嵐が来た
異世界での生活にも慣れ、ミスティ様とも姉妹のように仲良くなった頃、嵐が来ました……。
それは、私がいつものようにミスティ様のお菓子を用意して、部屋へ戻る途中のことでした。
「ちょっと、そこの女」
「はい?」
声のした方に振り向くと、ナイスバディの女性がいた。
「お前……その黒髪と黒の瞳、お前が……」
彼女が探しているのが私だと理解した時には、彼女の平手が私の左頬にヒットしていた。
「っ~……」
「ふん、これに懲りたらタリウス様には近づかないことね」
そう言うと、彼女は機嫌良く去っていった。
誰だろ?
タリウスさんの知り合いの人、だよね……とりあえずお菓子を届けて、タリウスさんのところに行ってあの人が誰なのか聞いてみよ。
トントン
「ミスティ様、お菓子をお持ちしました」
「マイ!その頬どうしたの!?」
「そんなに凄いですか?」
「待ってて」
ミスティ様は、手鏡を持って私に見せてくれた。
そこには、左頬が真っ赤に腫れている私がいた。
「これは……すごいですね」
「感心してる場合じゃないでしょ、誰にやられたの?」
「それが、分からなくて。ミスティ様にお菓子を届けてから、タリウスさんのところに行こうと思ってて、その人タリウスさんの知り合いらしいので」
「全く、タリウスの女癖の悪さも大概にしてもらわないと、マイみたいに何の関係もないのに被害を受ける人が多く出てくるわね……、とりあえず冷やしましょ。それから誰か、タリウスとティグリスを連れてきて」
ミスティ様の指示で、私に冷たくしたタオルを渡された。
しばらく冷やしながらミスティ様と話をしていると、扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
ミスティ様が答えると、扉からタリウスさんとティグリスさんが入ってきた。
すると、二人とも私が頬にタオルを当てているのを見つけた。
「どうかされたんですか?マイさん」
「なんだ?誰かに叩かれたのか?」
「その通りよ、タリウス。でもそれは、貴方が手をつけた女性よ」
「なんだと!?誰だ?」
「さぁ、初めて見る方でしたので名前までは……」
「それでは、髪の色と瞳の色は?」
「えっと……確か、髪は紫色で瞳は薄いもも色でしたよ」
「ベルリーナ様ですね……」
「そういえば、今日から何週間か滞在するんだったな……」
「どういう方なんですか?」
「ベルリーナ・ヤングル、伯爵の地位を与えられているヤングル家の方です。とても美しく、聡明で社交界でも名の知られた方です」
伯爵令嬢なのか……。
どうりで、上から目線だったわけね。
「団長、女癖を早く直して下さい。じゃないと、またマイさんが狙われないとも限りません」
「いや~こればっかりはな~」
「団長!」
「まぁまぁ、ティグリスさん」
「マイさんもマイさんで、なんでそんなに落ち着いているんですか……」
「もう、起きてしまったことは仕方ないですよ」
「それは、そうですが……」
「命に関わるようなことでもないですから」
「まぁ、そうね。マイの言うとおりね」
「大丈夫ですよ、また何かあればちゃんと言います」
「……分かりました」
「タリウスさんもそれでいいですね?」
タリウスさんは、私の頬の腫れが自分が手をつけた女性だと知ってから、言葉を発していない。
何か考えているようだった。
「……あぁ、分かった。だが、何かあれば必ずいえよ」
「はい」
その日はそれで、解散した。
でもその日から、地味な嫌がらせが私の身の回りで起きるようになった。