拐われて~イル~
「離しなさいよ!あの女を連れてきなさい!」
「黙れ、でなければ強制的に黙らせるぞ」
「私にこんなことして、許されると思ってるの!私はヤングル家の娘よ!」
「やはり、強制的に黙らせなければいけないな……」
「うっ!」
「少し、静かにしていてもらおう……」
俺はイル。
ルチーナ王国の隠密部隊の隊長をやらせてもらっている。
今回、俺にはヤングル家が裏で何をやっていたのかの証拠集めと、異界から来たという女を見守ることが、任務として与えられた。
「隊長、この女どうしますか?」
「ここの牢にでもいれておけ、タリウス様達が来たら処遇をどうするか判断する」
「はっ!……それと、マイさんは部屋で休んでもらっています」
「分かった」
「失礼します!」
今から牢に入れる女は、ベルリーナ・ヤングル。
この国でも、由緒ある伯爵家の令嬢だった。
“だった”というのは、今回俺が調べてヤングル家が行った不正を暴いたからだ。
今頃、タリウス様たちが摘発しているころだろう。
俺はここ数日、ヤングル家を調べていてその証拠となる帳簿を手に入れ、タリウス様達がいるヤングル家の第3の離宮へ行き報告した。
それから、俺は異界から来たという女を守るように言われ、離宮に留まりタリウス様達はヤングル家へ向かった。
しばらくすると、ヤングル家にいる隠密部隊の奴が、ベルリーナが屋敷から抜け出しこちらに向かっていると知らせてきた。
俺は、異界から来た女を逃がすために動き出した。女はけっこう体力があるらしく、けっこうな距離を走っても泣き言も、文句も言わずについてきた。
すると、そこにベルリーナが追い付いてきていた。
屋敷はすぐそこだったため、女に早く中に入るように言った。
中に入ったのを確認して、ベルリーナを待ち構える。ベルリーナは社交会ではけっこう有名だ、だが……今はそんな影もない。
ベルリーナ様を捕らえて、今に至っている。
あとは、タリウス様達が来るのを待つだけだ。
「イル隊長、マイさんは医者に見せなくてもいいんですか?」
「……呼んでおいてくれ、できれば女性がいい。きっと、服で見えないところも蹴られたりしているだろうからな」
「分かりました」
あの女、よくここまで走れたもんだ……。
あんな大怪我と、熱が出ている状態で。
今回、あの女はタリウス様の思い人だと勘違いされて拐われたらしい。
あの人の女好きにも困ったもんだ。
そのフォローをティグリス様がやっていて、たまに本当にティグリス様が不憫に思えてならない。
とりあえず、タリウス様が来るまでは一人にした方がいいだろう。
この件で、タリウス様の女好きが少しでも落ち着けばいいが……。




