!!」


「ん・・・!!」


 音にならないマーリンの言葉を聞いたヴィクトリアは猫科の猛獣のようなしなやかさで飛び掛かり、神速の踏込から繰り出したその拳は確かにソレの頭部を粉砕した 


 だが、先頭を走っていたのがアルベルトであったならば結果は変わっていただろう。 アルベルトとヴィクトリアの違い、アルベルトが剣を使うのに対して彼女の得物は自身の拳だ、彼女が懐に飛び込む速度はアルベルトを上回る、しかし一歩、いや指一本分でもリーチが長ければ・・・



「キシィュオオオオォォォ!!」



 言葉では無い。 口から漏れたのは呼吸の様な空気の動き。 それは音には成らなかった、音になる前にヴィクトリアが頭部を粉砕した。 だが、それでもソレは大気を振るわせて仲間に異変を知らせる。 


 と、同時にアルベルトは周囲の異変に気が付く。 世界から断絶されたような気配。 周囲の音も聞こえなくなっている上に【気配察知】もある線を境にその先を感じられない



「まさか結界!?」


『死方結界?奴等こんな物まで・・・来るぞ!奴等だ、ミンツァーの徒だ!!勢いに飲み込まれるな!!』



 建物の中から、その陰から・・・一体どこにこれほどの数が隠れていたのかと言う様にワラワラと湧いて出てくる。 ユラユラとした動きであったがソレは確かに仲間に呼ばれ出てきたのだ


 そしてその虚ろな瞳がアルベルト達を認めた・・・その瞬間それらは爆ぜた。 いや、身体が爆ぜた訳では無い。 しかしそうとしか表現できない程に急に動きが変わる。 



「キィィイィイヤァァアァ!!」


「べス、後方から魔法で援護!ヴィクは僕の後ろで零れたのをお願い」


『魔法は爆発で吹き飛ばすか凍らせて封じ込めるかのどちらかじゃ。 貫通系は効果が薄いから気を付けろ』


 アルベルトが一歩前に踏み出しその身体から眩い闘気(オーラ)を吹き上がらせる。 そのままテンゲン作の剣にそのオーラを乗せて空を横薙ぎにすると切っ先から生まれた剣閃が先頭を走るミンツァーの徒の胴体を斬り裂く。 だが、上下に別れたソレは下半身を置き去りにして腕の力だけでアルベルトに飛び掛かる



『首だ!身体を攻撃しても動きは止まらん。頭を叩き潰すか首を飛ばせ!!』


「ウマル、そっちは任せた」


「判りました。 カイヤは魔法の準備を!!」


「べス!私に合わせなさい!!」



 アルベルトが放った剣閃はミンツァーの徒を止めるまではいかなかったが、彼が稼いだ時間は虚を突かれた仲間たちに落ち着きと態勢を整える時間を与える



「アル、行くぞ!!」


「バイマト!」



 バイマトが大剣を高く掲げてミンツァーの徒達を引き付ける。 十分に引き付けたバイマトがそのまま振り下ろした大剣で上下では無く左右に両断する。 だがミンツァーの徒は頭部を破壊され動きを止めた仲間の姿に怯む事も戸惑う事もしなかった。 後ろから現れた新たなミンツァーの徒はただその腕を伸ばしバイマトを引き寄せようと迫ってくる



「チッ!こいつ等!!」


「バイマト、一体だけを狙っちゃ駄目だ」



 すかさずフォローに入ったアルベルトは先程の様に剣閃を飛ばすのではなく、刃長を伸ばすようにオーラを噴出させる。 そのまま肩の高さで横薙ぎに振るうと、その軌道に有ったミンツァーの徒の首を複数纏めて薙ぎ払う



「弟子に教わるたぁ情けねぇ!」



 悔しそうな表情のバイマトから吹き出すオーラはその心情を反映する様にアルベルトよりも大きくそして暴ぶっていた。 見た目の美しさでは純白に僅かに蒼が混ざるアルベルトのオーラは人の眼を捉えて離さない、しかしバイマトのオーラはその凶暴さでアルベルトを上回る威力を放つ


