わたしときみのあかい糸
わたしがきみの目をのぞいたら、きみは黒目だけ右にそらした。
わたしがきみの手をさわったら、きみは背中の後ろにかくした。
わたしがきみの足を踏んだら、きみはよろけてしりもちをついた。
わたしがきみのからだの上をまたいで立つと、きみはそのままゆっくりと後ろにさがった。
わたしがきみにいやなの?ときいたら、きみは、さがるのをやめてなにもこたえなかった。
わたしがきみの上に乗ると、きみはふるえる両手で顔をかくした。
わたしがきみの両手にわたしの両手を重ねたら、きみはぎゅっとにぎってきた。
わたしがきみの力のつよさにおどろくと、きみはナミダを流してわたしをつきとばす。
こんどはわたしがきみに見下ろされて、きみはナミダをわたしにふらす。
あいしたくない、ときみが言う。
いいよ、とわたしがこたえたら、きみはさらに泣きだした。
ぼくをくるしめるな、ときみがわたしのよこに座り込む。
わたしは起きあがり、きみのあたまをなでると、きみはうらめしそうに、にらんでくる。
こわいよ、とわたしが目をそらすと、きみは笑いだした。
わたしはよくわからなくて、わらえないでいると、きみはわたしをやさしく抱きしめた。
ぼくのほうがあなたをこわがっている。
満開の桜の木の下で、わたしはそっとかくしていた鋏をとりだした。
あいがこわいなら、あいをできないなら、わたしときみはここでしのう。
こんなこころのままなら、はなれてなんて生きられない。
わたしが鋏をかまえると、きみはこのうえなく幸せそうにめをとじた。
わたしときみのつないでしまったあかい糸。
切ると血がながれるのかな?
桜が舞い散るこの世の片隅で、私と君は、さようなら。




