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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第四章 動乱編
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隣国の姫~②

「あんれ~領主様でねっか!?こったらさトコまで、まんずご苦労様だってば」


「お久しぶりです、アトラさんも元気そうで」


「んだ。俺っちは大丈夫だし、馬ッコ達も元気だべ」



 セイレケの街から二日ほど馬を走らせデストリア種を生産、育成している牧場に到着したアルベルト達を迎えたのはこの牧場で場長を務めるアトラという老人であった


 アルベルト達は不測の事態(正座でのお説教)のせいで予定よりも出発が遅れたにもかかわらず、途中で野営を挟みながらのゆっくりとした旅路であった。 これが緊急を要していたのであれば、こんなノンビリした行程ではなく森の出口に直接向かうべきであったが、貴族たちは既に諜報部の監視下であり、そう慌てる必要もなさそうだった。 そんな事情もありエリザベスとヴィクトリアの事を考えると途中でゆっくり休める環境があった方が良いと考えた訳である


 幸い貴族達と思われる馬車はまだ王国内に入るには時間が掛かるだろうし特に問題は無かった。まぁ正直、不測の事態(正座でのお説教)が無ければ昨日の内に到着していたのだから今更焦る事もないだろう。



「ハサンさも久しぶりでねっか。まぁその節は世話になっただ」


「いや、アトラ爺こそ急なお願いを聞いてくれて助かった」


「んにゃ、引退間近だった儂だけでなく息子らまで世話んなってホント助かっただよ」



 今回、護衛という名目でついて来たハサンにアトラが声を掛けて礼を言っているのは帝国が消滅した時にハサンが牧場ごと王国に来ないかと誘ってくれた事に対する物だった。 少し背中の曲ったアトラは見た目通りの老人であった為、帝国の消滅も受け入れるつもりであったが、息子家族や従業員の事が気がかりであった為、ハサンへの感謝は尽きる事の無い物だった



「んで、連絡があった通り兵隊さんと息子達がべレス山脈に向かっちょるから、領主様もゆっくり休んでいってけんろ」


「ありがとうアトラさん。お言葉に甘えて今日はゆっくりさせて貰います」


「きゃあー可愛い!ね、アル!あっちの仔馬見に行きましょよ」


「あ~姫さん、あれは生まれたばかりだから駄目だ。母馬に蹴られちまうから見に行くならあっちの柵にしてくれ」



 メネドールが結構な年齢でアルベルトを引き取った事から、どちらかというとお年寄りが大好きなアルベルトがアトラとゆっくり会話しているのをエリザベスがその腕を引っ張って仔馬を見に行くよう強請(ねだ)るが、今年生まれたばかりの仔馬にはしっかりと母馬が付き添っており余程信頼が無ければ無理だとハサンに言われて諦めた様に隣の柵へと移動する



「ふ~ん。こっちの仔馬なら大丈夫なんだ」


「うんだ。生まれて一年もすれば母馬も落ち着くでな。でも、ほらこっちの方に警戒はしとるから驚かせちゃいけんよ?」


「ん・・・凄い」


「なんもなんも。長い事馬に触れとったら判る事ばかりじゃよ」


「でも凄いですよアトラさん。もっと馬の事を教えてくれますか?」


「ハサンさと同じようにアトラ爺でかまわんだで。はあそいじゃくるっと廻ってみるかね」



 遠くにいる母馬は此方等見ていないかのように草を()んでいるが、アトラに言わせると耳の向きからこちらに注意を向けている事が判ると言う。 この辺りは長年の経験が物をいうのだろう、その知識と経験にヴィクトリアだけでなくアルベルト達もアトラに敬意を示していた。 そうしてアトラの案内で牧場を見て回りながらアルベルト達は初めて見る馬達のリラックスした姿に目を輝かせながらその説明に歓心していた



「ブルルッ!」


「おんや、珍しい。おめぇさんが来るなんてよっぽど領主様に興味が湧いたか?」


「アトラ爺、随分でっかい馬だね。」


「この牧場の主みたいなもんじゃな~。んだども中々人に懐かん暴れ馬だっちゃ」



 成長して若さの取れた馬達の放牧場にアルベルト達が差し掛かった時、突然駆けだしてきた馬が柵越しにアルベルトの前ににょきっと顔を出す。 柵の中にいる馬達よりも一回り大きなその馬はデストリア種特有の漆黒の艶やかな毛並みが正に輝くばかりで身に纏う筋肉の躍動感も他の馬とは一味違った素晴らしい馬だった


