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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第四章 動乱編
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隣国の姫~③

「お頭~此処で野営したみたいですぜ」


「隊長って呼べつってんだろ!」



 身に纏う煌びやかな鎧に全くそぐわない連中が開けた場所を調べていた。  王国へと続く山道に入る手前のその場所には、一応は誤魔化しているが見る者が見れば判る野営の跡が残されていた



「燃えカスの具合から考えれば、そう日は経ってないな・・・」


「へい、ですが昨日や今日じゃありやせんぜ」


「二日、いや三日か・・・まだ追いつくな」



 山に入る手前とはいえ獣も出れば魔物も出る場所である。 野営するとなれば当然火を熾す訳でその燃えカスから時間を読む事は慣れた者ならば不可能ではない。 ましてや相手は護衛の騎士達だ、冒険者の様に隠蔽が上手い訳では無く情報を読み取る事は然程難しくは無かった



「野郎ども!まだ間に合う、気ぃ締めていくぞ!!」


「「「おう!!」」」



 頭と呼ばれた男の号令に野太い声が答える。 着ている鎧には似合わない粗野な雰囲気の男達ではあったが一応の統率は取れている様で颯爽と山道へと馬を走らせていく



「へっへっへ、これに成功すりゃタンマリご褒美が貰えるんだから良いトコに就職できたもんだ」


「護衛の騎士様とお姫様、しかも生死は問わずってんなら楽なもんですぜ。こりゃあ山賊より儲かりますね、お頭」


「隊長って呼べ隊長と」


「すいやせん。なかなか癖が抜けなくて」


「王国に入る前に追い付けりゃあこっちのもんよ」


「相手は馬車って話ですから問題ないでしょうぜ」



 整えられていない伸び放題の髭を扱きながらニタリと嫌らしい笑みを浮かべる男に、参謀役なのだろう線の細い他とは違う雰囲気の男がおもねる様に追従する。 


 彼等の身に着ける鎧の肩にはチュバル王国騎士団を示す鷹のマークが印されており正規の騎士団である事を示していた。 しかし矛を交えた事のあるメネドール辺りが彼等を見れば十年前の戦いからの間に何があったのか問い詰めたくなるだろう。 それ程彼等の容姿や言動は騎士から懸け離れた物であった


 だが、細い山道に入っても彼等の速度は落ちないし隊列の乱れも無い。 やや後方に位置するお頭が特に指示する事なく進んで行く様は寧ろ通常の騎士団よりも見事であった 


 それもその筈で参謀役の言葉の通り元々が山賊の彼等にしてみれば山道であっても慣れた物なのだ。 なぜ山賊が騎士団の紋章を身に着けているかはともかく、追手としての彼等はこの場所では非常に優秀な事は間違いない


 この山道を騎馬で抜けるならば彼等でも二日は掛かるが、彼等が狙う獲物は最低でも二日は先行している筈だ。 普通に考えれば間に合うはずの無い距離であったが、しかし相手は山道に慣れぬ騎士とお姫さまを乗せた馬車だ。 彼等ほど速度を出せる訳では無いし休息も必要だろう。 


 それを考えれば追い付けない距離では無いし、追い付きさえすれば僅かな護衛程度はどうにでもなると考えるお頭は再びニタリと嫌らしい笑いを浮かべ手綱を扱き速度を上げるのだった・・・



 ☆△☆△



「それじゃあアトラ爺行って来るよ」


「はぁまんず怪我しねぇ用になすってくだせえ」


「大丈夫だよ、お迎えに行って来るだけだからね。ラモーヌお願いね」


「ブルルル」



 一晩考え抜いた末にアルベルトはラモーヌと名付けた。 かつてその風格と力強さから女王と呼ばれた名牝からインスピレーションを得たその名前を気に入った様でラモーヌはご機嫌でアルベルトをその背に乗せ悠然と歩き始める


 アトラ爺に見送られ出発するアルベルトは山道の入口までの道のりを大体三日程度と考えていた。 正直もっと早く到着する事も可能だが、先行するアトラ爺の息子達やハサンの部下もいる訳でそこまで急ぐ必要は無い



「ヴィク、貴族達の馬車の様子はどうなの?」


「ん・・・急いでる?」


「何か有ったのかしら?」


「う~ん・・・抑々貴族があの山道を通るって事自体がおかしいんだよね」



 この山道は険しいべレス山脈を通るルートだ。 山頂は危険な魔物達も多く住む上に急峻な山肌は人が進むには適していない。 その為、比較的通り易いルートを縫って作られた道は曲がりくねりアップダウンが非常に激しかった 


 確かに公国から街道を通って王国に入るよりは早く着くが危険な獣や魔物が出ない訳では無い。 本来であればそんな道を野営しながら貴族が通る必要は無く、何かしらの事情を抱えている事は間違いの無い事だった



「ん・・・亡命?」


「う~ん、それ位しか思いつかないんだけど、正直考えにくいんだよね」


「まあ小国群で一番大きな国だしね」



 山道の向こうに広がるのは小国群と言われている都市国家の集まりだ。 明確な国家というよりも都市の一つ一つが周辺を治めるという形態のこの地域は、かつて帝国の侵攻に悩まされていた


 その為、小国同士が同盟を組み強硬に抵抗する事で各々の自治を勝ち取っていたのだが、その中でもチュバル公国は最大の国家であった。 中心都市であるチュバルの他に三つの衛星都市を持ち、かつての古代王国の末裔を自負する彼等はその血筋を引くと言う大公が治めている



「公国って血統主義がハッキリしてるから跡目争いも無いだろうし、地理的に他国の脅威が有る訳じゃないんだよね」


「ん・・・理由が無い?」


「そうね、亡命するような事になる筈が無いんだけど・・・」



 貴族が亡命をしなければならない状況など基本的には限られている。 権力争いに負けたか敵国からの侵攻を受けたか、どちらにせよ身の危険から逃れる為に行う物だ


 だが、古代王国の末裔を自負する公国はかなり厳しい血統主義だ。 長子且つ男子である事が絶対条件でそれ以外の者が大公を継ぐことは無い。 どんなに暗愚な者であろうともそこを曲げることは無いという


 これは小国だからこそ出来る事では有るが、大公を支える政治体型が優秀という事もあるのだろう。 しかし、だからこそ権力争いで貴族が亡命という事は有り得ない  


 また、地形的にも公国の位置は小国群の中でも一番奥まった位置にありべレス山脈を挟んで王国と接してはいるが小国群以外の他国の侵攻を受ける様な位置には無い。 つまり小国群で最大の規模を誇るチュバル公国が他国の侵攻を受けると言うのも考えにくかった



『ほっほっほ、あれこれ悩んでも仕方あるまいて』


「そうだね、会って話を聞いた方が良さそうだ」



 マーリンの言う通り此処で推測を述べていても話は始まらない。 少なくとも険しい山道を貴族が抜けなければならないだけの理由はある事は間違いないのだ



「そうと決まれば急ぎましょ」


「ん・・・ダイエット?」


「う、煩いわね!!」


「ははは、ハサン、道案内をお願い」


「判りました。少し飛ばしますよ」



 エリザベスの言葉にヴィクトリアがチャチャを入れる。 エリザベスの動機はともかくこちらに向かっている貴族の事情を考えれば余りゆっくりするのは得策ではない可能性がある


 計画を変更して急ぎ山道へと向かう事にするアルベルト達。 婚約者たちの掛け合いに笑いながらの決定ではあったが、後にこの決定が更なる冒険になる事をアルベルトはまだ知らないのであった・・・


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