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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第四章 動乱編
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隣国の姫~④

「ヒャッハ~!ついに追いつきやしたぜ、お頭!!」


「隊長って呼べつってんだろうが」



 興奮する部下達を怒鳴り付けるお頭ではあったが、その表情は喜色に染まっている。 山道の長さと自分達の速度を考えれば追いつく事は予想できていたが、それでも不安はあったのだ。 睡眠もソコソコに夜通し追い掛けてきた甲斐があったという物だった 



「ひ、姫様。危ないですぞ」


「もう、爺やの方こそ危ないから引っ込んでなさい」



 ピュンピュンと風を切って届く矢の音も気にせず馬車から身を乗り出して後方を気にする少女。 彼女を気遣って咎める老人であったが、逆に体勢を崩して少女に支えられてしまう



「姫、大人しくしていて下され」


「後方は我らが護りますからどうかご安心を」


「そんなの良いから!前だけシッカリ見てればいいの!!」



 馬車の後方を駆ける騎馬には護衛役の騎士が随伴しているがその数はたった二人だ。 しかも馬車が前方を走っているので道の凸凹を確認する事も間々ならない。 その状態ではとても後方の追手の状態を確認する事は出来ない  



「見えるだけで二十騎!弓を構えてるのは前方の四騎よ!!」


「お嬢様、此処から先はもっと道が荒れますからシッカリ掴まっててくださいよ」


「バサラ信用してるから頼むわよ」


「お任せください」



 おそらく、後方を確認できない騎士達の代わりに安全な馬車に乗る自分が後方を確認するつもりの少女だが、その身を護るのを第一とする護衛役の騎士達にしてみれば大人しく馬車の中に引っ込んでいて欲しかった


 護衛役にお付きの爺や、そして唯一、少女を咎めない年若い御者を含めた五人がこの一行の人数だった。 少女の信頼に応えるべく少年が必死に手綱を操る馬車は大きな窪みや岩を避けながら、しかし出せる速度を限界まで出して山道を駆け抜ける



「センゴク様、此処は私が・・・」


「いや、まだ早い。それにそれは儂の役目だ」


「なに下らない事言ってるのよ!王国に行くのはみんな一緒って言ったでしょ!!」



 馬車を逃がす為の時間稼ぎを言い出す若い騎士に年配の騎士が答える。 少女の言葉を信じれば相手は二十騎からなる小隊だ、若い騎士一人では時間稼ぎにも成らないだろう。 それならば自分が残った方が確実に時間を稼げる自信が彼には有った


 だが、彼が仕える主人はそれを許すつもりは無い様で先程よりも大胆に身を乗り出した状態で叫ぶ。 おそらく中で爺やが必死で支えているに違いないが、その様子を想像するとセンゴクと呼ばれた騎士の顔には笑顔が浮かぶが逃避行の最中という事で直ぐにそれを引込める



「いいか、無理するんじゃねぇぞ。 まだ王国までは距離が有るんだからな」


「へい、おかし・・・隊長。いいかお前ら無理するんじゃねぇぞ!」


「兄貴任せといてくだせぇ」



 お頭と言い掛けた参謀役はいつもの癖で呼びそうになるが、ギロリと睨まれて言い直し誤魔化すように部下達に向かって叫ぶ。


 当然、それは護衛である二人にも聞こえるが年配の騎士は自らの予想が当たっていたのにも係らず苦い表情であった。  



「こうしてると昔を思い出しやすね」


「まぁな、でも油断するんじゃねぇぞ。 相手は商人の馬車って訳じゃねぇんだからな」



 逃げる相手がそんな表情をしているとは知らず、後方で悠然と馬車を追い掛ける参謀役とお頭は余裕の表情であった


 元々が山賊だった彼等にしてみれば逃げる馬車を追い掛けるのは慣れた事だ。 一見有利に見える後方からの追い上げだが、油断して無理に追いつこうとすれば手痛い反撃を受ける事を彼等は良く知っている。 それならば牽制程度に弓を放ち相手が疲れてミスをするのを待った方が確実だという事を経験則で知っていたのだ。


