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トラベラーズ・レコード  作者: くるい
一章 『始まりの世界へと』編 改稿版
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四話 駄目ですから

 俺達が向かうのは組合が解放している施設で、主に一般客との取引や契約を行う場である。

 支部が幾つか設けられているが、ここは彼らの本部とでも呼ぶべき建物であった。造りは他の支部よりも複雑かつ巨大で、白色の塗料が輝きを放った一際目立つ施設である。中に入れば割合広めな待合室が設けられていて、奥のカウンターには制服姿の女性が数名並んで立っている姿が見受けられる。

 俺はリーゼを引き連れてその内の一人へと歩み寄っていた。


「本日はどのようなご用件でしょうか」

「出店申請の手続きや土地の借り受けに来たわけじゃない。上の人間は今いるか?」

「はい……?」


 組合は土地を管理しているとは言ったが、具体的にはこの建物にて土地の権利を含める諸々を譲渡したり借したりなどを行っている。

 建物や土地自体を借りる、または購入する際にも組合を通さなければならず、共有街に出ている露店なども一度は組合に申請をして場所を取っているのだ。

 しかし土地そのものは組合が所有するものではなく、あくまでも管理をしているだけである。所有者は別に存在し、それを仲介しているのが組合というわけだ。


 町に住居を求める場合もまずはここで名前を連ねることから始めるようで、この施設に限っては紋章の掲示は必要ない。組合が公と認めた施設であり、住民全員に均等な権利を配る為の施設だ――という名目で通っているため、紋章を持っているからと言って門前払いはできないのだ。それも共有街に店を構えるならば、の話だが。


 そして当たり前だが、俺は土地にも出店にも用はない。

 業務上のどれでもないという用件に、受付に位置する女性は首を傾げていた。


「どのような用件か、一度伺ってもよろしいでしょうか」

「『竜』の件について、少しな」

「――お客様、」

 俺は両手をだらりと上げる。

「どちらの所属でもない。何点か訊きたいことがあるだけだ」

「申し訳ありませんが、対応はしかねます。私共は下働きですので……」

「呼んでくれるだけでもいいのだが」


 受付とそうでない者との見分けが付くようにだろう。彼女は茶色の帽子(ベレー)を右手で被り直すように掴むと、困ったように表情を歪めてしまう。それからやや間があって、渋々といった返事をくれる。


「少しばかりお待ち頂ければ……ですが管轄外のお話です。あまり、期待はなさらないでください」

「ああ」


 身を翻し、奥への階段から姿を消していく受付の女性。

 俺はその姿を眺めつつ、一つ溜め息を吐いた。


「あの、何をするんですか?」


 そんな俺の対応にリーゼは不安げな声色を乗せて訊いてくる。

 この場でお前と雑談を交わしている暇はあまりないのだが、答えてやるか。それがこいつの聞きたかったことかどうかは別にして。


「情報収集みたいなもんだ。お前も旅をするんならやることだろう」

「? いえ、しませんけど」


 けろっとした顔で言われても困るんだが。


「人と話をするなどして、情報を集めた上で大まかな指針を決めるだろう?」

「でも今のそういう雰囲気じゃなかったですよね?」

「まぁ心配するな」

「心配とかじゃ……はぁ、分かりました」


 リーゼは不服そうに頷き、自ら口を閉ざした。納得はしないまでもこれ以上何かを言うつもりはないらしく、拗ねているというか呆れているような顔をして下を向いてしまった。

 黙るならそれでいいんだが。


 しばらくカウンターの前にて待機していると、階段を降りる音が二つやってくる。一つは先ほど受付でやり取りした女性で、もう一つは――何やら物騒な剣幕を眉間に刻み付けた男だ。女性と同じ制服を着用しているが、帽子は被っていない。変わりに(ワックス)で整えた頭がこちらを睨むと、磨かれた石の床をずかずか叩いて歩いてくる。


