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守護霊様は賢者様  作者: 桐谷鎭伍
第四章 動乱編
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それぞれの思惑

「猊下、バーン殿から書簡が届いております」


「そうか。どれどれ・・・フン、まぁ予想通りか」


 豪華な執務室の椅子に座ったまま部下が持ってきた手紙を開いて、その内容を鼻で笑った人物こそザービス教の教皇であり帝国を打ち滅ぼし支配者の座を奪い取った人物であった



「では、やはり友好条約まででしたか?」


「まぁ、彼奴にしては良くやった方だろう。所詮は戦バカ達の神輿に過ぎんからな」



 辛辣な表現で斬り捨てる教皇の言い方であったが部下の枢機卿もその言い分には賛成なのか薄っすらと笑みを浮かべて無言を貫いいていた


 ここ、聖ザービス神国には貴族という者は存在しない。 やがて生まれる新たな世界の神アポフィスに敬服した者は基本的には同位の者と説いてる為だ。 しかし宗教組織としてのザービス教はそれで問題ないのだが国家としてはそうもいかない


 バーンの実家ボッヒュ家の様にザービス教がまだ小さい時から経済的に支え、更にバーン本人も帝国打倒の過程で武勲を上げたとなれば、それなりに優遇しなければ国家として成り立たないので一応何かにつけては役目を申し付けて取り立てているフリをしているのだった



「ザービス教の布教のためには手段を選ぶつもりは無い。アポフィス様の降臨にはまだまだ力が必要なのだからな。とはいえ今はまだ時期が悪すぎるのも確かだ」


「そうですな。領土の安定とザービス教の布教。先ずは折角奪ったこの足場を固めるのが先決でしょう」


「フフフ、バーンたち戦バカには後々役立って貰わねばならん。今は適当に餌を与えていい気分になっていてもらおう」


「でもいずれは・・・」


「そう言う事だ、例の薬の増産はどうなっている?」


「そこは、帝国の貴族共は数だけは多かったので苗床の数も十分です。領土安定に使う分を引いてもじきに十分な数が揃いましょう」


「よし、計画通り先ずは周辺国と友好条約を結び時を稼ぐのだ。そして期が熟した暁には・・・」


「いよいよ我らが神アポフィス様の降臨へと向けて行動を起こすのですな」


「フフフ、気付かれるなよ?時代遅れの神々とはいえ何処にその目が光っておるか判らんからな」


「心得ております。」



 恭しく頭を下げて退出していく枢機卿にも、そして豪華な執務室の椅子に座る教皇にも宗教指導者とされる者達共通の慈愛に満ちた表情は欠片も無かった。そこに在るのは狂った欲望の眼差しだけだった・・・



 ☆△☆△



「あなた、国王様がセイレケの街に来ていたと・・・」


「うむ、俺の方にも報告は来てるな。まったく何でもかんでも押し付けおってからに・・・」



 領都であるカモーラの街から動かなくともサウスバーグ領で起こった事ならば殆どの事が報告される。 広大な面積を持つサウスバーグ領、しかも王国で唯一外国と接している以上はその辺りの情報網はきちんと整備されている


 ましてや子煩悩なメネドールがアルベルトの事で情報収集に手を抜くはずも無く、セイレケの街で起こった事は手に取る様に判る位の密偵を潜ませてあった



「アリーとかいう奴隷は信用できるのですか?」


「う、うむ。そこまで知っておるのか・・・取敢えずは大丈夫じゃろう。彼女の眼は主人の栄達の役に立つ事しか向いておらし、契約魔法の事もあるから裏切る事は無いだろう」



 自身の密偵と同じ情報を掴む位の情報網をソフィアが築いている事に驚きながらも、アリーの事を説明していくメネドール。 浮気などした事の無いメネドールだが自身の周りにも密偵が居ないか不安になってしまったのは内緒の話だ



「これじゃあ何時まで経ってもアルちゃんに会えないじゃない。ねぇあなた・・・いっその事王国から独立しちゃいません?」


「ハァ?なにを言い出すんだ、いきなり。そんな事をしたら・・・ん!?問題ないか?」


「ええ、そうですよ。アルちゃんのお蔭で作物の収穫も増えたし、商業も活性化して税収もうなぎのぼり。この間、バイマト達がダンジョンを攻略してくれたから更に冒険者達も集まって来てるし・・・ねぇ?」