 ましてや自分達は騎士団に召し抱えられたと言っても所詮は山賊、たった二人とはいえ相手は根っからの騎士だ。 馬上での戦いは相手に分があるだろうし幸い王国まではまだ距離が有るのだから焦る必要は無かった


 センゴクにしてみれば功を焦って近づいて来てくれれば馬上での有利な状態で時間を稼ぎながら戦えたのだが、山賊上がりの追手達はだからこそ不用意に近づかない


 ある意味、追う方と追われる方で共通の認識の結果は奇妙な追いかけっこを産み、それは緊張を孕んだまま続いて行くのだった



「此処から先は道が少し開けます。 それさえ過ぎれば王国までもう少しです」


「判ったわ。 センゴクもう少しよ!!」



 御者の少年はどうやらこの道を知っているようで馬車の中の少女にそれを伝える。 少年は馬車の少女を安心させる為にそれを告げたのだが、少女はあくまでも護衛と共にと思っているのか後ろの護衛に向かって大声で叫ぶ


 だが、参謀役の声が護衛に届いた様に少女の叫びもまた追手のお頭たちに届き、当然それは間にいる下っ端たちも聞く事になる。 



「おい、やべえぞ。此処で逃げられたら骨折り損だ」


「ああ、お前先に行け。援護は任せときな」



 それは奇妙な緊張を破るには十分な物でお頭が指示を出す前に功を焦った下っ端が距離を詰める。



「センゴク!近付いて来るわよ!!」


「ジェニー、お前は先に行け!」


「ですが・・・」


「この道幅では二騎が精一杯だ。 疲れたら交代するから馬車を護っててくれ」



 今迄は散発的に届いていた矢が急に数を増した事で少女の叫びが無くとも追手が焦れてきた事に気付いたセンゴクは若い騎士に指示を出す。 名前からも判る通りの女性騎士はそれに反対するそぶりを見せるがセンゴクは譲らない



「絶対ですよ!?無理はしないで下さい」


「心配するな無理をするつもりは無いから、黙って先に行け」



 流石に交代するとまで言われれば指示に従うしか無く速度を上げる若い騎士の背中を見送るセンゴク。 勿論、無理をするつもりは無いが交代するつもりも無いセンゴクは娘の様な年齢の彼女を見やりフッと笑みを浮かべる


 彼女が騎士団での初陣の時も緊張したような不安の混じった表情をしていたと思い出していたのだ。 しかしそれも一瞬の事だ、腰に差した長剣を抜いた彼は徐々に左に寄りつつ追手が追い付くのを待つ


 右利きの彼が思う存分に剣を振るおうと思えば敵を右側に置いた方が有利になる。 しかし進んで道の端に寄るという事は相手に押し出されて道を外れる危険も高まる。 だが自身の跨る愛馬は彼と同じく歴戦の強者だ、幾度の戦いを経験を潜り抜けた彼女ならばそんなヘマをしない



「さぁ来るならサッサと来い!」


「ヘッ、おっさんが粋がってるんじゃねぇぞ!」



 やや後方から振るわれた剣を大胆にも手綱を離し両手で振りかぶった剣で叩き落とすセンゴク。 愛馬を信用しての事では有ったが下っ端にはその動きを予想できなかった。 大きく体勢を崩した所へ呼吸を合わせたセンゴクの愛馬が体当たりを見舞うと落馬した下っ端は悲鳴を残して後方へと流れていく



「ケッ、間抜けめ。 こういう時はチクチク攻めるんだよ」


「フンッ!!」



 落馬した下っ端を脇目に見ながら次の追手が迫る。 言うだけあって慎重に攻めてくる新しい下っ端は数合センゴクと打ち合う事に成功するが、気合と共に振るわれた剣を捌きあぐねてしまう。 慎重すぎるその攻撃には威力が掛けているのだ。 馬上での戦いで距離が開いた状態でそんな攻撃を繰り返してもセンゴクに手傷すら負わせられない



