第一話 ~古遊び編~ 授業
■俺も先生?
ここ白戸郷分校には先生が一人しかいない。
正確には校長とクラスの担任の先生の二人だが、校長は普段は・・・校長っていつも何してるんだ?
校長先生は授業を担当しない。
でも1クラスしかないから楽。というわけでもないんだな。クラスの生徒の学年はバラバラ。ともなると教えなければならない事も違ってくるわけだ。
つまり何が言いたいのかというと、先生は大変だってことだ。
ひえ~~~・・。
「まゆみせんせー、ここなぁに?」
「ちょと待っててね、すぐ行くからね~。」
「せんせ~僕も教えて~。」
真由美先生、頑張れ。
心の中からエールを送った。
「ねぇ京輔ここは?どうやんの?」
俺にもいるんです。もっと厄介な教え子が。
「ね~~え~~京輔~聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。」
「で、これ教えて。」
「待て。これ小学校高学年の問題だぞ・・・。なんで解けないんだよ!」
「解けないものは仕方ないじゃ~ん?」
「仕方ないじゃありません!ユウを見なさい!静かに真剣に・・・ん?」
「えへへ~、京輔君教えてほしいな~・・。」
「どこだ・・・って綾乃と同じようなところかよ⁉」
真剣にやってるもんだからユウは大丈夫だと安心していた俺がバカだった。
「お前らなんのために学校に来てんだよ・・・。」
「ん~なんだろ。たしかになんのため?」
綾乃が腕を組んで考え始める。
「勉強しなさい。」
「ユウはね~みんなに会いに来てるよ~。」
「嬉しいけどちゃんと勉強もしような?」
「勉強とかやってらんないよ~。」
綾乃がブツブツ文句を言い出すがいつもの事だ。
「あやちゃん、せっかく京輔君が教えてくれてるんだし頑張ろ?」
ああ!もう!なんていい子なんだ!
「ユウには俺がしっかり教えてあげるからな。あんな事やこんな事までな。」
「あ、あんな事や、こ、こここんな事にそんな事まで・・・・・。」
なにを想像しているのか、レポート提出してほしいくらいだ。
綾乃は机に突っ伏してうめいている。
「そんなんじゃ一日もたねぇぞ。」
「べつにいいよ~、寝るし~。」
「寝かせねぇよ。」
「キャー京輔君ったらだいたーん。キャー。」
「んな棒読みで言われたら恥ずかしいもんも恥ずかしくねぇよ。」
「寝・・・寝かせ・・・・。」
ユウはまた妄想世界へ。
「話が逸れ過ぎだ。ほら!わからんとこはどこだ!この京輔先生が教えてや・・・・。」
リンリン リンリン
授業の終了を知らせるベルが鳴った。このベルは校長が鳴らしているらしいが・・・。やっぱり校長はなにをしてるんだ?
「くぁ~、終わった~。」
綾乃があくびをしながら背伸びをする。
「アホか。次の授業もみっちり教えてやる。」
「ぐえ~~~。」
「ごめんね京輔君。京輔君も勉強しないといけないのにユウたちのせいでできないよね・・・。ごめんね。」
「ん、あぁ、問題ないぜ。都会にいた頃は毎日毎日勉強漬けで勉強はできる方だ。」
「そうなんだ、すごいね!」
「かぁ~!頭いいヤツは羨ましいね。」
「それにユウたちに教えることで俺も復習になってるから感謝してるよ。」
小学校の問題を復習してもあんまり意味は無いが・・・。
「なに?都会じゃそんな勉強しないといけないわけぇ?」
「そうだな~成績が良くないといい学校も行けないしな。」
「子供はもっと自然と触れ合って体を動かすべきだよ!ほら、なんだっけ、子供はーえーっと・・、海!子供は海の子って言うじゃん!」
「風の子だ。それにここに海なんてないし、言い間違えるなら山の子にしてくれ。しかもその自然と触れ合って体動かした結果がお前だろうが。」
「あはは~・・・。」
ユウも苦笑いしている。
都会にいた頃はこんな風に友達に教えたりすることなんて一切なかったし、クラスメイトは点数を競う相手としか思っていなかった。
それに比べここでは成績の良し悪しなんて関係なく、みんなが教えたり教えられたり。俺は勉強だけじゃなく、”クラス”というものを教えられた気がする。
「京輔君どうしたの?」
「いや、ちょっと考え事。」
「ま~たスケベな事考えてたんでしょ?」
「お前じゃあるまいし考えねえよ。」
「なにそれ~、まるで私がいっつもスケベな事考えてるみたいな言い草じゃーん?」
「白宮くん、榊原さん、静かに。」
綾乃のせいで注意されちまったじゃねえか。
リンリン リンリン
授業開始のチャイムだ。
「日直さん、号令お願いします。」
「きょーつけー!れい!」