異世界でのお仕事
「今日から姫様のお世話係になりました。黒霧 舞っていいます。本格的な仕事は明日からになりますが、ご挨拶をしておこうと思って」
すると、姫様がベッドから顔を上げて私を見る。
私を見た姫様は、美しいエメラルドグリーンの瞳を少し見開いた。
「あなた、異界からきたの?」
「はい、その通りです。やはり、黒髪黒目は珍しいのでしょうか?」
「えぇ、とても……。でも、綺麗ね」
「ありがとうございます。私は、ミスティ様の髪の色も瞳の色も、綺麗だと思いますよ」
ミスティ様は、白に近い薄い金色の髪で太陽の光に当たったら、さぞかし美しく輝くであろう髪色をしていて、肌の色もとても白く美しい……。
まるで、妖精みたいだ。
「そう、かしら……でも、あなたも私を外には出してくれないのでしょう?」
「はい、それはできません。」
「やっぱり……今までのお世話係の人達と同じね……」
私より前に、お世話係が何人かいたらしいのだが……、どの人達もミスティ様を利用して兄であるミストラス様と、お近づきになろうとしたらしい。
それが、どの人もいわゆる良いところのお嬢様で、ミストラス様と結婚して次期王妃の座につきたいと思っていたらしい。
ミスティ様は、そのことに敏感に気付きその度に暴れて、その人達を困らせ最終的に辞めさせていたらしい。
どうしようかな……王宮の中だけだとけっこう大変だな。なにか屋内でもできること……。
あ、お菓子作りならできるかな?
「ミスティ様、甘いものはお好きですか?」
「えぇ、大好きよ。甘いものを食べると、幸せな気持ちになるわ」
「では、ご自分で作られたことは?」
「自分で作る?したことないわ」
「そうですか、それでは明日お菓子を作って持ってきますね」
「あなた……作れるの?」
「はい、元の世界でも作っていたので。ただ、こちらの食べ物が向こうと同じなら、すぐにつくれますが違うとなると、少々時間がかかるかもしれませんが」
「そうね……楽しみにしているわ」
「はい、では今日はこれで下がらせて頂きますね。それと……ミストラス様にも、お顔を見せてあげてください。とても、心配なさっていますから」
「……分かったわ」
「それでは、失礼致します」
私は、ミスティ様の部屋から出て外で待っていたティグリスさんのところへ行った。
「どうでしたか?ミスティ様の様子は」
「少し元気がないように思いましたけど、お菓子の話をすると、目を輝かせていました」
「お菓子?」
「はい、そのことでお願いがあるんです」
「なんでしょう?」
「お菓子を作る許可が欲しいんです。あと、こちらの食材についても教えていただきたいんです」
「お菓子を、マイさんが作るんですか?」
「はい、元の世界でも作っていたので食材のことさえ分かれば作れると思うんです」
「あ、ミスティ様はお菓子が好きでしたね……」
「できれば、ミスティ様がお菓子を作る許可もいただきたいのですが…」
「……分かりました。厨房に連絡をしておきますね、ミスティ様の件についてはミストラス様に話しておきます」
「お願いします。厨房の件は、できるだけ早いと助かります」
「分かりました」
それから、私は許可が出るまで部屋で過ごすことになった。
許可が出たのは、その日の夕方近くだった。