 アトラがその馬の顔を撫でながら気安く話しかけているが、馬のつぶらな目はアルベルトをジッと見つめて視線を逸らそうとはしない。 しかもアトラは気安く扱っているが、気性の荒い暴れ馬だと言うのだからアルベルトにしてみると睨まれている様で落ち着かない 



「そ、そうなんだ・・・あれ、でも随分大人しいけど?」


「ブルルル♪」


「ほう!?そんなに気に入っただか?・・・領主様、コイツの事貰ってくんないべか?」


「へっ!?アトラ爺、いきなり過ぎない?」


「コイツが儂ら以外に黙って撫でさせるなんて事は今迄無かったっちゃ。これで領主様に渡さんかったら後が怖いっちゃ」



 だが、睨まれていると感じるその視線がまるで「撫でろ!」と言っている様な気がしたアルベルトが恐る恐る手を出すと、気持ち良さそうに撫でられるに任せて(いなな)くのだからアルベルトも悪い気がしない


 しかしその様子を見ていたアトラにとっては非常に驚く事だった様で突然この馬を引き取ってくれないかと言い出す。 しかも理由を聞くと馬の意思を尊重しているというか、尊重しなかった場合を怖がっているというか・・・なんとも表現し辛い理由だった



「殿下、この馬なら能力的にも優れてますし素直に受け取るのが良いかと・・・まぁ素直な馬ならそんな我儘を言わないのですが所謂(いわゆる)暴れ馬が主人を選んだって事は良くある話ですよ」


「ん・・・テンプレ?」


『ヴィクトリア!そんな表現何処で知った?』


「ん・・・ヴァンパイアの叡智」



 ハサンが言う通り暴れ馬が自ら主人を選びその生涯忠誠を誓うなんて話は確かによくある話だった。 だがそれは英雄譚だったりお伽話の上でのお話で、実際には言う事を聴かない軍用馬は処分されてしまうか、牧場で飼い殺しになるかのどちらかでしかないのが現実であり、アトラが言うのはそんな事になる位なら・・・という想いもあったのかも知れない


 ともあれ実際に能力の高い暴れ馬がアルベルトに懐いたのは事実であり、折角の立派な馬なのだから素直に受け入れる方が良いに決まっている訳だしアルベルトにも拒否する理由は無かった


 因みに「テンプレ」という言葉に反応したマーリンは賢者の知識、発言したヴィクトリアは長い時を生きるヴァンパイアの叡智という事らしい・・・まさにgo to go主義であった



「まぁ・・・そうだね。アトラ爺が良いっていうならそうするよ。と、いうより僕もそうしないと後が怖い気がする」


「んじゃ名前を付けてやってくんろ。」



 気持ち良さそうに撫でられていたその馬は、アルベルトが撫でるのをやめようとするとギロッって感じで睨み付けてくるのだ。 ここでやっぱりいらないとか言ったら、それこそ柵を乗り越えて蹴り飛ばされかねない。 そんな気配を漂わせる位には迫力のある馬だった



「う~ん・・・名前、名前か~・・・直ぐには思い付かないな」


「こくお「ストップ!べスそれ以上はややこしくなるから駄目!」う号?」


『エリザベス!お主、どこでその名を知った?」


「え~と世紀末なんちゃらってお伽話?」


「ん・・・まつか「ってヴィクも駄目だからね!作者同じだから!!」ぜ?」


『また、ヴァンパイアの叡智か?』



 婚約者たちの際どい発言を素早く遮るアルベルト。 まぁ黒くて大きな馬の名前ならばすぐに思いつきそうな名前なのでしょうがないのかもしれないが、色々面倒になりそうなのでアルベルトの判断は正しい



「因みに雌だで、可愛い名前にしてくんろ」


「って、コイツ雌なの?」


「ブルルル♡」


「んだ。この群れの女王だで変な名前にしたら騎兵隊に使う馬達も怒るで気ぃ付けてな」


『まさか馬まで・・・とことん女難に遭うようじゃな』


「うう・・・マーリン。流石に僕もそう思うよ」



 マーリンが小声でアルベルトだけに聞こえるように呟く。流石に此処まで続けばアルベルトも認めるしか無く力無く同意せざる得なかった


 取敢えず名前は明日の出発まで保留という事にしてアトラ達が暮らす家にお邪魔する事にしたアルベルト達一行。 若干此処に来た目的を忘れていたのは色々仕方なかった・・・


ちょっと寄り道…


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