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白い生き物  作者: 七
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中話 こんにちは赤ちゃん

「わぉ」


いつもは静かな森の中、霧はその静寂をぶち壊している元 凶――白い塊を見下ろした。


耳に届いた時は空耳かと思い、実際目にしてもまだ信じられない。夕飯のキノコ探しに来てえらいモンを見つけてしまった。


「どう見ても赤ちゃんだよねぇ」


白い布にくるまれて霧の足元に鎮座しているのはまごうことなき赤ん坊。ギャン泣き中だ。


霧は困惑しながらも赤ん坊を抱き上げてヨシヨシとあやす 。昔従姉姉の子供達の世話をしたことがあったからあやすのは割りと得意。


「怖かったね。もう大丈夫だよ」


優しく話しかけながらポンポンと赤ん坊の背中を叩いていると、徐々に泣き声は小さくなりやがてスンスンと鼻を鳴 らすまでになっていった。


「いい子」


霧が泣いて赤くなった目元にチュッと唇を落とすと今まで泣いていた赤ん坊の瞳がパチリと開いたので思わず赤ん坊と見つめ合う。


大きな目だな、こぼれ落ちそうだわ。


まん丸に開いた青い瞳を見てフっと霧が笑うと赤ん坊もキャッキャと笑った。ご機嫌な様子に更に自分の口角が上がるのがわかる。


霧は赤ん坊を抱き直しながら辺りを見渡したが、赤ん坊が泣き止んでからはいつもの静まり返った森があるだけだ。人の気配もない。


「…取り敢えず家に連れて帰ろうか」


泣き疲れたのか目をシパシパしている赤ん坊に布をフワリと被せ直して霧は家へと急いだ。


「異世界に来て人と初遭遇だわ」


そんな事を呟きながら。


この世界に来てからどれ位経っただろうか。数年くらい? ボッチのために蓄えた経験と知識のお陰で無事森ヒッキー生活は続いている。





拾った場所には赤ん坊が包まれていた布を木にくくりつけておいたが変化はなかったし、誰も訪ね来なかったため霧が育てることにした。だって神域からは出れないし、かと言って放置も出来ない。


赤ん坊にはシロと名付けた。真っ白な髪に白い肌だったから。ちなみに実家の飼い犬はポチ。…何か?


がしかし、当たり前だがやはりそう簡単にはいかなかった。


従姉妹の子供の世話をした時に育児本は何冊か読んだが、育児に必要な物が全て揃っていた元の世界とは違い今回は手持ちの物だけで何とかしなければならないから苦労した。何とかしたけど。


問題はミルクだったが、拾ったら初日にどうしようと唸っていたらどこからともなく小屋の前に子連れの目が3つある牛柄の山羊(仮)が現れお乳を分けてくれて事なきを得た。


いきなり現れてシロを抱えて固まっている私をジーッと見つめてきた時はどうしようかと思った。なにせ神域で初めて見る小型以上の動物だ。大きさとしてはポニー位で愉快な動物達の中では小さくて可愛い部類に入るが油断できない。牛柄の山羊って結局どっちだよ!


だが、山羊(仮)がドカリと座り飲めよとばかりに顎をクイッと動かしたのとシロが山羊(仮)に手を伸ばして騒ぎ出したので、覚悟を決めて近付いてみた。どっちにしろシロのミルクはいるのだ。自分を見上げる山羊(仮)に襲ってこないでよ~と念じながら「お願いします」と言ってソッとシロ降ろすと、小さな手で乳首を探しあてて元気に乳を飲みだした。山羊(仮)がそれを静かに見つめるだけで何もしてこないのを見て肩の力を抜く。仔山羊もシロの隣にきて乳を飲み始めたため何とも癒される景色となった。


山羊(仮)の親子はシロが授乳中神域にいてくれて、呼べば乳をくれた。最初は驚いたが霧はありがたく乳をもらうことにした。異世界だし! ちなみに味は濃厚でコクがありそれでいて喉ごし爽やかな大変美味な乳でした。




それから1年、シロはもうミルクを飲んでいない。男の子らしく肉大好きっ子に成長した。


――そう、シロを拾って1年。たった1年でシロは小学生位にまで成長していた。 驚きの成長速度だったが驚いたりはしない。そんな事もあるはず。だって異世界だし!