「はい。現状、王国からの支援も受けていませんし戦力的にも本国に引けは取らないかと」



 ソフィアのとんでもない提案に一瞬驚きながらも良く考えてみれば、特に問題が無い事に気付くメネドール。 確かにアルベルトのお蔭でセイレケの街だけでは無くサウスバーグ領全体が非常に潤っており王国の元にいなければならない理由は無いと思えた。 しかもソフィア付きの侍女であるロッテが資料の束を持ち出して具体的な数字を示しながら説明するものだから余計にメネドールもその気になってしまう



「ハッハッハ!久しぶりだなメネドール。ちょっと近くまで来たから顔を出したぞ」


「チッ!・・・これはこれは陛下、良くぞいらっしゃいました。でもいきなり来られては歓待の準備も出来ませんぞハッハッハ」


「舌打ち!?ねぇ今舌打ちしたよね?」


「ハッハッハ気のせいでしょう、このメネドールは陛下の忠実な臣下です。」


「いや、その机の上の書類!それどうやって見ても・・・」


「あら、陛下。これは只の収支報告ですわ。サウスバーグ領全体の事を数字化しただけの物でやましい事など御座いませんわホホホホホ」



 ソフィアがそう言って笑っている隙にロッテがパパパッと書類を隠してしまった為にジオブリントも追及できなくなってしまう。 しかしこんなタイミングでの来訪なのだから国王側にも優秀な密偵が居るのだろう



「して、陛下今日は転移まで使っての来訪とは何か急ぎのご用ですかな?」


「いや、何、なんか不穏な気配を感じたのでな・・・」


「またまた陛下はお戯れがお好きなようで、臣は王国に忠誠を誓っておりますので陛下が不安になる様な事はございませんよ?」


「そうか、いや、そうだったな。儂の勘違いじゃったか!ハッハッハ」


「嫌ですわ陛下ったら、もう。ホッホッホ」


「ハッハッハ。ところでメネドール。その、なんだ・・・」


「ああ、神国の件ですな。まぁ友好条約の締結はしょうがないでしょう。アリーとかいう奴隷もまぁ妥当な判断でしょう」


「そ、そうか!そう言ってくれるか!!」


「ええ。もうそれはしょうがない事ですわ・・・お蔭でアルちゃんに全然会えませんけど」


「んぐっ!」



 執務室に乾いた笑い声を響かせながらまるで三文芝居の様な演技を続ける三人だったが、一応は先程の不穏な計画の件をハッキリ口に出すのはお互い憚られる様で傍から見れば滑稽な事でも当事者にしてみれば大事な事であった


 しかし、ソフィアの放った一言はボソッと呟く程度の小声であっても王の背中に冷たい物を流すには十分で、キラリと光るその眼光も相まってジオブリントは思わず呻いてしまった



「ソフィアよ、そう陛下を困らせるものではないぞ。王国に仕える者としてアルベルトも重要な役目を果たしているのだ。そこは我慢せんといかんぞ」


「そ、そうじゃぞ。アリーという奴隷は優秀な文官でもあるからなアルベルトも少しは余裕もできるじゃろうて。儂からも偶にはカモーラへ顔を出すように言っておく。ソフィア殿もそれで勘弁してくれ」


「あら、陛下に態々すいません、嫌ですね女って・・・でもこれで王国も安心ですわねオホホホホ」


「いや、なに大したことでは無いぞアッハッハハッハ・・・って、ホントにくれぐれも頼むぞ?」



 メネドールの私室に響く乾いた笑い声は、屋敷で働く者達に警戒させるには十分なもので、ロッテ以外の侍女達は私室に近付こうともしなかった。 


 後日、緊急の命令書がセイレケの街に届き、王家直轄の伝令兵が不眠不休で届けたそれを開いたアルベルトに怪訝な顔をさせたのだが取敢えずは一週間ほど里帰りをしたことで王国の平和は守られた


 その際メネドールの近習ロステムがアルベルトに語った話では見えない稲光が部屋から漏れ出しているようなピリピリした空気が漂っており、そこに近づく事を許さなかったと話した事で、もう少し頻繁に里帰りする事を誓うアルベルトだった


 こうして神国と王国は表面的には平和的に、しかし内面では不穏な動きを隠しもせずに準備を進めて行く


 嵐の前の静けさとでも言うべき平和な時間は、しかし残り少ない時間で確実に動乱へと変わるのであった・・・


前の話の後半もそうだったんですけど、いい加減シリアスがキツイ・・・え?そんなにシリアスでも無いだろうって?作者的にはシリアスなんです!!


そう言う訳で後半のメネドール達の部分も少し遊んでみました


サウスバーグ領が王国から独立する予定はありませんのでm(__)m


読んで頂いて有難う御座います

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