 ぴしり、辺りの空気が張り詰めるのが分かった。

 俺達でも相手方でもなく他の客がざわつき出したためだ。普段なら現れない人物がやってきたことで緊張感が高まっているのだろう。組織物(チンピラ)同士でやり合う光景もこの辺りでは散見されるため、特有の嫌な空気を過敏に感じ取ったのかもしれない。

 何が起こるのか、そんな視線が周囲から突き刺さっていた。


 ぴりぴりとした空気は姿を現した男にも伝わったのか、彼はすぐ様人当たりの良さそうな笑顔を浮かべる。ついでに差し出される右手に応え、俺も握手にて一芝居を打つことにした。

 すると、何も起きなかったことで次第に周囲は俺達から興味を失ってゆく。それを確認して右手を離すと、軽く会釈で皮を被った儀礼を並べた。


「忙しいところすまないな、感謝する」

「どうも。それでは代わりまして私が担当させて頂きます。奥へどうぞ、御二方」


 口調そのものは落ち着いているが、俺に対する不信感は胸の内に募らせているようで。

 まぁ当然ながら、まかり間違っても歓迎などされてはいないようである。




 ◇




 仮初めの優待が一瞬にして崩壊したのは、割合すぐのことだった。


「――何しに来やがった?」


 カウンターの奥。階段を上った先の奥の部屋に通された俺とリーゼは、男と向かい合う形で椅子に座っていた。木製机を挟んで腕組みをしていた男の一言で、隣のリーゼはそれまでのあけすけな笑顔を崩す。何故かじっとこちらを睨んでくる彼女は無視して、俺は男へ言葉を投げ掛ける。


「随分とまたいきなりだな。俺はまだ何も言っちゃいないんだが」

「こちとら『竜』だなんて単語一つで腹一杯なんだ、冗談は止せよ」


 先ほどの女性が竜という単語を持ち出したからこの男は慌ててやってきたのだ。そしてカウンター前に居たのがこの俺という始末、酒場の店主が知っているのであればこいつが知らない道理もないか。

 俺の所業ではないはずだが、しかし同時に俺が無名を名乗るには少々暴れ過ぎているきらいがあるし、それは自覚はしている。

 が。


「この町でてめぇの顔知らねぇ奴なんざほぼいねぇよ。機嫌窺ってその場から逃げちまう奴らもいるくらいに腫れ物扱いさ」

「それはお前達基準での話だろう。俺には関係ないな、普通の奴らとは上手くやっている」

「だったら俺達にもてめぇの話は関係ねぇってんだよ。面倒事を持ってくるんじゃねぇ、さっさと失せな」


 流石に、だ。

 俺がこうまで悪名高いとは思わなかったぞ。人との関わりは最低限だったから知らなかった。

 溜息混じりに首裏を掻いていると、やはりというかリーゼが口を挟んできた。勿論その矛先は俺に向けられている。


「一体、何をしてきたんですか……」

「俺を襲ってきやがる奴らにちょっとな」

「それでこんなに恨まれるほどですか?」

「多少は殺しもやったが」

「――っ、そこまでする必要は、あったんですか」

「仕掛けてきたのはこいつらだぞ。俺に黙って殺されてろって言いたいのか?」

「ち、違います……っ! けど」

「けどじゃねぇな。俺が俺の命を狙う奴にかける情けなど、あってたまるかよ」


 抵抗しなければ殺られていたのはこちら側だ。それは事実であって、向こうがそういう目的であるのならば俺も同じように返す。ここは殺しが簡単に可能な場所で、ならばその結論は間違ったことではなかった。

 やり過ぎだという常識が存在し浸透しているならこうも簡単に殺しは発生しないし、死は病気と事故以外では日常に蔓延することはない。だが、少なくともこの町ではそうでないのだから。


「あ? 仕掛けたのは俺達じゃねぇだろうが」


 俺の話を聞いていた男は机を叩き壊さんばかりに手の甲で打ち、必死に抗弁してくる。それはそうかもしれないが、そうじゃないかもしれないんだ。こいつらの信用など俺にとっちゃ髪の毛一本ほどもありはしない。