霧は深く考えるのを止めて子育てが楽だわーと喜ぶことにした。考えても答えてくれる人はいないし、シロが元気に健やかに育っていたから。ありのままに、心健やかに。両親が霧に与えてくれた思いを、霧はシロに与えた。


シロは拾って半月で霧を「ママ」と呼び、1ヶ月でヨチヨチと歩いて高い将来性を披露てくれた。恐るべき乳飲み子だ。さすがはウチの子!


いつか手放す日が来る。霧はその日を覚悟しながら愛情をタップリ注ぎ、1人でも生きていける術を少しずつ教えていった。しっかりとこちらの言葉や常識を教えてあげられないのが残念だ。小屋に置いてあった本をから読み書きや計算は教えることは出来たが、言葉補正が掛かっているのかは生憎自分だけでは確認がとれない。




急速に育ちながらもママと慕ってくれるシロは大変可愛らしく、我が儘を言わずお手伝いもよくする良い子であった。あまり表情が変わらない自分に似たらどうしようと思っていたが、よく泣きよく笑う子に成長してくれて何よりだ。


――が、さすがに2ヶ月(見た目3歳)で猪(仮)を仕留めて帰ってきた時は驚いた。


それまでも私に黙って神域の外へ遊びに出ては兎(仮)や小型鶏(仮)を採って帰ってきたことはあったが、まさか自分の2倍以上の獲物を仕留めてこようとは。どうやら家の魔法書を読んで独学で習得した魔法を使ったらしい。何故使えたのかと本人に聞いたら「わかんない」と首をかしげていた。ウチの子チート?とかテントウムシ柄の猪(仮)は食べれるのか?とか色々思い浮かんだが最終的には深くは考えない事にした。


だってISEKAI!


取り敢えず、ウチの子半端ねぇ。


その夜は猪(仮)ハンバーグを作り残りは薫製にした。捌いた肉を目の前に果たして食べれるのか悩んでいたら、シロがサーチして「毒がないから大丈夫だよ」と教えてくれたから食べると決めた。ニコリと笑うシロは大変可愛らしく、蚕っぽい虫から出た繭を糸に紡いで作った服が大変いい仕事をしている。よし、この今度はこの猪(仮)の皮で耳付きフードパーカーを作ろう。ドット柄のモコモコパーカー絶対可愛い。こだわりはチョット大きめの袖口だよね。


ちなみに後日シロに魔法を習ってみたが使えなかった。ガッカリだ。




シロとの生活は楽しかった。1人で生活していた時のような穏やかな生活ではなかったが、毎日が目まぐるしく過ぎていく日々は霧に生きていると実感させてくれていた。


「――だからね、無闇に人や物を傷付けては駄目よ?」

「うん。傷付いたら痛いもんね」

「そうよ。自分がされて嫌なことはしては駄目」

「はーい!」


教育も少しずつ。素直で大変よろしい。


善人等にはならなくでもいいが他人様に迷惑を描けるような大人にはならないように。面倒臭いことは極力回避。読んだ本をみる限り価値観や世界観が違うみたいだから本当に最低限だけど。現代日本の倫理観を教えたせいでシロが殺されるなんて状況にはしたくない。


取り敢えずは挨拶と「ありがとう」と「ごめんなさい」からだ。円滑な人間関係の基本は世界共通でしょう!私はボッチになるために学んだけど。


あとはどんな環境でも対応できるように自分の知識を教えていった。一人立ちする頃には野宿でもサバイバルでも異世界トリップでも「あーはいはい」と切り抜けられるくらいにはするつもりである。


それに親の欲目かもしれないがウチの子は綺麗だ。真っ白な髪と肌のお人形のような顔を傾けながら円らな蒼い瞳に見上げられたらもう無理。何度鼻血を出しそうになったことか。さすがに親としてアウトだから何とか我慢している。ギリギリだけど。