 そのまま先頭を走るミンツァーの徒を一閃したバイマト。 だがその後ろから更には仲間を飛び越えて現れるミンツァーの徒は止まらない。 奇怪な叫び声は鯨波となって後に続き、それらは既に濁流と化していた


 個であり群、自らが斬り裂かれる間でさえも仲間が一歩踏み出す為の布石とでも言う様に襲い掛かってくる。 いや既にそんな事を考える思考は残っていないだろう。 ただ貪欲に仲間に引き込むためだけに自分たち以外の者を襲うだけ


 動きそのものは早くない。 人の限界を超える動きと言っても抑々が通常の人のステータスを越えるバイマトとアルベルトにしてみれば捉えられない動きでは無い。 しかし刃筋を立てて剣を振るうには彼等とて時間は必要だ。それが瞬きよりも早くともその瞬きの間に間合いを詰めてくるミンツァーの徒にジリジリと後ろに下がるしか無かった



「抱え込まないで下さい!!」


「ん・・・私たちもいる」



 振り回されるメイスと真っ直ぐに伸ばした拳が横合いから襲い掛かろうとしていたミンツァーの徒を吹き飛ばす。 無力化した訳では無い、ただ吹き飛ばしただけではあったが後方へと飛んで行ったソレが一瞬の停滞を齎す



「暗き底に在りし冷たき風よ舞い踊り斬り裂け!氷国の風(ニブルヘイム)!!」


氷極瀑布(コキュートス)



 そこへ突き刺さるカイヤとエリザベスの魔法。 短縮詠唱で紡がれた冷たい風は氷の魔女に相応しくミンツァーの徒を凍てつかせ斬り裂く。 そこへ無詠唱で放たれた瀑布が上から押しつぶしながら周囲のミンツァーの徒を氷の牢獄へと閉じ込める



「って、まだ来やがるのか?」


「バイマト、合わせて!!」


 両手に剣を持ち左下手に構えたアルベルトの剣と右下手に構えたバイマトの大剣。 示し合せて切り上げた二人の剣閃が凍りついた仲間を飛び越えて上から襲い掛かる波を斬り裂く。 もはや頭部を破壊などといった細かい狙いを付けられる余裕は二人には無い。 しかし四肢を断たれ身体を引き裂かれてもなお動くミンツァーの徒はヴィクトリアとウマルが頭部を破壊して動きを止める



『カイヤ!エリザベス!!もう一度じゃ』


「人使いが荒いわね!!氷国の風(ニブルヘイム)


「まったくよ!!氷極瀑布(コキュートス)!」



 マーリンの叫びに咄嗟に繰り出したカイヤの魔法は無詠唱故に先程よりも大分威力が落ちる。 だが、本来は氷系の上位魔法である、ニブルヘイムを無詠唱で放てる者事体が少ないのだ。 A級冒険者であるカイヤだからこそ出来る事だった。


 一方のエリザベスは魔法神の加護のお蔭で無詠唱でも即座に大魔法を放てる。 魔力を練る時間は必要であっても抑々の魔力量が桁違いの彼女であればマーリンの叫びに合わせる事は難しくない


 しかし、この世界でも傑出した二人の魔法使いが放った魔法はその形を表すことは無かった



『世界を構築する微たる粒子よ、我に従い世界に干渉せよ!!』


「ちょっと!私達の魔法を取り込んだっていうの!?」


「アル!結界を!!」


『世に満ちよ氷の世界!!絶対零度(アブソリュート・ゼロ)!!』



 アルベルトの頭上に浮いているマーリン。 彼はかつて魔法の深奥を覗こうとし、その淵にまで辿り着いた伝説の賢者である


 彼が自らの魔力だけでは無く二人の優秀な魔法使いの魔法を取り込み更に完全詠唱で放つ究極の氷結呪文


 それが生み出したるは一面の白銀・・・


 世界を構築する微細な分子すら動きを止めたその世界。 そこに立つ氷像は人の生み出しし狂気の生き物。だが、月の光を受けてキラキラ輝くそれらが生み出すのは只々美しい世界だった・・・


普段とは少し文体を変えてみたのですがどうだったでしょう?


臨場感を出す為に色々やってみたのですが・・・


普段と変わってないかも?

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