「さぁ、俺にはどの組織がなんたらだなんて認識はなかったよ。少なくとも当時はな」

「じゃあ――ご主人様は、殺してもいいっていうんですか」

「解答はした。二度も同じことを言うつもりはない」


 リーゼは押し黙る。やり切れない表情を惜しみなく全面に出して拳を握り締める様は見られたが、俺はそれについてどうこう述べるつもりはなかった。俺が真っ先に進んで能動的に人を殺していたのであれば、こいつは俺を真正面から否定し正そうとするだろう。

 言動で言わんとすることは分かる。分かるが俺はただ正当防衛をしたまでだ、こんな世で正当に力を所持している奴だからこそ――こいつに正当性や道徳を問われる覚えはない。


 何故か両面から責められているような気持ちになりながらも、俺は話そのものを進めてしまうことにした。行動を起こす前に破綻しそうだった空気を、次の台詞で無理矢理纏めに掛かる。


「俺がここに来た理由は、商談だ。なぁお前ら、実のところ奴隷市場の連中には迷惑してるんだろう? アレは元々お前らが管理していた土地に後から割り込んだ組織で、膨らんだ腫瘍みたいなもんらしいな。土地管理とその他商売は脇に置いておくとしても、奴隷売買組織なんてのは言葉からして異物だ。それにこの町、町人である証拠がなければ安全は保証できず、仮にあっても粗相一つで己の身に危険が迫ることを住人達も恐怖しているらしいじゃないか。いつからかは知らんが、こいつは治安が悪いな。正しい秩序と風紀を保つ為には地を均して間引く必要があるとは思わないか?」


 ――長々と語って見せた俺に向けて、男は隠しもせず盛大に眉根を寄せて表情を固くした。

 種が小さくとも一度火が噴出すれば町全土を巻き込みかねない抗争へぶち込もうとする提案だからな。良い顔するわけもない。


「何が言いてぇ」

「切除の手伝いをしてやる。俺の悪評が出回ってんなら、これ以上を語るまでもないな」


 この町は一枚岩ではなく、様々な組織が確固とした目的意識を持って、それぞれの区画を支配下に置いている。常に互いを監視し睨み合うそのルールの本質は相手を抑えることではなく、身の安全を確保しておくことだ。しかしそれは結果的に自分達を縛る行為であり、そのため誰も安易に動けない。それは不審な動きをする組織があった場合に、他の勢力が手を組んで滅ぼすぞといった抑止力の働きをしていた。


「奴らは俺を攻撃した。俺が余所者なのは誰の目にも明白だが、人を襲うという行為自体がそもそもおかしいんじゃないのか? 何も俺は奴らの支配域でだけ襲われていたわけじゃなく、お前達の区域で戦闘に持ち込まれたこともあった。その俺が事実を持ち込んで協力を扇げば、事を構える誠実な理由が生まれるじゃないか」


 そして俺を狙った連中が奴隷市場の人間であるのなら。それ以外の勢力は合理的な見解を以て、一時的な結託の下に奴隷市場の勢力を削ぎ落とすことが出来る。表上は制裁行為でありながらも、潰した暁には敵対組織が管理している支配区分を丸々奪い取れるのだ。

 実際、こいつらはそれを望んでいた。三竦みの勢力が争う理由を欲している、というのは下調べが付いている。だったら後は焚き付けるだけ、火種さえあれば勝手に大炎上して燃え上がるだろう。

 奴らがそれを望んでいるのなら、俺もそのようにやらせておこうと――だが。


「乗った……とでも言うと思ったのか? いつの時代の話をしてんだよお前は。俺達はこれで十分仲良く(・・・)よろしくやってんだ。余計な手出しをするんじゃねぇ、クソ野郎」


