第一話 プロローグ
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「ご主人さま。お水をお持ちしました」
部屋のベットに横たわる儂に召使型の魔法生物が水を持って入ってくる。所謂ホムンクルスと言われる人造の生物だ。命令された行動では無い。儂の様子から必要だと考えて持ってきてくれたのだろう
ここまで自立した思考を持ち、姿も人と変わらない物を創れるのは世界でも儂だけだ。長い人生を費やした研究の成果だ。
儂の名はマーク・マーリン。この世界で唯一の、いや歴史上と言っても良いだろう偉大なる【賢者】の称号を持つ者だ。世界の知識を集め錬金術を極めた儂は悲願の不死の研究に破れ、こうしてベットに臥している。研究に基づいた儀式が失敗した以上、残された命の灯にはもう幾何の猶予も無いだろう、研究が敗れた事に悔いはない、しかし儂の知識を後世に残せなかったのはあまりにも残念だった
元々、生に執着が有って不死を研究した訳では無い。誰かに個の知識を託したかったのだが、その為には時間も無かったし託したいと思える者もあらわれる事が無かった。その為の延命の手段として不死を研究しただけだ
「チャンよ、儂の死後この研究室は閉鎖せよ。そしていつかやってくる資格ある者に全てを託すのだ」
「ご主人様。私はセバスチャンです。略すならばセバスが通常ですと何度も・・・ご主人様?ご主人様??」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「ご主人様の願いしかと承りました。安らかにお眠りください」
こうして賢者マーク・マーリンの生涯は閉じた筈だった・・・
そう、無念のまま生涯を閉じた筈だったのだ
「・・・さい。マー・・・リンよ。・・・起き・・」
何か聞こえる。・・・
「起き・・・。マーク・・・目を・・・すのです」
誰かが儂の名を・・・
「起きろって言ってんだろうが!!このへぼ賢者!!」
「ドカ!」
って、うお!吃驚した。いま儂の頭を蹴らなかったか?
「目が覚めましたか?マーク・マーリンよ」
「今、口調変わってなかったか?」
「マーリンよ、汝の願い叶えましょう」
「・・・」
儂の意見などは無視するつもりらしいな。話の展開が急すぎるぞ。こういう場合は逆らっても無駄じゃな、まずは話を聞かねばなるまい
「申し訳ありませんな。長い事眠っていたようで事情が判りませんので説明をお願いしたいのだが・・・」
「私の名前はアスタルテ。慈愛と豊穣の女神です」
女神だと・・・
儂はセバスチャンに全てを託して生涯を終えた筈じゃが・・・願い、そう儂の願いはこの知識の後継者を育てる事じゃ
「そうです。道半ばで倒れた貴方に救済を与えるのが私の仕事です」
「救済とな?」
「はい。本来は転生を用意していたのですが・・・」
「ですが?」
「あなた自身が行った儀式に邪魔されて叶いませんでした」
儀式じゃと・・・
まさか最後に行った不死の儀式か?しかしあれは発動しなかった筈じゃ!
「いえ、私が阻止させていただきました。あのままでは不死の化け物、知恵や知識などを失ったアンデッドになっていたでしょう」
そうか・・・やはり急拵えの儀式では不完全であったか。計画では不死の王リッチになれるはずじゃったのだが、どこで間違ったのじゃろう?やはり魔方陣か?いや素材が足りんかったか・・・う~んあの胡散臭い商人に頼んだのが間違いじゃったか・・・
「って、人の話を聞け~!」
うぉ!吃驚した。口調が変わり過ぎだぞ、この女神さま・・・
「兎も角、貴方の研究の続きは本来、転生後に続けて貰う筈でした。が、此方の予想もつかない儀式のせいで転生が不可能になったのです」
「ふむ。それはすまんかった。で、こうして儂を起こした以上は何かあるのでしょう?転生の準備が整ったとか?」
「転生は無理です。もう二度と輪廻にすら戻れないでしょう」
・・・輪廻にすら戻れない。それって結構残酷な結末では無いのか?
「しかし、貴方の望みは知識の後継者の筈ですね」
「うむ、そうじゃ。儂の研究を託すに値する者を探しておった」
「ならば肉体は要らないでしょう。もうすぐ一人の少年が生を受けます。彼は神々の加護を授ける予定なので彼を守護しなさい」
「はい?いきなり守護って!?大体そのような事聞いた事が・・・」
「うっさいわね~。アンタのせいでこちとら創造神にこってり怒られたのよ。つべこべ言わずに逝きなさい」
「って、変換おかしいよね。行きなさいだよね」
「うっさい!良いわね。彼を守るのよ!そして貴方の後継者として育て上げなさい!」
そう言って振り上げた指をこちらに指す。「ドォーン」って感じの効果音と共に儂の意識は急速に暗くなっていく
「あっ言い忘れた。貴方の死後・・・」
おい!死後なんだよ!!最後まできちんと説明しろ~
読んで頂いて有難うございます