第一話 ~古遊び編~ 鈴の音
■昭和61年 初夏
がたん、がたん、と振動が体に伝わる。
電車の揺れとはどうしてこうも心地良いのだろうか。
いい感じに眠気を誘ってくる。
俺はその眠気に抗おうとは思わなかった。
―チリン
鈴の音が聞こえる。
ご老人、それか子供が鞄にでもつけているのだろうか。
このまどろみの中だとどんな音も子守唄のように聞こえる。
曖昧な視界でふと視線を窓に向ける。
常に車が行き交い、雑草のように何本も建つ高層ビル、しつこいくらい何度もテレビCMが垂れ流されるような都会と同じ時代にあるのかと思うくらいの自然、緑が目に入った。
久しぶりに戻っていた都会の喧騒から放たれたせいだろうか、なぜか安心を感じた。
外を見たせいか眠気が少し弱くなった。
―チリン・・・
また、鈴・・。
・・・鈴の音に加え誰かが喋っている感じがした。
何を言っているのかよく聞こえないが、人の会話に聞き耳を立てるのは悪い気がしたので眠りにつこうとする。
心地良い揺れが一度去った眠気を少しずつ戻していく。
・・・泣いている。
女の子が泣いているのが聞こえる。
もし親と乗っているのなら、なにも泣かせるくらい怒らなくてもいいだろう。
俺はその親に少し苛立った。
過ぎた事は仕方がない。
次気を付ければいい。
・・・ツギガアルノナラ。
がこん!と電車が揺れ、びっくりして目が冴えた。
都心から新幹線、バス、電車を乗り継いで数時間。
ここから村までのバスに乗って着く。
発展途上の田舎。そこが白戸郷だ。