恐らく将来はモッテモテ間違いなしだ。女を弄んだり、痴情のもつれで刺されたりしないように今から教育しておかねば。


「大丈夫だよー僕ママと結婚するんだもん」


…危ない。ウッカリ初鼻血ブーするところだった。恐ろしい子!こんなに可愛い事を言ってくれるのも今だけの特典よね~と霧は鼻を押さえながらシロのサラサラの髪を撫でた。




更に1年が経った。霧だいたい20代後半、シロ約2歳。


最初の1年間の成長速度を考えるともぅ20歳位になっていてもおかしくはなかったのだが、シロは小学生の姿のまま成長を止めていた。


今は10歳位。急成長も驚いたが成長しないのも心配だ。しばらく様子を見て変化がなかったら人里におりてみようかな。地図を見た限り私でも何とか抜けられそうな広さだったカラフリーな森の近くにいくつか街や村がが記入してあった。何かわかるかもしれない。愉快な動物達はシロに結界を張ってもらえば危なくないし(実証済)。ウチの子マジ天才。


「ママ大好きだよ」

「私もよシロ」


…手放す時なのだろうか。


キリは抱きしめながら腕の中のシロを見る。予想通り美幼児から美少年へと成長をとげたシロはまだ未分化の身体で中性的な美しさだ。オマケに健康だし優しいし頭もよく魔法も使えて身体能力も高い。 あらやだウチの子完璧じゃない?と親バカ全開で思ったのも1度や2度ではない。


いつまでもこんな森の奥で誰とも接せずに私と2人きりだなんてよくないに決まっている 。…うん、1度里へ行ってみよう。布を被っていれは髪や瞳は隠せるはず。幸い1日ならシロ1人でも大丈夫な位には色々教えてきたはずだ。



「ねぇシロ」

「ん~?」


私の膝の上でシロが眠そうに返事をした。


「明日、少し出掛けてくるわね」

「祠に行くの?」

「 違うわ。里に下りるのよ。あ、結界よろしくね」


私が出掛けると言えば家の回りでキノコ狩りか祠の掃除くらいだからね。我ながら見事な森ヒッキー だわ~と思いながら答えると、シロがバッと顔を上げた。


「何で!?」

「わっビックリした。どうしたのシロ。ち ょっと用事があるだけよ」

「じゃあ僕もいく!!」


予想外のシロの反応に内心首を傾けながら駄目だと伝える 。初人里だから何が起こるかわからないし、何かあって私の黒色がバレたときに巻き込むわけにはいかない。 あ~万が一の時のために手紙遺しとこうかな。


「すぐに帰ってくるから大人しくしていてね」


シロは聞き分けがよい子だ。渋々ながらも了承してくれた 。


「早く帰ってきてね」

「ふふ、わかってる」

「…絶対帰ってきてね」

「――勿論よ」


そのままシロはキリの膝に丸まって眠ってしまったようだ 。


愛しくて可愛い私のシロ。本当の親子ではないけれど本当の家族のように過ごした2年間はとても楽しかった。


突然異世界に来て、本当の意味でボッチになって知った。ボッチが好きでボッチに生きたいなどと言ってもそれは両親が側で見守っていてくれると知っていたからだ。


確かに一人でも支障はなく、むしろけっこう満喫したのは否定しないが不意に独りなのだと思い出す時があった。そんなときは決まって両親を思い出した。


シロはそんな霧の隙間を埋めてくれたのだ。


本音は手放したくない 。でもそれは私のエゴだとわかっている。


「せめて私の髪と瞳が黒くなければねぇ…」


仕方がないことだが思わず溜め息が漏れた。





「じゃあ行ってくる。お留守番よろしくね?」

「…うん 」


朝から元気がないシロに苦笑いしながら髪を撫でる。仕方がないなぁと少し屈んでシロのおでこに チュッと唇を落とした。


「絶対帰ってくる約束よ」

「――うん 」


ようやくいつもの笑顔を見せてくれたシロに安堵しながらキリは自宅をあとにした。


そして神域の端にたどり着く。


「よ、よし。行くわよ」


鞄の紐をギュッと握りしめて気合いをいれる。ぶっちゃけシロと2人でも神域をあまり出たことはなく、1人で神域を出るのは初めてだ。大丈夫。シロが結界をかけてくれている。大型獣位なら跳ね返せるんだから!と霧は息を吸って一歩を踏み出した。

誤字脱字があったら申し訳ありません

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