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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第四章 動乱編
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公国での夜~②

『みな集まった様じゃな』


「うん、それで話ってなんなのマーリン?」



 食事を終えたアルベルト達は軽い打ち合わせをした後、各自が休息を取る手筈になっていた。 慣れているアルベルト達が夜番をするという事にしてレベッカ姫たちを馬車の中に押し込む事に成功した彼等はマーリンの声に耳を傾ける



『うむ。王女の話を聞いておっての、終末教の奴等の事を話しておいた方が良さそうじゃと思ったのじゃ』


「終末教?奴らが危ねぇ連中ってのは判ってるぜ?」



 バイマトが言う様にマーリンは既に終末教の危うさを皆に話している。 彼が生きていた時に奴等が仕出かした事件や最終的に国家との戦争にすら発展した終末教の危険性は此処にいるメンバーには既に認識されている



『少し具体的な話をしておこうかと思っての』


「具体的にってどういう事?」


『うむ、終末教は最終的には巨大な宗教集団になっていたのは既に話たじゃろう。 しかし幾ら巨大な宗教集団であっても複数の国家と矛を交えて戦える、その事が異常だとは思わんかったか?」


「そうね、聞いてた時は実感なかったけど言われてみればおかしな話しよね」



 抑々、終末教に参加していたのは一般の民衆が殆どであり、一部の貴族が私兵として持ち込んだ者が僅かにいただけだ。 その他にも冒険者や兵士なども改宗した者はいたが組織立って参加した戦力はその程度であった


 確かに数だけで言えば終末教の信者の数は膨大であったが、各国の軍はプロであり対集団戦の訓練を積んできた者達だ。 数に差が有ろうとも戦う術を持たない民衆が勝てる筈も無かった


 だが、実際には終末教の抵抗は頑強で各国の軍は手痛い被害を何度も受けた。 それどころか序盤では都市の幾つかも終末教に陥落されたりもしたのだ



『奴等はある方法で民衆を一流の諜報員に、そして兵士に変えたのじゃよ』


「ん・・・洗脳?」


『それと催眠じゃな』


「催眠?そんな程度で役に立つの?」


『いや、場合によっては洗脳よりも催眠の方が有効なのじゃよ。尤も儂らも奴等にそれを知らされたのじゃがな』



 催眠は暗示などによって本人の意思を誘導する事は出来ても本人が忌避する、例えば殺人や強盗などまでを行わせることは出来ない。


 一方の洗脳は本人の意思とは関係なく使用者の意のままに操る事は可能だが、短期ならばともかく長期に亘ってそれを施された人物は自己崩壊して廃人と化してしまう



「戦死しちまうような雑兵には洗脳。諜報員は催眠で操っていたて事か?」


『もっと性質が悪いのう。本人は諜報員だという事すら気が付いておらんかった』


「気が付いていない?そんな事できるの?」


「うむ。ある意味宗教だからこそじゃかな」



 宗教という物はある意味洗脳や催眠に近い事を良くやる。 集団での祈祷や説法会で狭い密室を使ったりサクラを混ぜて集団意識を操作する事は大なり小なり行われている事だ 



『街や村に住む普通の民衆がそれとは気が付かない内にある行動を取る。しかし本人は無意識での行動じゃから諜報員を探しても見つからない』


「一体何をやらしたんだ?」


『鳩じゃよ。軍を見たらこの鳩を飛ばす、敵の諜報員を見かけたらこの鳩を飛ばす。それをすり込ませてあった』


「鳩?鳩ってあのクルッポ~の鳩?」


『その鳩じゃ。一部の鳩には帰巣本能の強い種がおるからの』


「それを使って軍の動きを把握してたって訳?」


「はん、それなら本人には負担にならねぇな。なにせ自分の国を裏切ってる訳じゃない、ただ鳩を飛ばしてるだけだ」


『そう言う事じゃ。鳩を使った伝令なんて手段は当時には知られておらなんだし本人も何をしたのか覚えておらんのだから随分と煮え湯を飲まされたものじゃ』



 本人すら自らが諜報員になっている事を気が付いていないのだから周りの人間がそれを気が付く筈が無いだろう。 しかし終末教と戦う各国の軍隊はそれで動向を見破られ随分と苦労したらしい



『共通点に気が付かんか?』


「ゲンカって男が帝国軍を破ったって話ね?」


「そうか!遠くから指示を出してたんじゃなくて移動しちゃったら鳩が持ってくる情報が来ないって事なんだ!」


『そうじゃ。鳩が齎す情報で帝国軍の背後を着いたのじゃろうな』


「しかも洗脳や催眠を応用すりゃあ兵士の質は関係ないって事か」



 レベッカ王女たちが語ったゲンカという男の有能さは、終末教の戦い方を経験したマーリンにはその邪な技術を用いた物と同じに感じられた。 農政に関しても催眠や洗脳を有効に用いればその効率も上がるだろうし、敵対する派閥が無いのも異常なスピードで出世したのもその辺りを駆使した可能性が高い