 男は俺の提案を鼻で笑って蹴飛ばした。

 懐から葉の巻かれた吸物――煙草を取り出すと、指に着火した火魔法でその先端を燃やす。

 もうもうと紫煙が室内に充満する中、男は吸った煙を俺に吹き付けた。


「なんでてめぇの尻拭いを組合総出で手伝ってやらなきゃならねぇんだ? こちとら便利屋じゃないんだぜ、体良く扱き使われていい理由にはならねぇぞ」

「チャンスを棒に振るってことでいいのか?」

「うるせぇ――勝手に潰れる分には潰れな、死体漁りならしてやるからよ。もう、話すことはねぇな」


 ……なるほど。

 どうやら少し手違いがあったらしい。俺の情報が古かったか、それとも。


 俺は周りへ視線を配って、幾つもの殺気がこちらを覗いているのを確認する。丁寧に姿を隠してはいるが、突き刺すような殺気を拭い切れていない。

 どうやらこいつら――組合の名を騙った奴隷市場の犬らしい。そいつは困った、竜の牙に成り下がってはどうしようもない。


「俺を手土産にでもするつもりか? 日和見共」

「囲め」


 事前に通達が入っていたのか、どうあっても最初から奴隷市場に加担する側であったのだろう。そりゃ組織を相手取るより俺一人をぶち殺した方が手軽でお得だがな。確かに俺の首を持って報告してやりゃ奴隷市場の立場も弱まるだろうが――こいつら最初に自分で言った台詞を忘れたのか?


 殺気の数が増えていく。

 俺はぞろぞろと周囲に姿を現し始める敵影に舌打ちした。


 とりあえず目の前の危機をどう処理するか、だ。

 少し規模が大きくなったが、いつもの事だと諦めることにしよう。


「はっきり言っておくぞ、止めておけ」

「一人二人潰しただけの鼠の分際で思い上がるな――てめぇみたいな余所者が、のさばっていい世界じゃないんだよ」


 男が伸ばした右腕の先に球体が出現した。中心へと集約されるように青白い光が輝く――これは魔弾、と呼ばれる種類の魔法である。その発光を皮切りに、俺とリーゼの周りが一斉に強い輝きを放った。赤、青、緑、黄、様々な色彩を放って照らすその魔弾は、まるで示し合わされたように撃ち放たれる。

 狭い部屋で弾幕を張るなど一体何を考えているというのか。俺は地面を蹴って青色の魔弾――氷を纏った魔力砲撃を左へ躱し、更に加速する。同時に懐から冷たい鉄の得物を引き抜き、照準を。


「――駄目です、戦っちゃ」


 ぐぎり、と嫌な音が右肩から鳴り響き、俺の動きが無理矢理に停止させられた。今ので筋が伸びたか、鋭くも鈍い激痛を伴って筋繊維の悲鳴が肩へやってくるが、肩を掴んだ細い手――それをやりやがったリーゼはそんな事はお構いなしにと更に右腕を引っ張って俺を後ろへ引き戻す。


「お、まえ」


 それが何を意味するかと言えば、集中砲火された中心へと戻るということだ。眼前を埋め尽くす魔力の玉は既に避けられる領域にはなく、口を開く余裕がない。

 余計なことをしてくれた勇者の少女へかろうじて睨みだけを送ると、彼女は逆に俺を睨み返して――その姿が、掻き消えた。


「……っな」


 果たしてそれは誰の言葉だったのか。

 俺の声でなかったのだけは確かだ。しかし俺を含むその場に居合わせた全員が共通して、今発生した事象への理解が及ばなかったのもまた、確かなことであった。


 無数の剣戟が残像を残して空間を駆け巡ったかと思えば、俺へと着弾するはずの魔弾全てが真っ二つに切り裂かれる。力を失って全ての魔弾が霧散するのとリーゼが俺の正面へと立ったのはほとんど同時か――彼女は俺へ振り返り、小さく呟く。


「殺しちゃ駄目です、って言いました! 私がそんなことさせないって!」


 腰から引き抜いたショートソードを手に、周囲何十人が放った魔弾を華麗に捌き切ったリーゼ。またもその姿は消え、風切音が背後を走る――。


「……っ!」


 俺の身体が浮かび上がった。

 ――持ち上げられたのだ。誰に? そんな奴一人しかいない、他でもないリーゼにだった。しかしそれに気付いた時にはもう遅い。

 視界が目まぐるしく回る。様々な怒声が飛び交う中、俺はリーゼが部屋の奥の窓を突き破ったことだけを視認する。盛大に割れて弾け飛ぶガラス片、それを追い掛けるように飛んでくる魔弾は全て目の前で消滅し――気付けば俺はリーゼによって、戦闘区域から離脱させられていた。