「馬鹿野郎!馬車が逃げちまうだろうが!!」


「チッ、気付かれたか」



 徐々に速度を落とす事で馬車を逃がそうとしていたセンゴクだが、いち早くそれに気付いたお頭が大声で叫ぶ。 



「弓矢だ!矢を放って馬を仕留めろ!!」


「へ、ヘイ!」



 とはいえ、王国が近付いてきたという事で余裕の無い事を悟ったのか、そのまま攻勢に出る事にしたのだろうお頭の指示が飛ぶ



「クッ!拙い」


「センゴク!早くこっちに来なさい」



 狙い撃ちにされるセンゴクは速度を上げて馬車へと近づくが、どの道馬車を追い越す訳にはいかず結局は追手との距離はドンドン縮まってしまう



「へっへっへ、これだけ近付きゃあグギャッ!!」


「ギャア!」


「なんだ!?どうしたってんだ」



 距離を詰めて狙いを付けた下っ端であったが、それを放とうとした瞬間に悲鳴を残し落馬する。 続いて後ろを走っていた他の部下達も落馬する様子に焦るお頭



「てめぇら馬くらい満足に乗れねぇのか!!」


「ち、違うんですお頭。こいつが飛んできたんです」



 落馬した下っ端に跳ね返ったそれを受け止めた後続が差し出したのは拳大の石であった。 何処から飛んできたのかは判らないが明らかに下っ端たちを狙ったソレは距離を詰めようとしていた彼等の足を鈍らせるには十分だった   



 ☆△☆△



「ん・・・判った」


「ヴィク、どうかした?」


「ん・・・追い付かれた」


「何よ、気付かなかったの!?」



 闇人(シャドウ)からの報告を聞いたヴィクトリア。 その様子に気が付いたアルベルトの問いに申し訳なさそうに答える


 公国と王国の国境でもある山道はヴィクトリアの部下であるヴァンパイアと眷属である闇人(シャドウ)が監視している場所だ。 当然、逃げる馬車も彼等の監視下にありもっと早くに追手に気が付かねばならなかった



「ん・・・ごめん」


『そう言うでない。 幾らヴァンパイアといえども馬車を追うのは大変じゃろうて』



 エリザベスの問い掛けに素直に謝るヴィクトリアをマーリンが取り成す。 実際、山道に配置されたヴァンパイアや闇人(シャドウ)の数はそう多くない。 あくまでも監視が任務であり疾走する馬車を追うとなれば交代も必要であり監視が緩くなっても仕方なかった


 ましてや山賊上がりの追手達は夜通し追い掛けてきたのだから気が付くのが遅れるのも無理は無かった



「それで馬車は無事なの?」


「ん・・・なんとか」



 言葉足らずなヴィクトリアは説明を省いたが、センゴクの窮地を救ったのは闇人(シャドウ)達であった。 彼等は隠密行動に長けてはいるが基本的には戦闘は苦手だ。 


 これが夜であればその真価を活かして後ろからサックリ行けるのだろうが、流石に昼間に馬上の追手達の首をサックリとするのは難しい


 だが、何処からか飛んでくる投石でも追手達に取っては脅威であり足止めとしても十分だった。 追手に気付くのが遅れたとはいえ闇人(シャドウ)の行動は任務を十分に遂行したと言える



「急ぐよ。ラモーヌ!」


 此処から先は自分達の仕事だとでも言う様に短い言葉と共に愛馬の手綱を扱くアルベルト。 それに応えるように先頭を走るハサンを追い越したラモーヌは森の入口へと速度を更に速度を上げるのだった・・・



遅くなってすいません。

抜歯の痛みに邪魔されながらの執筆はちょっと大変でした


しか~し、なんとこんな作品を評価して下さる方が二名もいた自分には歯痛など何てこと無いんです・・・って20時に間に合わなかったんですけどね


ブクマも増えて感謝感激でございます


評価して下さった方、ブクマして下さった方ありがとうございました



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