第一話 ~古遊び編~ 登校
■東雲ユウ
「京輔くぅ~ん!おっはよ~ぅ!」
こっちに向かって元気に手を振る女の子。彼女こそが俺がお袋にからかわれる原因だ。
毎朝律儀に待っていてくれるから文句は言えないが。
「おう、おはよう。ってはえーなー。」
「言ってくれたら迎えに行ったのに~。」
「やめてくれ。マジで。」
お袋にからかわれたくない。ってのもあるが、なにより恥ずかしい!
・・・女の子に家まで・・悪くはないが・・・。
「あっそうそう、ほいこれ。」
鞄から小袋を取り出す。
「ん?なぁにこれ?」
「土産の鈴のストラップ。」
「わぁ~!ありがと~!大事にするね!」
どこに付けようかな~。なんて言ってる。そこまで喜んでもらえるとなんだかこっちまで嬉しくなってくるぜ。
「ちなみに俺とお揃いだ。」
言いながら自分の鞄に付いた鈴を見せる。
「わ・・・わぁ・・・・お、お揃い・・・・ひぅ・・。」
赤面して俯く。ちょっとからかってみるか。
「嫌・・・だったか?」
「う、うぅん!嫌じゃないよ!嫌じゃない・・・・けど・・・。」
「けど?」
「・・・・・ひぅ。」
なんとも面白い反応をしてくれるな。いつやっても飽きない。いやこれはいじめじゃないぞ。なんていうか、わかるだろ?
「俺も嬉しい。ユウとお揃いで。」
「・・・・・・ボンッ。」
ユウの頭から蒸気機関車みたいに煙が出ている。
おーいお袋。ここに俺よりからかい甲斐のあるヤツがいるぜ。
ととと、紹介が遅れたがコイツは東雲 ユウ。
人の言葉に一喜一憂して面白いリアクションをしてくれる可愛いヤツだ。
「すまんすまん。冗談だよ。」
「ひ、酷いよぅ・・京輔くぅん・・・。」
酷いってか、普通ここまで照れないと思うのだが口には出さないでおく。
「そういえばね、京輔君がいない間みんな寂しそうにしてたよ。あやちゃんなんてずぅーっと、京輔君がいないと暇だーって。」
こっちに引っ越してまだ日は浅いがもうそんな存在になっていたとはな。嬉しいがなんだか照れ臭いぜ。・・・ふへへ。
「ユウは?」
「ふえ?」
「ユウは寂しかった?」
「え・・あ、えーっとね・・・・ぅ・・うん・・・。」
また赤くなり俯く。煙は出ていないが。
「ははは!やっぱおもしれぇな。」
「むぅー、なんで笑ってるのかな?」
ユウが拗ねながらクエスチョンマークを浮かばせて聞いてくる。
「すまんすまん、それより早く行こうぜ。」
「そうだね、行こっか!」
■榊原綾乃
綾乃の姿はーーーっと・・・。無いな。
「ユウ、行こうぜ。」
「えぇ!?待たなくていいの?!」
「いい、いい。どうせ寝坊だろ。待つ必要ねぇよ。」
「そ、それもそうだね。あはは。」
苦笑いしながらユウが小走りで横に並ぶ。
ドドドドドド
ん?ドドド?
「どうしたの京輔君?」
「ん、いやなんでもな・・。」
「ちょっと待てぇぇぇぇえええええい!!!!!!」
砂煙を上げながらこっちに向かって走ってくる人影が一つ。
「あっあやちゃんおはよ~!」
「おぉ綾乃じゃねえか、遅いぞ。」
「ハァ・・・・・・ヒィ・・・お、おはようじゃないよ・・・・。っく・・・・・・ハァハァ・・・・。」
この今にも死にそうなヤツが榊原 綾乃。名前は女だが。名前こそ女だが。
言ってしまえば、コイツには女の要素が皆無だった。髪はショート、スカート姿なんて見たことがない。胸はー・・・ノーコメントで。
「はぁ・・・・。」
「ねぇなんで会った途端ため息なの?」
「なんでもねぇよ。」
「それならいいんだけど。なーんか納得いかないな~。ってそんな事より、きょーうーすーけーくぅーん?」
途中から猫なで声になった?