 体勢もクソもない。どこから力が入っているのかも分からない細っこい腕で俺の胴体をホールドしたままリーゼは宙を飛び、地面へ着地する。着地時の強烈な衝撃に俺の息が止まっている間、リーゼはそのまま地面を蹴るように駆け出していた。

 ざわめく通行人達の声があっという間に伝播し、数瞬遅れて組合の連中が破壊された窓から飛び出してくる――ものの、その姿は既に遙か後方で繰り広げられている出来事に過ぎなかった。

 追っ手などとうに俺達の姿を見失っていることだろう。


 たかだが十秒かそこらの時間、神速で俺を町の端まで運んだリーゼはそこでようやく腕の力を抜いた。

 どうやら人がいないところまで連れてきたらしい。町の外れだけあって、そこには人の影どころか気配すらも微塵もなかった。


 俺はふらつきながら何とか地面に膝を付くと、上手く思考が回らないながらも横の壁へ手を突いて体勢を整える。

 まだ力が入らない。いきなりのことに身体がついて行っていないのだった。


「お前――何、してくれやがる」


 はっきり言って認識が未だ追いつかない。

 そうだ。こいつは俺が戦闘に入ろうとした瞬間、得物を引き抜いた右腕を引っ張って攻撃を中断させた上に相手の魔法も全て両断し、挙げ句超高速と表現しても何らおかしくはないスピードで逃走したのだ。

 荒い息を吐きながら苦言を洩らす俺へ、何てことのない調子で返答が寄越される。


「殺すつもりでしたよね、だから止めました」

「――いや、奴らから仕掛けて来たことだろ?」

「そうです。でも、それでも、駄目なものは駄目ですから」


 あれだけ動いたにも関わらずにリーゼは全く息も切らさず、確固とした意志で告げてくる。


「どうしようもない時だってあります。でもご主人様だって喧嘩売ってましたよね。話聞いてる限り、原因は向こうだけじゃないと思いました」

「どっから何を聞いたらそうなるんだ? 俺は提案していただけだろ」

「だとしても今のは回避できた戦いでした、だから逃げたんです」


 俺はふらつく身体を何とか押し留め、伸びた腕の方で握っていた得物――銃を、懐へと仕舞い直した。

 呆れた奴だ。戦いを回避することが可能だったから誰にも危害を加えることなく逃げた、とはな。普通の思考回路してちゃそんな結論には至らない。第一あれはどう考えても逃げられる空間ではなかった。それをこいつは魔弾を全て消し去ってその場全員の動揺を呼ぶことで、強引に逃げられるようにしてしまったのだ。


「あの、もう一度聞きますけど。『竜』ってなんですか、魔物のことじゃないですよね」

「……ああ、そうだな」


 俺は大人しく頷いた。

 ここで誤魔化しては余計に面倒だ。余程人の話を聞いていないか馬鹿でもない限り、あんなことになれば誰でも気付くに決まっている。


「もう一度聞きます。私に何をさせるつもりだったんですか」

「……話せば長くなるかもしれんぞ」

「じゃあ、全部聞きますから。ちゃんと教えてください」


 真っ直ぐな瞳が俺を中心に捉え、ぐいっと顔を近付けてくる。その有無を言わさない眼力に突き刺されて俺は色々と観念した。これは言い訳も何もないか。殺しはさせるつもりではなかったが、彼女に一組織を潰して貰う算段でいたのは事実なのだから。


 それにしても――今の戦闘、リーゼの実力は俺の予想を大きく上回っていた。一体この少女のどこにそんな規格外の力が溢れているというのか。

 俺は身体を仰け反らせて彼女と少しだけ距離を取る。数度深呼吸をして呼気を整え、それから事の顛末をと口を開くのだった。

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