 つまりゲンカは終末教の新しい姿であるザービス教と深い係わりが有るだけでなく、終末教が用いていた邪法にも精通している可能性が高い



「この先に洗脳魔法で人格を破壊した兵士達が待ち受けてるって事だね」


『薬物と洗脳魔法で生み出された兵士達、確かにその戦闘力は凄まじい。じゃが奴等は催眠をも使ってもっと恐ろしい集団を創り上げたのじゃよ』


「ある集団?ナニそれ、やな感じね」


「ん・・・不気味」


「ちょっと!どさくさまぎれに狡いわよ!!」



 エリザベスがマーリンの言葉に不吉な物を感じたのか身震いと共に心底嫌な顔をすると、それに表情も変えずに同意したヴィクトリアであったが、アルベルトの腕にしがみ付く理由が欲しかっただけの様な感じだった



「もう、二人とも大人しくしててよ」


「で、マーリンさんよ。その集団ってのは?」


『うむ、ミンツァーの徒と呼ばれる厄介な奴等じゃよ』



 真面目な雰囲気を婚約者たちが台無しにしてしまうのをアルベルトが嗜めると、代わりにバイマトが先を促すと、マーリンも緩んでいた表情を引き締めるとその集団の名を告げる



「ミンツァーってあのミンツァーで良いの?」


『ほう、未だに伝わっておったか・・・由来はかのミンツァー卿で間違いないの』



 過激なカルト教団の様なものは存在しなくとも神が身近に感じられるからこそ真っ当な神の教えは存在する。 当然信心深い敬虔な人物も当たり前の様に存在するがミンツァー卿はその中でも別格の人物であったと伝わっている


 神の言葉を信じ行動する彼はどんな苦痛にも耐え、迫害を撥ね退けてその使命を果たしたと伝わっている。 最後は神殿に行く彼を阻もうとした心無い衛兵が捕え首を刎ねたが、その信心は首が無くとも彼を神殿に走らせたと言う


 端的に説明すると不気味な話にしか聞こえないが、神殿に辿り着いた彼は神の奇跡によって祝福を受け復活を果たし幸せに暮らしたという内容だ


 マーリンの時代にもその話が有ったと言うのだからいつから彼の名前が伝わっているのかは判らないがお伽話や昔話の類に相当するそれは小さい頃には必ず聞かされる話であった



「首を刎ねられても死なない集団・・・アンデッドって事か?」


『いや、もっと性質が悪いのう。奴等は薬物による精神操作と長い催眠による暗示で肉体の限界を取り払い徹底的に教祖への忠誠心を叩きこまれる。 更に洗脳魔法によって精神を破壊され歯止めを失った奴等はただ命令に従って破壊だけを齎す死の集団じゃ』


「破壊だけを齎す死の集団・・・」



 本来は信仰の美談であるミンツァー卿の話も見方によっては死すら恐れぬ狂信の末に不死の力を得たと言える。 そう言った意味で彼の名を冠するミンツァーの徒は正に狂信者の集団であった


 しかも彼等は終末教が長い時間を掛けて造りだした人工的な狂信者達だ。 只の民衆とは言え肉体の限界を超えた力を発揮すればその力は驚異的な物になる。 思考という枷を取り払われた彼等は自らの身体を守る事すらしない、ただ目の前の敵に殺到し掴みかかり引き倒し、そして喰らい突くのだ


 アンデッドであるゾンビやグールも似たような行動を取るが死体故にその動きは早くなく、しかも本能的に光属性や聖属性を嫌う為、集団で現れても対処の方法は幾らでも在る



『奴等は例えその身体が火に包まれようとも向かって来るし、城壁などは仲間の身体を土台にして登って来るのじゃ』


「なによそれ・・・」


『エリザベスの言うた言葉、当時は本当にそう思ったものじゃよ』


「そんな厄介な奴等どうやって倒したんだ?」


『初めは魔法で焼き払ったりと何とか出来たんじゃがな、その内身体に魔道具を埋め込んできおっての』


「なんだよそれ・・・」



 今よりも魔法が隆盛だった時代だからこそ出来た事であったが、大規模な魔法を使った作戦は当初は効果的だったが終末教も対抗策として体内に魔封じの魔道具を埋め込むなどしてきたらしい。


 しかも内包する魔力を使い切ればそれで役立たずになる魔道具を体内に埋め込む事で人体に内包する魔力で賄うという非道を行ってだ。 当然、安全装置も付けられていないその魔道具は体内の魔力を吸収し続けて最終的にはその身体は死を迎えるが、どの道ミンツァーの徒と化した彼等は肉体の限界を越えれば朽ちてしまうのだから同じ事とは言える


 しかし、だからと言って通常の精神であればそのような手術が出来る筈も無い。 それを行える狂信者によって作られた狂信者の集団、それがミンツァーの徒であった



『まぁ幸いと言って良いかどうか判らんが、ミンツァーの徒を造りだすには時間が掛かる様でな最終的には何とか駆逐できたのじゃ』


「それって根本的には解決できないって事じゃあ・・・」


「そんなのがこの先に居るってのか?」


『いや、その可能性は薄い。奴等に複雑な命令を与える事は出来んから解き放ってしまえばそれまでじゃ、自らの陣営すら荒す危険性がある以上は攻撃にしか使えんよ』


「それなら良いけどよ」


「いや、そうとは限らないのですか?ゲンカという男が公国に愛国心を持っているとは思えませんよ」


「ウマル!」


「あんた・・・いたの?」


「いましたよ!そこのテントだって私が立てたんですよ!!」


「いや、ずっと喋らねぇから・・・」



 焚火を囲んでの話し合いに微妙な空気が流れるのであった・・・

説明回が続いてますが、大事な事なのでもう少しお付き合い下さい

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