「ん。」
ニコニコしながら両手のひらを俺に。どうやら土産を要求しているらしい。
「んだよ、会って早々たかりかよ。」
「いいじゃーーん!」
「仕方ねぇな・・・ったく。はいよ。」
ユウに渡した物と同じ小袋を渡す。
「なにこれ。」
「なにってストラップだよ。土産だ。ありがたく思えよな。」
「ええぇえぇぇぇぇ。もっとすごいの期待してたのに~。なにこの鈴~ぷぅ~。」
もらっておいてなんだこの言い草は。感謝しやがれってんだ。
「要らんのなら返せ。そんな事を言うヤツにあげる物はない。」
「そ、そうだよあやちゃん。大切なのは大きさじゃなくて気持ちだよ。せっかく京輔君が選んでくれたんだし。」
ああ、なんていい子なんだ。育ちの違いがよくわかるぜ。
「もし嫁にするなら即ユウを選ぶな。お前と違って可愛いからな。」
「わ、わわ・・・わたしが・・・きょ、京輔君の・・・・。えへへ・・・。」
俺と綾乃の会話を聞いてユウは自分の世界にトリップしている。
「なにさー!ちぇー。仕方ないなぁ。もらってあげるよ~。」
「なんでそんなに上からなんだよ。」
「あやちゃん、京輔君、そろそろ行こ?」
「そうだね~、行こ行こ。」
そういえばまだこっちに来てからそんなに経ってないのに、こんなに馴染めているのにユウ、それに綾乃達のおかげ、なんだろうな。
■九十九佐和と霧沢紫子
ここ白戸郷の学校は小さい。そもそもクラスが一つしかないし年齢はみんなバラバラだ。校舎自体が二階建て公民館みたいな建物だ。
よく廃校にならなかったもんだ。と俺は変に一人感心している。
「あ、佐和ちゃん紫子ちゃんおはよーぅ!」
「京輔、ユウ、綾乃、おはようございますですよ。」
ぺこっと頭を下げて挨拶をする可愛いよう・・ゴホゴホ、少女は九十九 佐和。
九十九神社の一人娘だとか。流石神社の子なだけあって礼儀がすごく正しくていつも感心させられる。もう一人のガキンチョと違って・・・・・・。
突然後ろから衝撃がくる。
「ぬおあっ!!!!」
ずしゃぁぁぁぁあああああ!
と、もろ顔面から地面に抱き着く。
「・・・・ててて・・。」
「きょ、京輔君大丈夫?!」
ヤツだ。ヤツが来たんだ。
「どうしたんですのいきなり転んだりして?」
紫子が小馬鹿にしたような顔で見下ろしてくる。
コイツは霧沢 紫子。毎日毎日みんなにちょっかいを出す(特に俺)小生意気なヤツだ。紫子なんておとなしそうな名前だがとんでもない。名は体を表すとはよく言うぜ。表せるもんなら表してくれ。
いつもなら
「てんめぇぇぇええ!!!!!!紫子!!!」
と怒るところだが、
「大丈夫大丈夫。ちょっとつまずいただけだ。」
「よかった~。怪我してなくて。」
ユウに手当してもらえるな怪我も悪くないかも、なんて思ってしまった。
「それより綾乃、ユウ、佐和ちゃん、早く教室行こうぜ~。」
「えっ・・。」
どうやら紫子は俺が怒らない事に動揺しているらしい。
「あっそうだ。佐和ちゃんにお土産。ほい。」
「ありがとうございますです。これはなんですか?」
「鈴のストラップ。俺もユウも綾乃も色違いの持ってっからお揃いだ。」
ユウと綾乃がえへへ~という感じでストラップを見せる。
「嬉しいです。ありがとうございますですよ。」
ぺこりとお辞儀をする。
可愛くて悶絶しそうだ。
「京輔君、鼻血・・・。」
おっと。見なかったことにしてくれ。
「ねぇ紫子には?」
綾乃がヒソヒソと耳打ちしてくる。
「あるにはあるが、いつものお返しだ。たまにはこれくらいお灸を据えてやらないとな。」
「くっくっく。やるねぇ。でも程々にしといてやんなよ?」
「わーってるよ。」
その紫子はというと
「うぅ・・・。」
無視されたせいか涙目になっていた。くくく・・・。ん?大人げない?いやこれは俺なりの教育なんだ。
そろそろトドメといくか。
「あれ?紫子は?休みか?」
「ふわぁぁあああん!京輔のばかぁあぁあ!」
泣き出しちまった。ま、今回はこれくらいで勘弁しといてやるか。
「うわぁぁぁあああん!寂しかったんだもぉん!京輔のばかぁあぁ!」
なにも二回もバカって言わなくてもいいだろうて。
「悪かった悪かった。ちゃんと紫子の分もあるから。ほらこれ。紫子の紫にちなんで紫色だ。」
泣いている紫子の頭を撫でながらストラップを渡す。
「うぅ・・・ぐすん。ありがと・・・。」
始めから素直なら可愛いのになぁ。
「京輔君あんまりいじめちゃ可哀想だよ~。でも泣いてる紫子ちゃん可愛かったね!なんか守ってあげたくなったよ!これが母性本能ってやつなのかな!」
「いやそれは違うと思うぞ・・・。」「よ・・・。」
綾乃とツッコミがハモる。
「あはははははは!」
「はははは!」
「ふ、二人ともなんで笑うのかな?佐和ちゃんなんでかな?」
「・・・くす。」
「あ~~佐和ちゃんまで~!酷いよ~!」
「ほら行くぞ。紫子泣き止んだか?今度こそ置いてくぜ?」
「は、初めから泣いてなんていませんわ!」
目をこすりながら否定されてもな。ま、そういうことにしておいてやるか
「そうだねー紫子ちゃんは強いもんねー。」
「バカにしてますわねー!」
紫子が飛びかかってくる。
「のわっ!」
俺達の一日はこうして賑やかな朝から始まる。
俺と紫子のやり取りを見てみんなが笑う。
「京輔く~ん、何してるの~?」
「悪い、今行く!」
今日も楽しそうだ。
登場人物の名前と読み
東雲 ユウ(しののめ ゆう)
榊原 綾乃
九十九 佐和
霧沢 紫子